「恋は人を狂わせる、それを誰かは魔と呼んだ」
それでも幸せだから大丈夫な前置き。
えー、今回は嫌気性ネオテニー(鍵虫)さんところのフリーゲーム「木陰のアンチクリスト」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
エンドまでは一本道、一部やり込み要素ありのRPG。ふわっと百合。魔女の師弟もの。
というわけで、良かった点など。
魔女と異端狩りと恋の話
やっぱりストーリーとセリフ回しが好みだったのでそこを推して参りたい!
まず、メインキャラ二人の関係性ややり取りがとても和やか。
ししょーを慕う元気いっぱいな弟子チコリー、
落ち着いた雰囲気でありながら時にはほだされてくれるウルティカ、
どちらも魅力的でした~!
「恋」というパワフルで切ないものをガツンと叩きつけてくれる、あのストーリー展開が大好きです。
一方で、「魔女」が主役であるとおり、物語の根幹はかなりダーク。
このダークな面が匂わせのような形で見せられるのもまた、とっても好みでした。ダンジョンギミックやちょっとした探索、敵キャラの容姿や行動などなど、どこをとっても深読みしたくなる要素が盛沢山。
ちなみに、ボスバトルの前口上もめちゃくちゃカッコよくて好きです。再戦でイベントスキップしてもキメ台詞は読めるの、ものすごく助かる。
まとめると、メイン二人だけに着目するとほのぼの、でもその奥底は……という感じで、とっても素敵でした!
あちこちで強調される太陽と月
本作で幾度も出てくる「太陽」と「月」、この要素の使い方がすごく好きでした!
ゲームを始める難易度選択の時点で、「うわ好きだー!!」ってなったんですよ。システム用語を作中の世界感で表現してるフリゲ大好きです……。
バトルでは二属性に絞ってシンプルに、短編ゲーのボリュームにぴったりな遊びやすさでした。キャラの性格としてもわかりやすいですし、天体なのがこれまた魔女な世界観って感じで好きです。
そしてダンジョンの謎解きでは、まさかの場面でこの二属性が登場してびっくりしました。ちょうどバトルでも隊列変更の重要性に気付いた頃だったので、相乗効果で上手いな~と思わされましたね……。
俗な話をすると、キャラ同士の関係性を太陽と月で表現するヤツすごい好きなので、想起されてにやにやしちゃいました。
宣言があるからこそ燃えるバトル
さて、前述の通りバトルの難易度を選べる本作。
私は(ふつう)でプレイしたんですが、いや~これがなかなかに強敵ぞろいでめちゃくちゃ楽しかったです!
味方側にバフデバフの技がないところもさりげなく良バランスだな~と感じましたねえ。私は敵のバフはデバフで打ち消すという発想しかなかったので、「バフはされる前に行動妨害で防げ!」なのがものすごく斬新でした。あと、味方のステータスは気にせず状態異常だけ考えればいい、ここも前述の短編ボリュームにぴったりなシンプルさだなーと感じます。
全体的にはパターン行動をする敵が多く、MP回復手段の制限もあいまって、詰将棋めいたバトルを求められることが多かったかな?
バトルがしっかり厳しい分、プレイヤーへのサポートが充実していたところもしっかり注目したいですね。
中でも特に嬉しかったのが、「時計石」!!!!!
自動で今何ターン目かがわかるこのアイテム。そう、プレイヤーがいちいち今何ターン目で……と数えなくていいんですよ! しかもターンを消費して使用する必要すらなく、ただアイテムコマンドを見るだけで良いという! こんな素晴らしい発想、もう、五体投地ですわ。
このほかにも細やかな部分で助かるなあと感じることが多く、隅々の配慮がとてもありがたかったです……。
お得で楽しいやり込み要素
エンド一つで一本道の本作ですが、やり込み要素はしっかりご用意されてます!
中には一度トチると取り返しのつかなくなる項目もあるので、1周目での全達成は難しいかもしれませんが……。ストーリーの真相を知ってからまた見返すとかなり見え方の違ってくるシーンも多くあるので、むしろ2周目への導線と考えると面白いのかも。
例えば宝箱などは、置き場所が隠してあるものと開け方に謎解きが混じってるもの、二種類あるのも楽しかったですね~。探索のしがいがあって腕が鳴りました。
あと、クリア後の要素になるので詳細は控えますが、プレイ実績がこれまた世界線に合わせた演出で見られるのもポイントです。これは集めたくなっちゃうな~!
とまあ、こんな感じで。
さくっとプレイしたい方は謎解きゴリ押しもできて、がっつりプレイしたい方はバトルも探索も腰を据えて楽しめる短編RPGでした!
ダークでセンチメンタルな百合を堪能したい方にオススメです。
追記ではネタバレ感想。
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ネタバレ注意!
用語覚書
sapiens habet divitias in se:賢者
per aspera ad astra:困難を超えて星を掴め?
vita brevis ars longa:技術の習得には時間がかかるため、時間を無駄にしてはならない
calamitas virtutis occasio est:災難は勇気を試す機会である
vivere est militare:生きるとは戦う事である
隠しボス
[攻略覚書]
チコリーは封殺剣or回復
ウルティカは終焉打てる時に打ってそれ以外はずっと瞑想
1ターン目
取り巻き召喚 絶対妨害して止める
2ターン目
回復したり攻撃入れたりするタイミングだがチコリーは緋恋幻想やデイブレイクを調子に乗って連発すると封殺剣のMPがなくなるので慎重に
3ターン目
詠唱妨害
封殺剣で律義に止めてたけど、チコリーが敵の妨害を回避してくれると信じて祈りながら回復や攻撃をしてもOK
4ターン目
強技 可能な限り妨害で止める
チコリーが防御でワンチャン耐えれるが、その場合ウルティカは次ターンではなく次々ターンで起こす事
4ターンで周期リセット
[イベント感想]
そもそも山羊頭な時点でサタンを彷彿とさせてくれるこのお方。しかしプレイ中はまさかそこまで位の高い方とは思わず、ぎょっと驚かされました。
隠しボスと戦えるようになってから、本人がいた場所には代理が置かれるようになっているのもまた、芸がすごく細やかで大好きです。ミッキーは一人だけみたいな。こういう演出、さりげないけど良いんですよね~!
道中ボス「人に非ず」を倒した後のセリフが気になっていたので、ここで伏線回収されて気持ち良かったです。
※以下本編のエンドを前提とした自解釈など※
チコリーだけでなくウルティカもまた、「恋」で背中を追うものだったとわかる……。
この展開、たまらんグッときますね……!!
ウルティカが恋を終わらせてしまったように、いつかチコリーも恋を終わらせてウルティカと決別する時がくるんでしょうか。それとも、鮮烈な恋をぎゅっと胸に抱きしめたまんま、その身を捧げるんでしょうか。弟子だからといって同じ道を歩むとも限らないのがまた、色々と妄想も膨らみます。余韻のある良いイベントでした……。
ウルティカがチコリーを奪う手を止める……というのも可能性としてはもちろんあるんですが、個人的にはウルティカの道を完遂して欲しい気持ちもありますね~! 自らの恋を捨て、チコリーにも全てを棄てさせ、さあ天上人に思い知らせてやろうという。
でも本編のエンドだと十分に力が整いつつあるようでしたし、存外ウルティカとチコリーの二人で悲願を叶えて、あとは余生をのんびりと二人で暮らす……というのもありかもしれません。
可能性無限大。すごく嬉しい。妄想楽しい。
こうして色々考えていると、二人のこれからを定めずに、プレイヤーの解釈にゆだねてくれたところが一番好きと言えるかもしれません。
いや~やっぱ、チコリーの選んだ回答がめちゃくちゃ好きなんですよね~。
あんなお返事を言われたらもう、なんか、「ならもう応援するしかねえよ!」ってなっちゃう感じがすごく、胸に来ました。
納得のあるお話、本当に大好き。ゼラさんはそれでも頑張って手を引こうとする善人で、立ち向かってくる側にも「そうしたくなるよなあ」という納得があり、どちらにもしっくりくるストーリーだったなあと思います。
濃厚で大満足な一作でした!