うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「ばつえいビルッテ」感想

「絡んだ糸は厄介だが解けばそこには簡明が残る」

あなたと君が笑い合いたかっただけの前置き。

 

 

 

えー、今回はTeToriapotさんところのフリーゲーム「ばつえいビルッテ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

www.freem.ne.jp

 

エンド分岐はあるものの、ラスト少し前の選択一つだけで分かれるので回収しやすいです。ただ、物語理解をしっかりしていきたいなら、セーブは定期的に分けることをおススメ。

 

 

さらに前置きとして。私はこの作品大好きです。たまらん大好きです!! ただし、序盤はかーなーり思うところもあった作品でした。なので、全肯定ではないことだけご承知おきください。

 

というわけで、特徴的な点など。

 

 

キャラ同士の関係性が鍵を握るストーリー

 

本作は、神殺し・創世記・英雄譚・あるいは上位存在の意思にあらがうキャラクターたちの物語です。一方でその根幹は、キャラ同士の憎悪・友情・慈愛・あるいはそれに類する複雑激重感情を巡る関係性です。

要は、「悪いやつ倒しましたバコーン!」とか「○○と××仲良しでよかったね!」とか、そういう明確でわかりやすいストーリーではありません。いや、ストーリー自体は簡明なんですが、その簡明さを理解するまでの工程が複雑。伝わるかなあこれで。

 

このストーリーの魅力を理解するには、キャラの想いに焦点を当てる必要がある……一方でキャラの背景事情を理解するにはストーリーや舞台設定の咀嚼が必要……。双方が絡み合っているので、ちゃんと全貌を理解しようと思うと、かーなーり難しく感じた作品でした。自分用の箇条書きメモがテキストだけで25KB。しかもまだわからんことだらけ。ははは。

 

まあ、本作の必読や紹介文のあちこちにある通り、ストーリーや細かいキャラクターの思惑などはぜーんぶ無視して突き進むこともできはします。

でもやっぱり、ポルペロの思惑とかマティーニャの葛藤とかビルッテの役割に付与されたおぞましさとか、知った上でプレイする方が絶対楽しい……! 読み流すのはもったいない、でも、いや読み流すプレイヤーがいてしまうのもわかる気はするという、1ファンとして勝手ながらジレンマも感じてしまう作品です。

 

 

 

彼と彼女と彼と彼

 

ここは合わなかった点なのでバッサリ切っていきますが……。

セリフや文章回しにかなり癖があり、匂わせを含め、曖昧な物言いが多用されます。さらにはキャラが誰かを呼ぶときに「あれこれそれ」「彼」「彼女」「種族名」「役職名」「二つ名」などが入り混じるので、セリフは一個一個丁寧に追って行かないと後々パンクします。しました。

あとテキストボックスの広さの関係か演出か、目的語が飛ばされてたり主語が省略されてたりすることもあるので、現状を把握しようと思うだけでもめちゃ難しいです。この既視感はあれだ、古文の授業。

 

そして情報開示が基本的に遅い。カルーア家とドランティア家の家系図が後出しされた時はブチギレました。オープニングで出してくれ!っていう。まあこのタイミング問題は伏線を読み解いた後の答え合わせを意識されているのかもしれませんし、自分で物語を考察していく楽しさも1プレイヤーとして理解はできるので、突き過ぎたくはないのですが……。

なんだろう、用語辞典等もありキャラが真相を語ってくれるシーンもありはするんですけど、その親切さが絶妙に噛み合っていないというか、プレイヤーが無知であることをそもそも想定されていない感じがしました。

 

ただですね!

これは裏を返せば良点でもあります。文化や宗教に至るまでとても細やかな世界観が構築されていること。モブキャラがモブとして登場せず、どの子にも大なり小なりのドラマがきっちり用意されていること。ただ眺めるだけでなく、プレイヤーが能動的に物語を解釈して行こうと思える余地があること。エトセトラエトセトラ。

実際、私もメモ書いたりスクショ撮ったりしながらああかなこうかなって考えつつ進めたあの時間は、めちゃくちゃ楽しくもあったんですよ……!

なので結局は、合う人ならとことん合うし合わない人は読み流せばよし、という冒頭に繋がるのだろうと思います。

 

 

 

独特の絵柄と多様なスチルが織り成す表現

 

ついテキストに着目してしまいますが、グラフィックも両手を挙げて賞賛したい点の一つです!

まずシンプルに、使用されているスチルの枚数がこれでもかというほど多い! 決めどころのシーンからちょっとした説明の補足まで、あらゆるところで使用されます。独自の良さが光る絵柄なので、これだけでもかなり世界観を濃厚に感じられました……!

一方で戦闘時の味方キャラや起動画面などは、デザイン性の高いアイコンで表現。こちらもまた色使いや形にセンスがあり、その裏に含んでいる意味合いなどの深読みもできて楽しかったです。

街のマップがうろつく形式ではなく気になる箇所を選択するという、ADV形式?なのも斬新でしたね~。場所の全景がぱっと見で確認できて、地図としての役割もはたしている感じでした。

 

 

 

 

イベント戦であり演出でもあるボス戦

 

バトルはシンボルエンカウントどの敵にもテンションブチ上がるセンスの良さがあるので、つい全撃破してしまいました。

レベルは上限が設定されているので、ゴリ押しはできない仕様です。頭を一捻りする必要のあるボスもいるので、脳筋だとクリアできないバランスかと。たたかう連打で終わらない、味のある戦闘が好きな方向けです。

逆に終盤のボスはイベント要素が強め。やるべきことは事前に提示されるので、詰まることはないはずです。こういうゲーム性は親切。

 

そして何より! ボスキャラの敵グラフィックがこれまたすっごい良いんですよ!!! ポルペロルート(と勝手に呼んでいる)とかもうマジでドラマティックで!!! BGMの踊るような雰囲気もあいまって、見ててめちゃくちゃ良かったですね……。

難しい敵については攻略テキストも同梱されています。おのれ盤上の狙撃手。

狂信者に混乱がぶっ刺さる、等々、バトルでの攻略方法にもキャラクター性が重視されていて萌えました。こういうシステムで見るキャラの個性っていいよなあ……!

 

純・欺・策という三属性も新鮮でしたし、それがそのままキャラクターの個性や分類に繋がっているところも魅力的でした。属性名がもうロマンあふれる。

 

 

 

 

韻律重視のフレーバーテキスト

 

装備品の説明文、新マップ突入時の説明、マップ内の零れ話、戦闘前の口上文! 

どこをとっても耳に心地よい名文の嵐です!! 

文だけなのに「耳に心地よい」とはこれいかに、と思われるかもしれませんが、いやもう目で追うだけでもめちゃくちゃ気持ち良くなれるテキストが盛沢山なんですよ……。詠唱とか呪文にも似た感じ。

敵が使うスキルや使用時のセリフも要注目です。アシレトダンジョンの敵は特に不気味で底知れなくてめっちゃ良かったなあ……。

 

特に装備品は全て敵からのドロップアイテムになるので、「あの敵がこれを落とすのか……」という深読みもできてよりおいしいです。

何よりポルペロルートのラスボスの戦闘前口上が大好き!!! エンドごとで対比されてるのもいいんですよ……! クリアした後も脳内でずっとリフレインしてました。もう言葉遣いが美しいんだこれが……。

 

余談ですが、作者様が定期ゲー界隈の方と知ってかなり納得してしまうなど。定期ゲープレイヤーさんって決めセリフやフレーバーテキスト上手な方多いですよね。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

熱いロマンと美しい物語とドロドロした人間模様が描かれる、ハイセンスなRPGでした。こういうのが味わえるからフリゲはやめられねえ!

 

 

追記ではネタバレ感想。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

ネタバレ注意!!

 

 

 

 

 

 

キャラや世界観について書き出すとそれこそ文字数が尽きてしまうので、エンドについて。

私が本作をクリアして、「このエンドはこういうことだったかな?」と解釈した内容を書きます。要約やただのあらすじに見えてしまうと思うんですが、このゲームはそこに至るまでの道のりを味わう作品だと思っているので、未プレイの方は閲覧禁止!でお願いします。

既プレイだけどいまいち咀嚼しきれてないな~、という方への参考になれば幸い。

また、断定口調で書いている部分がありますが、あくまで一個人の考察です。

 

 

 

 

 

 

 

 

TRUE

 

あらすじ

 

これはビルッテを中心とする物語である。

魔帝とはただの役職名ではない。現人神である。そして魔帝とは世界を救うためのシステムだ。

この星は旧支配者という上位存在によって成り立っている。そしてこの星を長く存続させるため、平和を続けるため、旧支配者の遊び場として成り立たせるための柱が魔帝である。

魔帝になるには決まった筋書きを辿らなければならない。なぜなら、魔帝になるにはただの個人ではなく世界を支配する神になる必要があるからだ。神になるには、英雄として祀り上げられるのが手っ取り早い。仲間を集め、強敵にぶつかり、巨悪を討つ。そのための筋書きが、この「ばつえいビルッテ」で辿ってきた道のりだ。

 

 

エンド後

 

ビルッテは友人であるポルペロを殺した。ポルペロは英雄が倒すべき者、帝国にとっての巨悪であったからだ。こうしてビルッテは魔帝となった。英雄となった。神となった。概念となった。マティーニの弟でありポルペロの友人であり、旅を楽しみ誰かとの力試しが好きな一人の魔人ビルッテは、もはやどこにもいない。

マティーニャや他の仲間たちはどうなったのか? それすら語る必要は無くなった。これはあくまで英雄譚であり、わざわざその他大勢にスポットライトを当てる必要はない。ビルッテがビルッテ個人でなくなった以上、皆が等しく帝国民でありモブキャラだ。

 

 

 

 

BREAK

 

あらすじ

 

これはポルペロを中心とする物語である。

ポルペロはカルーア家の子であり、ロロアの娘である。ビルッテはドランティア家の子であり、クエーグの息子である。ロロアは愛憎余ってカルーア家当主兼三代目魔帝のメワレモを殺し、その罪でドランティア家当主兼三代目魔帝補佐のクエーグに処刑された。つまり、ポルペロから見てクエーグは親の仇、ビルッテは仇の子である。

ポルペロ個人はビルッテのことを好いている。だが、ビルッテが魔帝という役職についている限り、ポルペロ(カルーア家)ビルッテ(ドランティア家)が仲良くすることを周りの目が許さない。二人が今後も友人であり続けるには、ビルッテは魔帝を辞めなければならない。しかし、ビルッテは帝国民が魔帝を必要とする限り自ら魔帝を辞めるということはしないだろう。

ポルペロはビルッテに帝国外の旅をさせることにした。その中でビルッテの好奇心を膨らませ、ビルッテが魔帝としてではなくビルッテ個人として生きたいという欲を抱けるようにと願った。

ただ願うだけでは足りない。魔帝とは役職名だけではなく、世界を救うシステムも含んでいる(上記TRUEエンド参照)。だが、このルートに入る際の選択肢で、アーゼモルネ(旧支配者)はビルッテを魔帝にすることを諦めた。そのため、アーゼモルネによる干渉はない。

そしてこの旅を通じて、ビルッテはビルッテ個人として生きたいと言った。あとはポルペロがロロアの娘という配役から解放され、ポルペロ自身として生きると叫べば願いはかなう。

ポルペロはビルッテと戦う。ロロアの娘クエーグの息子に挑むかたき討ちの物語ではなく、ポルペロビルッテの楽しい試合を始めるために。

 

エンド後

 

ビルッテは魔帝を辞め、ポルペロはカルーア家を背負うことをやめた。二人はただの、何の肩書も持たない個人として、今もどこかで楽しく旅をしている。

 

 

 

 

ANOTHER

 

あらすじ

 

これはマティーニを中心とする物語であるが、主として動いているのは旧支配者アーゼモルネである。

まず、マティーニ三代目魔帝メワレモ(カルーア家)三代目魔帝補佐クエーグ(ドランティア家)の間に産まれた子であるが、二つの家を取り持つようなことは何もしなかった。よって魔帝殺し(上記BREAKエンドのロロアとクエーグのくだり参照)による二つの家の確執は残ったまま。結果、魔族(ドランティア家)魔物(カルーア家)が争う第三次戦争が引き起こされた。それでもなお、マティーニャはポルペロを裁くことなく、カルーア家を背負うこともせず、ただ傍観し、全ての義務はビルッテに押し付けられた。

このままいけばビルッテという一人の魔人は、世界を救うための魔帝となってしまう。

 

一方、これは一代目魔帝ミニニビリがかつて辿った道のりでもある。旧支配者アーゼモルネの愛した相手であるミニニビリは昔、世界を円滑に続けるための“魔帝”として個性を奪われて(上記TRUEエンド参照)石になってしまった。アーゼモルネは、ビルッテに一代目魔帝ミニニビリ、マティーニに一代目魔帝補佐アーゼモルネ自身を重ねている。そして今、ビルッテが魔帝となるのを止められる可能性がありながら見過ごそうとしているマティーニャに嫉妬し憤っていた。

ビルッテの魔帝づくりを止められるのは今、ビルッテの傍で彼個人に強く想いを寄せられるマティーニャだけだ。それをそうと気づかせるため、アーゼモルネはビルッテが魔帝となるための英雄譚に自ら干渉する。

アーゼモルネ自身が始めた魔帝作りでありながら、彼は英雄譚の作者であることを放棄した。アーゼモルネはマティーニャを自分に重ねることで、もしかしたら自分もミニニビリと共にいれた未来があったのかもしれないと思いたいがために。そのためには、マティーニャをも魔帝補佐の役割から解き放ち、一人の魔人として、弟であるビルッテを助けたいと叫ばせなければ。

 

 

エンド後

 

ビルッテは魔帝となるが、それはあくまで役職名である。英雄ではなく、神ではなく、そこに個人を犠牲にするような歪は存在しない。彼らは彼らの世界で彼らの政治を行う。

ポルペロマティーニに代わって魔帝補佐となり、カルーアドランティア家の確執も解消された。本来その確執を解消すべき立場にいたマティーニャは、補佐に代わって、帝国を旅する。魔帝補佐という名ばかりの配役ではなく、一人のマティーニャとして、弟ビルッテの仕事の助けをするために。

 

 

 

 

 

 

 

と!

こういうことなのかなあ!?

って感じです。

 

 

一番好きなのはTRUEエンド! ああいう、こう、完璧で収まりの良いおぞましさが大好きです。終末とはいつも美しいものだ……。