「面と向かっては人殺し、隠れてしまえば人攫い」
裏の顔は丁寧な日常を拾い上げた先にある前置き。
えー、今回は七市7子さんところのフリーゲーム「紅町の日は暮れて」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
まず述べますが、記事を書いている202007現在、公開停止中の作品です! 作者様はサイトを持たれていないようなのでリンクもどこにもありません!!
ですが本ブログは私の備忘なので遠慮なく書きます。すみません。積みゲーってこういうことあるよね……。
作品としては、昭和大正っぽい世界が舞台かつ吸血鬼が出てくるファンタジーものになります。
というわけで、良かった点など。
膨大なセリフ差分
ゲームとしては一週間ごとに通いたい場所を決めてキャラとお喋り、それを一年分続けるという、とてもシンプルなルーティンワーク型になっています。
が、飽きさせないのがそのお喋りの内容!
キャラとのお喋りが大半を占める本作ですが、それでもお目当てのキャラの全会話を見るには2周する必要があるくらいには差分があります。そのうえ、作中のイベントを起こしているか起こしていないか、季節がいつごろか、等々で細やかに内容が変化するのもポイント。さらにさらに、それがなんと4人分もいるとくれば、そりゃもう堪能しがいがありますよね!
ちょっとしたお喋りでキャラの性格や人となりを掴むのが大好きなので、とっても嬉しかったです! お付き合いに至る前のもやもやもだもだ、最高!
メインのエンド2種はほぼラストの選択肢で決まるようなものですが、その過程を楽しんだかどうかで見え方がガラッと変わるお話だったと思います。
季節と月日を感じられる語り
朝話しかけてくれる梅子のセリフや、季節ごとのイベント、雑談の内容など、あちこちで四季折々を感じるのも本作の特徴です。
地の文も情緒豊か。この地の文が見たくてついつい一人行動のみの一年を過ごすプレイもしてしまいました。エンドとしてはノーマル扱いなので特別な何かがあるわけではないんですが……。日常の傍らでメインキャラ達が何かしているらしい、でも主人公は傍観するのみ、みたいな距離感がなんだか好きでした。
魅力的なキャラクター
キャラと仲良くなればなるほど、距離感が変わっていくところも素敵でした。
みんなが主人公に好感度の高い状態から始まるので、惚れるまでの過程と書くと過言かもしれません。が、皆の想いが少しずつ変化していく様は見ていてとてもときめきました……!
特に印象的なのは鈴蘭ですね~。怪しげな毒婦→きゃらきゃら笑ってくれる女友達→初恋を知って混乱する幼い子→孤独な人外、といった感じで、どんどんイメージが変わっていった人でした。人懐こいところと言い、連れ合いを求めるところと言い、たぶん、根底に「愛を知らない寂しがりの子ども」がいるんだろうなあと思っています。それなのに、吸血鬼という性や当人の過去から近寄りがたい美人さんな印象を持たれているらしいのは、なんとも痛ましい気がします。そういう、深みがあるところが好きです。
瞬間最大風速でビビビっと来たのは、隠しキャラな彼の「俺」!!!
あれが聞こえた瞬間、あれだけ責任感の塊みたいな生き方してる人がついに職務の枠を飛び越えてくれたんだとわかって、もうほんと震えました。大好きだ……。
ヒロインの方も、顔なし台詞なしの無個性ヒロインを目指している印象でしたが、選択肢で個性の幅を感じるのが嬉しかったです。きっぱりさばさばした子にもなれるし、おちゃめな子にもなれるし、おしとやかで遠慮がちな子にもなれる感じ。きつめに見える選択肢がうまいこと柔らかく受け入れてもらえるところも、筆力を感じました。
とまあ、こんな感じで。
すごく筆致もシステムも丁寧で、じっくりと全てのテキストを噛み締めたくなる良作でした。