うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「忘却の沼」感想

「音がする、周期的に、粘着質に、呪いのように、魔法のように」

水音は妙に落ち着く気がする前置き。

 

 

えー、今回はハラワリさんところのフリーゲーム忘却の沼」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

エンド分岐ありの短編BLノベル。公式には「しんみり」とありますが、個人的には「じっとり」と感じます。

タイトル通り、作品の印象はまさに沼。曲で言うとアンビエントな雰囲気。暗く、どこまでも持っていかれそうになる没入感を楽しめました。

 

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

隠喩が光る選択肢

 

特徴的なのは、エンド分岐が絵本のあらすじで決まる点です。選択肢といえば誰かに対する応答や主人公の反応を選ぶものが多いと思うんですが、本作はそうじゃない。登場人物のダイレクトな反応がわからないぶん、選択肢の影響が最後まで読めなくて、先行き暗黒の不安定さを心行くまで楽しめました。

けっこうメタ的というか、全クリしてから改めて選択肢を思い返すと「あ~……」って声が思わず漏れちゃうんですよね。わかる。でもプレイ中はわからない。ここが楽し有ったです。心赴くまま正直に選ぶと自然とBAD→GOOD回収に辿り着けたのもあって、上手いな~と感じました。

 

 

 

少し動く、だから不気味な絵本

 

隠喩たっぷりの絵本のシーン、日常を過ごす現実のシーン、幼少期の回想シーン、これら3つが交差しつつ本編は進行して行きます。

この絵本のシーンがすごく好きでした!!

絵本と言うとメルヘンなイメージがまず浮かぶ私ですが、本作の絵本は不可解で不気味な側面が強いです。こう、あるじゃないですか、やわらかい筆致で何でもありの世界観でふんわりと残酷なことが起こってるタイプの絵本。あれです。

画面自体はとてもシンプルなんですよ。シルエット中心で、黒基調で、淡々と進む感じ。画面上部ではムービーちっくな演出がされますが、動き自体はそう激しくもありません。

 

だからこそ不気味なんです!

私、うさぎが笑うシーンで本当に肝が冷えました。もう、あの、静かさの中で一滴、ビタンと悪意を塗り込める感じがすごく恐ろしくて………いや本当に画面上はシンプルなんですけど、だからこそ怖かったです。

ぬまが純朴そうに描かれているから、なおさら行いや絵本自体の不気味さが際立って素敵でした。

 

 

 

絶妙に異質として描かれている主人公

 

主人公は変わり者です。ですが、普通の人です。矛盾しているとわかっちゃいますが本当にプレイするとこんな感じに思えるんですよ……。

別に異常者ってわけじゃないんですよね。ちょっと好きなものが変わってるだけで、奇行に至る思考の流れはきちんと回想シーンで描写されますし、周りに馴染んでいて、気負うところも感じられないですし。

だから、「あれっ」と感じる描写が目立つとも言えるんですが。

 

この「あれっ」について、序盤に出てくるハンバーガーの食べ残しの話がすごく絶妙だと思うんですね。嫌いなものをぺってしちゃうのって、いくら同席者がオーケーしてもかなり異質というか、抵抗感のあることだと思うんですよ。で、情景描写などからもそこらへんのいわゆる……生理的嫌悪感みたいな……部分をしっかり認識したうえで描かれているように感じます。

その辺の境界線が薄い、マズイ一線を踏んじゃうけど本人にはどうも理解しづらい感じ。主人公視点で書いているのに、この客観的なヤバさが伝わってくるのは本当巧みだと思います。わりと“いそう”なリアル感が心底すごいなー、なんて。

 

 

 

どろりと濁ったアートワーク

 

グラフィック面に話が戻りますが、ホラーと思い違いそうなタイトル画面、シーン切り替えに挟まる章名のカットインなどなど、アイキャッチ?も素敵でした。文字だけでここまで雰囲気って出せるものなんですね……。

メッセージウィンドウ自体は小奇麗で、立ち絵もないシンプルな画面構成だからこそ、区切りに出てくる画像の数々に心をザワッとさせられます。好きです。

SEやウェイトはかなり重めですが、特にタイトル画面のあの暴れるようなSEの使い方は巧みでした。いやまさか、あの場で同じ音が聞けるとはね……。何度も繰り返される「ボチャン、と おとをたてました」のテキストもそうですが、あちこちにこういったリピートの演出が組まれていてとても印象に残りました。鳥肌モノ。

 

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

最後に未プレイの方への前置きとして、虫の描写が出てきます。シルエット表示だけですが、文章はわりとざわっとする部分もあります。ですが、この嫌悪感を煽る描写があってこそのこの主人公だと思うので、いけそうなら是非読んで欲しい気持ちです。

 

追記ではネタバレ感想少しだけ。

 

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

続きを読む

フリーゲーム「臆病な充電器」感想

「理解しなくていい、解決しなくていい、お小言なんて到底いらない」

だが慰めだけでは先へ進めない前置き。

 

 

えー、今回はハラワリさんところのフリーゲーム臆病な充電器」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

エンド分岐有、攻略対象一人のBLノベル。ルートによっては三角関係になります。舞台は現代日本、全員がジャンルは違えど社会人です。

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

はっきり見えない背景とさりげない演出

 

背景にはぼかしが入っていて基本的にシンプルな画面構成。立ち絵もなく、決めどころでスチルがすっと差し挟まれます。このスチルもどちらかといえばワンシーンの切り取りといった印象が強く、横顔を眺めたり部屋で過ごしたり、二人の日々を覗き見ているような構図が多めです。

で、じゃあ地味なのかといえばそんなことはなくて。

いわゆるヤバイ雰囲気になった時は背景画像にジリッとノイズが走ったり、気持ちのブレを表すように画面が左右にぐらんと動いたり、ささやかながらパワーのある演出が非常に多いです。画面全体で雰囲気作りがしっかりされているような印象でした。

特に某エンドの直前の演出がすごく好きなんですよね……。画面に大写しされるあの単語にざわっとしました。

 

 

 

与えるだけの充電器

 

この作品の雰囲気をどう書こうかかなり悩んでいたんですが……。依存といいたいけどそれほど甘くなく、じっとりとしてはいるけど憎悪ではなく、やっぱり形容が難しい、唯一無二の雰囲気です。それでもなんとかひねり出すなら、終盤は特に「デートDV」という単語がガチッと嵌り込む作品でした。

あくまで主人公は付属品、彼のもの、主導権は君。あくまで付属品にこだわり、最後にあの「概ね」という単語をぶつけてくるこの一貫した展開が痺れました。いやマジであの一文大好きなんですよ……。

GOODとされているエンドでも、言ってしまえば表面上二人の日常はそれほど変わりません。毎日仕事があり、何かに妥協に、擦り減ったり諦めたりしつつ日々を続けていきます。ただし、相手のことを考えるシーンの圧にはかなりの違いを感じます。愛とも恋とも言い難い、ドロリとした感情が滂沱のごとく流れていく様は、まさに圧倒の一言でした。

 

初めはお互いが支え合う物語なのかなーと思っていたんです。私情は入れず常識的にバリバリ仕事をこなすリーマンと、好きなことを仕事にした変人寄りな造形家ときたら、なんとなくお互いがお互いの穴を埋めそうな気がするじゃないですか。

が、そうじゃない。そこが良い。

支えあいじゃなくて、あくまで断絶なんですよねえ。そして別に分かり合いたいと叫ぶわけでもなく、すれ違いながら引っ付いていく感じ。主人公の想いというか、なりたい形が相手にちっとも伝わらないシーンがすごく好きでした。

 

 

 

オススメする際に言っておきたい点

 

留意事項として、けっこう攻略が難しく感じたゲームです。

エンド到達自体は楽なんですが、解放した今でもアフターストーリーの条件がさっぱりわかっていないなど。隠しエンドに至ってはなんとな~く○○君ルートかと思ってたんですがダメでした。無念。

といっても、好感度の表示が「充電量」という斬新さは好きですし、基本的にエンド二つは辿り着きやすい分岐になっています。大筋はきちんと拾えるのでその点はご安心。

 

そんなわけで、コンプ癖ある方やハッキリキッチリした終わりがないとヤダ!って方にはオススメしづらいかも。一方で、いつも通りの日常の裏に濃い濁り、みたいなのが好きな方にはしっくりくると思います。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

最後に一押ししておきたいのがタイトル。

この関係性にこのタイトルを当ててくるセンス、「充電器」という表現の秀逸さ、その単語を連想させる描写の自然さなど、どれもが味わい深くて好きです。タイトルを見てピンと来たなら是非

 

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

ハラワリ の検索結果 - うそうさ〜第二号室〜

 

フリーゲーム「わたしのお名前なんですか」感想

「あとで食べれるとわかっていても、つまみ食いはやめられない」

叱ってくれるのはきちんと見ている証な前置き。

 

 

えー、今回は栖王ヴァルハラ3丁目およびほーむorあうぇいさんところのフリーゲームわたしのお名前なんですか」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

エンド分岐有、全クリして数十分くらいの恋愛探索ゲー。1マップで難しい謎解きやアクションはなし、二人の会話劇をひたすら楽しむ作品です。

 

というわけで、良かった点など。

起こるイベントやエンド内容など、軽く察せれる程度には書いてしまっているので、未プレイの方はご注意ください。

 

 

 

ミニチュア感がかわいいワンマップ

 

家探しをして記憶喪失の手掛かりを探そうというのが本作の目的です。で、注目したいのがこのマップの緻密さと生活感でした!

なんというか、置いてある細々とした家具やアイテムがすごくかわいいんですよ! ミニチュア箱庭って感じが好き! 少し雑然とした物があったり、置き方がざっくばらんになってる場所があったりするのも、二人の生活がぼんやりと想像できて楽しかったです。

探索ゲーとしても広すぎず狭すぎず、家探しが捗りました。

 

 

 

これでもかと詰み込まれた会話差分

 

室内のものは全て調べられると言っても過言ではないくらい、ありとあらゆるものに台詞反応が仕込まれています。タルにはとりあえず話しかけたくなる方や、宝箱を二回調べたくなる方は必見です。

一番驚いたのが、椅子が調べられること。探索ゲーで棚や鏡を調べる発想はあっても、謎解きの絡みなしで純粋に椅子で何かあるってけっこう珍しい気がするんですよね。なので、気づいた時は嬉しくて飛び上がりました。「ここにも!?」という驚きが常にあります。

 

ただ調べるだけじゃなくて、主人公のスキルを使ってちょっとしたお遊び事ができるところも好きです。ウディタだからこそできる要素。思いのほかやれることが多くてにこにこしちゃいました。説明文がどれも面白いんだよなあ!

あとすごく好きだったのが、本を読む演出について。プレイヤー側の操作を挟むことで、ちょっとずつ区切って、噛み締めながら読むことができます。一つ一つの思い出や、一ページに込められた想いを大事に大事に開いていくようで、すごく好きだったなあ……。

 

 

 

 

おちゃらけ×クールのテンポよさ

 

単純に、掛け合いがめっちゃ面白い!

本記事を一言でまとめるとこれに尽きます。だって笑うよあれは。RPGあるあるなメタギャグも交えつつ、打てば響くテンポの良さでさくさくとプレイヤーの腹筋の耐久実験をされました。ごちそうさまです。

 

主人公がかなりクールなんですが、拒絶するタイプの冷たさじゃなくて、なんだかんだ言いつつ真顔でノッてくれるのがすごく良いんですよね……。ツッコミみせかけたボケになるところも好きです。インベントリネタ数日ツボでした。

謎(既知)の男性のほうも、愉快なお調子者かと思いきやなんだかんだで優しい人だなと思う訳なんですよ。しっかり者というか生活面ではしっかり者にならざるをえないというか、二人とも良い具合にバランスが取れてるなー、なんて。あのキャラで含蓄深い掛け合いができるところも、ずるいなーと思います。ずるい。良いキャラだ。

クリア後のおまけ要素にもぎゅぎゅっと掛け合いが詰まってて、隅々まで二人の相性の良さを感じさせられました。

 

 

 

 

微笑ましい想いの通じ合い

 

興味深いのが、記憶喪失という設定でありながら説明的な台詞はほとんどなかった点です。いや、説明自体はあるんですが……。ほとんど二人の会話と一人称で進んでいって、思わせぶりなモノローグみたいなのはありません。それでも、二人の気持ちがすごく伝わってくるんですよ! 特に乙女ゲーをよくプレイする身としては、心理描写≒ポエム≒モノローグという印象があるので、新鮮さがありました。掛け合いや思い出を横から覗き見しているだけでも、十分気持ちは伝わるんだなあ。人間を描くのが上手いって言うの、こういうことだろうなあと思います。片方は耳長だけど!

 

あと嬉しかったのが、バッドエンドについて。少々ネタバレ掠ってしまうかもしれないんですが……。

私はバッドの回収が最後だったのもあって、少しハラハラしていたんですね。なまじ二人の気持ちの変化を知ってしまった状態だったので、また初期の二人に戻ってしまうのは寂しいよなあと。だから、こう、塩梅が良かったといいますか……。シャットダウンしてしまうのではなく、ちょっとした希望も残ってて嬉しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

タイトルが、“わたし”のお名前なんですか、なところも好きです。あっちが言ってるんだなあ。ふふふ。

さくっとクリアできるお手軽ゲーなので、探索好きさんは是非。

フリーゲーム「ロスト・ヘリアンサス」感想

「悲しみを乗り越えるために痛みを思い出そう」

強くなるために忘れたものをまた拾い直す前置き。

 

 

えー、今回はtettoets/縁さんところのフリーゲームロスト・ヘリアンサス」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

クリアまで1時間くらいのRPG。分岐はあるけどエンドは一つ、のはず。ワンマップフェス、というマップ一つ縛りの企画に参加されているフリゲです。

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

地続きからふと色を変えるBGM

 

戦闘に入ってもBGMが地続きなところが好きです。こういう、切り替わらずにずーっと同じBGMで進み続けるゲームって、世界観を重視されてる作品が多い印象。この曲もまた、幻想的で良いんですよねえ。

一方で、ボス戦になるとついにBGMが切り替わります。戦闘曲ではあるんですが、どことなく悲壮感があってすごく好みな選曲でした……! ボス戦前の口上も素晴らしいんだこれが! 

世界観の濃度を高めるのはBGMだと固く信じている人間なので、その点しっかり使いこなされてて素敵でした。

 

 

良い具合に甘めのステータス

 

レベルを上げて自分でステータス振りをするタイプのシステム。こういうゲームだと私はつい極振りしてしまうタイプなんですが、本作は私の腕にちょうどよく甘めのバランスでした。無駄なレベリングは不要だけど、軽く遊ぶ程度に雑魚戦はしておいたほうが良い感じ。

あと、きちんと頭打ちになるポイントが設定されているのも上手です。攻撃ばっかり上げたがる私のようなプレイヤーさんは、たぶん向日葵で立ち止まる、はず。一方で魔法型のプレイヤーさんは、二回攻撃してくる敵に立ち止まることになるんじゃないかな。この辺りのレベルデザイン好きです。

自分のプレイを思い返すと、魔法のステータスを魔法攻撃のためでなく敵の魔法を軽減するために上げていたように思います。優先度の低いステータスはあるけど、無駄にはならないような印象でした。

 

 

 

段階を追って解放されていく要素

 

レベルデザインといえば、マップの開放の仕方も好きです。単純に通せんぼしてる障害物と、この先に向かうかどうかの選択を迫られる標識、二種類あるところがさりげなく斬新だなーと思ってまして。なまじ標識のほうは横をすり抜けられるデザインだからなおさら、先に行きたいけど行けない、進むことへのためらいを感じるんですね。ここがストーリーの根幹に触れるような良いプレイ感を生んでるなあと思います。

記憶の開放も面白くて、敵の情報とか対処法がこっそり載ってるんですよね。そういうものだと思って疑問視していなかったゲーム内の存在と、改めて向き合う感じがします。世界を端々まで味わえるゲームでした。

NPCの扱いといい、ちょっとした要素を綺麗に束ねて世界観を作っていくのが上手いなあと思います。

 

 

 

薄ぼやけた記憶の中で、明確に伝わるテーマ

 

ストーリーはふんわりとぼかされていて、強くなって手に入れた記憶をプレイヤーが繋いだり補完したりしてピンとくるようになっています。このお話も、考察というほど小難しくなく、一通り要素を全部拾い集めればすんなりと理解できる構成です。

で、私、この作品の“強くなる”の意味がとても好きなんですよ!

軽くネタバレに触れてしまうかもしれないんですが……結末は同じでも選択肢によって分岐があるのが良いなあと思ってるんです。決別でも、感謝でも、どちらでも通じるところが優しくて好き。

 

何かを大事に思う方法とか、痛みにどう立ち向かうかって人によって本当にたくさんやり方があると思うんですね。その可能性を、狭めずにいてくれたのがありがたかったです。

まとめると、テーマがはっきり伝わってくるけど回答はプレイヤー次第なところが好き。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

繊細で、幻想的で、郷愁を感じる世界観が魅力的な作品でした。

 

フリーゲーム「精霊の庭」感想

「恵みの満ちた森で私はただ生命を続けさえすればよかった」

快楽なるものは全て余分であった前置き。

 

 

えー、今回は茶番nuさんところのフリーゲーム精霊の庭」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

エンド分岐有、性描写有、BLノベルゲー。

ファンタジー要素も含みますが、民話・神話に近い雰囲気で、不思議とストイックな印象を受ける作品です。

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

無表情アクティブ主人公、エディハ

 

顔グラ差分は豊かですし、驚いたり困ったりもするんですが、何故か無表情クールの印象が強い主人公です。

で、好きなポイントの一つが、作中でエディハはめったに笑わないところ! 地の文の描写もそうですし、顔グラもそう。

そして作中で誰も言及しないから、プレイヤーだけがハッと気づくんですね。“あの”エディハが笑った、と! 

この、気づいてこそ強く伝わってくる実感がたまりません。しかもその笑顔もまた、エンドによって複数意味合いを含んでいるのがすごくて───ゾクゾクします。

 

あと性格的な面だと意外にアグレッシブなのが印象的。真顔で自壊していく姿は、時に不安にもなり、時に天然で微笑ましくもなります。このギャップが素で起こる辺りが、本当にこう、キャラ以上に一個人として息づいているなー、なんて。

 

 

 

忠義の男と好奇の男

 

さて攻略対象はと言うと、こちらも良い具合にパッキリと個性が分かれています。

 

特に、キールが攻めっていうのがすごくツボなんですよね……。前線に突っ込んでいくエディハの手綱を握りつつ、あっさり逃げて適材適所。後衛タイプって何かと受けに配置されがちなので、本作はそういう属性に囚われず二人の関係上自然とキールが上になる感じが生々しくて萌えました。

キール、狡猾ってわけでもないところが好きなんですよ。享楽寄り、でいいのかな。研究者だなあとは思うんですが、下手すると何も知らない子どもの様にも見えます。でも頭は良いから、不和は自覚できてるんですよね。そのうえで享楽にレバー入れてる感じが好きでした。

 

さて、もう一方の攻略対象、レウドも忘れられません。THE主従と言わんばかりのキャラで、すごく常識人なところに驚きました。なんというか、前作で出会ってきたキャラが皆癖があったり内的な欠損が見事にシナリオのテーマと絡んでいたりしていたので、ここまでしっかりガッツリ優等生なキャラが出るとは思っても見なかったんですよね……。

ネタバレ絡むので詳しくは追記に入れますが、レウドが優等生だからこそできた展開もあったように思います。

 

また、サブキャラにもちょっとしたCPがいまして、こちらの関係性もすごく萌えました。心底同調するわけじゃないんだけど、離れないし離れられないしみたいな、この、想いに差はあるし形も違うけど傍にいる関係性が響くなあと思います。

 

 

 

精霊に守られる幻想的で腐臭のする世界観

 

精霊と言われるとこう、光というか、清らかで自然に根差していて恵みをもたらす何者かというイメージを受けます。そして実際、本作の精霊は確かにその通りです。……一つの側面だけ見れば。

いやあ、精霊と言ってあれをお出ししてくるの、初見時ほんと衝撃だったんですよ。女神についてもかなりえげつないことが起こってますし、心底、民話や儀式の世界だなあと思って震えあがったんです。こういう世界観本当大好き。

キャラの関係性や恋愛だけでなく、世界全体として、一つのお話としてもかなり味わいがいのある内容でした。

 

なお未プレイの方への説明として、血がブシャー、みたいなグロはありませんし脅かし要素もありません。ただ、想像するタイプの方や、精神的に削られるのがしんどい方はけっこうキツイ気がします。例の監禁シーンとか……。

なお私は大好きなのでもろ手を挙げて喜び、心を痛め、震え、味わいました。

 

 

 

エンディングの選曲

 

私エンディングを迎えてあの曲が流れ出した時、本気で身震いしたんですよ。あんな、あの曲をこの展開に選ぶのか!という。

もうこれは是非ともプレイして感じて欲しいんですけど、エンドの雰囲気に対してすごく曲の印象が違ってて、でもガチっとハマってるんです。戦闘曲をエンドロールに持ってきたり、カジノでデスメタルが流れてたり、なんかそういう型破りの意外性を感じました。

行く末に暗黒しか見えないエンドにあの勇猛な曲を選ぶことが、本当に、震えるほどセンスを感じるんだ……。

大好きです。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

泥と闇の中で真っ直ぐに立っているような印象の作品です。神秘的な世界、常識感覚のズレたキャラ、友とも恋とも呼び難い関係性などにピンとくる方へ熱烈におススメしたい所存。

 

追記ではネタバレ感想など。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

続きを読む

フリーゲーム「デュオストーリア」感想

「見た目が全てではないけれど加算がされないわけでもない」

プラスはもちろん頂いておきたい前置き。

 

 

えー、今回はZIBETA.labさんところのフリーゲームデュオストーリア」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

シスコン弟と絶対零度ショタコンな姉がゆく、一本道短編RPG。ノリはギャグまっしぐら、難易度は二種類あるのでサクッと派の方もがっつり派の方も楽しめるかと。

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

生成術と錬金術

RPGとして面白かったのは、生成術および錬金術のシステムです!

まず姉弟のキャラクター性がゲームシステムとして生きているのが素敵。そしていつでもどこでもアイテムや装備が作れるこの仕様、作品のボリュームとの相性の良さも感じます。

 

というのも、短編RPGってスキルを覚えたりアイテムを手に入れたりしても使いきる前に終わっちゃう印象が強くありまして。そうなると特に道具屋やお金、ドロップアイテムは言葉通り宝の持ち腐れになりがちなんですね。

でも本作は必要なものさえ作ればいいし、余ったマナは仲間の入れ替えに使えるしで、色々とお得な感じがありましたねー。それに回復魔法使えない姉弟にとって、特に生成術はかなり重要になります。

きちんとオリジナルシステムが重要なものとして機能しているという点がかなり好きでした。

 

 

 

おいでませイケメン召喚獣 

パーティメンバーは姉弟が固定ですが、この他に2名の召喚獣をお好みで呼び出すことができます。

獣といっても人間体、これがまたイケメン揃いなんですよ! 個性もしっかりあって、しかも連れ歩くとちゃんとレベルアップしてくれるのでどんどん愛着が湧いてきます。

 

嬉しいのは、一度パーティを解散して再度呼び出しても育てたレベルは維持されるところ! てっきりアイテムみたいな扱いなのかと思って、レベルリセットになるのではとドキドキしてたんですよねえ。なのですっごく嬉しかったです!

また、最終戦に連れて行った召喚獣には一言コメントをもらえたり、初召喚・再召喚・帰還の3パターンに分けて台詞が用意されているので、会話差分も細やかです。

キャラとしてはガーディアンが好き!! わかっちゃいるけどときめいちゃうんです、実際強いし!

 

 

 

全力シスコンナルシスト弟

さて、ストーリーとしては、漫画的に言うと連載物の読み切り版って印象です。今までもこれからもこの姉弟は旅をしてきていて、弟の問題の区切りがついたら良い感じに平和にまとまってくれるんだろうなあというのが伝わってくる感じ。

 

私の嗜好としてはストレートにバカップルな両想いが好きなので、ネシカのツンツン冷たい対応はちょこっと合わないところがあり……。謎の少年のおかげでエルマノが一見当て馬っぽくなるところも併せて好みではないなと思います。

が、ネシカ→ショタの反応とエルマノ→ネシカの反応のシンクロっぷりは好きです! こういう似てるポイントが見れるのは姉弟ものとして実に萌えです。あと、エルマノのネシカ大好きっぷりや、自信たっぷりポンコツ感も好き。実力のあるナルシスト(ただしうっかり屋)みたいな。隙があるキャラは微笑ましくて良いですよね。

 

あと、姉のほうがパワー系で弟のほうが魔法使いタイプなところも好き。魔法使い男大好きです。

 

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

お互い大事なんだなという絆はしっかりと伝わってくるし、明るいプレイ感で楽しい話でした。

 

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

フリーゲーム「僕彼彼女彼女とコバルトブルー」感想

フリーゲーム「メリースウィート&ビター」感想

フリー版「ビハインド・ワンズ・バック」感想

フリーゲーム「空と白おばけ」感想

「あの空の様に、高く遠く包み込む何かでありたかった」

人は透き通るには余分を抱えすぎている前置き。

 

 

えー、今回はTwilight.◆さんところのフリーゲーム空と白おばけ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

 

一本道、探索あり、会話差分等確認しつつクリアまで2時間くらい。謎解きや追いかけっこは無しで、動かす読み物に近い雰囲気です。

 

で、前置きとして、私的な総評はマイナス寄りでした。なのでちょっと批判気味、閲覧注意です。ネガティブ見たくない方は赤字までスクロールして頂くと良いかも。

一応後味が少しは良くなるように、まずは合わなかった点から。

 

 

 

あなたのせいではなく誰かのせいなお話

 

一言でいうなら本作は泣きゲーです。

探索→回想→探索の短編連作のような形式で進んでいくんですが、どの物語にも涙があり、傷があり、喪失があります。この展開自体は好きです、誰かの心に触れて一つずつ浄化していく展開、キャラ重視ADVの王道ですごく良いよな~って思います。

 

ただそこで合わなかったのが、慰めの表現の仕方について。

ほとんどのエピソードに明確な元凶や雑な悪がいて、なんというか、正義の圧が凄まじいんですよ。すごくすごく意地悪い言い方をすると、「私達は黙って耐えるけど、あいつらが悪いって、プレイヤーさんはわかってくれるよね?」みたいな圧。「あなたのせいではない」という慰めが優しさではなく「あいつが悪いせいだ」にすり替わってしまうような展開が多く見られて、正直不気味でした。

なんだろうな……。表面上は、皆が皆を許し合って慰め合う温かな世界に見えるんですが、本質が真逆なんですよね。傷を受け入れるっていう展開のオチで、逆に傷が消されてしまったり。同情や共感で涙しがちなキャラが、最後の最後で痛烈に相手を拒絶したり。綺麗な物語を作ろうという意識が強いのか、逆に、悪や傷を一切許さず歪めて消して排除していく攻撃的な作品に見えてしまいました。

 

なので、感動ゲーとして作られているのであろうことを踏まえたうえでも、「優しい話」とは思いづらいかな……。

 

 

流した涙も三度重ねるとお腹いっぱい

 

ゲームとしてのテンポは良く、各種進行の気遣いもあってさくさく進みます。ここは後述するとして……。

一方で、テキストのテンポはかなり間延びしています。まず、重複するやり取りが多い点。例えば「一緒に行こう」「うん」が「行こうか」「そうだね」「一緒に行こう」「うん」になるみたいな。もちろん、じっくり時間を取って噛み締めさせたい時には大いに良いやり方だと思うんですが、常にこんな感じで話が進むのでダレがちです。

 

続いて、回想について。本人が過去を語る→回想シーンが入る→本棚でエピソードが語られる、と同じ話を三回見ることになります。特別な別視点や知られざる伏線はなく、同じ展開を言い換えだけで三回繰り返します。まあ最後の一回は探索をガン無視したらいい話ではあるんですが……。

まあこれは流石にそれ昨日も聞いたよお爺ちゃん、みたいな気分になってしまうのは許して欲しいところ。

一枚絵を入れたいなら本人が語り出したところで回想に転じたり、主人公の反応を入れたいなら回想の途中でシーンを区切ったり、最後のエピソードはポエム的に三行でまとめて思い出の一頁としたり、それこそ色々やりようはあったかなと思います。

 

まとめると、説明過多で反復がくどい。

グラフィックにかなりのパワーを感じる作品ですし、顔グラ変更だけでもずいぶんとプレイヤーに感情は通じるものだと思っています。なので、何でも説明しようとするのではなく、多少の想像の余地や遊びを設けておくとより心に響いたのではないかなー、なんて。前述の圧も減るかと思いますしね。

 

 

 

 

 

と、マイナスな話題はこのくらいで。

要はテキスト面が合わなかったな~って話でした。

 

続いて良かった点について!

 

 

 

 

しっかりした誘導と配慮

 

まず感じたのが、ゲーム進行がしっかりしていてとっつきやすいこと!

本作の世界は白黒と青空で構成されています。こうやってマップの色数に制限をつけると、普通だと通行可能な場所や調べられる場所がわかりづらくなってしまって、ちょっとしたところで詰まってしまうパターンが往々にしてあるんですね。

しかし本作はここが違います。白い鳥の示してくれるポイントを調べればよい、というシンプルさ、これがものすごく効いてるんですよ! 鳥のいるポイントがまた上手くて、明確に調べるべきものが伝わるような位置にいてくれます。鳥がぱたぱた羽ばたくことで視認性がぐっと上がっているのも素晴らしい。

色を絞りつつ、進行はさくさく。プレイヤーへの配慮が行き届いている有難い設計だなと感じました。

 

 

会話合間のセーブや豊富な会話差分

 

長めの会話や回想の合間には、操作可能のタイミングを設けてプレイヤーの休憩時間を作ってくれます。会話自体は前述の通り少々間延びしている印象が強いんですが、こうしてセーブするタイミングを作ってくれるのはとても助かりました。

ツクール製でメッセージログが見れるのもさりげなく超技術。細やかな気遣いが光ります。

あと嬉しかったのは、寄り道のタイミングが分かりやすい点。会話分岐や差分を集めるのが好きなので、羽根を拾うごとに、あるいはそれ以外のタイミングでもみんなの反応が少しずつ変わっていくのが楽しかったです。

毎回飲むものが違うあの子が好き。

 

 

 

幻想的なグラフィック

 

さて、最後に上げるのはやっぱりここ。圧倒的なグラフィックのセンスの良さです。タイトル画面やスクショを見て、透明に遠く響く青空にぐっと心を掴まれた方も多いのではないでしょうか。

私、喫茶店が一番好きなんですよー! 

屋内で見える圧倒的な空、本当に綺麗で、マップ入った瞬間に思わずスクショ撮っちゃいました。大好きです。

 

やっぱり感動ものって演出、グラフィックがものを言うジャンルだと思っていまして。その点本作はかなり“強い”作品だなと感じました。小難しく考えず、画面を見ているだけでも呑まれてうるっと涙しそうなくらい、上手い雰囲気作りがされています。魅せ場となるスチルもあり、おまけ絵もあり、プレイ時間に比べて枚数としてもなかなかのもの。グラフィック面は満点って感じでした。

 

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

泣きたい気分のときに泣ける映画を探す、みたいな感じで、ライトに感動ものを探している方には合うと思います。