「ずっと一緒にいようね、が、呪いに変わったのはいつ?」
あの時の気持ちは本当だったのにな前置き。
えー、今回はplacentaさんところのフリーゲーム「ランドセルは天使の翼」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
ルート分岐はあるものの、実質は一本道でトゥルーエンドに収束するノベルゲーム。男主人公で少年と戯れる、となるとBLと思われそうですが、違うんですよ……。でもなか、対等な友達とも言いづらく……しかし確かに膨大な少年への愛は感じる……。
なんとも形容しがたい作品です。とにかく少年好き向け。
需要にお届けしたいのでうっすらと作風のネタバレはします。未プレイでネタバレ嫌な方は要注意。
というわけで、良かった点など。
色んなショタと幸せな夏を過ごそう!
まず、ショタの解像度が高い!!
ここに尽きます。こう、ショタと一緒に遊ぶというと造詣の薄い私は公園でサッカーくらいしか思い浮かばなかったんですが、違うんですよ。ショタとの遊び方は無限大なんです。それを思い知らされましたね……。
動物園に行ったり、体育祭の父兄席で応援をしたり、自転車の練習をしたり。一緒になってゲームをしたり、水遊びをしたり。保護者目線でも友達目線でも楽しめる多様なシーンがあって、その一つ一つに少年時代の輝きが込められていて、実に爽やかでした。
何よりもう、公式サイトのキャラクター紹介の時点で質感がうかがえますよね。名前の書きとり、採点、そしてランドセルの形と色。唸りました。
理想の子どもは一瞬で
ノスタルジーといえばいいのか、夏や少年時代の「限られた時間」をひしひしと感じる作品でもあります。そのぶん、大人になってしまった眼差しの曇り具合や、劣等感など、暗い感情にも触れていくお話です。
特に素晴らしいのが、この一瞬のきらめきヘグッとプレイヤーを引き込んでくれるところ! 文章での引き込み方が上手いんですよね……。さらさら読み進めていたレーンからガクッと急にズレてまた戻ってくる、この読み飽きない構成がすごく面白かったです。
例えば公式のキャラ紹介にある含みのある一文、各ルートの終盤のガッと殴りつけてくる勢い、要所要所で一言直球で叩きつけてくるセリフ、などなど。あらゆる使い分けがもう、気持ち良かったです。
少年を救い救われるストーリー
さて、そんな明るく爽やかな夏を過ごす中、本編のストーリーはどのルートでもふっと影が射します。
天真爛漫な子、小生意気な子、優等生、甘えたがり、などなど。少年たちに付与されている属性も様々ですが、どの子も共通して言えるのは、「理想的な少年」です。併せて、登場する全てのキャラクターはとある「問題」も抱えています。
遠く想い出の中に存在する君というなかば偶像崇拝にも似た流れから、今そこで苦しんでいる君へ手を伸ばすところまで。どちらの感情も痛いほど味わえます。夢と現実の両方を突きつけられるところがとても素敵でした。
とまあ、こんな感じで。
ここまで書けばお察しの方もいらっしゃるかと思いますが、ただショタとキャッキャするだけのノベルゲーではありません。でも、公式紹介詐欺とは絶対に言いたくないし、やっぱり公式のスクショ通りただただ少年と遊ぶ作品でもあるんです。
なんというのかなあ。柔らかい心や、傷つきやすい気持ちを、それでも柔らかいままで持っていたい方向けのお話な気がしています。
ちなみに、既プレイの方へ!
公式サイトにも記載はありますが、各ルートごとに追加シナリオがあります。クリア後もう一度同じルートを見ると少しだけシナリオが書き足されます。そこまで長いわけではないのですが、「なるほどね……」としたり顔になれるのでオススメです。是非。
追記ではネタバレ感想。
ネタバレ注意で少しだけ。
まず、私って基本的に魔王タイプなんですよ。
永遠を望みたい、ずっとここに居たい、変化なんて嫌だ、前向きな未来を信じる勇者になんてなれない。そんな感じ。
だから耀くんにはものすごく感情移入したし、劣等感も大人になり切れないというくだりもすごく刺さって、かーなーりメンタルやられました。
特にヤバかったのがお出かけ先で癇癪起こして泰牙に気を遣われるシーン。あそこめちゃくちゃ共感性羞恥がやばくて、オススメルート順の初手でここか……としみじみした覚えがあります。
なんかこう、気を遣われるほうが逆にキツイっていう……でもそれで暴れたらさらに子どもっぽくてもっともっと腫れもの扱いされるっていう悪循環……。ここを的確に刺すように書き切っている筆力が素晴らしかったです。
生々しさという意味では太陽ルートもなかなかにヤバいですよね。介護疲れみたいな、この、好きなのに嫌いになりかけちゃうみたいな、うまくいかない辛さ……。
いやでもこの太陽ルート、トゥルーエンド見た後だとすごく響くんですよ!!!
太陽一人で手一杯だった耀が、あれだけ多くの子どもと触れ合って、前向きにして行けたんだなあっていう。これこそまさに成長ですよね……。
等々書きつつも、一番ぶっ刺さったのは駿也のあれです。甘えられるのが嫌、なぜなら、のくだり。ここにきてようやく、やっと身に迫るような形で彼のおかれている環境が情報ではなく感情として理解できて、ゾッと寒気がしました。
でも、これら全部のシーンがやっぱり私は好きだし、これらがあったからこそラストが理想論ではなく魂の表明として響いてくれるよなあと思います。
願わくばもっと幼い時にプレイしていればよかった。こうして拗らせる前に、子どもの視線でこのお話の希望を齧りたかった。
でも、そしたら大人へ期待して口を開けるだけの子どもになっていたのかなとも……。うーん。なんか違うんだよな、それは。
ダイレクトに身に染みる時期に出会えたと思っておいたらいいのかなー、ということにしておきます。
心の柔らかいところをグラグラと掻き毟られて抉られたうえで、それでもその奥にある古傷を撫でてくれるような、辛くて優しくて前向きなお話だったなあと思います。おわり。