うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「鬼ヶ島」感想

「鬼はなく蛇はなく怨霊はなく人ばかり」

鬼は元より人だと誰かが言った前置き。

 

 

えー、今回はdydyさんところのフリーゲーム鬼ヶ島」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

 

エンド分岐多数の、和風ノベルゲ―。

公式サイトはどうやら閉鎖(?)しているらしいのですが、Vector様に一部作品が残っているので無事に会えました。なんと初期はコミックメーカー製のフリゲだったとのこと。つまり十年以上前のゲームですね。

 

マシュマロ(誰でも匿名でコメント送れるシステム)に他薦で頂いたフリゲだったんですが、これがもう見事に好みでして! かつ、自分で探そうと思ってもなかなか出会えないタイプのフリゲだったので、この場をお借りして感謝します。ありがとう!

 

 

というわけで良かった点など。

 

 

地主の息子たちが織り成すお家騒動

 

舞台は昭和を意識した和風もの。因習村、で通じるのかな? 閉鎖的な島での息苦しい人間関係が魅力のドロドロサスペンスです。

主人公の零二は地主の不義の次男。もうこの時点で、厭らしいからかい声や虐げる人々の目線が見えてくるような設定です。

いやあほんと、雰囲気作りが上手いんですよねえ。人が陰でこそこそ言ってる感じ、旦那様の目をかいくぐったりお伺いを立てたりして悪意が常に息を潜めてる感じ。人を長年幽閉するなんていう狂気がすんなりとまかり通る世界。読んでるだけで逃げ出したくなります。粘ついた感じがとても好みでした。

 

 

 

扉を蹴破る度胸を持った登場人物達

 

さて、これだけ陰鬱な世界観であっても、メインキャラクターはけっこう度胸があります。主人公の零二からして、嫌われ厭まれすぎたあげく開き直ったかのような性格の悪さっぷりです。兄に対して好き放題、女にだらしなく金遣いも荒い、好きな女を力で手籠めにしようとする選択肢まで出てくるほど。

こういう突き抜けたキャラクター、好きなんですけどね。それによくよく読んでいくと、そうせざるを得ない事情や、自分自身理解しきれていない愛情みたいなのが見えてきて、すごく味わいのある主人公なんですよ。

 

やることやるのは主人公のみならず、どのキャラもそれぞれの場面でけっこう派手なことをやらかしてくれます。皆に事情はあるのだけれど、誰しもを良い人だとは言うに言えないこの空気。だからこそ、誰が事を起こしてもおかしくない、サスペンス・ミステリ的な楽しさも味わえました。

暗い世界観に対して、殺伐したシーンがかなりハイテンポなのもポイントですね。激情やら必死さやら何やらを勢いよく振り被ってくるような印象でした。

 

 

 

中弛み知らずの読ませる文章

 

文体自体は癖がなく、一人称視点故のキャラの性格からくる毒はあれど、基本さくさく読める文章です。

これ、実はさりげなくハイクオリティですよ。これだけ陰鬱な世界観を前にしても、内省や心理描写に頼らず話をグイグイ進められるのって、さりげなく凄まじいスキルだと思います。

そのうえ中盤以降は展開も加速し、バッドエンドの数もざくざく増します。複数の犯人候補を出し、勢いよく人が死んでいってなお、エンドまで失速しないまま走り続けられるこのテンポは必見です。

 

さらに、クリア後には違った視点で物語を俯瞰出来たり、パラレルワールド的なものを楽しめたりします。前述の登場人物の味がここで活きてくるんですよね。同じ場面を流していても、視点によって見え方がずいぶん異なる面白さ。

こうだったかもしれない、というIFに想いを馳せたくなるし、そのIFが本編内でバッドエンドとして回収されることもままあります。視点の違いや複数のエンドを重ねることで立体構造を作っているお話でした。

 

 

 

レトロを肌で感じられる演出

 

最後に、この時代にプレイするからこその良さなど。

登場人物は全員シルエット、背景画像はレトロでセピアな色合い、等々、全体的に硬派なノベルゲームを思わせるグラフィックです。

ここで好きだなあ~と思うのが、殺伐としたシーンの演出の仕方! 

「ダダーンッ」って大袈裟なSEが流れたり、流血シーンは背景が真っ赤になったり、ウィンドウが「ああああ」で埋め尽くされたり。このね、昔懐かし演出がほんっと好き!

 

当時にプレイした方なら肌身に合う演出なんでしょうし、今を時めく方々には古臭いと思われる危険もあるんですけど、こと私からするとすごい好きなんですよこういう演出。お約束がお約束通りに来る感じ! 「来る……ここであのダダーンッが……きたあ!!」みたいなあの謎のテンションの上がり方。

すっかり月日が経ってこれらの演出がチープと言われるまでに王道化したからこそ、なんだかにやにやと楽しくなってしまう演出の数々でした。こういうの、あえて狙って作る方もいるんだろうなあ。

 

 

 

続いて一点だけ、惜しいところ。

 

十年以上の月日を感じさせるシステム周り

 

どうしても古いゲームということで、システム面で不便なところはあります。ここはもう仕方がない。

それでも懐古するなら最低限、セーブロード枠が確保されていて文章ログが見れるだけでも上等でしょう。むしろ今でもこのゲームをプレイできることがありがたいって話なので、あくまで事前に覚悟しておくとプレイしやすいと思うよ、程度の気持ちです。

 

あっでも一点、あとがきが本編の直後に表示される点だけは、雰囲気ブレイクがもったいなかったかなあ。爽やかな余韻を感じる話が多かっただけに、ここだけは改ページを挟むなどしてもらえたらありがたかったなあと感じます。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

閉鎖的、昭和、ヤンデレ、因習、お家騒動などにピンとくる方向け。

追記ではネタバレ込みの感想少しだけ。

 

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

ネタバレ注意

 

 

 

 

零二編

 

下衆なこともやってくれるし因果応報になるエンドがあるし、かなり好きなタイプの主人公でした。

やっぱり初めにプレイするだけあって、誰がどこでなにやってるのかわからない、誰も信じられない、という疑心暗鬼感が好きです。緻密に息づいていたものがガラガラ勢いよく壊れてなくなる、あっけない虚しさも好き。

 

難易度としても、一番手ごわかったかと。なかなか先に進めないのと、公式攻略チャートが消失していたのとでけっこう悩んだところも。初回は特に消極的な選択肢ばかり選んでいたので、雪乃がどうあがいても亡くなってしまいかなり苦労しました。

 

 

謎の攻略メモ

 

【「兄」が雪乃との顔合わせをするまで】

兄を見に行く→逃げる→見に行く(見逃しやすそうなエンド)

【雪乃との祝言決行・土蔵から出てくるまで】

雪乃に不利に動く → 雪乃自殺ルート(ゲームオーバー)

雪乃を気にかける → 先へ進む

 

この辺りで他サイトの攻略を拝見してなんとかなりました。ありがとう先駆者様……。

 

 

 

××編

 

一応、名前は隠して。

こういう、エゴな話好きなんですよ。情を捨てきれないところも、自分で自分の首が閉まっていっているところも好き。最善手を尽くそうとしているはずなのに気づけば溺れていた感じ。

ピースケの話だけ疑問が残りましたね。どうしてあの話を描こうと思ったのかな、という。一詩編で明かされるのかなと思ったけど明かされなかった……見逃したエンドがあるだけかもしれませんが。後述しますが、あえて書かれていないような気もします。

 

 

 

詩編と隠しシナリオ編

 

隠しはこの段階だと読めないはず?だと思うんですが、一詩について語りたいので一緒くたで。

詩編が思い切り他のエピソードと矛盾していたり、隠しシナリオで好き放題していたりするのが印象的で、色々考えたんですが。たぶん一詩の内心を明言したくなかったんじゃないのかなあと思うんですよね。

零二と逆で、一詩は解釈が無限にできます。弟をあわれに思って耐えた愛情深い兄、あるいは周りの言うことを聞き続け抑圧された兄、はたまた意志も自由も持たず言いなりだった男、などなど。これあえて可能性をたくさん提示することで、彼の内心は誰にも暴けない、死んだ男の口は二度と開かないという形になっているんじゃないのかなー、なんて。

初め、ランと手を取り合う一詩編の結末はあまりに唐突で浮いているように感じたんです。が、上記の様に解釈するとストンと納得できました。なので私の中ではそういうことにしておきます。

 

 

 

鼎編

 

個人的に、零二の今後はどうとも想像できるように伏せたままが良かったので、あんまり好きなお話ではありません。でも、零二の未来は前向きであり、お話としては爽やかな終わり方を目指しているんだ、というようなメッセージは感じました。作者様の後書きを読むに、読後感は意識して作られていたようですし。

 

 

 

 

まとめると、零二編が好き。

 

あと、雪乃についてはもう言わずもがなですよね。一番一番一番好きな子です。純粋で一途で懸命な子はよいものだ……。たとえ始まりが虚しくとも。

彼女に出会えたからこそ、この作品をプレイして良かったと思えました。