うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「コッペリア、あるいは偽りの乙女」感想

「貴女は麗しお人形、恋も救いも知らぬ者」

ただし痛みは知っている前置き。

 

 

えー、今回はcream△さんところのフリーゲームコッペリア、あるいは偽りの乙女」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

人に憧れる美しい人形達

 

人間に好きと言ってもらえたなら、彼女達は人間になれる──。

この設定からしてロマンティックでドキドキしちゃいますよね! 運命の恋を待ちわびながら歌と劇で世界中を渡り歩くドールたち。これだけでもう、創作意欲が湧いてくる方は多いのではないかなー、なんて。

 

あと上手いなと思ったのが、“主”“使い手”“持ち主”といった単語が一切出てこなかったところです。ドールはあくまで“運命の人”を探すだけ。誰かに付き従うものでもなければ道具でもなく、命を持つ一人の存在として扱われています。

だからこそ! 

だからこそ、彼女達がか弱き花として搾取される描写も光るんですよね……。

初めから道具と決められていれば諦めもつくのに、人間と見分けもつかないほど精巧だから、なおさら勘違いしてしまうんですよ。ここが本当に上手かった。人とよく似て、食事もできて泣いて笑える彼女達が、それでも人間になる意味に想いを馳せたくなりました。

 

 

 

3つの色で語られる鬱展開

 

本作は短編集めいた形式をとっており、プロローグの分岐で3人の内どのドールの物語を読めるかが選べれます。キャラクターや世界観は共通しているものの、ルート同士はパラレルな展開です。それぞれBADが1つとTRUEが1つ、そしてラズベティのみNOMALが1つ。選択肢は多いものの基本的にはラストの二択で分岐するので未プレイの方もご安心ください。

 

あくまで用意されているのはTRUEエンドであって、HAPPYでないところがポイント。言ってしまえば、どれも良質な鬱展開! 

どのルートも、構成やテーマは違えど私好みのお話でとても素敵でした……! ただ後味を悪くするのではなく、彼女達が選ぶ結末の是非自体を考えたくなったり、何かどうにかならなかったのかと想いを重ねたくなったりする話だったように思います。

心情描写や凶行に至る理由などはしっかり描かれていつつも、肝心のところはさっと隠しちゃう、ここが好きでした。想像の余地があるといえばいいのか……。もっと奥の闇を見たくなる、考察が捗る感じ。唯一の良心と見えるラズベティも月明りのベールを剥がせばえげつない仕込みがしてあって、もう、たまりませんね。好き!

 

情緒なく言ってしまうと、可哀想な目にあう女の子が見たい方には合うと思います。

 

 

 

綺麗なドールとモノクロ背景の対比

 

さらに注目したいのは、グラフィック面について。

これがまた、ダークメルヘンというジャンルにぴったりの雰囲気なんですよ! 黒基調の画面を彩る、3人のドール。ストーリー選択の画面やシーン区切りのカットインなど、どれもすごく雰囲気があって、一枚絵としても魅力的でした~! 

同じドールであっても皆衣装や小物に雰囲気の違いが出てて、そこも好きなんですよね……。ラズベティルートで出会うドール達が、ぱっと見てああそういう子なんだなって理解できる服装してるのがすごく好きだったんです。

 

マリアブルーがお姉さんらしく色気ある服装をしてるのも、彼女のルート内容を思うとぞっとして良かったなあ。

 

ただ難点として、探索パートのクリックポイントの不明瞭さが気になりました。

ポスターと劇場入口が同じ判定な一方で、テントと城門は別の判定だったり、マップ移動がドアや門ではなく単に画面端?だったり。勿論プレイした後なら建物とそこにまつわるキャラがわかるので判定の違いも理解できますが、初見時は規則がわかりづらくて戸惑いました。チュートリアルであったClickの円を常設するなどしてあるとより好ましかったように思います。

 

 

 

異形に近い見た目の人形師たち

 

作中では、劇団のベニーを中心に人形師も登場します。

中でも興味深いのは彼らの見た目。異色肌だったりごつい器材?がついてたりと、人形師のほうがよっぽど人間離れしてる外見なんですよね………。ドールの“運命の人”はやはりロマンティックな展開に映える美形揃いなので、なおさら異形めいた人形師たちのインパクトが強かったです。

ここに限らず、印象に残りつつも明かされない設定が意外とあるんですよね。ベニーの事情や人形の造り方、軍と国にまつわる情勢など。

でも、プレイ中はドールの運命の行方のほうに夢中だったので、語られない方がむしろテーマがわかりやすくて良かったと言えるのかも。

 

なお、公式からは本作の外伝・副読本も用意されています。記事を書いている201909現在は通販もされているので、気になった方はチェックしてみると良いかも。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

ダークメルヘンに求めるものがギュギュっと詰まった良ゲーでした~!

 

追記ではネタバレ感想。

 

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事

shiki3.hatenablog.com

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

 

 

ネタバレ注意。

 

 

攻略順

 

私はラズベティ→ダージリン→マリアブルーの順番でクリア。結論からいうとこの順番でプレイして大正解でした! なぜならいちばん後味が悪いので。

 

ざっくり分けるなら、 

ラズ→純愛 

ダージリン→悲恋 

ブルー→狂愛?

 

ラズベティが個人的に一番異質な話だと思っているので、彼女は最初か最後にしておくとよさそう。この点、タイトル画面がラズだったり、画面中央配置で選びやすくなってたりするの上手いですよね。彼女が三人の中でも重要な立ち位置ですよ~ってのがぱっと感覚で伝わるのすごく良かったです。

 

 

 

ラズベティ

 

純粋で痛みを知らないラズベティには、明るく清らかな世界しか見えないように造られているんだなあというのが一番の感想です。

 

トゥルーエンドが一番わかりやすくて、汚れも痛みも悲しみもなく、悪い人は最後の最後にひっそり消えてハッピーエンド。

いやあ、あれ、一見すごくハッピーで眩しいエンドですけど、めちゃくちゃ怖いですよ。消えた明かり、暗闇で耳触りの良いことだけ囁いてくれる恋人、不穏なものは全部説明なく綺麗に消された世界。ゾクゾクしました。好きです。

語られはしませんでしたが、フュジが例の彼の計画に気付いて彼自体を片付けた、だから惨劇を見られないように明かりを消した……とも考えられます。というか自分は十中八九そうだと思ってます。構成が本当上手い……。

 

よくよく見ればラズベティ視点でも一応、不穏な要素の片鱗は感じられるんですよね。探索中に出会う、「客層の違う劇場の人形」らしき子達にしてもそうですし。ノーマルエンドはラズベティの無垢が人工的であること、元は暗い影を抱えていたことを示唆されますし。

 

だからこそバッドエンドが映えるとも言えます! ああいう、なんていうか、新雪に足跡をつける感じの展開、おぞましくて良いですよね。

ノーマルエンドはラズベティの心を、バッドエンドは肉体を、それぞれ侵害している感じがして好きです。彼女にとっては自分自身のことすら自由にできないんだなあ。

 

というわけでラズベティの話は、かわいくってピュアなラブストーリーと見せかけて、際限なく沸き上がってくる不穏な泥を押し込めているような話だと解釈しています。好き!

 

 

 

ダージリン

 

演出がガッツリホラーで驚きましたね!

ダージリンが天真爛漫な子だったので、初めはこう、童話の教訓話みたいなのが来るかなと思ってたんですよ。赤ずきんみたいな感じ? 言うことを聞かずに好奇心で行動して痛い目に合いました~ってあれです。

 

が、蓋を開けてみれば意外な展開でした!

ダージリンが渦中にいないことがミソだなあと思ってまして。ダージリンの話と見せかけて実は物語の中心にいるのはヨーシュルなんですよね。見た目がかなり似ていたのでミントリーネがダージリンでは?という妄想もしてたんですが、時系列から考えても見事に別人でした。てへへ。

 

どちらのエンドでもヨーシュルが全て思い出してしまうという業が好きです。ダージリンと会わなければもしかしてヨーシュルはずっとヨシュアを続けられたのかな……?

美しい恋という意味でも、過去の罪という意味でも、“運命の人”の響きが刺さるルートでした。

 

 

 

 

マリアブルー

 

二面性の表現が最高に上手い。

マリアブルーとブルーで対話をさせるのも上手いですし、人形師を二人登場させてさりげなく対比させるのも上手いです。とにかくあちこちに揺れ動く要素があって、マリアブルーがどちらに動くかは本当に蝶の羽ばたき一つで決まるような、そんな不安定さの演出が最高でした。

 

トゥルーとバッドの落差も良いですよね。トゥルーのブルーは幸せそうだけど、もしかしたらこの後、ふっとマリアブルーとして生きていたころが恋しくなってボロボロになってしまうのかもしれないし。バッドのマリアブルーはトラウマでやられてしまったけど、あれが真実の運命の恋なら二人で乗り越えていけるのかもしれないし。プレイヤーに想像する余地を残してくれているところがすごく嬉しかったです。どちらが「幸せ」だと定義づけるか、深く悩む話でもありました。

 

これは私的な解釈なんですが、どっちかがマリアブルーなんじゃなくてどっちもマリアブルーなのが好きなんですよ。

居心地の良い環境で心の傷を癒し、あたたかなティータイムを楽しみ、怖がりながらもどこか恋に憧れているマリアブルー。

傷も闇も知らない他の子達を妬み、忘れられない傷を無理やり開かされ、自分が堕ちることで汚れている身をようやく肯定できるようになるブルー。

これ、どっちが彼女の本性だって割り切れるものじゃなくて、ブルーが心底傷ついたからこそ出てくる矛盾、両側面だと思うんですよね……。傷ついた時ってそんな、ぱっきり二つに割り切れないじゃないですか。憎らしいって思う時もあれば、早く忘れて楽になろうって思う時もあるっていう……。そういう感情を生々しく、そして劇的に描き切ってくれてる作品だなあと思います。

 

あと単純な話、お相手のロイドさんの見た目がめっちゃ好み。ブルーよりちょっと背が低い?のもツボでした。

立ち絵で言うとマリアブルーとブルーの比較で、ブルーの方が化粧濃いめなのも良いなって思います。やらされていることが如実に伝わってくるので。

 

 

 

 

 

だいたい語りたかったところはこんな感じ!

いや~、もう、めっちゃ好みの作風で、出会えて嬉しかったです!!!