「産声もなく断末魔もなく、ただその手の感触だけが」
君の誕生を示していた前置き。
えー、今回はFISH CAKE(フィッシュケーキ)さんところのフリーゲーム「十二月のパスカ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
全クリまで1時間強程の一本道ノベルゲーム。最後まで丁寧に鬱展開。年頃の男女が愛を求める話ではあるのですが、“恋愛”とは呼びがたい気持ちもある、独特の作品です。
というわけで、良かった点など。
サイコパス・ノベル
理解されがたい感覚を持った、男女二人がメインキャラクターです。
仮に「環境のせいで人はおかしくなるんだ」と言ってしまうのなら、この二人はまさにぴったりと当てはまります。これを言うのは本当に悔しいんだけど、二人が「サイコパス」な理由の一旦は環境、もっといえば家族と起こった過去にあって、そこは切って切り離せないんだと思います。
でも、じゃあ、倫理観ぶっ壊れたこの二人と私は、ただ環境の違いというものだけで隔てられているのかといえば、答えはノーだと言いたいんです。対岸の火事じゃないんです。感情移入してしまうんです。
サイコパス・ノベル。彼らの感覚を受け入れられないプレイヤーさんも絶対出てくるはず。尖った作品です。けれども、児童虐待に無理解をぶちまけて悲痛な設定を面白おかしく「サイコパス」と揶揄するようなお話ではありません。真っ向から彼らなりの愛を模索するお話であったと、強く感じます。
余談ですが、登場人物皆の名前が伏されていて、匿名性が高いところも独特で好きです。画面向こうの他人のニュースに似た、どこか遠くの事件のように錯覚してしまうところが実に巧み。
都市伝説めいた幕の閉じ方も併せて、ひと繋ぎになっていて好きです。
愛するということ
ボーイミーツガール、というとそれっぽく聞こえますが、青春や恋愛というよりは疑似家族と言うほうが個人的にはしっくりきます。わざとらしいほどに強要される家族のロールプレイ、これが和やかでもあり不気味でもあるんですよね……。
この、薄皮一枚隔てた冷たさがとても肌身に合いました。
本作は確かに鬱展開だと思うんですが、かといって悪意に塗れているわけではなくて、むしろ色んな形の愛に満ち溢れています。家族愛から始まり、施設の人達の慈愛、見知らぬ女の自己愛、二人の少年少女が掴んだ愛、などなど。
彼らの結論は、もしかすると冒頭から指し示されていれば、陳腐だと思えてしまったのかもしれません。でも、シナリオを通じて主人公の心の動きを追うように、説得力もしっかりと肉付けされていくので、納得感は強かったです。
孵りそこなった子どもたち
このゲームは卵を連想させるモチーフがいくつもあります。セーブロードなどのアイコン、卵料理、章のタイトルなど。私はDL版でプレイしたんですが、起動ファイル名を見て、おや、と思いまして……。こういったところから作品が既に始まっているのって素敵ですよね。
さて、ここまで徹底して卵をちりばめている一方、作中において明確なキーワードとして登場人物が卵に連なるメタファーを口にすることはありません。しかしながら、プレイヤーはその意味をどことなく悟ることができます。
たぶん、解釈が分かれるところだとも思うのですが……この辺りはどうしてもネタバレになってしまうので、追記にて。
とにかく自分が述べたいのは、物語における主張について。
物語のテーマとかって、渦中にいるキャラクタ―達が口にした瞬間、それはキャラの言葉ではなく作者の言葉になってしまうような気がしているのですが。
そこを綺麗に切り離して、「共感されがたいサイコパス」と「理解しやすい作品のテーマ」を共存させているところが、素晴らしかったです。
きっちり締めるシステム
具体的にシステム周りにも触れておきます。
本作はティラノ製ということで、初めは偏見持ってシステム面は全く期待せずプレイしてたんですが……。蓋を開けてみればこれが見事! オートあり、文章ログあり、文章スピード調整もしっかりできて、セーブロードもバグらない!
いやこれ当たり前だと思ってるプレイヤーさんいらっしゃるかもですけど、ティラノゲーだとかなり貴重なんですよ……。ビルダーじゃなくてスクリプトだからかもしれないけども……。
システム周りもきっちり整って、安心して物語に没入できる作りです。
クリア後はチャプターごとに回想できるのも嬉しい!
とまあ、こんな感じで。
鬱展開、かつ、色々と深く考え込みたくなるノベルゲをお求めの方に強くオススメの作品です。
追記ではネタバレ感想や、軽い考察・解釈など。
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