「冷たいくらいが飲みやすく、ぬるま湯よりもよく沁みる」
冷製スープは味による前置き。
えー、今回はGrrrrrrrrさんところのフリーゲーム「フライ・ド・チキン」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
ツクール製のRPG、そこそこうろつき回って全クリまで10時間。
PCによってはプレイできない現象が起きているようですが、私のPCでは公式サイトの掲示板の参照通り、Game.iniをメモ帳で開いてLibrary=RGSS103J.dllに書き換えるだけでプレイできるようになりました。
というわけで良かった点など。
どうしても語りたい点の関係により、一部おまけ要素やセリフのネタバレを含みます。ご容赦ください。核心的なものについては追記にて。
飛べないコカトリスとその他異種族のシニカルな会話
主人公は飛べないコカトリス、仲間の面々はハーピーやコボルト、リザードマンなど。スタート地点となる村では様々な種族がうろついており、初プレイでは動物系ほのぼのストーリーという印象を受けます。
が、実際のところはあっと驚くドシリアスです。
このシリアスさの片鱗は次項目で述べるとして、キャラ面で語りたいのはところどころで飛び出す西部劇映画もびっくりのセリフ群です。
特に主人公テン・ピンの口調がかっこいい!
進行フラグ的にこの先は行けないと言う時でも、無理だとかこの先に用は無いだとかではなく「よせよせ、テン・ピン」なんですよ。よせよせ。めちゃくちゃかっこよくないですか! この感覚伝わって欲しい!
掛け合いにもシニカルな言い回しが多く、引用したり口ずさんでみたりしたくなる一節がたくさんあります。某シーンのヒルダの朝とスープの比喩話とか、ハピリュリタルのボスの戦闘前口上とか。あとどこだったかな、ヘビメの部屋かどこかの鏡を調べた時の掛け合いが好きです。
チャーミングな見た目のキャラから飛び出す、大人っぽく物分かりのよいセリフ。このギャップがまずプレイヤーの心をがっと掴む点だなあと感じました。
絶望と鬱に距離を置いて触れるストーリー
動物達が空の欠片を求めて世界中を旅する――というのがざっくりとしたあらすじにはなるのですが。ここから想起される絵本のような世界とは一線を画する展開が多いです。
つまり、シビアでダークな展開です。
クリア後コメントで作者様が「いつの間にか花が枯れ草がしおれ」と仰っているだけはありますね! あの言い回しすらもセンスがあふれていて好きです。
個人的に水が合うなと思ったのは、主人公たちが鬱展開からほどよく距離を取ってくれるところでした。流れで訪れる街の事情に介入することはあっても、ほどよくドライだったりどさくさ紛れで逃げ出したり。少なくとも、俺達がこの街を救うんだ!的な押しつけがましさはありません。
でも、怒るところはきっちり怒る……ここもプレイヤーとしてはすっきりできるポイントでしたねぇ。
即時解決はしないけれど、引っかかりを残して後の展開はお任せする、みたいな。DQ7やニーアオートマタ等々のしこりの残るサブクエストとか好きな人はこのスタイル合いそうな気がします。勝手ながら。
ハピリュリタルの後味の悪さが大好きです。
キャラごとに仕様の異なる特殊技
形式自体はオーソドックスなコマンドバトルですが、キャラごとのスキルに一捻り加えられています。
例えば主人公テン・ピンの上段・中段・下段。
背の低い敵に上段を当てると飛び越えて0ダメージ、というのが妙にリアルで好きでした。チュートリアルはそれっぽい雰囲気を出すために格闘技な説明がされていますが、技の属性が上中下になっているだけと考えると取っつきやすいかも。
他にも、ハーピーズの技は使いまくるとレベルアップしたり、ヘビメの銃は弾とリロードが肝だったり。
バトル自体がオリジナルというのは数あれど、キャラごとにスキルの仕様が異なるというのは初めてな気がします。複雑すぎず、個性を楽しめるバトルでした。
お得な探索ポイントと見つけて嬉しい会話分岐
重要なのは拾い食いです。キノコ、草花、タンスの奥の救急キット、なんでも拝借してガンガン使っちゃいましょう。
テンピンが小柄なぶんマップがかなり広いんですが、随所にこういった探索ポイントがあるので飽きずにうろうろできました。思わぬところでキノコを見つけた時のラッキー感。回復アイテムを収集できるRPGって良いですよね。併せてキャラの掛け合い台詞が見れるのも嬉しいところ。
通貨がかなりカツカツで売り物がどれも高価な設定ですが、これは落ちているものを拾う前提の調整なんだろうなー、なんて。
見つけた時だけでなく、一部のアイテムは使用時にミニ会話を聞くことができるものもあります。それを聞きたくて売買専用アイテムもつい1つは持ちっぱなしにしてました。
さらには宿屋イベント、泊まると実際に室内をうろついて皆のくつろぐ姿を楽しむことができます。しかもどの宿屋も内容が違っているというこの細かさ! いやあ感服です。ルームサービスを食券で楽しめたり、お弁当の中身に言及してくれたり、なんだか本当にあの世界で生活してる感じがありました。
私なんかは会話分岐や差分を回収したくなるタイプなので実に燃えましたね!
あるかな、と思ったところでミニイベントが始まるとガッツポーズです。
惜しかった点
一方、難点として挙げたいのはこんな感じ。
・ストーリー進行のフラグがわかりづらい
次のステージとなる街にあっさり行けたり、キーとなるキャラが街を回った後に登場したりして、ちょこちょこ何がフラグかわからないままうろつくところがありました。砂漠が特に顕著。
前述の通り、テンピンたちが深入りしないタイプだからこそ、誘導も控えめなんでしょうねぇ。といっても有志による詳細なwikiがあるので、攻略を見る派の人は問題なく進めるはず。
・取り逃すと補給が進行が厳しくなるアイテムがある
筆頭は船に設置できる回復樽ですね。アイテムをじゃんじゃん使うタイプなら気兼ねなく進めるかとは思いますが、私のようにどうしても躊躇いがちなタイプは取り損ねると道中がけっこう厳しいと思います。また、過去訪れたマップに戻れるのは終盤も終盤になるので、うっかり耐性防具を買い損ねると後で苦労するかも。
逆に言えば出会って即買いできるタイプの人はお得な感じです。
とまあ、こんな感じで。
他、ちょっとしたところとしては、船から降りると乗った地点から旅を再開できるのが嬉しかったです。さりげなく探索が捗るシステム。
シビアでギャップのある展開・皮肉っぽくも味のある言い回しなどにピンとくる方や、オブジェクトはとりあえず調べちゃうRPGプレイヤーさんへオススメです。
番外編↓
shiki3.hatenablog.com
追記ではネタバレ込みの感想など。
核心に触れるネタバレあり
見逃しそうな小ネタ
一部は有志の方のwikiにも記載があります。中でも好きなものや注意が必要そうなものを取り上げますね。
・序盤、一部の逃げ腰な選択肢でイベント付きのバッドエンドが見られる
・序盤、土のエレメンタルに話しかけるとちょっと切ない会話
→次作の『ゼン・ザイ』の理解が進むかも
・転送エネルギー石を使うようになってからビリュータウンの温泉でクサマの持ち物を調べた後、夜の屋上で聞き耳を立てるとギシアン
・ビリュータウンの女湯は粘ると漢を見せれる
・ラスダンに入る前のボス二人を倒し、手に入れた帽子やヤリを装備せずに引き返してしまうと所持アイテムから消失する(バグ? そのままラスダンに入れば回避可能)
・おまけダンジョンのコンに挑んだ後即逃げると全回復状態になる(1回だけ?)
・コンから逃げた/負けた後に挑み直すとセリフが変わる
・パスワードは開発室の煙(余談ですがあかんぼうとおせんべいを一生懸命入力しようとしてました。HAHAHA)
・二週目にパス入りで、ハシモト本気で殺す/3匹を加勢前に倒す、と特殊エンド
中でも最後のネタはくすくす笑ってしまいました。負けイベントにごり押しで勝つ展開、好きです。
ストーリー
各所にシナリオのテーマを滲ませておいて、終盤ではプレイヤーにも仲間にもなんとなくこの世界の真実が察せられる、気づいてしまう作りだったなあと思います。街の人がさりげなく夢幻について語ってたりするんですよね。
だからこそ、ラスダンのイベント会話がいっそう沁みました。「知ってる」「知ってるわ」。知ったうえで、許しも言い合いもなく進むことができる――本当しびれますよね。
オープニングと終盤の真相がカチリと噛み合う展開大好きなので、そういう意味でもテンション上がりました。青いコボルトだったのは、あの立ち絵を見る限り今にも死にそうな青白い顔だったからなのかなー、なんて。
各街のイベントだとやっぱり衝撃的だったのは砂漠の街でしょうか。なまじ全く予想していなかっただけあって、呆然としました。言葉を失うってのはああいうことですね……。
ああでも、ビリュータウンの、徐々に信じている世界がバグっていく感じも好きだったなあ。自分を喪う怖さや夢の世界などなど、疑似的に本編の真相にも触れてますよね。この入れ子構造も好きです。
細かいシーンだと、ペルテローテ取得イベントが好きです。青白狐が言っていた「愛しの恋人にキスをしてから~」っていうのも大きなヒントですよね? こういうヒントをこうやって出すセンスが好きなんですよもう。冷めた世界観かと思いきや、熱い展開は外さないところも好きでした。
あと、フェルの湯が乾いていたところも細かくて丁寧だなーと思います。
中でも特別好きな、ヘビメとイマラについて。
ヘビメ
まずあの目つきが大好きです。
テンさんが「嫁の貰い手は無かろう」みたいなことを言ってましたが、できましたね。おめでとう! ああいう嫁に貰うか貰わないかってセリフはそのキャラの持つ女の美醜の価値観をなんとなく感じさせてくれるので良いよなと思います。間接的に好みのタイプがわかるというか。あっでもフェミの人には爆裂拳で叩かれそうな気もしてきた、許してください。
閑話休題。
お人形さんな設定や、アイデンティティがどこにあるのかわからなくなりそうな誕生秘話など、あちこちで闇深く萌えるキャラでもありました。過去話を唐突に始めた時にはそれこそテンさん達同様の感じ方をしてしまいましたが、気づけば愛着のあるキャラだったように思います。やっぱり外見が好みってのは大きなアドバンテージですね。
ストーリー上でも固有イベントがあったり、何かと優遇されているポジションでした。クサマより主人公してたかも。
と、書いていて気づいたんですが、どのキャラもしっかりドラマになるシーンはあって、平均的にスポットが当てられてはいるんですよね。その中でもヘビメは尺が長かったというだけなのかも。
彼との云々は、CP脳がそうだったら萌えるなと妄想しつつも公式で起こるとはまったく予想していなかったので、たいそう動揺しました。いやほんとうに。そうくるとは。ひゃっふう。
ここを踏まえると、フェルが教えてくれた「ヘビメはたたかれてどっか行っちゃったし」のセリフに重みが出ていいですよね。好きな男にそんなされたらね。自己嫌悪がそりゃね。ああーーかわいいなあ!
銃屋さんとのアダルティな会話も好き。ビショヌレな銃器はしっかり全部お買い上げさせていただきました。使ってたのはもっぱらルング弾ばっかりでしたけども! コレクターとしてな。
コン戦は彼女がいないと耐えられなかったと思います。命中ダウン的な意味で。
端的に書くと萌えるキャラでした。
イマラ
初めはヘビメが推しだったんですが、クリアしてみるとイマラもかなりお気に入りだったのかもしれないなあと思いました。なんでクリア後になってからなんだろうね?
ええと、プレイしながら好きなシーンのスクショとか撮ってたんですが、響いたセリフの多くがイマラのセリフなんですよね。「友達はまた」とか「私の名前が出てこない」とか。あと宿屋でせっせと掃除してる姿がすごくなんか印象的だったんです。
根っこのところを共感しやすいキャラなのかもしれません。フェルと比べると真面目で損ばっかだけど、同情できるほどイマラ自身が周りに優しいわけでもない、みたいなところ。
そもそもイマラはパーティ加入した時にお試しで使ってみたスキルが想像以上に破壊力高くて、以来ずっとスタメンだったという事情もありまして。いやあ、気づかなかったけど好きだったんだなあって感じでした。
あと呪文の響きがかっこよくて好きです。元ネタあるんでしょうかね?
他にもまあ、クサマが怒ってますって言うシーンとか、ヒルダが本当に知識を得てしまうシーンとか、ナオのキュートな喋り方とか、色々印象に残ったところはあるのですが。
とにかく、世界観やキャラの反応のほどよいシビアさがしっくりくる、とても好みな作品でした。