「私にはあなただけ、ですから言うならどこにでも行きましょう」
あなたを置いて行きましょう、な前置き。
えー、今回はうきうき雨季(6月)さんところのフリーゲーム「鬼の嫁入り」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
全クリアまで30分前後。探索&ノベルゲー。兄×妹、異種族恋愛、和風。
病弱な兄を支えるつもりが、ガマガエルのもとへ嫁に行くこととなった妹の、家を出る前の話です。
というわけで、良かった点など。
辛辣DV不憫兄×盲目忠節強か妹
いきなり嫁入り、家人にはいびられ、病の兄には当たられるばかり……。
こう書くとかなり鬱々とした話になりそうなところですが、意外にもエンディングは特に強か、時に明るく、悲惨なものばかりでもありません。
一番驚いたのは、主人公兼ヒロインであるささめのキャラですね!
おとなしく兄の言うことを聞く内気な子……。という、第一印象を良い意味で裏切ってくれる深いキャラです。
兄も兄で、妹にキツイ言葉を浴びせはするものの、よく探索して話が進むと内側の複雑な感情が察せられるところも。
兄妹ともに、俯いて嘆くだけに収まらないこの強かさ。
まさに「鬼」の物語だなとしみじみさせられました。
周回前提の探索要素
まず、探索モードでの画面説明が親切でわかりやすい!!
デフォルメイラストが箱庭っぽくて可愛いし、調べる箇所も多すぎず少なすぎずでちょうどいいし、行動回数とアイテムはアイコンで分けてあるから情報がパンクしなくて良い!
このデザイン性と有用性の高さはもうね、ハイセンスです。
また、探索は周回プレイ前提。
DLページに記載がある通り、アイテムは周回ごとに引き継がれます。おかげで攻略難易度も低め。
同じところを選択し続けると話が発展していくので、エンディングには直接関係がないところでも、是非差分が尽きるまで通ってほしい気持ち……! かく言う私も、つい全箇所きっちり探索しきっちゃいました。へへへ。
デフォルメも高め等身も魅力的なグラフィック
まず、怒ってる時の目つきがおそろいで、良い~!!
目元がちょっと変わるだけで、ものすごく印象が変わるんだなと気づかされました。凄味の表現が、良い……。
次に、鬼角の生え方について!
本作の二人はにょっきりと縦長で、般若に近い感じの角。小鬼っぽい角ももちろんかわいくて好きなんですが、こういう存在感があってすらりと伸びる角もまた、「格」が感じられて好きです。
角で前髪の分け目ができるのってむちゃくちゃ良くないですか? これが性癖って方も絶対いるはず。肌と角が入り混じるような着色もすごく好きです……。
そして何より、兄こと真珠の外見。
初登場では「えらく美人さんだ……これはお姉さんでも十分通ずるな……」と腕組みをしました。が、後になって異性装だと気づき、なんとも苦い顔をしてしまったものです。
厄除け病除けかー……。
でもそれだけでなくて、次期当首候補に顔だけでつられて権力のある嫁がついても困るから女の格好をさせてやろう、という事情もあるかも。あるいは嫌がらせなど……。考えすぎかも。
とはいえ、病に臥せっていることもあり、そこまでガッツリ女々しい形の女装ではありません。なので、苦手な方もとりあえずはスクショで判断してみてほしい気持ち! 異性装がメイン要素というわけではないのでね。
さりげなく時代を感じる言い回し
食事の用意をできる立場の人が限られていたり、ささめが下働き用の袖をまくる格好(のはず)だったり、三三九度がさらっと出てきたり……。舞台背景にしっかりとした知識が裏付けされているのを端々に感じられるテキストが多かったです。
「新鉢を割る」「不忠」など、ちょっとした言い回しにも古風で和な単語がしっかり。最高! 雰囲気出る~!
ずっとささめが敬語口調なのも、兄との上下関係や想いの違いが感じられて好きでした。
とまあ、こんな感じで。
ネタバレ込みで語りたいところが大量にあるので、以降は追記にて!
ゲーム中ずっと雨の効果音が鳴り続けているのが、さりげなく好きでした。
和風、婚姻譚、兄妹間の激重感情などにピンとくる方は是非。
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ネタバレ注意!
エンド1
初見で入るであろう蛙エンドを除けば、エンド1をまず見ました。
想像以上の勢いと明るさにびっくり。ただ、この段階ではまだ二人の性格が見え切っていなかったからかもしれません。
他エンドを見てから改めて考えると……どうなんだろう。
この後、真珠の病は治るのかな……。病を悪化させようとしていた家人が一掃できて、回復に向かうのかも。
エンド2
このスチルの雨除け衣装がすごい好きなんですよ!
この時代ならではを感じられるし、絵にもなるし……。重い荷物を持ちたがるところにも、こう、色々な感情が感じられて味わい深かったです。ささめへの気遣いと、兄として舐められてなるものかみたいな気負いと、病人扱いされるうえにその通りでしかなく自分の体が思い通りにならない苛立ちと、等々……。
今後のささめが気になるエンディングでもありました。こっちだと真珠はそのまま倒れちゃうんだろうし。一緒に逝きたがるのかなあ。ささめは真珠がいないと、身の立てようもないだろうしな……。
エンド3
色気がすごいし絶望もすごい。
身体で通じ合っても心に救いようのない断絶を抱えている展開。
ささめが受け入れちゃった瞬間、もう、顔を覆いました。悪循環でしかない……この二人の関係性、主に真珠にとって悪循環でしかない……!
真珠の口走った「みじめ」が本当に、刺されたかのような気持ちでした。真珠からささめへの感情の根っこがこれなんだろうなと……。とてもしっくりきて、なおかつこれで納得してしまうことに申し訳なさを覚えました。そしてこの感情もまた彼のみじめさを増長させるんだろうな、とかとか……。
真珠、単なるツンデレやDV男ではない点が重要ですよね。妹が好きだし遠回しに守ってやってるんだろうなというのは、庭掃除のエピソードなりちょっとした会話なりで察せられるんですが……。
好意でささめを包み込めるほど大人でもなく、全てぶち壊してしまえるほど狂人でもないところが、もうね。深みとえぐみのるつぼでした。
エンド4
助けた蛙の話を想うと、このエンドのささめはけっこうえげつない扱いをされそうな気がしています。ただ、エンド3を考えるに、ささめはその扱いすら受け入れてしまえそうな気もします。
大蛙は旦那様だから、お兄様に言われたから、そういう理由でまた自分を騙して堪えるのかなあ。そういう行動原理なのかなあ……?
クリアしてコンプしたはずなのにささめという女の子の中身が結局わかっていません。お兄様が大事で彼に嘘はつかない、と、ずっと彼女自身は一貫しているのにね。
エンド5
3つ目くらいに見たエンドだったんですが、本作の印象を大きく変える分岐点となったように思います。
そして何より、このエンディングのおかげでささめが大好きになりました!
「従順な盲愛献身キャラ」で止まるんじゃなくて、こうしてきっちりと人間性を出してくれるところに生々しさがあって好きです……。
あのエンドでのお兄様側の演出も好きなんですよね! セリフが無いのに立ち絵は細かく切り替わっていて、口を挟む隙は無い中で色んな感情が動いているんだなあと……。
このエンドで全貌が見えると、ささめの中の意外な強かさもわかって、この多面性がまた好きでした。お兄様を盲愛してるんじゃなくて、そういう態度をとる裏で自分の自分である部分を守ろうとしてたのかな……等々。
でも、不思議と悲愴さよりも自己防衛?の方が目立つ印象あるんですよね。むしろお兄様のためになるならと全部投げ捨ててるように、見えるんですけどね。
立ち絵の表情がどこか冷たく飄々としているのも、それがささめだからなのかも。
まとめると、エンド5が一番好きです!!
そして、性癖に刺さったのはエンド3でした。
余談
「ささめ」という単語を知らず、細雪の雨verみたいな単語なのかなーと思って調べたところ、下記の短歌がヒット。
『綾ひねる ささめの小蓑 衣に着ん 涙の雨も しのぎがてらに』(山家集)
エンド5……!
たぶん由来はこれなのかな?と思っています。真珠はわからなかった~……。残念。
語りたかったのはこの辺り!
前述しましたが、ただ俯いて不遇に耐えるだけではない、鬱の中に強かさの感じられる良ゲーでした。こういう雰囲気と関係性、大好き!!!