うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「Savior's Tale -Promise of Meeting Again-」感想

「その身に名を冠することで死に様さえも示してみせる」

晩御飯が楽しみな前置き。

 

 

えー、今回はStrayひろまさんところのフリーゲームSavior's Tale -Promise of Meeting Again-」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

一本道でバトル重視の方向けの短編RPG。ベタついてはいませんが、女の子ばかりという意味では百合っぽくも見れるかも。

 

というわけで良かった点など。

 

 

行動順が鍵のオリジナルバトル

 

ターン制ではありますが、敵→味方のキャッチボール式ではなく、敵の行動に割り込んだり連続攻撃ができたりする形式です。この手のバトルってなんていえばいいんでしょうね? よく出会うシステムだけども、うーん。

ともあれ、バトルとしてはかなり戦略が重視される熱いシステムでした!

初回プレイではノーマルで進むつもりでしたが、森を抜けた辺りで物足りなくなってハードへ引き上げ。一人死んではリカバリして生死5歩手前辺りで走り抜ける、ちょうどよい難易度でした。

ディレイを仕掛けてSPを上手いことやりくりして、敵に何もさせないまま封殺できた時といったら、興奮で脳汁だらだらです。ふふふ。

 

 

設置タイプの後続スキルと運要素

 

あと面白かったのが、「サンダーレイン」「ヒールウィンド」など、発生直後のみでなく数ターンにかけて効果が継続する技でした。こういう罠っぽいスキル好きなんですよねぇ。

サンダーのほうは対象がランダムなのも楽しいところ。思わぬところで効く一撃にギリで命を救われたこともありました。この辺は、最後に加入する仲間のランダム行動でも感じたことですねぇ。きっちりかっちり詰将棋ではなく、ある程度運要素が混ざっているのがちょうどよかったです。

 

 

2周目限定ひみつのモード

 

ストーリー自体はかなり簡素な王道で、最低限あればいいというくらいに収まっています。なのでお話やキャラ重視の方は少し物足りないかも。けど、倒した敵キャラに話しかけると反応があるなど、ニヤッとできるポイントがあるのはグッド。

そして、この作品ならではの真価を感じるのは2周目以降のひみつモードでした! 良いですよねぇこういうギャグなノリ。

バトルとしても、1周目とは違った戦い方を要求されることがあり新鮮でした。

 

 

カットインが熱いグラフィック

 

顔グラフィックは素材屋さんから借りているご様子。

先に後作『Healer's Yell』をプレイしていたので、あの子の原型はここにあったのかーと思ったり。

SP100の奥義スキルにカットインがあるのもかっこよくて良かったですねぇ。通常攻撃で倒せる時でも、ついラストアタックを奥義で決めたくなってちまちまSP溜めをしちゃったりしました。バトルの物語は自分で生み出すもの……!

ただ一点惜しかったと思うのは、HPMP等の表示欄がちょっと小さくて見づらいところかな。ヒール・サンダー・敵のロックなど、設置スキルが被ると行動順が見えなくなってしまうことを考えると、致し方ないところはあるのかもしれません。

 

 

とまあ、こんな感じで。

バトル好きでハードに燃える方や、封殺ゲーが好きな方にはかなりオススメ。

 

また、難易度イージーがある他、アイテムは基本余るうえうっかりお金を使い切っても案外なんとかしてもらえちゃうので、バトルは苦手だけど好きっていう方でも楽しめるかなと思います。

 

 

 

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フリーゲーム「スタゲット」感想

「ああ世の中クソばっかりだ、もちろんあたしも含めてな!」

とっとと死滅するのが世界平和な前置き。

 

 

えー、今回は永遠の文芸部さんところのフリーゲームスタゲット」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ラストに分岐あり、基本は一本道ノベルゲーム。

主要人物は可愛い女の子で構成されていますが、作風はくそったれの社会に泥を塗りたくって唾を吐きかける風刺系ノベルです。

 

前作前々作があり、今作がシリーズ完結編(と思われる)扱いの作品のようです。

ふりーむ等にシリーズ物の記載が無かったためうっかりこの作品からプレイを始めてしまったのですが、前作の概要は本編で軽く触れてもらえるので、未プレイでも安心です。私はプレイ後に気になった単語をググって初めて前作があったことを知りました。やっちまったい!

 

というわけで良かった点など。

 

 

固定観念と怒りに満ち溢れたストーリー

 

読んでいて何度も感じたのは、とにかく怒りでした。

単純に登場人物達が常に苛立っていることや口の悪さもありますが、それ以上に注目したいのは作中叩きつけられる意見のとんでもない狭さです。

 

誰もが一度は感じた事のあるであろう、社会の理不尽さに対する怒り。どいつもこいつもバカばっかりだと言いたくなる気持ち、マスコミ=悪、人に合わせてへらへらする居心地の悪さ! 

実際こういう完璧な悪ってなかなか居てくれなくって、逆に居てくれれば殴ってすっきりするからいっそ居てくれと言いたくなるんですが、そこはまあさておくとして。

作中の文は、固定観念と偏った物言いに溢れています。登場人物が成人しているとは思えないほど幼稚な考えもバンバン飛び出ます。都合の悪い反論はことごとく見えていない、固定観念を一人で強固にしていくような文体です。

 

が、だからこそ、この作品を推したいんです私は!

なんでこの作品はこんな偏った語り口なのか?

決まってます、皆そりゃもう、めちゃくちゃ怒ってるからです!

もう、冷静な反論とか根拠づけの調べ物とかできないくらい、自分の中で煮えたぎるものを無理やり言葉にしてガンガン固めてゲシゲシ蹴り飛ばしてやらなきゃ済まないくらい、怒ってるんです。怒ってる最中に周りのことなんて見えるわけが無いし、視野狭窄固定観念も当然です。

 

上から目線でお説教臭く語るんじゃなくて、渦中でひたすらもがいている。誰もが子どもの頃に感じて、そして色んな視点や考えを知って忘れていく怒りを、あえて真正面立ちはだかって叩きつけている。それがこの作品だと強く感じます。

この爆発的な感情が作品に昇華されているのは凄いなあとしみじみ。

 

 

大人になっていく悪ガキたち

 

ハイクオリティの立ち絵も必見、その中でも特に注目したいのが、キャラ達の服装でした。

もちろんこの作品が今記事を書いている現在と比べて2年前であることも加味すべきではありますが、皆の服装が若すぎるんです。りこはまだ童顔で得してるキャラかな、でも主婦があの恰好はうわあと思う。中でも特に可奈子の服装がすごく子どもっぽいんですよね、あの服は10代後半~20代前半って印象。少なくとも25歳には若すぎる気がします。

これ、彼女たちの自意識が全く大人になりきれていない示唆だったら面白いなあと思いました。

年ばかり過ぎていくのに考え方や生き方は子どものまま、社会に対してどうしようもない理不尽と憤懣を重ねていって、とても物分かりのいい大人にはなれそうもない……そんな感じ。

 

グラフィックだけでなく、最終章に辿り着くための選択肢もかなり毒が効いていて楽しかったです。「ここをプレイヤーに選ばせるか!」という驚きがあり、いやあ、実に身を切られる思いで選びました。

 

 

疾走感と爆発力のある名文

 

作中の比喩や、捲し立てるセリフの切れ味が凄まじかったです。多少支離滅裂なんだけど伝わるパッションとか、とにかく怒ってる時ってこうなるよなあとリアルに感じるやり取りとか。

なんだろう、冷静になると噴き出しちゃうんだけど言ってる当人は真剣にガチ切れしてるセリフがすごく上手でした。やっぱり作品全体が怒ってるんだよなあ。

 

頭ちょん切ってバスケットボール~のくだりと、トイレットペーパーを自分で買わなきゃいけない時期がくるんだよ~のくだりがほんっとう好きです。こういうキレッキレのセリフが聞けるのはフリゲだからこそだよなあと感じます。

往来で人を脅し上げたりカフェで騒いだりするのにためらいがないところも、突き抜けて反語的な描写だなー、なんて。

 

 

絶望と胸糞の狭間

 

あと上手いなあと思ったのが、「幻滅」の描写です。

一番わかりやすいのは皆大好き玲奈ちゃんのシーン全般ですかね。なんだろう、信用とまではいかないにしても、好きだとかこの人なら少しはましなはずだとか、ぼんやり感じていた最低限のラインをやすやすと踏み越えていく大人たちへの絶望や憎しみがそりゃもう煮凝りのように叩きつけられます。あっけなさと容赦のなさが素晴らしいところ。

そしてここでもやっぱり「どうだ酷いことをしてやったぜ!」というイキリではなく、「ああもうやってられるか、どうせこれがお好みなんだろう!?」という逆説的な怒りを感じます。

何より、そうせざるを得ない虚しさですよ。逃げ道がない、昇華の仕様がない、我慢しろというのはふざけろ説。普段はダウナーな鬱のほうが好きな私ですが、この作品の物事全てに殴りかかるような鬱もかなり気持ちがザワザワして、作者の熱を感じて良いなあと思い直しました。

 

 

ファンには嬉しいおまけセット

 

なんとEDはオリジナルのボーカル曲で、それが二曲も楽しめる豪華仕様。

バッドエンドの曲がすごくかっこよくて好きなんですよー! ああいう曲調なんて言うんでしょう、クサメタルまではいかないけど、ゴシックロック? クリアしたけど今後もいっぱい聞いていきたい所存。

この他おまけセットとして、壁紙サイズのタイトル絵と他作品のボーカル曲も同梱されています。ついつい過激なテキストばかり見てしまいますが、グラフィックや音響面も確かに水準の高い作品でした。

ボーカル以外の曲にしても、こういう現代ものの作品でああいう民族調やちょっとメロディアスなBGMをチョイスするのは珍しいなーと思います。センスが良い。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

  • 社会に感じる理不尽にしばしば怒りを感じる
  • ことの真相を探し求めずには居られない
  • 風刺と皮肉に塗れた毒っ気のあるテキストとエンディング

等々にピンとくるならプレイしてみてほしい一作でした。

フリーゲーム「ゼン・ザイ」感想

「焚火も心も、燃やすには燃料がいる」

後悔の花火を上げることのないようにしたい前置き。

 

 

えー、今回はGrrrrrrrrさんところのフリーゲームゼン・ザイ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

最後に軽いエンド分岐がある、ツクール製RPG

以前記事に書いた『フライ・ド・チキン』(以下前作)の続編です。なので当然ながら今作プレイの前に前作クリアを推奨。前作が長編だったのに対し、今作は1時間程度の番外編です。

 

エトリエ新年企画なるものに参加された作品ということで、お正月にぴったりの一作。しっかりと前作の味もそのままに、彼らの新しい夜明けが楽しめます。

 

というわけで良かった点など。

 

 

ほろ苦い展開の先にあるストーリー

 

ぶっちゃけるとストーリーはラストの選択肢で分岐します。

私は先に暗い方を見たんですが、こっちはこっちで前作の雰囲気が出てますし、このオチもどことなく皮肉っぽい構図になっていて好きだなーと思います。しこりの残る鬱展開って好きです。

明るい方はまさにお正月な読後感でした。なんだろうな、前作もそうなんですけどやっぱり距離の取り方が上手いんですよね。当然のようにキャラ達が分かり合っていて、シビアな目線で話すんだけどプレイヤーを突き放さない感じが良いよなあって思います。

 

前作で土エレメントさんのイベントにしんみりと感動した身としては、ここにスポットを当ててもらえて嬉しい気持ちでした。

 

 

さらに見せ場を作りやすくなったバトル

 

短編ではありますが、相変わらずバトルはなかなかの手ごたえ。しっかりアイテムを拾って、積極的に武器防具をそろえるのが吉です。

また、前作で気になっていた痒いところが全面的にカバー・改良されているのがとても好印象でした!

 

真っ先に目に付くのはヘビメのコスパアップですね。前作でスキルにアイテムと多額の資金が必要だったヘビメですが、今回は「ヘビメマシン」なるノーコストで盲目やら高火力全体攻撃やらをぶっ放してくれる素敵アイテムを開発してくれました。強キャラ待ったなし!

あと、SP不足でお茶をがぶ飲みしていたイマラもローコストな使用感に。テンさんは中段攻撃がなくなり、二分の一から弱点を選ぶというプレイヤーに優しい仕様になってくれました。クサマは代わり映えしないイメージですが、元々縁の下の力持ちなポジションだったので、相変わらずで嬉しいです。

前作と違ってパーティメンバーの入れ替えはできませんが、短編ですしちょうどよい省エネ具合かなと思います。メンバーが私の前作スタメンと一致していたので違和感がなかったというのもあるかも、なんて。

 

直接的にバトルと関係があるわけではないんですが、売買用のドロップ品のアイコンが共通で、前作と比べて売っても良いものが視認しやすくなっていたのもグッドな修正点でした。

 

こういう、続編で着々と成長されてるクリエイターさんって見ててどんどん応援したくなりますよねぇ。「これだよこれ!」という感じがして楽しかったです。

 

 

さりげなくクスっとくる会話イベント

 

そしてこちらも良さは変わらず、ちょっとした会話イベントがあちこちに仕込まれています。

柵があるところの門番兵さんやイカなど、ただの進行不可ポイントを無理だと一言で切るのではなくて、ああいうユーモアに変えちゃうところが良いですよね。

ツボだったのは焚火会話でした。二か所とも違う!w

短編であっても細かいところにきっちりイベントを仕込んでいく、その姿勢が好きです。

 

 

 

疑問点としては、何故かボス戦直前のセーブデータが同梱されていることですかね。エンド分岐回収用なのかな?

これからプレイするつもりの方は、うっかりラストから見てしまわないようご注意を。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

前作が気に入った方はこちらも是非、プレイしてみてください。

 

フリーゲーム「Doki Doki Literature Club!」感想

「皆で楽しく過ごしたいってそんなに難しいこと?」

取り合う君さえいなければ平和だったかもしれない前置き。

 

 

えー、今回はTeam Salvato.さんところのフリーゲームDoki Doki Literature Club!」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

上記リンクは全て英語ですが、検索してもらえば日本語ページにもたどり着けます。日本語名でよく見かけるのは「ドキドキ文芸部!」「ドキ文」、あと略称として「DDLC」かな。

 

いわゆる海外ゲーの、ギャルゲちっくな選択肢ノベルゲームです。

この記事を書いている現在は公式での日本語パッチの話が出ているようなので、この記事が投稿される頃にはきっとパッチが公開されているかもしれません。何なんだこのブログは。

ともかく、私は非公式日本語パッチでプレイしておりますのでご了承ください。

 

あと、あちこちで騒がれているので回避も難しいかとは思いますが、

ネタバレなしでプレイするとより楽しめるゲームです。

なので本記事も閲覧注意です。ネタバレ配慮はあんまりできていません。

 

 

というわけで良かった点など。

 

 

女の子らしいスチルと立ち絵

 

ギャルゲーと言えばまずはグラフィック。見てわかる通り、かなり力が入っています。通常の立ち絵もさることながら、スチルの気合入れっぷりは必見!

特に、プレイする人に寄っては一番見る時間が長くなるであろう幻想的な背景のスチルがありまして。あれが私大好きで、もうきっと忘れられません。

 

それに、スチルになると皆がとたんにキラキラ輝いて乙女度が増すんですよね。見てるだけでときめくってもんです。塗りとかが違うのかなあ。

一目で可愛い!と思う子と、見れば見るほど吸い込まれていきそうな子がいて、描き分けが上手いなあと感じました。

 

こういうハイクオリティな立ち絵やスチルが、後半であっと驚く形に変化していくのもポイント。視覚的な演出がまさに突出している一作です。

 

 

ギャルゲーのお約束を逆手に取る展開

 

ネタバレ注意書いたのでもう明記してしまいますが、ギャルゲーをプレイし慣れていれば慣れているほど深みにはまります。

選択肢からここぞのタイミングでのセーブなど、こちらの動きが完璧に読まれていて震えました……。

重要なのはシステム的なギミックだけで終わらないところ。キャラクターの反応もまさに、いやまさにでして……。どういう反応でこちらのどういう感情が引き出されるのか、作者様の掌の上にいるような感覚でした。

とりあえず、ゲーム起動時の注意書きは大事。ぎょっとしますのでね。

 

 

ためになる執筆アドバイス

 

ギャルゲーな面や、驚きの展開が話題を呼んでいる本作ですが、タイトルの「文芸部」要素も忘れてはいけません。

まず、プレイヤーが疑似的に作った作品に対して、部の皆が批評をしてくれます。そこからぼんやりとみんなのスタイルが見えてきて、創作で譲れないことやお互いの表現技法等々がわかるんですが……これがまた興味深いんですよ。まったく真逆のスタンスの部員がいたり、1回目と2回目で変化してると皆がポリシーを語ってくれたり。

はては「言葉で伝える」ということの意義に至るまで、けっこう踏み込んだお話が聞けました。

 

また、某ルートからの一対一の長い長いお話のターンでは、哲学的だったり厭世的だったりなお話も飛び出してきます。萌えだけでなく、しみじみと聞き入ってしまうセリフが多くあるのも注目でした。

 

 

絶妙で読みやすい翻訳

 

文章がすんなりと頭に入ってくる訳です。

……これって翻訳ゲーとして最上級のクオリティだと思いませんか!?

 

文化として慣れない表現はあったとしても、文章として致命的に読めない文は一つたりともないんですよ。感動。

それに私、作中でサヨリが「ハグ」って言葉を使ってるのが凄い好きなんです! 

機械的に翻訳するのではなく、ところどころに元の言葉の名残を残そうという気持ちが伝わってきてとても素敵でした。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

最も魅力的な点が最もネタバレというこのもどかしさ。伏字無しの諸々は全部追記に格納しておこうと思うので、既プレイの方は引き続き御目通し頂けると嬉しいです。

 

とりあえず、意外な展開・一途な女の子・鬱展開などにピンとくる方向け。

プレイ自体は一応数日でクリアできるかと思いますが、私は数週間──数か月──今もそこそこ──引きずりました。なのでお時間ある時に是非。

 

 追記はネタバレ注意!

 

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短編ノベルフリゲ5作感想

「人ひとり感動させるために果たして何分必要か?」

きっと刹那で十分な前置き。

 

えー、今回は、短い中にぎゅぎゅっと良さの詰まったノベルゲーを5作取り上げて感想文を書いていきますね。一部レビューっぽいかも。相互に関係性はなく、作品の雰囲気も別々です。

ではさっそく。

()内は作品傾向等々です。

 

 

 

『虹のくじら』(暗め・メルヘン・学生)

https://www.freem.ne.jp/win/game/11996

 

女学校に押し込められた、クラスで浮いている二人の話。

ジャンルはノベル、プレイ時間は30分くらいの短編。

淡いタッチで描かれた立ち絵と、澱んだ色のメッセージウィンドウ、きらきら綺麗な虹色。ぱっと見で物語の雰囲気が伝わってくるグラフィックです。

 

ストーリー、かなり痛いところを突くリアルさがあります。

嫌われているわけではないけれどどことなく浮いている主人公と、明らかに嘲笑の対象になっているちょっとズレた不器用な子。意地悪なシーンもありはするのですが、「絶対許せない!」と義憤にかられるよりも「こういうこと、あるよなあ……」としみじみ諦めてしまうような方向性です。それでも“どこか”を探さずにはいられない。なんともいえない気持ちです。

ただ暗いだけで終わらず、救いのような何かをちらりと見せてくれるのもまた、魅力的な点でした。プレイ後の感覚が真っ黒でもなく、虹色でもなく、もうあのメッセージウィンドウみたいな雰囲気なんですよね。既プレイの方には伝わって欲しい……!

 

ラストの匙加減が本当に好きなんです。

彼女たちの問題自体が解決したわけではないし、その後に起こるであろう噂話や彼女の境遇を考えると暗く陰鬱な気持ちにもなります。でも、そこは主題ではなくて、ただ虹のくじらでお話は終わる……ワンシーンはどれもリアルな一方で絵本のように幕を閉じるのが、苦しくも大好きでした。

 

余韻たっぷりであとがきをクリックしたところ、作者様からのコメントでさらにじんわりと込み上げるものを感じました。私は、佐々木さんが心底羨ましいと強く感じる一方で、小杉さんがこれからどうすればいいのかと途方に暮れてしまったところもあったので……。改めて自分がどう感じたのかを実感させられた思いです。

最後に雰囲気ブレイクしてくれるのも、悲しくなりすぎずちょうど良いところ。あとがきまでを含めて一作だと思います。

 

閉塞感を書き上げている一作。息苦しさ、輝く虹と絵本の世界、いじめ、女学校、などが気になる方向けです。

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  →(多すぎるので「晴れ時々グラタン」で検索どうぞ!)

 

 

 

『ピーピングプール』(暗め、現代もの、学生)

http://knr.webcrow.jp/

 

現代モノの一本道ノベル。百合未満、男女恋愛の要素もありはするのですが、なんだかとても気になってしまうあの子という概念はまさに百合だなーと感じます。

まるで空気みたいだったあの子は、知らないうちに私より先を行っていた――――そんな妬み交じりの作品です。

スクールカーストまではいかないものの、一段下の立場だからこそ庇護欲を掻き立てられるみたいな、いやーな感情が終始作品を取り巻いている感じでした。

鬱鬱ではないんですよね。生々しい? お風呂に浮く毛の話とか。覗いておきながら正面からぶつかることはしないところといい、なんというかじっとりとした視線を感じます。

キャラクターの反応自体はけっこうさっぱりしてて、オチも彼らの中では一区切りついたことになっているのがまた、独特ですよね。読後感も全体的な作品の雰囲気も爽やかなはずなのに、ざりざりと舌に残る砂が忘れられない。なんともいえない後味でした。

 

スチルや背景画像はどれも透明感があって綺麗なんですよねぇ。だからこそまた、話が映えること映えること。むっちゃんのキャラデザが、今まで気づかなかったけどよく見ればかわいい女の子って感じで素敵です。

きっとむっちゃんも、話してみれば想像以上に普通の子で、ただ誰もそこまで近寄ろうと思わなかっただけなんだろうなーなんて。

 

私の環境のせいか、exeファイルとreadmeが文字化けしてたのには驚いたかな? でもティラノ製だとよくあることなのでまあまあ。

こういう、しこりの残る話が好きです。

 

 

 

『ヴァンパイア・アンダーザムーン』(秘密)

https://www.freem.ne.jp/win/game/11552

 

スッと読み終えれる、けれども衝撃度はなかなかのノベルゲー。

監禁状態から始まるけれどもとにかく主人公が饒舌なので陰鬱さは少なく、流れるように読みやすい文に乗りながら展開に翻弄されているうち、「ああ!?」と驚かされる一作でした。なるほどエイプリルフール作品。

ギャグと見せかけて人外の恐ろしさも感じられる、いやあ吸血鬼って深みがあっていいですよね。

あっさりした後味ながらも鈍器で殴られる味わいがある一作でした。

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『六姉妹の華麗なる埋葬譜』(ミステリ)

https://www.freem.ne.jp/win/game/11658

 

タイトル最高じゃありません?

起動画面からも察せられる通り、オシャレなビジュアルノベル

実写を上手く絡めつつ赤と黒で構成されている画面構成や、犠牲者を花弁で隠す演出、ぱっと状況が察せられるシルエットなど、あちこちにハイセンスで上品な趣が漂います。

 

一方で文体はかなり軽やかに、姉妹たちが淡々と貶し合う、このギャップも愉快なところ。軽い気持ちで読み進め、拍手で終わる気持ち良さがありました。

 

特に着目したいのは作中要素の徹底した無駄の無さです。立ち絵は猫が代理し、名前は全て番号、死因はどちらがどちらでも、等々。どこまでも個性を殺したうえで「犬みたいな顔」という強烈な個性を叩きつけてくるのが本当、よく効くんですよね! 予想できるというより、予想がつくように作られている印象です。

 

先が読めるという意味ではミステリらしからざる構成ですが、むしろわかりやすくして起承転結+一転くらいを狙っているのではないかなあと感じます。種のわかっている手品をいかに楽しく読ませるか、という感じ。猫たちの写真のトリミングがきっちり良い演出になっているところもグッド。

 

情報の濃淡の付け方が上手ですよ、本当!

まさにタイトル通り、「華麗」な作品でした。

余談、後で作者様の名前見て椅子から転げ落ちました。プロの犯行だった! B.A.D.好きです!

 

 

 

『perception』(哲学・アート)

https://www.freem.ne.jp/win/game/2368

 

作者様が「ノベルアートシアター」を名乗っている通り、スタートすると自動的に文字と音楽と絵が再生される、不思議なプレイ感のノベルゲーム。ノベルゲーと称されることは作者様としては遺憾かもですが、わかりやすく俗化させて頂きます。

 

文章はとにかくリズムと字体重視。テンポが合うとより楽しめるはずですが、私はつんのめる時もありちょっとズレてしまったかなー、なんて。この話は何だったの、と問われると答えに窮すところもあり。

しかし、解答を出したり感想を捻りだしたりするものではなく、正しく字義通りの意味で考えるな感じろ系のゲームなのだろうと強く主張いたします。

 

個人的な話ですが、私は幼少期に植物図鑑を黙々と舐めるように眺めていた(読んではいない)時期がありまして。なんだかその頃の気持ちを思い出しました。考えることすらせずにぼんやりと眺めて、でも無為ではなくてどこか遠くへ入り込んでいる感じ。何だったんだろう、と感じつつも時折開きたくなるゲームだなあと思います。

呪文のように繰り返される印象的なセンテンスや、静かに閉じる二人の世界、花畑を眺める静かな気持ち、等々にピンとくるのなら合うはずです。

 

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フリーゲーム「だれかのかがみ」感想

フリーゲーム「だれかのよどみ」感想

 

 

 

 

以上5作品!

どれもかなり印象に残る、世界観や雰囲気の構築が上手い作品でした。

フリーゲーム「スレガル」「縛り神父」「SAGO」感想

「にゃんこと甘いものは心のいやしです!」

お願いだからせめてこれだけは取り上げないでほしい前置き。

 

 

えー、今回は禁飼育さんところのフリーゲームスレガル」「縛り神父」「SAGO」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

どちらも無垢な少女(ゲス顔はする)と糸目の悪い大人が恋愛する、一本道ノベルです。

キャラクターは共通していますが、世界観や基本的なあらすじは全く異なるパラレルワールド系なので単品でも大丈夫。ただ、特に「スレガル」と「縛り神父」はセットでプレイすると面白いギミックを味わえるとは思います。

 

「スレガル」のほうがR18えろげなのですが、自分のプレイ順がスレガル→縛り神父→SAGOだったので、記事もその流れで書きますね。公開順と逆回りにプレイしてるのでこれからプレイ予定の方は要注意。

 

 

 

『スレガル』

 

[概要]

魔法学校に通う少女このりが糸目教師ジドノと出会い、余計なところへ引きずり込まれてしまうお話。後味は明るいけど人によってはかなり痛むタイプ。鬱展開、ヤンデレ、他。

 

[キャラクター]

ヒロインは禁飼育ゲーだとおなじみ、冷めた心境も吐露しつつ恋に恋するノリ良き少女。顔芸有りぼっち有り。

自分が性的な搾取の目に合うとは一切思っていないヒロインっていいですよね。

 

ジドノ先生は笑顔が気持ち悪くて最高です。失礼で申し訳ないんですが、このりと並ぶと性根がにじみ出るかのような笑顔だなあと思います。

あと、追い込み方が上手ですよね。回復というより言葉の魔術師というか。悩む間も見せずにああいった的確な言葉がポンポンと出せる辺り、頭の回転がめちゃくちゃ良いんでしょうね。なぜその才をこんな方面に使ってしまうのか……だからこそ培われたのか……うっうっ。

 

校長先生は空回りっぷりがこう、虚しさを抱かせる人でした。もっと明確に敵と敵とみなせる人だったら良かったんだろうなー、なんて。でも根が優しすぎるほどだからだろうとも思います。

 

[世界観]

のりを見てぼんやり現代日本な世界観なのかなーと思っていたのですが、ふたを開けてみるとびっくりハリポタ世界でした。

きらきらした画面効果や、画面を彩るメルヘンなフレームなど、魔法と聞いて思い浮かぶハッピーでロマンティックな演出が輝きます。

 

一方で、儀式で開く扉や不気味な呪い、妖精さんの差別的な扱い、地下牢と人外化、等々。魔術と呼ぶべき仄暗さがあるのもこの作品の特徴です。

メイン二人の交流だけでなく、サブキャラを通じて世界観を感じさせてくれるのが素敵でした。これぞファンタジーですね!

 

[ストーリー・演出]

不穏な予感からドンと突き落す、この展開が絶妙です。

「怪しい行為だと思うんだけど、もしかすると考えすぎかもしれないし、いやそれって現実逃避だけどさ……」みたいな、ぐるぐるしつつ身体も動かせないし嫌とも言えないこの混乱具合が大好きです。生理的嫌悪感みたいなものがひしひし伝わります。

乙女的な幼稚で色っぽい妄想を男が生々しかったり汚れたりするものでグジュグジュにぶっ壊す流れがとても好きです。一方で、序盤と終盤は糖度が高くなるので、乙女ゲーとしても味わえます。

 

演出としては、あの猫さんマジカル発表会ですね。既プレイの方には伝わりますかね。初めて見て驚き、二度目のあまりの直球さにぎょっとしました。ああいう、ポップに背筋の冷えるもの大好きです。

画面装飾は控えめですが、渦巻く画面演出と蛇のモチーフが噛み合っているなど、こちらに「想像させる」怖さやえげつなさがあるなあと思います。

 

[一言]

まさにここでしか味わえない作風、明暗が一貫した雰囲気の中で成り立っている一作でした。

 

 

 

『縛り神父』

 

[概要]

ドット絵可愛いミニキャラたちが、西洋な雰囲気の世界観の中で、呻いたり嘆いたりニートしたりしながら少女を救おうとする話。

 

[キャラクター]

某キャラの設定が、スレガルをプレイしていたからこそ驚きでした。こういうトリックは本当、「やられたー!」ってなって楽しいですね。ああいう、隣人な展開大好きなので嬉しかったです。

 

スレガルでは見られなかった新キャラ、マリくんも魅力的です。朴訥とした良い子は愛でたいですよね。初めは青年だと思っていましたが、話慣れてくると意外と中学生くらいに思えてきました。

 

あと、このりはこちら側のほうがこう、洗脳されきってる感じがして、しみじみと痛々しさがあります。健気さも光りますが。自己嫌悪の理論を叩きこまれているのがあまりにも辛いです。好きです。

 

ジドノさんについては、個人的には同情の余地が無いと思うのであの終わり方はちょっと悔しくもあるのですが、それでも背負わずに済むと考えれば良かったのかなあとも思います。

 

[世界観]

この作品は「スレガル」のみならず、まったくの別作品も絡んできているようで、全ての謎は明らかにされません。ですが、関連作は予告宣伝されているので追うのは楽です。本筋であるマリカボルトやこのりのお話としては綺麗に完結しているのでご安心。

魔女狩り、神父、異端者と信仰者などなどにピンとくるならこの世界観はグッとくるはずです。

 

[ストーリー・演出]

何よりもまず、起動画面ですよね。

開始ボタンの意味が分かった時は鳥肌がすごかったです。あまりに熱い展開のストーリーと、あの選択肢の意味がかっちり噛み合ってゾクゾクしました。

グラフィックとしては、“可愛い”印象が強いドット絵をホラーな展開でもシリアスな展開でもよくぞここまで使いこなしてるなあとしみじみ。

 

また、お話としては主人公がマリカボルトというある意味で異物なのが効いてるなあと思いました。良い歳した大人であっても、頑張りたい・救いたい・変わりたいと思えてそれを許されるストーリー。大人のための少年漫画な展開だなあと感じました。

保護者という存在の明暗両面が感じられたのも良かったです。頼もしさ、身近さ、傲慢さ、管理される気持ち悪さ、等々。断罪とまではいかないし、片方が完璧にできた善人というわけでもないのがまた、いい塩梅です……。

 

印象的だったシーンはやっぱりこのりがバレたときのあのセリフです。もう呆然とするしかないですよね。マリカボルト側が下手に叫んだり連れ出したりするのではなく、まず絶句するというあの反応がすごく真に迫っていました。ああいう場面に出くわすと、どうしようもなさが真っ先に来ると思うんですよね……。

展開としてインモラルなのは「スレガル」だと思うんですが、心のダメージや鬱展開の衝撃という意味なら、こっちの方が闇は濃い気がしています。

  

[一言]

鬱展開を乗り越えるニートを応援したい人向け。

 

 

 

『SAGO』

[概要]

幼女がうっかり先生とサービスエリアへ行くことになった話。純愛100%。ほのぼの年の差。

 

[キャラクター]

禁飼育ゲーのキャラクターって皆、かなり多面的なんですよね。なんだろうな、鬼畜王子がスーパーでカレー粉買ってるの想像すると笑っちゃうみたいな……? どこかにいそうな人間味を出しつつ、異様な展開へ持っていくのがすごく良いなあと思っていまして。

で、上記二作がキャラの黒い面や弱い面を出しているとするなら、この『SAGO』は善人な面や人間らしい面を出しているなあと思いました。

 

疲れてると失敗しがち、わかるわかる!

まずいとわかっててもうっかり甘い言葉にノリがち、わかるわかる!

共感しやすく甘酸っぱい、幼い恋とおじさんの躊躇いを感じられるお話でした。

あとこの作品のジドノ先生はまだ衣装がまし。

 

[世界観]

サービスエリアの存在の通り、現代日本な世界観。うっかり高速に乗ってしまった際の回避術も学べます。

特に、遊園地とか公園とかじゃなくて、中継地であるサービスエリアに行きたいって言うところがすごく良いなあって思うんですよねぇ。場所は重要じゃなくて、ただ誰かと楽しくおでかけしたいっていう気持ちが出てると思うんですよ。すごく、すごく良い。

サービスエリアってなんか本当楽しいんですよね、すごくわかる、楽しかった……。お飲み物サーバーとかね、なんとも気の抜けた感じの漂う休憩所とかね、好きなんですよ。なんだかすごく懐かしい気持ちにもなれる作品でした。

 

[ストーリー]

ワガママは言えないけどやっぱりちょっと寂しい女の子が、大人の男の人に少し気分を軽くしてもらえるお話。……かと思っていたのですが。よくよく見ると、疲れた大人が子どもの幼くも懸命な励ましに心を救われるお話でもあると思うんですよねぇ。

このりとジドノ先生が相互に心をちょっと楽にしてあげてる関係性が素敵でした。子どもの背だと見れないところを見せてあげる代わりに、大人になって気づけなくなってたことを教えてもらえる感じ?

 

他作品の関係でジドノ先生にハラハラする気持ちが全くないと言えば嘘かもしれませんが……無理に黒く塗りたくらなくても、この話はこの話。子どもの頃のわくわくを大事にしてくれるお話として素直に受け取りたいなあと感じました。

 

[一言]

どっしり感あふれる牛乳ソフト、万歳!

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

「スレガル」がジドノバッドルート、「SAGO」がジドノグッドルート、「縛り神父」はマリカボルトルートという印象が強いです。

 

子どもに対してずるい言い回しをする大人と、子どものためにずるい言い回しをする大人、両方楽しめました!

 

 

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フリーゲーム「フライ・ド・チキン」感想

「冷たいくらいが飲みやすく、ぬるま湯よりもよく沁みる」

冷製スープは味による前置き。

 

 

えー、今回はGrrrrrrrrさんところのフリーゲームフライ・ド・チキン」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ツクール製のRPG、そこそこうろつき回って全クリまで10時間。

PCによってはプレイできない現象が起きているようですが、私のPCでは公式サイトの掲示板の参照通り、Game.iniをメモ帳で開いてLibrary=RGSS103J.dllに書き換えるだけでプレイできるようになりました。

 

というわけで良かった点など。

 

どうしても語りたい点の関係により、一部おまけ要素やセリフのネタバレを含みます。ご容赦ください。核心的なものについては追記にて。

 

 

飛べないコカトリスとその他異種族のシニカルな会話

 

主人公は飛べないコカトリス、仲間の面々はハーピーコボルトリザードマンなど。スタート地点となる村では様々な種族がうろついており、初プレイでは動物系ほのぼのストーリーという印象を受けます。

が、実際のところはあっと驚くドシリアスです。

このシリアスさの片鱗は次項目で述べるとして、キャラ面で語りたいのはところどころで飛び出す西部劇映画もびっくりのセリフ群です。

 

特に主人公テン・ピンの口調がかっこいい!

進行フラグ的にこの先は行けないと言う時でも、無理だとかこの先に用は無いだとかではなく「よせよせ、テン・ピン」なんですよ。よせよせ。めちゃくちゃかっこよくないですか! この感覚伝わって欲しい!

掛け合いにもシニカルな言い回しが多く、引用したり口ずさんでみたりしたくなる一節がたくさんあります。某シーンのヒルダの朝とスープの比喩話とか、ハピリュリタルのボスの戦闘前口上とか。あとどこだったかな、ヘビメの部屋かどこかの鏡を調べた時の掛け合いが好きです。

 

チャーミングな見た目のキャラから飛び出す、大人っぽく物分かりのよいセリフ。このギャップがまずプレイヤーの心をがっと掴む点だなあと感じました。

 

 

絶望と鬱に距離を置いて触れるストーリー

 

動物達が空の欠片を求めて世界中を旅する――というのがざっくりとしたあらすじにはなるのですが。ここから想起される絵本のような世界とは一線を画する展開が多いです。

つまり、シビアでダークな展開です。

クリア後コメントで作者様が「いつの間にか花が枯れ草がしおれ」と仰っているだけはありますね! あの言い回しすらもセンスがあふれていて好きです。

 

個人的に水が合うなと思ったのは、主人公たちが鬱展開からほどよく距離を取ってくれるところでした。流れで訪れる街の事情に介入することはあっても、ほどよくドライだったりどさくさ紛れで逃げ出したり。少なくとも、俺達がこの街を救うんだ!的な押しつけがましさはありません。

でも、怒るところはきっちり怒る……ここもプレイヤーとしてはすっきりできるポイントでしたねぇ。

即時解決はしないけれど、引っかかりを残して後の展開はお任せする、みたいな。DQ7やニーアオートマタ等々のしこりの残るサブクエストとか好きな人はこのスタイル合いそうな気がします。勝手ながら。

ハピリュリタルの後味の悪さが大好きです。

 

 

キャラごとに仕様の異なる特殊技

 

形式自体はオーソドックスなコマンドバトルですが、キャラごとのスキルに一捻り加えられています。

 

例えば主人公テン・ピンの上段・中段・下段。

背の低い敵に上段を当てると飛び越えて0ダメージ、というのが妙にリアルで好きでした。チュートリアルはそれっぽい雰囲気を出すために格闘技な説明がされていますが、技の属性が上中下になっているだけと考えると取っつきやすいかも。

他にも、ハーピーズの技は使いまくるとレベルアップしたり、ヘビメの銃は弾とリロードが肝だったり。

 

バトル自体がオリジナルというのは数あれど、キャラごとにスキルの仕様が異なるというのは初めてな気がします。複雑すぎず、個性を楽しめるバトルでした。

 

 

お得な探索ポイントと見つけて嬉しい会話分岐

 

重要なのは拾い食いです。キノコ、草花、タンスの奥の救急キット、なんでも拝借してガンガン使っちゃいましょう。

テンピンが小柄なぶんマップがかなり広いんですが、随所にこういった探索ポイントがあるので飽きずにうろうろできました。思わぬところでキノコを見つけた時のラッキー感。回復アイテムを収集できるRPGって良いですよね。併せてキャラの掛け合い台詞が見れるのも嬉しいところ。

通貨がかなりカツカツで売り物がどれも高価な設定ですが、これは落ちているものを拾う前提の調整なんだろうなー、なんて。

 

見つけた時だけでなく、一部のアイテムは使用時にミニ会話を聞くことができるものもあります。それを聞きたくて売買専用アイテムもつい1つは持ちっぱなしにしてました。

 

さらには宿屋イベント、泊まると実際に室内をうろついて皆のくつろぐ姿を楽しむことができます。しかもどの宿屋も内容が違っているというこの細かさ! いやあ感服です。ルームサービスを食券で楽しめたり、お弁当の中身に言及してくれたり、なんだか本当にあの世界で生活してる感じがありました。

私なんかは会話分岐や差分を回収したくなるタイプなので実に燃えましたね!

あるかな、と思ったところでミニイベントが始まるとガッツポーズです。

 

 

 

 

惜しかった点

 

一方、難点として挙げたいのはこんな感じ。

 

 

・ストーリー進行のフラグがわかりづらい

 

次のステージとなる街にあっさり行けたり、キーとなるキャラが街を回った後に登場したりして、ちょこちょこ何がフラグかわからないままうろつくところがありました。砂漠が特に顕著。

前述の通り、テンピンたちが深入りしないタイプだからこそ、誘導も控えめなんでしょうねぇ。といっても有志による詳細なwikiがあるので、攻略を見る派の人は問題なく進めるはず。

 

 

・取り逃すと補給が進行が厳しくなるアイテムがある

 

筆頭は船に設置できる回復樽ですね。アイテムをじゃんじゃん使うタイプなら気兼ねなく進めるかとは思いますが、私のようにどうしても躊躇いがちなタイプは取り損ねると道中がけっこう厳しいと思います。また、過去訪れたマップに戻れるのは終盤も終盤になるので、うっかり耐性防具を買い損ねると後で苦労するかも。

逆に言えば出会って即買いできるタイプの人はお得な感じです。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

他、ちょっとしたところとしては、船から降りると乗った地点から旅を再開できるのが嬉しかったです。さりげなく探索が捗るシステム。

 

シビアでギャップのある展開・皮肉っぽくも味のある言い回しなどにピンとくる方や、オブジェクトはとりあえず調べちゃうRPGプレイヤーさんへオススメです。

 

番外編↓

shiki3.hatenablog.com

 

追記ではネタバレ込みの感想など。

 

 

 

 

核心に触れるネタバレあり

 

 

 

見逃しそうな小ネタ

一部は有志の方のwikiにも記載があります。中でも好きなものや注意が必要そうなものを取り上げますね。

 

・序盤、一部の逃げ腰な選択肢でイベント付きのバッドエンドが見られる

・序盤、土のエレメンタルに話しかけるとちょっと切ない会話

 →次作の『ゼン・ザイ』の理解が進むかも

・転送エネルギー石を使うようになってからビリュータウンの温泉でクサマの持ち物を調べた後、夜の屋上で聞き耳を立てるとギシアン

・ビリュータウンの女湯は粘ると漢を見せれる

・ラスダンに入る前のボス二人を倒し、手に入れた帽子やヤリを装備せずに引き返してしまうと所持アイテムから消失する(バグ? そのままラスダンに入れば回避可能)

・おまけダンジョンのコンに挑んだ後即逃げると全回復状態になる(1回だけ?)

・コンから逃げた/負けた後に挑み直すとセリフが変わる

・パスワードは開発室の煙(余談ですがあかんぼうとおせんべいを一生懸命入力しようとしてました。HAHAHA)

・二週目にパス入りで、ハシモト本気で殺す/3匹を加勢前に倒す、と特殊エンド

 

中でも最後のネタはくすくす笑ってしまいました。負けイベントにごり押しで勝つ展開、好きです。

 

 

ストーリー

 

各所にシナリオのテーマを滲ませておいて、終盤ではプレイヤーにも仲間にもなんとなくこの世界の真実が察せられる、気づいてしまう作りだったなあと思います。街の人がさりげなく夢幻について語ってたりするんですよね。

だからこそ、ラスダンのイベント会話がいっそう沁みました。「知ってる」「知ってるわ」。知ったうえで、許しも言い合いもなく進むことができる――本当しびれますよね。

オープニングと終盤の真相がカチリと噛み合う展開大好きなので、そういう意味でもテンション上がりました。青いコボルトだったのは、あの立ち絵を見る限り今にも死にそうな青白い顔だったからなのかなー、なんて。

 

各街のイベントだとやっぱり衝撃的だったのは砂漠の街でしょうか。なまじ全く予想していなかっただけあって、呆然としました。言葉を失うってのはああいうことですね……。

ああでも、ビリュータウンの、徐々に信じている世界がバグっていく感じも好きだったなあ。自分を喪う怖さや夢の世界などなど、疑似的に本編の真相にも触れてますよね。この入れ子構造も好きです。

 

細かいシーンだと、ペルテローテ取得イベントが好きです。青白狐が言っていた「愛しの恋人にキスをしてから~」っていうのも大きなヒントですよね? こういうヒントをこうやって出すセンスが好きなんですよもう。冷めた世界観かと思いきや、熱い展開は外さないところも好きでした。

あと、フェルの湯が乾いていたところも細かくて丁寧だなーと思います。

 

 

キャラクター

 

中でも特別好きな、ヘビメとイマラについて。

 

 

ヘビメ

 

まずあの目つきが大好きです。

テンさんが「嫁の貰い手は無かろう」みたいなことを言ってましたが、できましたね。おめでとう! ああいう嫁に貰うか貰わないかってセリフはそのキャラの持つ女の美醜の価値観をなんとなく感じさせてくれるので良いよなと思います。間接的に好みのタイプがわかるというか。あっでもフェミの人には爆裂拳で叩かれそうな気もしてきた、許してください。

 

閑話休題

お人形さんな設定や、アイデンティティがどこにあるのかわからなくなりそうな誕生秘話など、あちこちで闇深く萌えるキャラでもありました。過去話を唐突に始めた時にはそれこそテンさん達同様の感じ方をしてしまいましたが、気づけば愛着のあるキャラだったように思います。やっぱり外見が好みってのは大きなアドバンテージですね。

ストーリー上でも固有イベントがあったり、何かと優遇されているポジションでした。クサマより主人公してたかも。

 

と、書いていて気づいたんですが、どのキャラもしっかりドラマになるシーンはあって、平均的にスポットが当てられてはいるんですよね。その中でもヘビメは尺が長かったというだけなのかも。

 

彼との云々は、CP脳がそうだったら萌えるなと妄想しつつも公式で起こるとはまったく予想していなかったので、たいそう動揺しました。いやほんとうに。そうくるとは。ひゃっふう。

ここを踏まえると、フェルが教えてくれた「ヘビメはたたかれてどっか行っちゃったし」のセリフに重みが出ていいですよね。好きな男にそんなされたらね。自己嫌悪がそりゃね。ああーーかわいいなあ!

 

銃屋さんとのアダルティな会話も好き。ビショヌレな銃器はしっかり全部お買い上げさせていただきました。使ってたのはもっぱらルング弾ばっかりでしたけども! コレクターとしてな。

コン戦は彼女がいないと耐えられなかったと思います。命中ダウン的な意味で。

 

端的に書くと萌えるキャラでした。

 

 

 

 

イマラ

 

初めはヘビメが推しだったんですが、クリアしてみるとイマラもかなりお気に入りだったのかもしれないなあと思いました。なんでクリア後になってからなんだろうね?

 

ええと、プレイしながら好きなシーンのスクショとか撮ってたんですが、響いたセリフの多くがイマラのセリフなんですよね。「友達はまた」とか「私の名前が出てこない」とか。あと宿屋でせっせと掃除してる姿がすごくなんか印象的だったんです。

根っこのところを共感しやすいキャラなのかもしれません。フェルと比べると真面目で損ばっかだけど、同情できるほどイマラ自身が周りに優しいわけでもない、みたいなところ。

 

そもそもイマラはパーティ加入した時にお試しで使ってみたスキルが想像以上に破壊力高くて、以来ずっとスタメンだったという事情もありまして。いやあ、気づかなかったけど好きだったんだなあって感じでした。

 

あと呪文の響きがかっこよくて好きです。元ネタあるんでしょうかね?

 

 

 

他にもまあ、クサマが怒ってますって言うシーンとか、ヒルダが本当に知識を得てしまうシーンとか、ナオのキュートな喋り方とか、色々印象に残ったところはあるのですが。

 

とにかく、世界観やキャラの反応のほどよいシビアさがしっくりくる、とても好みな作品でした。