「意味だのモチーフだのを解説しておけばそういうことになるんだろう?」
作者の気持ちを創作していく前置き。
えー、今回はうきうき雨季(6月)さんさんところのフリーゲーム「夏と化物」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
一本道、読了まで10分くらいのノベルゲー。
夏、学生、絵を描くということ、死体。流血暴力表現あり。
というわけで、良かった点など。
美術の道へ進む学生に刺さる狂気
絵の具のような作品。これが一番の感想でした。
乾いてパリパリ剥がれ落ちるドライさ、溶けて混ざってじっとりと残る混沌、どっちの雰囲気も味わえます。冷たい熱……? 社交性のあるサイコ……。
読者を痛めつけてやろうみたいな暗さはないものの、爽やかというよりは、カラッと狂った世界観を感じます。
「夏は醜いものを隠さない」
「審査員だって、先輩の思い出作りに協力してくれるほど親切じゃありませんよ」
等々、魂を感じさせられるセリフが多くてそこも好きでした。
絵を描く、で出会ってしまった二人
序盤の展開を少しだけ書いてしまうんですが……。
ゴーストライターのイラスト版。実力のある絵が描ける彼と、絵にそれらしい付加価値をつけるのが得意な彼女が、出会ってしまったことで物語は進みます。
作者を偽る展開というと、たいていはそれが暴かれたり名誉欲が起こったり……という展開が思い浮かびますが。本作は「そうじゃない」ところが大好きです。
賞を取ることや壇上に立つことは、二人にとって価値の本質じゃないんだろうな……。
誰も理解できないし、入り込む必要もない関係
絵以外に全く興味がない根暗くん・宇野。
絵に魅入られているドライなメガネっ娘・永瀬。
どちらも静かに狂ってて大好きです!
二人にとっては不要な常識や倫理をさくっとカットした会話が好きでした。二人が分かり合ってるからというより、前提部分を二人とも不必要としてるから話が早い。助かる。テンポが良い。
彼らの大切にしたいものや生き方がただ、大多数とズレているだけ。そして、そのズレを特に矯正しなくても構わない環境がそこにある。苦悩する人達とは別の次元で、彼らはただただハッピー。そんな感じ。
ただ、「絵」だけで繋がっているわけではなさそうというのもすごく興味深かった点です。
とまあ、こんな感じで。
絵を描くこと、世界の見え方、静かな情熱と狂人にピンと来る方はぜひ。
追記ではネタバレ感想。
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ネタバレ注意!
永瀬
ありのまま受け入れることが得意な子なんだろうなあと感じました。本質を見抜く力があると言ってもいい。
特に、常に怒りっぽい顔をしているサブキャラの高間さんの登場シーン。うるさいのが嫌な宇野に対してもそうかな。「この人はこういう人」というのをそのまま受け入れて、相手に合わせられる人。ただし、自分の苦になったり不利になったりするなら合わせない。
つまり、自己の芯がある! 相手の芯も見抜ける!
だから、おもねようと思えばできるし、プロデューサー目線で審査員の求めるものをキャッチすることもできる。ただし、審査員の求めるものは本質ではないとも思っている。
いやー、良い。
この短編に、これほどの生々しい人間性を詰め込めているのが実に良い!
公式曰く「雑」で、確かにドライには感じるんですが、その雑さが心地よい人間は私含めむちゃくちゃいっぱいいそうな気がします。
生きるの上手い子だろうな、と思います。
欲しいものが手に入りづらい子だろうな、とも思います。
宇野の絵に会えて良かったね……。
宇野
ステータスが極振りされてる過集中クン。
死体を描きたがる描写が印象的ですが、果たしてそれは彼にとって珍しいからなのか、興味を惹かれるからなのか、理由なく描くのが彼にとっての自然なのか、何なのか……。凡作であればそっちに重きがいきそうなところを、本作はもうそれはそれで割り切ってる潔さがあって、そこがすごく好きでした。
生命活動を放り捨てても絵さえ描いていればいい、というのは、ある意味貴族の道楽にも通ずるものがありますよね。
宇野君が絵だけで問題ない環境にいることも、一つの奇跡でもあるよなー、なんて。
ふたりの関係
あとがきを見るに、二人は将来的にも恋愛関係にはならないんだろうなあ。
永瀬は宇野がリアルのくだらない嫉妬に巻き込まれないよう盾になることをよしとしていたり、宇野は永瀬を描きたがっていたり。絵が見たい/描きたいという動機はあれど、目的が叶うから一緒にいるというだけでも無い……。
一言で言い表しづらい関係を、こうしてしっかり物語を通して描けているところに惚れ惚れします。