うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「Sweet Painful Utopia」感想

「大人になるには十分で、君を思い出にするにはまだ足りない」

そんな一か月を過ごしたい前置き。

 

 

えー、今回はKIJI-N-CHI(きじんち)(kiji)さんところのフリーゲームSweet Painful Utopia」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

人外少女四人でルームシェアする百合ノベルゲー。エンド分岐有り、性的描写の匂わせあり、日常の描写が中心の、ほのぼの切ない雰囲気な作品です。

というわけで、良かった点など。

 

 

異文化交流が堪能できる人外もの

 

メインメンバーは、吸血鬼、妖精、人魚、猫に育てられた魔法使いの四人。ルームシェアして人間界で過ごす、という流れから察せられる通り、各自の過ごし方からして色々と個性があって、まさに異文化交流を感じられる作品でした。

主人公が人間界の子なおかげで、変に突っかかることなくすんなりとお互いの日常を共有できているところが好きです。なんていうのかな、余計な不和やドタバタがなくて、ぬるい温度のゆったりとした日常が過ぎていく感じ?

 

例えば食生活が違っていても、それも美味しそうねって言い合うし。例えば仲良しでも、四六時中一緒ではなくそれぞれ個室と自分の時間と秘密の過去を持っているし。お互いの過ごし方を尊重して、心地よい距離感で過ごしていく──そんな雰囲気が味わえました。

 

 

ルートが決まっても顔は合わせる仲

 

エンド数3つとあるように、各キャラのエンドがありますが、明確なルート分岐は存在しません。その場その場で選んだ選択肢の合計でエンドが決まる感じなので、全てが共通ルートであり個別ルートともいえるような構成です。

つまり、いつでも皆が仲良しな雰囲気なんですよね。二人組、三人組で掛け合いすることもよくありますし。特定の子だけと愛情を育むのではなくて、皆が緩やかに繋がって、深入りするかどうかでエンドが決まるみたいな雰囲気でした。これぞルームシェアだよなー、なんて。主人公とお目当ての子の二人だけじゃなくて、四人でそこに住んでるんだ、っていう空気感が如実に感じられます。

 

さて一方、気になる面もありまして。

いわゆるノーマルエンド・キャラ無しエンドがないので、流れに流されてつまみ食いしながら進んじゃうと、せっかくのエピソードを見ないままエンドに入っちゃうことがあるんですよね。選択肢ノベル全般に言えることかとは思うんですが、特に本作は一日一日のエピソードが切り分けられている印象が強く、終盤一日抜かすだけでけっこう印象が変わって見える子も出てくるかと思います。

ですので、一直線に一人を追いかけるプレイをおススメしたく……いやいやでもつまみ食いプレイすることでルームシェアの和気あいあい感が楽しめるよなあという気持ちもあり……うーんうーん!

とりあえず、全部の選択肢を試したくなるゲームだということは主張しておきます!

 

 

繊細なフレームと滑らかなフォント

 

プレイして頂ければわかる通り、本作の雰囲気はかなり濃密かつ繊細に作られています。とろけるくらい甘くて、メルヘンで、時々生々しくてドキッとする、香り立つような雰囲気。ああ、女の子に求めるイメージってこうだよなあ、って思っちゃいました。

本作、何故かゲームなのに香りの印象が強いんですよ。プレイしてて、アロマやお花の世界に飛び込んでいる感じがするです。すごいですよね。なんでだろうな。すごいな。

 

で、そういった雰囲気作りを何が成しているかって考えた時に、やっぱり全体的なグラフィックのデザインが長けているからかなあと思いました。

まずはフォントから。「隼文字」というフォントで記事を書いている201901現在はサイトが休止中のためDL不可なんですが……まるで文通する時みたいな細くて滑らかなフォントです。本作は背景画像の透過具合に気を遣ってあるので、細身のフォントでも読みやすく感じられました。

文字の配置もすごく凝ってるんですよね。ぎゅっと心が苦しくなる一文が、中心で表示されてより印象に残るなど。多めに取られた余白が雄弁な配置でした。

 

続いてフレーム。これも作者様のあとがきで詳しく紹介されているんですが、いやあ、どれもすごくお洒落なんですよ! セーブロードウィンドウのこぢんまりとした大きさも相まって、なんかメニュー開く時についわくわくしちゃいます。

 

そして最後に! BGM

斬新だなあと思うのがほぼほぼ歌入り曲なところ。それこそカフェっぽい、ゆったりと時間が進んでいく雰囲気でした。

私、歌入りだと文字を追うのがかなり難しくなってしまうタイプなんですが、本作のBGMは外国語でかつ呪文めいた雰囲気で乗せるように歌ってくれているので、可読性も高かったです。

一つの素材元様から選ばれているとのことで、統一感があって耳に心地いいんですよねえ。中でも好きなのはサクラの曲かな? でも、一番聴いていたのはカーミラの曲だと思います。ぼんやりと流して聞きたくなる曲。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

ドキッと思わず目を逸らしてしまう蠱惑的な雰囲気と、温かでゆるやかな紅茶にも似た雰囲気、両方が味わえる百合ゲーでした。

 

追記では一人についてだけちょこっと。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

 

 

ネタバレ注意です。

 

 

 

 

 

 

カーミラについて

 

いや、どの子も好きなんですけど、なんだか強く印象に残って色々考えたくなったのがカーミラなので、ピックアップして語ります。

 

凛とした佇まいで、教養を身に着けていて、女の子から告白されたこともある。そういう子が書庫に篭りがちなのが初めは意外だったんですよ。するなら外で体動かしてたり、あちこち見て回って見識を深めたりみたいな印象。だから、内にこもって黙々調べ事しているのが意外でした。

だけど一通りクリアして、自分は帰ると決めているサクラやメロウと違って、カーミラだけが「残る」って言うことに気づいたんですよね。そうしたらガラッと見方が変わりました。

 

本当は色んな調べ事したり臆病肌だったりする姿の方が、カーミラの素だったんだろうなあって。主人公がちっとも怖がっていないのに、怖がらないで、と震え声で言う彼女こそが一番の怖がりだったんだろうなあってようやっと気づけて、たまらなく愛しさが募りました。

 

そもそも初めに攻略したのがカーミラだからっていうのも、きっとあるんでしょうけど。なんだかそういう気づきがあったから、一番印象に残っている子です。

 

 

 

エンド

 

次いでもうちょっと、エンドについて。

 

本作、人間界に残るエンドが一つも無いのがすごく興味深いなあと思うんですよね……。あのシェアハウスって、何かと向き合うまでの仮住まいなんだよっていう主張が強く出ていると思います。だからこそ、皆が心の中のハードルと折り合いを付けられたら、魔力が戻っていくんですよね。ここの繋がり実に唸りました。

誰か一人でも人間界に残るエンドがあるのなら、この作品のタイトルから「Painful」は失われていたんだろうなあ。そしてそうなるともう、UtopiaがUtopiaでなくなってしまう気がするんです。だから、良いエンドだったなあ。

 

 

 

主人公の名前

 

デフォルトネームが無いのでかなり悩みました。

普段主人公名はルートが別でも統一する派なんですが、本作だけはエンドごとに別の名前にしてました。なんか、同じ主人公が複数の子を攻略するぜ、みたいな気持ちを入れたくなかったんですよね。個人的に。

育った経緯を考えたら外国名でも良いだろうし、現代で暮らしてることを考えたら日本名でも合うっていう、主人公の経歴がフレキシブルなところさりげなくありがたいなーと感じました。

 

ちなみに自分は、

  • カーミラ→ピケ 
  • サクラ→ユリ 
  • メロウ→ララミー

です。いつもの三十秒で決める法則。

他のプレイヤーさんの主人公名も気になりますね! 公式サイトのスクショで見られるお名前の由来もひそかに気になるところです。

 

 

 

語りたいところはこんな感じ。

 

主人公含め、向き合うべきものと向き合うことになる皆のこの先を、見えないけれどそっとあたたかく見届けたいなあと思える作品でした。