「一方的なものは善意であれ悪意であれ厄介だ」
ちゃんとお話しなさいな前置き。
えー、今回はAONEKOさんところのフリーゲーム「魔法使いと銀の塔」(公開停止中?)の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
記憶喪失の状態で悪い魔法使いの家から脱出を目指す、乙女向け選択式ADV。何もなしでクリアを目指すとなるとかなり難しそうですが、公式サイトにネタバレ完全攻略があるのでご安心。
ほのぼのな雰囲気に潜む不穏さと真相の切なさ
ストーリーは基本、ほのぼのギャグな雰囲気。主人公のアリサと相棒のねこさんが、時にボケ・時にツッコミと代わる代わる楽しい会話を繰り広げてくれます。
一方で、序盤から付きまとう不穏な予感。これがうまいこと効いて、最後まで気になってプレイしたくなるんですよねぇ。そしてメインのエンド3つはどれも泣かされそうになりました。それぞれ違う意味で。詳しくは追記にて。
公式説明文には「殺伐」とありましたが、愛憎の方向ではなく純然としたシリアス寄り。切なさや虚しさを感じる展開のほうが多いほどです。一部のエンドは鬱展開ですが、流血沙汰や病み展開はありません。なのでむしろ、切ない話や悲恋ものも楽しめるタイプの方にオススメかなあと思います。
アリサは確かに注意書き通りきつめの言動もしますが、むしろ可愛げがあって微笑ましく思えたのでそこまで気にはならず。悪いことしたらきちんと反省したりしているのも好印象。表裏の無い素直な子だなあと感じました。
ぐいぐい進んでいける強い子で羨ましい!
どこを調べる?
選択式のある意味脱出ゲーということで、限られた探索回数の中でどこを調べるかが鍵になってくるわけですが……この会話パターンがとにかく豊富でした! 一か所につき3・4回ほど会話が進展してくれます。
私の場合クリア自体は攻略をがっつり見て最短で目指したのですが、結局セーブロードを駆使してついつい全部の会話を網羅してしまいました。えへへ。
一連の会話が終わると選択肢が消えてくれるのもわかりやすくて助かります。
特に本棚は最後まで見ると「ああ……」と頭を抱えて打ち震えたくなるような内容だったので、見逃した方には是非とも見て頂きたいです。
きらきら光る情景描写と一直線に響く台詞
魔法使いというファンタジー設定がしっかりと生かされていて、随所に見られるイベントや小物には心躍りました! 棚を調べた時の描写が本当好きなんですよね……。きらめく魔法道具が目に浮かぶよう。見てるだけでうきうきする感じが伝わってきます。
窓辺の花の設定も上手い!ずるい!これは惚れざるをえません。
きちんと立ち絵に反映してくれるのも嬉しかったです。
アリサが入浴剤好きっていうのも、見慣れない設定ながらすごく共感できました。雑貨屋さんのお風呂コーナーとか見てるだけで楽しいですよね。
こういった描写の丁寧さに加えて、
さらに見どころとして挙げたいのが台詞です!
とにかくアリサが強い子で、きっぱりはっきり言ってくれるので、悲痛な叫びも一生懸命の前向きな台詞もガツンと心に来ます。恋愛対象の彼は本編だと言いたいことを隠しがちなので、まさに相性抜群。台詞も二倍響きました。
ハッピーエンドに至るルートでの感情のぶつけあいや盛り上がりがとても心に残った一作です。
豊かな表情と上手い視点誘導
さて、文章面ばかりに注目してしまいましたが、グラフィック面も少し。
まず導入の視点移動が面白かったです。きょろきょろしてる感があって素敵。
立ち絵も可愛らしく、表情がくるくる変わってくれます。あとアリサの目の色や塗り方が好みなんですよねぇ。とっても可愛かったです。
ただ、ねこさんは顔パーツがあまりに人間なのでちょっと笑ってしまいましたごめんなさいw ωな口をしているねこさんは貴重でした。
ともあれ、文章のみならず立ち絵も可愛く、また後々出てくるもう一人のテレ顔はたまらん心打ち抜かれます。萌えました。
気になるところ
最後に一か所だけ、気になるところとして。
特定の場所で確立によって別のエンドに突入する、いわばハプニング的なエンドが存在することだけ引っかかりました。私は幸い、全部のエンドを回収し終えてからこのハプニングものを拾いに行ったのでそう不便は感じませんでしたが……やはりこういった地雷要素は特に選択肢ADVだとかなり人を選ぶのは確か。
とはいえ、アンケートを拝見した限りこれは作者様自身も気にしてらっしゃるようなので、次作に繋がるのを期待しています。
とまあ、こんな感じで。
切ない展開がありつつもハッピーエンドもあり、
何より丁寧な描写と響く台詞が魅力の良作でした!
追記にはネタバレ感想。
OKな人は下記よりどうぞ。
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以下、ネタバレ感想。
いやあ、とにかく色んなシーンが響いて、思わず一気にプレイしてしまいました!楽しかった!
アリサの「何か言わなきゃ」という焦りがトゥルーエンドで繋がった時は感動で震えました! 忘れた頃に思い出させてくれるのがまたニクイ。
さて、誰かのためを思った結果、悲恋に繋がってしまう展開は鬱展開好きとしてもおいしいところではあるのですが。一方で、「アリサのためっていうなら本人の意見も受け入れてよ!」ともだもだする気持ちが浮かぶのも確か。
ここをおまけのABOUTENDで見事に解決してくれました!
言いたいこと全部アリサが言ってくれたよありがとう!
いやー、ここまでしっかりフォローしてもらえるとは思ってもみなかったので、この項目でこの作品がさらに好きになれました。探索パートの会話を全部見ようと決意したのも、実はここを見た後だったりします。プレイヤーの引っかかるところを丁寧に拾ってくれるのは本当ありがたいです。
改めて考えてみるとアリサが彼を思い出さなかった場合、元凶である村人と仲良く幸せに暮らすことになるわけで、ある意味かなり残酷な展開だと思うのですが……。ちょっとこれ気づいてしまってぞっとしました。落ち込みつつ、鬱展開好きとしては薄暗く微笑みました。
彼自身は、村人たちに困ってはいても憎んだり怒ったりはしていないようなので、別にそういう意地悪い意図は無いんでしょうけれども。しかし。んんー、忘れてるとはいえアリサも複雑ですよね。
勿論、ああいった一方的な幸せを願うやり方こそが、アリサのいう彼の「ちょっとずれた優しさ」なのも確か。記憶を消そうとする時ですら、あっけらかんとした態度を崩さない徹底ぶりに涙が滲みました。
あなたが好きな私が好きなあなたを大事にしてくれみたいな……!
でも彼の思考もよくよくわかるので、うおお、何ともグっときます。
あとこう書くとちょっと聞こえが悪いかもですが、自己犠牲型やネガティブ思考の男性キャラはたいそう萌えます……。好きです……。
切なさも暗い展開も熱い展開も併せ持つ、色んな面が魅力的な恋愛ものでした!