「ご安心ください、私に生存本能というシステムはプログラムされていません」
使い潰すも使い続けるも人間側のご自由な前置き。
えー、今回は喘葉の森(饗庭淵)さんところのフリーゲーム「人類滅亡後のPinocchia」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
SF。終末世界の閉鎖空間で、女性型アンドロイドを造ったり切り捨てたりしながら、前進と撤退のみで進むノンフィールドゲー。いわゆる雪道ゲーに近い。
クリアまで私は4時間。ただし、作中の文書資料をじっくり読み返していた時間も含むので、実際は3時間半くらいかと。
というわけで、良かった点など。
血の通わぬ説明文と、人間くさい手記
ゲーム内で大量の文書資料が読める!
読み返せる!
時系列に並んでるー!!
この手のアーカイブ読み込みゲーが好き私はもう両手を叩いて猿のごとく喜びました。もうね、たーのしいんだこれが!
長編小説でも名を馳せる作者様ということもあり、文量はどっしり。そのうえで文書は数ページごとで区切られるので、読みやすく頭に入ってきやすい。重要なエピソードや攻略のヒントは色文字で強調されている親切っぷり。
余談:私選好き小説第一位
(上記は違いますが、Pinocchiaと世界観を同じくする別作品もあります)
そして内容もこれまた良いんですよ……。
色んな内容を織り交ぜてあるので、どんなプレイヤーもどこかには興味が沸く、プレイが続くようなスタイルを取ってあるように思います。
終末世界だからこそできる皮肉たっぷりなジョーク。
絶望的に強い攻勢機械とのドラマ。
閉鎖空間に植え付けられた寄生体と人類の対立を描くサイエンス&サイコホラー……。
「SFと言えば工学用語や専門の熟語がいっぱいで難しそう」。そんな私の偏見をスマートに切り崩してくれる作品でもありました。
思念記録という設定を駆使することで、「死に際で何を悠長に長文綴っとんね~ん、ドッワハハ」問題も解決しています。お見事!
ディストピア? ポストアポカリプス?
閉鎖空間でアンドロイドと、と来ればこなれたオタクはパッと「管理AIによる暴走」が頭に浮かぶことでしょう。もちろんその手のディストピアものも王道に面白く、熱いものです。
しかし、私が熱く推したいポイントはあくまで主役が「人類」であること!
本作のアンドロイドは徹底されています。何を? 上下関係を。人に隷属し、命令を順守することをです。
もちろん彼女たちは見てのとおり、人の形を取り、感情を見せるような言い回しや司令官への助言もしてくれます。が、そこに情を見出すのはあくまでプレイヤーのみです。彼女たちがプレイヤーに命令をすることは無いのです。
やりそうなところをあえてすかしていく切り口が面白かったです!
仲間ではなく資源です
作中で手に入るものは全て解体できる。
ここもわかりやすくて奥深いシステムでした。資源として用意されているスクラップやジャンクとは別に、アイテムも解体可能。共に戦ってくれたアンドロイドまで……。
なんなら作中では仲間という表現すらされていない(はず)なんですよね。私が一方的に仲間だと感じているだけで。
傷がつけばつくほど回復量も減る設定も、使い続けるよりとっとと解体した方が良いという思考に拍車をかけます。
だからこそ、アンドロイドにそれぞれ名前を付けられるのがまた、ニクイ! そんなん愛着沸いちまうに決まってるじゃあないですか!
一方で、使われることこそ我が使命みたいな恩着せがましいことも言わないんですよね。バランスが良い。
決して悪ではない、むしろシステム上は推奨されている行為のはずだけど、なぜか魔が差したと感じてしまうんですよね……。演出が上手かったです。
白髪美人がよりどりみどり!
硬派に見える本作ですが、スクショからもわかる通り、アンドロイドはごりごりに性癖を感じるデザインをされています。
ここで満を持して言わせて頂こう、おっぱい!
ピチピチスーツにどいんと胸が突き出ている子もいれば、絶壁ちっぱいのスレンダーロりもいて多種多様。腹筋の割れ方が製造型によって6つと4つで違うところも、こだわりを感じます。太腿の発光体が筋繊維っぽく見えるのも、フェチっぽさ強くて、良い~!
そもそも初めに出会う子がイカ胎ロリボディですからね。そらもうよ。お察しよ。
髪色や無表情が共通なところもまた、元が同じ製造型って感じがして好きですね。アンドロイドらしさ。たまらん!
グラフィックで言うと、カットインも好きです!
初めて製造した時、初めて上層に到達した時……。プレイヤーの高揚感を刺激してくれるカッコイイ演出でした……!
とまあ、こんな感じで。
つい演出やストーリーを推したくなりますが、プレイヤーの遊びやすさの面にもすごく配慮の効いている作品です。クイックセーブロードやショートカット回復、調べるべきポイントが発光する演出などなど。
なので、気になった方は是非お気軽に。
そして夢中になって、人類の行き先を見届けましょう。
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
真相を含む完全ネタバレ注意!
爆破する鶏
にわとり怖いよ~!!!!!
同作者様の作品では恒例になりつつある、爆破する鶏。もちろん本作でも猛威を振るいます。『厄災は目覚めず』か何かでも登場してなかったっけ?
正直出オチして終わりだと思っていたので、まさか終盤まで引っ張るとは思いもしませんでしたね……。
亡き娘の遺志を継いで残された機械に育まれた人類が「肉食いてえ」で滅びる。このあっけなさ。むなしさ。鬱展開のはずなのに、そうと言い難い葛藤。
もっとあるだろ……!
もっと、ドラマティックなものに、できるだろ……!!
でもそれをしないからこそ最高なんだよな……!!!
ものすごく滑稽でどうしようもなく人間臭くてとてもとてもとても好きです。
汎用型
汎用型がマジで何にもならないところ、最高。
いや、ちゃんと育てる意義はあるんですよ。むしろ、ちゃんと育てきってから解体したらキットとコアが戻ってくるので、汎用型1機が最強アンドロイドである万能型1機とトレードできる。ものすごいポテンシャルを抱えています。そこはわかってるんです。
でも、それはそれとして、どれだけ育てても「ありがとう」で終わるのすごく刺さりませんか!?
大事に育てはしたけど、彼女を彼女のままで連れ歩くメリットは皆無っていう……。いずれは解体した方が絶対良いし、それを彼女自身も当然と思っていそうな……。抵抗感があるのは私だけっていう……。
上手い。
プレイヤーの心を手玉に取るのが上手い。
すごい安産型な体型してるのもまた、色々と深読みしてしまいたくなります。滅びた人類の母となった最高型を初期型のロリが産むのか……。
何にもならないことがこんなにも印象に残るんだなとしみじみしました。
洪水を起こしたのは主人公?
宇宙船をノア、大虐殺を洪水と例えるの、良い~……。
機械的な舞台に神話が入ってくるの、なんだかロマンを感じません?
物語の解釈も人によって違いそう、というか、あの文章量を咀嚼して理解できるプレイヤーさんは意外と限られそうな気もしています。
とりあえず私の考えは以下の通り。
- 寄生体VS人類が始まり
- 途中で寄生体を心棒するカルト教団が発生
- 人類の脅威が謎の寄生体からだんだんとカルト教団にシフト
- もはや寄生体は終わった話になったが教団は止まらない
- 教団(無能な働きアリ)VS軍部(有能な少数)の構図になる?
- 軍の司令官である主人公は既存の人々を放棄、新天地へ向かうことを決意
- 主人公の目的は「人命が残る」ことではなく、人類という「種族・文明・歴史が残る」こと
って感じの解釈をしています。
……見当違いなことを言ってそうで怖いな~!
作中にある通り、VSという表記も正しくないんですけどね。
ここの説明がしっかりしているおかげで、「寄生体は人類を滅ぼさない」「人類滅亡となっている現状は寄生体と別の存在によるもの」という理解がしやすいのもありがたかったです。ちゃんと第一の謎が解決したら第二の謎を生む構造になってる……。
主人公が目覚めた時点で、宗教や寄生体については「もう終わった話」になってるところも良いんですよね……。こう、我が手で殴り飛ばせないからこそ、強大で不穏な因子として心にこびりつく感じ……。
単語・小ネタ
私が知らなくて調べたことのまとめ。
Pinocchio
イタリア語の女性名詞は-a、男性名詞は-o、よって女性型アンドロイドが主である本作はピノキアになったと思われる。原語は木切れで作った人形。
CELSS
controlled ecological life support system。閉鎖生態系生命維持システムと注釈があったが、「外部からの物質補給なしで人間が活動できるような閉鎖系」のことらしい。機械工学事典https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/doku.php?id=02:1011750より引用。
ユートピアの対義語。上位存在に番号で管理されたり格差が機械的に設定されたりしている社会が大衆的なイメージっぽい。
ポストアポカリプス
ポスト(後)アポカリプス(終末)。つまり、世界が崩壊した後を描くジャンル。
その他・総括
特に語りたいところはこの辺かな?
にしてもこの作者様は、「もう元凶は終わってる物語」を描くのが上手いですね……。というか、キールニールの関わるこのシリーズは全部そこを意識して書いてるのかな? そこらへんはそれこそ作者のみぞ知るになりますが。
彼女たちを解体する際に心を痛めるか、それともただそのようなプログラムとみなすか。これがそのまま、プレイヤーの本作のプレイスタイルにも反映してきそうな気もします。
まとめると、とにかく、むちゃくちゃ楽しかったです!