「気にする姿が一番かわいい」
成長を見込めなくさせていく罠な前置き。
えー、今回はAntiCさんところのフリーゲーム「Complex Labyrinth」の感想を書きますね。一部レビューっぽいかも。
ジャンルは短編乙女向けノベルゲー、選択肢分岐でエンドは10種類。ヤンデレな展開もあります。やったね!
フリゲではありますがZIP解凍のタイプではなくインストールが必要な作品なので、ちょっと初めの一歩は踏み出しにくいかも。けど、数時間でコンプが可能なお手軽ボリュームなので、気になった方は試しに、なんて。
というわけでさっそく魅力的な点など。
新米成長物語をメルヘンで包んだ独特の世界観
舞台は童話の世界ですが、童話の登場人物を“役者”に見立てていたりヒロインが“マネージャー”に近い立場だったり、お話自体はどちらかというとお仕事ものの印象が強いかもしれません。
特にお仕事中のヒロインの動きがリアルで印象的でした。ちょっと要領が悪いんだけど、事前に準備できるところでは有能さを見せるこの感じ。ヒロインの得意な面と苦手な面とが両方伝わってきて好印象でした。
特に要領の悪さは自分にも思い当たる節があり、苦い顔になるところもありつつ……w 共感はできて感情移入しやすかったです。
勿論、ファンタジーらしい設定や異種族ならではの小ネタも随所に出てきているので、メルヘン要素もばっちり。ドイツ系の料理が多かったのもさりげなく雰囲気が出てて良かったです。
それぞれの抱くコンプレックスをときほぐしていくストーリー
キャラごとのエピソードとしてメインになるのが、人種による差別や偏見など、タイトルにもなっているコンプレックス面。それに加えて共通ルートでは、ヒロインの家柄やストーリーテラー協会に関わるちょっとした事件が絡んできます。
全体に一本筋の通った話があるおかげで、共通ルートのまとまりも良くてすっきりした印象でした。口説かれたりときめいたりと乙女ゲーらしい糖度も含みつつ、根本のストーリーも重視されているのが素敵。こういう、共通ルートでお話としてハラハラドキドキさせられる作品は久々だったように思います。
美麗でまさに乙女ゲーらしいグラフィック
そしてまず目を奪われるのがグラフィック面! キャプチャ画像やスクショを見てDLしたという方も多いのではないでしょうか。
特にヨシュアは見た目がお話のキーになることもあって、細かな瞳の変化が見ていてとても楽しかったです。キリアがしょんぼりすると耳まで凹むのもきゅんときました。
立ち絵やスチルだけでなく、おとぎ話な世界観に合わせたクラシカルな枠やシステム画面なども、さりげなく魅力的な点の一つです。
驚きのフルボイス
なんとサブキャラまであますところなく声が入っている豪華仕様でした。メインのキャラについてそれぞれ感想を書くと……
ルゥは弱気なシーンでも元気いっぱいな声だったので、ちょこっと力が抜ける時もありましたが……一貫した演技をしてると思えばむしろ凄いのかも。
ベルは初め聞いた時かなり声が低くてびっくりしたのを覚えています。優男っぽいふんわりした声なのかと思っていました。が、これがあるからこそ彼のコンプレックスにちょっと繋がるような気もして妄想と共ににやついたりも。
ヨシュアの中の人はとっても上手でしたねー! 文字で表示される口調はどれもお上品ですが、そこに棘を含ませるか優しさを含ませるかの表現が絶妙でした! 特にデレ期の時や心配してくれている時のボイスは何度でも聞きたくなる甘さで、もう……! まさに聞き惚れました。
ここまで書いておきながら、実は真っ先に脳内再生されるのはキリアの「ルゥちゃーん!」だったりします。作中でいっぱい名前を呼んでくれるおかげで、自然と印象に残ったのかなーなんて。
とまあ、こんな感じで。
他にも、ボイスの聞き直し機能やクイックセーブ等のシステム面も行きとどいていて、クオリティの高い一作でした。キリよく綺麗にまとまっているので、グラフィック重視の方やきっちりした作品をお求めの方にオススメします。
基本は明るめですが、バッドエンドがほんのりヤンデレちっくだったりするので、そういう意味でもオススメ。
追記ではネタバレ全開の感想など。ご興味ある方は右下よりどうぞ。
ネタバレ注意。
キャラクターについて
ルゥ
タイトル画面だけ見て黒髪だと思いこんでいたので、スチルをみて驚きました。テールな髪型がかわいい!
悲惨な扱いを受けているけど実は有能で愛されていて――というある意味安心できるヒロイン。だめだめなところと魅力的なところが両方表現されていて、キャラ造形がしっかりしていたように思います。喋れるコミュ症なのもいやー、わかるわかる、あるある。共感しやすい面も多かったです。
一方残念だったのは、他キャラからのヒロイン持ち上げが多すぎてちょっとお腹いっぱいになってしまうところ。さすがに「ルゥちゃんかっこいい」には苦笑しました。また、全エンドを見ると解放されるエピローグで救済措置が出ていましたが、あの展開はむしろご都合主義な気がしてしまって私には合いませんでした。最後の締めをタイトル回収で済ますなら、コンプレックスはむしろなくならないほうが良かったなあという。
彼女が開き直って家名を武器にするというあの共通ルート終盤の展開こそが彼女なりの “コンプレックス”との向き合い方だと思っていたので……そこだけちょっと残念です。
キリア
ハッピーエンドでのあの発言にはやられましたね! 色々すっ飛ばした!
直情で好意表現も一直線なところがとっても微笑ましいです。だからこそ例の微笑み方が重く感じもするのだろうなあとしみじみ。
バッドエンドでのルゥとの掛け合いがとても良かったです。駄目だってわかってるのにやっちゃう感じというか、幸せがないと知ってて引きとめちゃう虚しさというか。この空虚さが見事にキリアの“諦めたような笑顔”に繋がってくれるのがいいですよねぇ。
ベル
まさかのおかん属性、押し倒すより押し倒されるほうが似合いそうな彼でした。
バッドエンドの、誰も悪くないのに離れなくてはならないやるせなさがぐっときましたねぇ。いいから飛びこんで来い!と言いたくなる気持ちがある一方で、ベルの葛藤もよくよくわかるのがまたたまらなく……。
なのでハッピーエンドでの責任取る発言では、ああ前向きな将来を信じれるようになってくれたんだなあと感じて安心しました。
ヨシュア
今作のダークホース! 内面がドストライクで、ルート入ったらまっさかさまに惚れこんでしまいました。目の色も合わせて、一度目が合うと逸らせなくなりそうなキャラだと思います。
いやあ何より、ツンケンした話し方がしだいに言い聞かせるような柔らかい話し方に変わっていくのがときめきまして! あんな声で言われたら誰だって言いなりになっちゃいますよもう。
それを証明するかのようなあのバッドエンドも、くぅう大好きです。そこまでルゥにおぼれてくれるとはヒロイン冥利に尽きますね。
手が早いのもまたドキドキさせられます。甘やかされたい欲を存分に満たされて幸せでした。
とまあ、ネタバレありの感想はこんな感じ。