「片方だけでは足りないから手を取り合って」
そう言って片手を塞いで刺すのでしょう?の前置き。
えー、今回はうきうき雨季(6月)さんところのフリーゲーム「アレジエ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
クリアまで数時間のノベルゲーム。共通ルートがほとんどなく、2つの視点の物語をそれぞれ読んでいく形。1粒で2作読めると言ってもよいかも。
女性向けロイヤルサスペンスとある通り、真っ白な王城での真っ黒な王位争いの話です。軽い流血程度の暴力描写と、鬱とまではいかないやや後味悪めの要素あり。でも、読後感はかなり清廉で気持ち良かったです。
というわけで、良かった点など。
暴君の兄、乙女の妹
王が逝去し、さて即位するのは兄か妹か。
本作の構造は冒頭でストーリーが分岐し、兄か妹、それぞれの視点の話を読める形です。
斬新に感じたのは、視点主のユーリの性別によってどちらのルートに向かうか選ばれるところ。主役となる兄か妹を選ぶのではなく、あえて補佐役を選択するのがユニークでした。
ユーリの見た目が男女でガラッと外見変わるところも好きです。ただの胸を付けただけの性転換って形ではなくて、ちゃんと雰囲気からして別人なんだけど、でも親近感はあるみたいな……?
そもそも主役の兄妹にしてもそうですが、シンメトリに見えてちょっと違う、みたいなキャラデザの巧みさを感じましたね~。
ユーリは男か女かでまったく別人になるところも面白かったです。強みが記憶力or手癖の悪さという二択なのもなかなかに愉快。
王子と王女、それぞれに必要不可欠な人材として主人公が用意されてるんだろうな……。
もちろん2ルートとものプレイがオススメ。
が、片方のルートだけでも十分な読後感があります。
この手の2視点1本ものなストーリーって、モノによってはあえて歯抜けにされている物語になっていることもあってもどかしいので、1ルートでも満足できるというのはかなりポイント高かったです!
白薔薇で描かれるロイヤルなグラフィック
タイトル画面からもわかる通り、画面は白を中心としたロイヤルな雰囲気。メニュー画面のボタンやスライダーは白薔薇で、バックログ画面では音声再生まで可能と、デザインも遊びやすさも秀逸に作られています。
それこそ、スクショだけで惚れ惚れしてついプレイに手が伸びた方はいらっしゃるのではないでしょうか! 白髪赤目のアルビノな容姿は刺さる方も多いでしょうしね~。
メインキャラはボイスあり
まず、どのキャラも声が合ってる!
そして、聞きやすい!!
同人ゲーでたまにある、作り声による共感性羞恥を感じるシーンがかなり少なく、聞きやすかったです。
自然に違和感なく聞けるって実はすごく大事だし難しいことなんですよね……。
特にアルヴィナの声優さん(夜宵紫苑様)はすごく声が聞きやすくて!
つい公式サイトまで旅立ちに行ってしまいました。サイトには少年声のサンプルボイスもあるんですが、声自体を変えるのではなく、ありのままの声で、演技力を武器に自然さを出しているように聞こえて、いっそう好きになりました~!
しっかり王宮と政略を感じさせるテキスト
穏健派vs革新派、人脈か武力か。単に王子や王女だから従うのではなく、どちらの勢力に親しい要人がいるかで権限が変わる……。
王宮ファンタジーとして流されるのではなく、この辺りの政権闘争がきっちりしていたところが好きです! ここを小難しくバーッと並べ立てるのではなく、あくまでキャラの動きから察せられるスマートさも好き。
あとあと、シンプルに文の体裁として好きなところもいっぱいあって!
権威あるキャラが自分に向けて尊敬語を使っていたり、さりげなく出てくる教養としての詩が英詩翻訳に近い文体だったり。
粋な表現は洗練されたテキストに宿るものだなあとしみじみしました……。
とまあ、こんな感じで。
宮廷物語、兄妹の王権争い、主従関係、スマートな構成のロイヤルなお話にピンと来る方へオススメです。
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
白薔薇の暴君
き、気持ち良い~!!!!!!!
先にプレイしたのがこちらだったんですが、ラストがとにかく爽快で気持ち良かったです!
「天命」という言葉の重さが本当に良い。
この「天命」はクリア後ギャラリーのプロフィールのとおり、刷り込まれたりそうでなくてはやってられないという自暴自棄だったりで、決して言葉通りの崇高で素晴らしいだけのものではないとも思うんですよ。でも、だからこそ良い!
賢いミハイル様は、そういった自らを包む虚飾も虚栄もさぞお分かりのことでしょう。
だからこそ、ああして凛と声を張り上げて宣誓してくださる姿にしびれるわけです。
……とまあこんな感じに盲信口調で書いちゃうくらいには、お話に入れ込んじゃったりね!
ユーリ女
ユーリとの関係は言ってしまえば「フッおもしれー女」に当てはまると思うんですが、それが安易に恋愛へ繋がるのではないところがすごく好きなんです。
だって、ミハイル様が恋愛にうつつをぬかして腑抜ける姿、ちょっと想像つかないじゃあないですか。それどころじゃないもん彼!
なので、ユーリとミハイルの関係にはすごく納得がありました。
ユーリの図太さがミハイルの厳格さとうまく嚙み合ってるのも面白いんですよね~。ミハイルの厳しさは「ルールを守ること」に向けられているのではなく、「賢く気高くこと」に向けられているように思います。
そしてユーリの、いざとなれば犬にでも成り下がってでも大切な家族を守るという姿勢は、許される範疇に収まるプライド、全て放り捨てでも守るものがある強さだったのかなー、なんて。
まあ、ミハイル様自身はその辺あんまり自覚なく、楽しかったから手元においてやることにしたくらいなものなんでしょうけどね。
マカール
マカールがずっと忠臣だったのも、なんだか我が事のように嬉しくて!
彼が裏切ればシナリオはきっと衝撃的になるはずなんですが、それをしないからこそ、すごく誠実さを感じる素敵なお話として出来上がっているように感じます。
ミハイルに対して忠言するのはかなりの綱渡りだと思うのですが、引き際を見極めてそこを生き延びられているのもさすがの一言。優秀な忠臣ですこと。
ミハイル
武功派の将軍にしてもそうですが、ミハイルって人気者とは別の意味での人望はあるんですよね~……。
いざという時に身を粉にして駆けつけてくれる、あるいは協力してくれる人がいる。しかも、全員がそれぞれの分野で優秀。
これも彼自身が自らの手で選別を行っているからなのでしょう。
ちょうどチョコレートファウンテンのような治世をしそうな王だな、と思っています。
ムダ金遣いの税金泥棒にはならず、手広く聡いので、民からの信頼は厚い。
媚びや甘えには容赦ないので、臣下からの人望は薄い。
周囲を優秀な人材で囲っているので、芯は高い。
落ち窪んだ中層を上層と下層が支えるような構図ですね。国としても長く続くだろうなあという印象です。
ミハイル様はおそらく、物事の本質を捉えるのがすごく上手な方なんだと思うんですよ。聡くて、鋭い。だから、父に対して拗ねるどころか「父上はああだから」と致し方ないものの枠に入れることができている。
で、悲しいことに、普通の人ってそんなに頭良くないんですよね。ただの印象だけで十分騙されちゃうし、やりたくないことはやりたくないし、浅はかだし。
だから、臣下はどんどんミハイル様の手によって斃されてしまうんだろうなという気もします。
言ってしまえば、理想が高すぎる!
しかも求める理想が「厳しさ」「強さ」「一貫してやり遂げる意思」なのでなおさらです。一般人はほとんどそんなもん持ち合わせていないから一般人なのだ……。
とはいえ、凶行を止められないというまさに言葉通り致命的な欠点はあれど、私自身も推すならこっちの王だろうなと感じます。
白薔薇の乙女
正直、こっちのルートを先にプレイしてたらかなり印象が変わってたルートだと思うんです。
白薔薇の暴君は、意外性。二面性と言ってもいいのかな?
乙女から暴君に行ってたら、もうちょっと素直にアルヴィナの話を乙女ゲーっぽい文脈でときめきと共に読めていたんだろうなあと思います。
ユーリ男
主人公だけど、考えてることが読めない。
私にとってはそういうキャラでした。
暴君のユーリ(女)は行動が読めない印象でしたが、ユーリ(男)は思考が読めないキャラでしたね~。なので、中盤辺りからの描写で、アルヴィナへの想いが意外と強かったことにびっくり。
なんならゴドノヴァと手を組んでアルヴィナを傀儡化させつつ貴族や金持ちへの復讐を果たす……みたいな展開を想像していました。あるいはジーナとの三角関係。さすがに私の発想が意地悪すぎたな~……。
アルヴィナへの恋慕について、「この子は普通の女の子なのに」という哀れみも混じってそうなところが、深みがあって好きです。
ゴドノヴァ
ゴドノヴァはわっかりやすい悪役でしたね~!
立ち絵の嬉々とした意地悪い笑みが面白いです。殊勝なことを言っていても明らかに裏があるなと顔でわかってしまうのが愉快。ちょっと調子乗ると自分でぼろ出しそうな迂闊さも、なかなかに良いです。
で、コレを素直に受け入れちゃうところが、アルヴィナ様の世間知らずさをより際立たせてるんだろうな……。
ただ、ゴドノヴァのような手を汚してくれる方がいるからこそ、アルヴィナの美しさは成り立っているんだろうなとも思います。
アルヴィナ
ミハイルの天命が王位だったのに対し、アルヴィナの使命は結婚と定められていたのかな、と。
ここを踏まえるとミハイルルートでアルヴィナがしれっと政略結婚させられてたの、なかなかに重いものがありますね……。
このルートに入ると、アルヴィナがこうなったのは環境と時代設定もあるんだろうなと感じました……。
女は見目麗しく、結婚さえすればよい。ゴドノヴァの、アルヴィナの胎を守るという発言がすごく、現代を生きる私からするとグロテスクでぞわぞわしました。良いなあ……。自分もそういうことあれこれ言われてたのかもな……。
お勉強から逃げちゃうのも、そりゃそうなるよなって。
華やかが好きという面にも一部、内側のそんな結婚したくないっていう本音とか、空虚さとか、孤独とかを、華美な生活で埋めようとしているようにも見えて苦しいです。人間臭くて好き。
プレイ中はね、人に囲まれていても、アルヴィナという個を尊重している方は一人もいないんだろうなと思っていたんですよ。
どこかで皆が彼女を憐れんでいるというか、守られるべき子として見ている感じ? 少なくとも対等ではないなと。
でも、最後のゴドノヴァの本音ですごく納得してしまいました。
心から盲信されて愛されるのではなくて、浅さを見透かされたうえでそれでも愛される素直さと一途さが彼女にはあるんですね。なるほどなあ……。
単にかわいいから愛でられるのではなくて、こういう複雑な感情を織り交ぜたうえで愛されるキャラというのが、本当に巧みだなあと感じます。人間を描くのが上手い……。
ミハイル派の人からは後世で魔の花やら傾国の姫やら呼ばわりされてそう。
ミハイルの統治の方が安定しそうだなと私は考えていましたが、周りの手でなんやかんや土台を固めてもらえて、安定“していることにしてもらえそう”なのはアルヴィナの治世なのかもしれません。少なくとも、ゴドノヴァがいる限りは。
余談ですが、「~になって?」と「なさい!」で命令形の強さが変わるところも好きです。確かにかわいい。にこにこ。
いや~、深みがあって楽しかったな~!!
1年かかったとあるだけあって、キャラに多面性があり、かつ読み心地はすごくすっきりと気持ち良いお話でした!