「臭いものに蓋をしようとするからいつまで経っても澱んだまま」
頭の底にこびりついた毒物も堂々とお出しする前置き。
えー、今回は藻太郎さんところのフリーゲーム「さらばケゴール島」「おいでよ自殺者の森」「もぐれケゴール洞窟」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
どれもVIPRPG、クリアまで1時間くらい。
全作共通の感想
シンボルエンカウントRPG
まず、作品としてはシンボルエンカウントRPG。戦闘もコマンド選択型のベーシックなもので、バフデバフにさえ気をつけておけば何とかなるくらいの難易度です。
同作者様だとおなじみ、キー押しっぱなしですれ違うと敵が倒せる「介錯」システムも健在なので、レベリング自体は困らないはず。ただし店はないので、きちんと敵を倒していかないとアイテム不足にはなるかもしれませんね~……。
なお、敵はゴメスだったり性器だったり変態だったりします。SEもどぴゅどぴゅあんあんしまくるので音量注意。
初めはドギツイ下ネタに見える敵たちも、出生へのアンチテーゼだと感じてくるから不思議ですよね。確かにグロくはあるしなあ……。
思索にふけるNPCたち
この作品の神髄はやっぱり、NPC達の繰り出す鋭いメッセージの数々でしょう!
例えば、共感を重視するコミュニケーションに対する絶望。安易に上っ面を浚うだけの消費者の暗愚。痛烈な意思をもって語られる、「産まれてきたくなかった」の繰り返し……。
彼らのセリフはどれも内省的で、そのほとんどが自分に向いているように感じます。それでも時折差し込まれる疑問が、なんだかこちらの首をギュッと締めにかかられているような心地になりました。
喪男……。この時代にまだその概念が通じるのか若干の不安が頭をよぎりましたが……。
俺なんてダメだ、と、ファッションではなく、本気で断絶を感じ自らを痛めつけ続けている方には特に合う作品のはずです。
さくっと一言二言なのに、よく効くんだよなあ……。
こういうマイナスな感情や思想をどんとありのままお出ししてくれる作品は、なんというか、居心地が良くて好きです。こういうのを“持ってても”アリなんだなと思えるので……。
して、ここからは作品個別の感想!
『さらばケゴール島』
https://viprpg2017gw.x.2nt.com/games/19.html
[概要]
ウィンディ(ウィンドⅠ)の病気が完治した。旅立とう。
[感想]
治ったというのは果たして治ったと本当に言ってよいのか?
病、いじめ、性犯罪、どれもこれも人格形成に影響を与えるもの。それらの原因が消失したからと言って、果たしてすぐさま健常となれるのか?
そういう感じの話だったのかなーと解釈をしています。元通り、が、元通りになるわきゃないよなーみたいな。
上記の解釈だったので、エンディングがかなり前向きで明るかったのは意外でもありました。でもシンプルに、旅立ちってそうであってほしいよな。
なれないものはなれない、と、しっかり刻み付けたうえでなりたいものになろうとしていくような誠実さと力強さを感じました。
マップ全体が地続きで、広さはあり海はあれど、狭い一つの世界だと感じられるのが好きです。さらば!
[一言]
ウィンディがたくましく練り歩くのを見届けたい方に。
『おいでよ自殺者の森』
[概要]
男三人衆の自殺道中。死ぬぞー! うおおーーー!!
[感想]
ホモ、男の娘、ヤク厨。いざ!
……いやいや「いざ」じゃないとは自分でも思ってるんですが、マジでこういう感じのノリなんですよね。本作。
タイトルから受ける印象よりは明るかったです。死という一般的にはマイナスとされるであろうベクトルに向かって、どこか希望をもって着実に登っていく感じ。
各々が生きづらさを感じるきっかけともなった者たちを殴り倒して、目的へと向かう。この構図だけ見れば、試練を乗り越え夢を叶える王道展開とも言えます。
中身は万人向けから遠く離れておりますが! 私にはこれが良い。
ただ、ジャイとスネにはそこそこ苦戦しました。おのれ全体魔法。
死に場所や死に方が劇的で壮大ではなく、美化されず、身の丈に合った彼らになじむ形であるところも好きです。
[一言]
『天井のきらめきがかすかに香る甘くただれたあんみつ味である──アハシュエロスもさぞや喜ばしかろう。』
『もぐれケゴール洞窟』
viprpgmsmkohaku2018.web.fc2.com
[概要]
女三人かしまし救済道中。シリーズ完結作な位置づけでもあり、ウィンディも自殺者男3人も登場します。
[感想]
才が枯れるとは?
凡庸な共感は習得できなければ淘汰されるのみなのか?
究極、私とは?
創作することや産みの苦しみ、世に出した創作物に対する評価についてなどが主なテーマだったように思います。この手の話は特にオタクへぶっ刺さるところも多いんじゃないかな。
「素晴らしい物語を書く才能をください!」「あの人がもう私より良いものを書いてるんだから私が書く意味はない、意味はあるかもしれないが気力はなくなる」みたいな。
中でも、表現家のアーシアとウィンディの舌戦シーンはすごく良かったですね~……。
この手の話って「答えはないよ」とか無理やり前向きに「あなたにしかないものがあるよ」とかに帰結しがちですが、本作はそういうごまかしなく、きちんと行きつくところまでとことん向き合っていたのが好きでした。
悩みに悩んだからこそ、フッと視界が晴れるような感覚。天啓ではなく、気づき。
ウィンディも、誰かの言葉じゃなくて自分の経験で掴んだからこそ、あの結末が受け入れられたのかなー、なんて。
[一言]
社会への帰属、人間関係、創作活動、あらゆるものにお疲れの方へ。
以上、総括
いや~しかし、この作者様のゲームの感想を書くときって、なんか、身構えてしまいますね!
いやあ、刺さるセリフは多々あったんですよ。ただ、こう、本作は難しい単語も概念も出てくるので。頭の悪さを知的ぶって晒していたり、そこじゃないんだよなーっていう輪郭の部分ばかり撫でていたりしそうな気がして、アレ。
誰しも1度は考えそうなことを、掘って掘って掘り詰めている、そのままそれだけのような気もするんだけどなあ。
ともあれ、まとめると、RPGではあるけど、NPCの口を借りて漏れ出る沈思を黙読するのがメインの魅力となるであろうシリーズでした。
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