「貴方に手のひらを見せよう、手を取り合おう」
今だ丸腰だ撃て!!な前置き。
えー、今回はPaper Moon(ゆきはな)さんところのフリーゲーム「霧と太陽の王」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
人外×少女。ちょっとした謎解きを挟みつつ進むADV。エンド分岐はありますが、同梱されているReadmeテキストにガッツリ攻略が載っているのでご安心。
というわけで、良かった点など。
動き回るミニキャラ
マップは横スクロール型、本の中をそのまま歩いているようなプレイ感です。
で、何がすごいかってこのキャラ達が動くこと動くこと! 特にルシャナがそうですね、しゃがんだりくぐったりよしよししたり。ちょっとした動作全てがグラフィックに反映されるの、惚れ惚れでした……。
ミニチュアでキャラを眺めてる感じ。ちょっとは通じるといいなー、なんて!
わかりやすく響きやすいストーリー
先んじて正直に書いてしまうと、ぶっちゃけ、ご都合主義は感じます。
ハッピーに向かう時もバッドに向かう時も、やりたい展開が先にあって、それに合わせてキャラやモブが振り回されているんだろうなという印象は否めませんでした。
ただ、この作品自体プロローグからして、紙芝居めいています。もっと言うと、「民話」だなと。伝承されないとそのまま忘れ去られてしまう点などが特にそう。
それを思うと、こう……ある意味ブレてはいない作品だなとも思います。生々しい感情や余計な枝葉は簡略化されて、わかりやすくまとめられたお話。そういうものと割り切って見れば、それこそグラフィックや演出は最上級です。
また、バージョンアップで追加されたエンドは他のエンドよりも俗っぽく、キャラ萌えや一部の方々の性癖をくすぐるような出来になっています。
グラフィックでついお堅く重厚なストーリーを予想してしまいましたが、中身はもっと取っつきやすい作品でした。
性癖抉ってくるダークな展開
さて、ヤンデレ鬱展開ダークもの大好きな私としては、響くところも多かったです。
まずポイントとして挙げたいのが、相手が人外ゆえの話の通じなさ!
かわいいマスコットっぽく見えるキャラも実は人間をバリボリ食べてたり、心が通じ合えそうと思ったら根本から無理だと悟らされたり、そういう異種族ならではの相互不理解が終始漂うゲームだったなーと思います。
また、前述の追加エンドもそうですね!
こちらはヤンデレや鬱展開に振り切った内容で、とても幸せでした~! ReadMeに記載のある通り、少し特殊なことをしないとたどり着けないようになってはいるので、苦手な方もご安心。
とりあえず、すんごく雑に言うと、幼女が可哀想な目に合うの好きな方向けです。
繊細な線がじっくり楽しめるモノクロ画面
グラフィックで注目したいのは、線の細やかさ!
いやもうまずモノクロな画面構成なのに、見やすく美しいのがすごいんですよ。進行方向もキーアイテムもわかりやすくて、ほんとスムーズに進められるというね!
民族衣装なども多く出てくるんですが、文様一つ一つの美しさもとくと堪能できます。中にはその民族意匠の意味が謎解きとして使われることもあり、めちゃくちゃ濃厚な世界観を感じられましたね~! ああいうモチーフ設定や架空言語文法など、見るだけでわくわくします。
さらには、王の羽根のもふもふ具合や一本一本の毛の流れ、漆黒の光沢なども感じられるのがすごいところ。塗り分け?描き分け? とにかく、質感がものすごかったです……! 影と霧と光を感じられるようなタッチでした……。
演者豊かなキャラボイス
なんと本作、ボイス付きです。てっきりヒロインと主人公だけだと思っていたので、顔グラありのキャラはほとんどがボイス持ちという豪華さに驚かされましたね~。
配分としては、基本無音、イベント時はパートボイス、決めシーンではフルボイス。私は全編フルボイスだとボイス待ちの間に少しダレてしまうタイプのプレイヤーなので、このメリハリついた塩梅はすごく助かりました。
演技として印象に残ったのは、仕立屋ですね!!
いやもうあの歌うような喋り方が好きで好きで! 文だけだとすっと読み流してしまいそうなセリフも、一つ一つ傾聴して、心に残ってしまうという。演技力が天井越えって感じでした……。
気になって思わず演者さんの名前検索しちゃったもんね。『ニコと呪いの水没図書館』でも好きだ好きだと述べていた「日ヨリ」さんでございました。すごいなあ……。
ボイス抜きにしてもなかなかおいしいキャラなので、人気は出るキャラなんだろうなあと思っていたんですが。声のおかげでファン倍増してると言っても過言ではないはず。
声質が耳に合わなかったのはルシャナかな……。こういう時にキャラごとの音量調節ができないのはやや不便、しかしこれは要望としてあまりに無茶&贅沢すぎるので割り切るべきとして。
あくまで私の好みの如何というだけで、実際の演技力としてはすさまじいと思います。だって、ルシャナはそもそも「喋れない」子なので。「……!」にボイスを乗せられるの、マジで強いと思います。感服。
ボリュームしっかりのおまけ
ネタバレ防止のため詳細は追記に格納しますが、とにかく、「至れり尽くせり!」と言いたくなるおまけ部屋でした。
こうして振り返ってみると、ストーリーゲーっていうよりはキャラゲーとして楽しめる人向けなのかもしれないなあ。
ちょっとだけ難点も
気になるところもあったので少しだけ。
・セーブスロットの少なさ(エンド5つ&おまけ部屋で最低6スロットか、エンドの回想機能があると嬉しかった)
・エンド分岐前のイベントの長さ(仕立屋関係と塔でのアイテム入手のくだりは特に)
周回プレイでのエンド回収にやりづらさを感じたのは、主にこの2点。
ただ、繰り返しますが、原則プレイヤーにはかなり優しいゲームです。ReadMeにエンド条件と推奨回収順まで明記してあるところや、ゲーム中の謎解きのヒントが手厚いところなどなど。何卒誤解なきよう~!
とまあ、こんな感じで。
同作者様の他ゲーをプレイしているとニヤっとできる小ネタもあったりするので、他ゲーも合わせて是非。
追記では軽くネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
短編フリーゲーム5作品感想(箱庭の花乙女)
ネタバレ注意!
おまけ部屋について
圧倒的なのが、セリフの量!
普段複数回話しかけない方は、会話パターンがループするまで是非話しかけてみてほしいところ……。異形たちもルシャナもかなり会話が豊富で驚きました。宰相とコックの会話、カプ厨の方は大喜びしそうだなあ……。
そしてここまで来てようやく、「あっこれキャラゲーだったんだ!」って気づきました。前述の、硬派なストーリーだと誤解していた旨のアレですが。ル虐もといルシャナかわいそうかわいいの文脈も、そうとわかればありがたく俗っぽく楽しめました。
あと嬉しいのはスチル見返し機能ですね!
いやもう私、ミッシングエンドの靴下大好きなんですよ~!!
まずあの壊れた笑顔にぎょっとして、ああ……と落ち込んで視線を下げたところで目に入るあの靴下ね。レース付きのお上品な靴下履かせてもらってるのに、足枷付きで片方無いっていうね。構図が完璧!
服の状態も気にできないくらいぼろぼろで脱げかけてるってことでも良いですし、単に足枷強調ファッションってことでもいいですし、いずれにせよ救われなくて好きです。えへへ。