「たまたま上手く通じたように見えるだけ、それでも」
路傍の石ころと会話するあなたを信じたい前置き。
えー、今回はSeaeeesさんところのフリーゲーム「E-999」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
Unity製のブラウザゲーム。全エンドを見るまで30分もかからない短編。
お題は「つたえる」。
スマートフォンには対応しておりません。
すごく語りたくなる名作、なのですが……!
一方でこの作品は、操作方法すらもネタバレになってしまうのです。ジレンマ!!
そんなわけで、この記事でも核心的な部分は追記に伏せますが、それでも8割ほどはネタバレに言及せざるをえません。
10分もかからずエンディングへ行けるので、気になる方は是非一度プレイしてみてください。
公式の攻略記事も一応貼っておきますね。
あまり複雑な操作は要求されないので、上記を見なくても完全クリアできる難易度だと思います。まずはいったん、自分で触ってみるのがオススメ。
というわけで、ここからはネタバレ込みで良かった点など。
改行少なめですので未プレイの方はスクロールにご注意ください!
見えない君との文通
テーマ「つたえる」でこの発想ができるの、あまりにセンスの塊じゃありませんか!?
作品のプレイ感がそのまんま、コミュニケーションだなあと感じます。やっていることは一方通行なんだけど双方向のように見えるところとか。相手に合わせた言葉を選ぶしかなくて、自分の言いたいことは書ききれない、このほんの少しの不自由さとか。
“待ち”の時間があるのも、なんだかやりとりがよりリアルに近く感じられて好きです。
手紙が来るまでの時間も絶妙。長すぎず遅すぎず。私のプレイでは、画面のあちこちをクリックしきったその時に初めて変化が訪れたので、なおさらドキドキしました。
このシンプルさが良い
プレイヤーができる操作はシンプルで、送って反応してもらえる言葉もほんの少しだけ。
でもこの制限こそが本作を名作にしているなあと強く感じます。
自由入力ができたり反応ワードが隠されていたりするゲームって、間違えると我に返ってしまうんですよ。一昔前だとbotとかもそうだと思うんですが。伝わらなかったことで、相手は機械だったと思い出してしまう。
けど、本作はそういうエラーがすごく起こりづらいようになってるんですよね。
入力欄はわかりやすくて、操作がわからなくてエラーが起こることはあれど、わざとでない限り反応外のワードを送ることはそうないはず。さらには、こちらがうまく反応できなかった時のためのエンディングも用意されている。
すれ違うことも物語に組み込まれている感じがするんです。だから、ずっと扉の向こうの誰かを幻視していられる。制限があってこそ見れる景色だと思います。
どこか無機質なグラフィック
シンプルと言えば、グラフィック面もそうですね。
この作品は立ち絵がないからこそ、イイ。そう強く感じます。相手の姿が見えないからこそ、文字のやりとりがすごく際立つ感じ。もし本作が、ややこしい操作を要求してきたりきらびやかなグラフィックで彩られたりしているものだったら、この深々とした空気感は生まれなかったはず。
画面の枠を飛び出ていくメタゲーで、逆に制限が良いと感じられるのも、なんだかすごく面白かったです。
とまあ、こんな感じで。
ネタバレ第一段階はここまで!
真相まで全部ぶっちゃけてお目目ぐるぐるになっている感想文は、このまま追記に格納させて頂きますね。気になる方は続きからどうぞ。
ネタバレ注意!
隠しファイル
END1を見て愕然としていたらぽつんと落ちてきてくれました。
作者様の意図かどうかはさておき、このショックを呑み込む間までもゲーム構成に組み込まれているように見えて好きです。
もしかするとこのファイルを見るかどうかで読後感はかなり違う、のかも?
私は一気に読んで見て終わったのでもうただただ心が抉れましたが……。そして心を刺される作品が大好きなので出会えてよかったんですが……。
報告書、と題されているだけあって、淡々としているからこそ非道が際立ちました。こういうのってさらっと書かれてる方がダメージ食らうんだよなあ……。粛々と極悪。
淡々と、こちらの心が波打つ余白をくれてるなあと感じます。
マルチバッドエンド?
いわゆる鬱ゲー、鬱展開に分類される作品だと思っているのですが……。
色々見た後だともういっそEND2やEND3の方がハピエンなのではないかと思ってしまいます。ははは。
でもこの発想も、隠しファイルの記述を考えるとトロッコ問題なんですよね。私とやり取りしたあの子を犠牲にするか、これからあの子と同じことになる見知らぬ3人を犠牲にするか。
ああ~~~~~後味!!
「アルカディア」ということは研究施設の方々ももしかしたら何か人類救済みたいな目的があるのかも、と考えたこともあったんですが……。普通に「商品開発」って言ってるし、やっぱり営利目的なんでしょうかね。だったらなおさら助けたいと思っちゃうよ……。
意思疎通を第一条件とするのは難しい
エンディングについて色々考えていると、だんだん、人間の定義ってどこからどこまでなんだろうという気持ちになってまいりました。とんでもないとこまで来ちゃったぞ。
いや~、まず作中として私のやり取りしていた相手はただの「脳(プログラム・AI)」なわけで、しかも本人とは違う培養細胞なんですよね。それに対して可哀そうとか苦しいとか助けたいとか思うのってどうなの?という部分もあるんですよ。
「別に人間じゃないんだからいいじゃん」みたいなドライなプレイヤーさんもいたんじゃないかな、とか。
でも私としては、言葉を交わして意思疎通できたと私が認識したらもうその相手は人間じゃん~~!!と思いたくなってしまいまして!
けどこれを言い出すと、じゃあ猫にこっちが呼びかけてにゃーんって答えたらその猫は人間なのかみたいな話になっちゃいそうな気もしますし、本編でたまたま手紙が通じたから情が湧くだけで私とて手紙がなければただの思考実験だと思うのかもしれませんし……。
でも人間と人間だって通じてるというつもりでもしかしたら通じてないかもしれないという可能性を消し切れないまま相手を信じて言葉を渡しあいっこしていくのがコミュニケーションなのではないかと思っているので、あの子は、人間だと思いたくて……
なので~~!! まとまらないよ~~~!!!
だって「豊かな感性」と記述されている子がただの処理スピードのためだけに徹底的に過去を破壊されるの辛すぎるじゃないですか……。その子にしかないものが……!
プレイヤーが救ったと見せかけてさらに犠牲者が増える構図、マジで八方ふさがりで苦しいです。苦しい好き。
プレイ時間はたった数分でも、こんな感じで、あれやこれや考えてうんうん唸りたくなる作品でした。
たった数文やり取りしただけなのに、どうしてこんなになっちゃうんだろうね。心、ふしぎ。