「恵みの満ちた森で私はただ生命を続けさえすればよかった」
快楽なるものは全て余分であった前置き。
えー、今回は茶番nuさんところのフリーゲーム「精霊の庭」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
エンド分岐有、性描写有、BLノベルゲー。
ファンタジー要素も含みますが、民話・神話に近い雰囲気で、不思議とストイックな印象を受ける作品です。
というわけで、良かった点など。
無表情アクティブ主人公、エディハ
顔グラ差分は豊かですし、驚いたり困ったりもするんですが、何故か無表情クールの印象が強い主人公です。
で、好きなポイントの一つが、作中でエディハはめったに笑わないところ! 地の文の描写もそうですし、顔グラもそう。
そして作中で誰も言及しないから、プレイヤーだけがハッと気づくんですね。“あの”エディハが笑った、と!
この、気づいてこそ強く伝わってくる実感がたまりません。しかもその笑顔もまた、エンドによって複数意味合いを含んでいるのがすごくて───ゾクゾクします。
あと性格的な面だと意外にアグレッシブなのが印象的。真顔で自壊していく姿は、時に不安にもなり、時に天然で微笑ましくもなります。このギャップが素で起こる辺りが、本当にこう、キャラ以上に一個人として息づいているなー、なんて。
忠義の男と好奇の男
さて攻略対象はと言うと、こちらも良い具合にパッキリと個性が分かれています。
特に、キールが攻めっていうのがすごくツボなんですよね……。前線に突っ込んでいくエディハの手綱を握りつつ、あっさり逃げて適材適所。後衛タイプって何かと受けに配置されがちなので、本作はそういう属性に囚われず二人の関係上自然とキールが上になる感じが生々しくて萌えました。
キール、狡猾ってわけでもないところが好きなんですよ。享楽寄り、でいいのかな。研究者だなあとは思うんですが、下手すると何も知らない子どもの様にも見えます。でも頭は良いから、不和は自覚できてるんですよね。そのうえで享楽にレバー入れてる感じが好きでした。
さて、もう一方の攻略対象、レウドも忘れられません。THE主従と言わんばかりのキャラで、すごく常識人なところに驚きました。なんというか、前作で出会ってきたキャラが皆癖があったり内的な欠損が見事にシナリオのテーマと絡んでいたりしていたので、ここまでしっかりガッツリ優等生なキャラが出るとは思っても見なかったんですよね……。
ネタバレ絡むので詳しくは追記に入れますが、レウドが優等生だからこそできた展開もあったように思います。
また、サブキャラにもちょっとしたCPがいまして、こちらの関係性もすごく萌えました。心底同調するわけじゃないんだけど、離れないし離れられないしみたいな、この、想いに差はあるし形も違うけど傍にいる関係性が響くなあと思います。
精霊に守られる幻想的で腐臭のする世界観
精霊と言われるとこう、光というか、清らかで自然に根差していて恵みをもたらす何者かというイメージを受けます。そして実際、本作の精霊は確かにその通りです。……一つの側面だけ見れば。
いやあ、精霊と言ってあれをお出ししてくるの、初見時ほんと衝撃だったんですよ。女神についてもかなりえげつないことが起こってますし、心底、民話や儀式の世界だなあと思って震えあがったんです。こういう世界観本当大好き。
キャラの関係性や恋愛だけでなく、世界全体として、一つのお話としてもかなり味わいがいのある内容でした。
なお未プレイの方への説明として、血がブシャー、みたいなグロはありませんし脅かし要素もありません。ただ、想像するタイプの方や、精神的に削られるのがしんどい方はけっこうキツイ気がします。例の監禁シーンとか……。
なお私は大好きなのでもろ手を挙げて喜び、心を痛め、震え、味わいました。
エンディングの選曲
私エンディングを迎えてあの曲が流れ出した時、本気で身震いしたんですよ。あんな、あの曲をこの展開に選ぶのか!という。
もうこれは是非ともプレイして感じて欲しいんですけど、エンドの雰囲気に対してすごく曲の印象が違ってて、でもガチっとハマってるんです。戦闘曲をエンドロールに持ってきたり、カジノでデスメタルが流れてたり、なんかそういう型破りの意外性を感じました。
行く末に暗黒しか見えないエンドにあの勇猛な曲を選ぶことが、本当に、震えるほどセンスを感じるんだ……。
大好きです。
とまあ、こんな感じで。
泥と闇の中で真っ直ぐに立っているような印象の作品です。神秘的な世界、常識感覚のズレたキャラ、友とも恋とも呼び難い関係性などにピンとくる方へ熱烈におススメしたい所存。
追記ではネタバレ感想など。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレ全開で各ルートの感想など。
キール
私初めに行き着いたのが、エディハが血に酔うエンドだったんですよ。やっと見たエディハの笑顔があれですよ。ああもう大好きだなって思いました。
それもあってなのかなあ、この展開にあの曲を当ててくるところがほんっとうに凄まじくて、怖くて、かっこよくて、もうなんも言葉が足りないくらいガツンと脳髄を殴られました。
このエンド、エディハが子どもみたいになってるところがすごく好きだったんですよ。キールに慰めてもらえばいいや、みたいな、甘えと好き勝手が同居してるところ。前までの生存本能だけで動いてるみたいなエディハが、新しい娯楽を知ってはしゃいでる感じがします。
一方で、彼を取り巻く世界は着々と退廃していくところもえげつなくて大好きです。静かに風化していく、停滞を求めて腐っていくというのがすごく素敵で怖かったです。安心感があるのに破滅しかないんですよ……。ここまでたどり着けるストーリー回しの上手さも含めて、大好きです。
キールとエディハはかなり、気心知れてる関係にいると思うんですが、話が進むごとにキールのほうが戸惑いを重ねていくところが興味深かったです。
「キールは正直なだけだろ」「言葉を飾るのが嫌いだけだ」みたいなあの台詞が大好きなんですよー!
観察しているつもりだったキールが、逆は想像していなかったんだろうなって。これすごくキールらしいなあって思うんです。
キールは好奇心が全部外に向かっていて、“自分が”恋愛をするとか、“自分の”子どもができるとか、そういうことに関心を持たなかった人なんだろうなあと解釈しているので。
あと、丸く収まるエンドでエディハの行動がかなり奇想天外というシーンを挟んであるところも好きでした。さも当然のように見えていたエディハの生活は、あの島を出たとたんに異物になるんだなあと思って、そこに改めて注目させてくれたことが嬉しかったんです。
私は驚いてるキールが好きなのかな……。エディハはキールにとって面白い起爆剤なんだろうなあと思っていて、その関係性がツボでした。
レウド
印象に残ってるのが、エディハが軟禁される一連のシーンです。
徐々に弱っていくのが刺さるのも勿論なんですが、その直前に入れてるシーンがまた上手いんですよ。エディハがじっとしていられない性質だっていう、もう日は昇ったかなっていうアレ。あのシーンが挟まってるからこそ、エディハにとってあの扱いが文字通り死ぬほど苦しいんだってことがより差し迫って伝わってきて、目の前が真っ暗になりました……。心底素敵な演出だけど心から苦しい展開でもあり本当大好きです。
レウドの敬語が外れる過程も好きですね! 私はてっきり、仲良くなって距離が近づけば敬語が外れるもんだと思い込んでたんですよ。いやあ、違った! この意外性が良かったですね~。
そしてそこを臭く語らずに、ありのまま受け入れているところも好き。キールですら突っ込まないところがすごい良い塩梅だなと感じます。それぞれ突っ込まない理由は違うんだろうなあとも思いますし。
レウドが最後まで命令を遵守するところも好きなんですよ。生きたいルートでも、エディハの声を待っているところ。ああ本当にこの人優等生なんだなあって思いました。
あれ、普通にありがちでテンプレな行動をとるなら、衝動のままにガッと手を取って走り出したくなっちゃうじゃないですか。物語の盛り上がり的な意味でも。でもそうしないのは、本当にレウドという人があの場に立って生きて彼の意思でもって生きてるからなんだなあって感じがするんです。そして敬語が取れたのも、レウドにとってエディハが“仕えて”守りたい人ではなく、“好きだから”守りたい人に変わったからだったのかなあ……と解釈しています。
レウド自身がめちゃくちゃ理性的な人なので、果たしてどうやって濡れ場シーンに行くのか全く予想がつかなかったんですが、なるほど納得。想像つかない展開が、なるほどなあと思えるような流れで起こるの、心底すごいなーと思います。
総括として。
攻略対象が二人だからか、何かとシンメトリーな構成でした。主従と従主なところもそう。外の人と中の人なところもそう。
中でも特に、キールルートは言わなくても伝わる、レウドルートは言わないと伝わらない、という対比がされているように感じます。そしてそのどちらも、すんなりと納得のいく結末に落ち着くのが本当に素敵でした。