「全員が幸せになるなんてのは絵空事だと常識を語って楽しいか」
周りが笑顔ならそれでよしな前置き。
えー、今回はことりさんところのフリーゲーム「バッドウェディングクラッシャー」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
エンド分岐あり、ティラノビルダー製の恋愛ノベルゲー。ギャグと鬱が休む間もなく舞い降りてくる民族ものです。20190923現在は公開停止中のようですので悪しからず。
良かった点
ハッピーエンドを掴み取れ!
今回はちょっと変則的に、私の攻略順から話していきます。
ふりーむ説明文に勢いよく書かれている通り、本作はバッドエンド回収後のハッピーエンドを推奨されています。が、私は鬱展開好きでしててっきり本作も、私の好きな展開を最後に見て終わりたいなーと思って、先にハッピーエンドの回収をしちゃったんですね。
もうね、実にもったいないプレイをしてしまいました! 人の言うことを聞きなさい私!
本作のハッピーエンドはつまるところ、トゥルーエンド的な立ち位置なんですよ。バッドで躓いたところがしっかり解決されていって、しこりが残るけど今までの道のりが報われる――みたいな、あれです。なので私のような嗜好の方も是非、好きなものを先に食べに行ってください…。
公式説明文にネタゲーバカゲーと書かれまくっていたので、ここまできっちりまとめてくれるとは思わなかったですね。良い意味で。
草原の風を感じる異民族描写
本作の魅力の一つが溢れる異民族描写。
民族模様の布が敷かれ、弓が飛び馬が駆け月が満ち、豊かな自然の中で血肉を争う部族間のやり取りがあり――――等々。ファンタジー世界でもこういう草原の民的な部族を主とする作品は個人的になかなか出会えていないので、とても新鮮でした。猛禽が止まり木にできるよう腕にカバーがつけてあるなど、随所に「わかってるぅ!」とお囃子を入れたくなる描写がいっぱいです。
民族織物、部族の因習婚姻儀礼、男の三つ編み、などなど私自身好きなところも多くて楽しかったです。誘拐婚という文化を知れたのも嬉しい。冒頭とエンドのムービーが、民話・絵巻物風に描かれているのもすごく雰囲気が出て素敵でした。
勢いよく世界観をぶち壊すメタギャグ
さて、そのように誇り高く脈々と受け継がれる草原の民を土台として――
勢いよく自らの世界観に殴りかかりブッ壊していくのが本作です。
いやだってふりーむのキャッチコピー引用しますが、「幼馴染みの絆を守り抜く為にマッチョが花嫁姿になって奔走するハートフルボッコバカゲー」ですよ。雄大な自然もはだしで逃げますよそりゃ。いやさすがに本編中で大自然が逃げることはないんですけど。
本作は一人称視点のノベルなんですが、遠慮なくRPGのパロディ的なギャグが入ったり、今をときめくギャル用語がぶち込まれたりと、バッドウェディングのみならず世界観も盛大にクラッシュしていきます。
普段であれば私はこういうメタギャグにかなり否定的なのですが……こと本作においてはここが良いなと強く思いまして。それは笑えたからという意味だけではなく、後述する「素の感覚」に近いものを感じるからなんですよね。
また、異国の民族もの、という私から離れて見える世界観の中で置いてけぼりにならずキャラ達を身近に感じたのは、こういった容赦ないメタギャグ部分があったからなのかなとも思います。
素の言葉で想いを語るシナリオ
さて、最もよいと感じた点が、先にも上げた「素の感覚」、ナチュラルな語り口です。
実は本作、鬱展開はとことん重く、血も情念も呪いも飛び交います。そんな状況だと人ってこう……普通ならカッコつけたり誤魔化したりして、凄惨な展開に何か意味を肉付けしようとしがちだと思うんですよね。そういう気負いみたいなのが本作にはなくて、「彼らの言葉がここにある」と感じられる語り口だったんです。伝わるかなあ、これ。固定観念的な台詞も多く出てきますが、あれは反論として意図して描かれているものでしょう。
具体的に言うと、ハッピーエンドルートでカルタルが覚醒した後のトールの口調がすっごい好きだったんですよ。正しいとかわかんねーよ俺、でも見たくねーもん、みたいなあれ。もう完全に感覚が一般市民なんですよね。この素の感じがすっごい好きなんです。そうだよなあそうだよなあと頷きたくなる。
バッドエンドのゲルダの「一人だけに」って部分も好きですねえ。なんだろうなー、人それぞれの気持ちが、変な装飾無しに生の声でぶつかってくる感じがしました。
カルタルが最後にてんやわんやしながら幸せなキスをするところもすんげぇ好き。ああいう慌てふためき方とかが、作りものじゃなく、素で見られそうな感じが好きです。
合わなかった点
システム周り
これはティラノビルダー自体の問題かもしれませんが列挙します。
①オートモードがない。
②セーブロードの時の確認ボタンがない。分岐が多くこまめなセーブを推奨されているのにも関わらず、上書き事故が多発しやすくなっています。
③セーブロード画面が見づらい。黒背景に黒字なので時刻表示やメッセージが一部見えません。
④起動するたびにOPが始まる。エンドの演出的に意図はわかるんですが、物語の途中で区切りたい時に不便。
⑤重い。上記に付随して、他ノベルゲーと比べて.exeが起動するまでかなりかかります。ざっくり換算で3倍くらい。
⑥メッセージ表示速度の調整がない。デフォルトの文字表示はかなり遅め。
⑦選択肢でスキップが止まってくれない、バックログがない。周回プレイで油断するとテキストを読み飛ばす。
などなど。
あとあとがきで著作権に触れられていましたが、そこ気にするならヤラナ・・は大丈夫なのかなー、なんて。ググってみたけどニコニコモンズしかヒットしなかったんですよね。気になるき。
立ち絵表示の仕方
ちょくちょくキャラの立ち絵表示がバストアップ超えてもはや顔だけに見えることがありまして。ゲルダが多かったかなあ。この方のお目目の描き方がすごく好きなので、ドアップで見れるのは嬉しいんですが。
プレイヤーの目線的にはメッセージウィンドウから上が立ち絵に見えている気がしてまして。つまり現在はデフォルトがすでにバストアップに見えてる状態なので、立ち絵表示をもっと小さくする?引きで置く?などしたら良いんじゃないかなーと思います。
地の文の説明感
セリフだけで状況がわかるのに地の文で過剰に説明しているところがちらほらあり、テンポが悪かったです。特に本作は勢いで魅せるところもあろうかと思うので惜しまれます。ハッピーエンドルートで特に多かったかな。
最後に熱く主張しておきたいこと
本作の圧倒的な独創性
最後にちょっとえらそうに語らせてください。
本作の長所だと私が感じている、「ギャグと鬱の紙一重」「雄大な民族的世界観」「メタメタ超展開」は並みの作品であればマイナスとして取られてしまう点だと思います。
とにかく相互の食い合わせが悪すぎる。ただでさえ鬱展開には煽りの風が吹きやすいうえ、ギャグゲーという看板や、何一つ暗い要素の無いお気楽ハッピーエンドが来るかの様に読めてしまう説明文などを含め、何かと危うい因子を持っています。それに勢いがあるということは人を振り落とす可能性も勿論あるわけで、はっきり言って人を選ぶゲームだと強く感じます。
が、こと本作においてはこの路線を貫いてくれてよかったと心から言いたい。
これね、他の人の視線とか意識しだしたら絶対このゲームの最大長所である「素」の感じが薄れちゃうと思うんですよ。
なんか、本当、不思議な感覚の余韻が残るゲームです。リアルなキャラがいるのではなくフィクションのキャラの声が生で聞こえる感じ……。
このゲームだけでしか味わえない良さはあります。過剰にも過小にもならずマイウェイを走り続けてほしい……。ほしかった……。作者様の情報は集めていなかったので公開停止のご事情はわからないんですが、気が向いたらまた創作活動してくださったら嬉しいなあという気持ちです。
とまあ、こんな感じで。
なんか、こう、すごい。鬱があるからとかギャグがやばいからとかそういう意味ではなく、独自性をすさまじく感じるゲームでした。うん。カルタルがとても好き。
暴風雨を感じたいあなたに。
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