「朽ちてもあなたは同じ姿で、ずっと笑顔でいてほしい」
人にも物にも叶えられない願いだからこその前置き。
えー、今回はU.C.murar(内村徹)さんところのフリーゲーム「骨董少女」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
ちなみに、作品に同梱されている公式サイトの方は一部コンテンツがデッドリンクになっているので、上記リンクから飛べるTwitterがメインの活動拠点と思われます。
クリアまで30分強くらいの探索ゲー。追いかけっこや脅かしは無し、謎解きは序盤にちょっとだけ。
寂れた街を舞台に、物に宿る少女と共に故人の思い出を追う話。決してホラーではないのですが、雰囲気やテーマから誤解されがちかも。実際は心に響く感動ものです。
というわけで、良かった点など。
レトロで洋風な付喪神たち
訪れたのは、亡き父の骨董店。
メインキャラとなるのは、物に宿る魂の具現化である少女達──。
まあざっくり言ってしまえば付喪神なんですが、こう書くと途端に和風ゲーを連想しちゃいますよね。ですが、本作の世界観はあくまで西洋な雰囲気。
あらすじとしては、色んな少女たちにきゃっきゃと絡まれながら亡き人達の足取りを追っていくような流れになるんですが……。一見はハーレムなストーリー構成に反して、作品の世界観は硬派で寂寥感のある感じです。
なので、ライトに楽しみたい方にも、しっとり夜を過ごしたい方にも、色んなプレイヤーさんに向いていると思われます。
くすんだ色合い、寂れた街
着目したいのがマップグラフィック!
まず、全体的に彩度が抑え目。良い感じに埃被ってる、曇りがかってる雰囲気が感じられるんですよ。
個人的に図書館入り口が一番好きですね! 経年劣化による物の変色に、味わい深さや美しいグラデーションを付けられるのは、やっぱフィクションならではだなあと思います。
難点としては、特に1章でプレイヤーの行動誘導が甘かったかな?
探索の区切りで行き先がふっと提示されなくなったり、ヒントは○○時(hour)なのに桁が3桁だったり。あと、通路にドアがあるタイプのマップでは出入り口がわかりづらいことも。
ただ、2章からは指定された地点へ行くだけになるので、あくまで序盤限定かなーとは思います。察しの良い方やこういう探索ADV慣れしてる方は十分簡単でしょうし!
そして、メニュー画面などのUI面はものすごく親切! パッと見だけでどう操作すればいいのかわかるので、すごくプレイしやすかったです。
何より立ち絵表示がレトロオシャレかっこいいのだ……。
今はもういない人たち
探索時の反応メッセージがかなり丁寧なんですよ!
どれもね、かつてはここに人が“いた”痕跡を見せてくれてね……。当時の賑わいが思い浮かぶとともに、今の静けさがじんと沁みるような、そんなテキストが多いんです。
あと、決してポエム調なテキストばかりじゃなくて、主人公ヴィクターの等身大なセリフが混じっているところも好きですね! 図書館の本の片づけめんどいセリフとか、地球儀を調べた時のサイズ感のくだりとか。
等身大でその場にいる、という実感を感じさせてくれるメッセージが多かったです。
「亡くなった人たちの足跡を追う」という本作の流れともマッチしていて、素敵だったな~……。
あなたの記録が答えになる
主人公は形見の万年筆を肌身離さず持ち歩いて、手帳に日々を記録するようにしています。
そう、記録です。
すなわち、セーブです!
このゲームシステムとストーリーがきっちり噛み合う感じがすごく素敵でした~!
さて、セーブがストーリーと関わると聞くと、セーブ禁止ギミックが頭によぎって苦い顔になっちゃう方、いらっしゃるんじゃないでしょうか? かく言う私もなんですが。
ですがご安心ください、本作のセーブ関係はあくまで演出の範囲に留まってくれます。ここも、プレイしやすさとストーリー性をちょうどよい塩梅でMIXしてくれてて好きです!
とまあ、こんな感じで。
追記ではネタバレ感想。
ネタバレ注意!
単純にエンディングのネタバレであるというのもあるんですが……。
本作の結末を、けっこう穿った意地悪い見方をしてしまっている点が多々あります!
というわけで、ここから先は色々な意味でご注意のうえ、寛大な目で読んで頂ければ幸いです。
誰かが傍にいるということ
まず、きちんと前提から。
ヴィクターがかなり幼い時から母親を亡くしたことも、父にすら甘えられていなかったことも、伝わってくるんですよ。
エクストラでのちょっとした会話もね……すごく良かったですからね……。家族がそろっていたころの和気あいあいとにぎやかな感じと、一変して、気遣い合いながらもそこか寂しさを挟みながら物静かに時を進ませていった感じと……。
また、第一章のゲルトのセリフからも、「いい歳した大人だからこそ甘えられない」、ヴィクターはずっと誰かに甘え損なってしまう危惧が示唆されていますし。
何より、父の「1人は寂しい」という気持ちが骨董少女達とヴィクターとの出会いに繋がったわけですから。
ヴィクターはもう1人じゃない!
ここが本作の結末であり、温かさであるはずです。
もし、ここまで読んだ方の中に、未プレイかつネタバレ歓迎派だから先に見たよ~って方がいらっしゃったら、ここは誤解なさらないよう切にお願いいたします。
さてここから穿った見方です。
25歳成人男子
そのうえでやっぱり、下記の通り感じてしまったので、ここは素直に述べたい。
あの結末の、「自立できてない成人男のお世話を焼いてくれるママ彼女ができた」みたいな構図にゾワゾワきてしまったんですね、私!
これ自分でもなぜここまでこんな生理的な嫌さを感じてしまっているのかわかんないんですよ~……。作品の手段は冒頭のとおり、一応自分なり解釈できてるつもりだし、そもそもフィクションなんだし。
ヴィクターの年齢かな……? それか、彼が少女の頼みを聞いて動くっていうシステム上どうしても常に受け身に見えるから……? こじつけっぽい気もするな……。
雑に生きててそれを窘められる構図が、ママ彼女感強くてキツかった……?
デリアの持つ役割が重複しているから脳が混乱しているのかも?
父にそっくりとあちこちで言われるヴィクター、母と紐づける演出が見受けられるデリア、キーアイテムが指輪。デリアを恋人としたいのか姉としたいのか母としたいのか、みたいな……。
元々、恋人に母の面影を見出す、みたいな展開に生理的な抵抗感があるので、そこの地雷に引っかかっちゃったのかもしれません。
でもマジでこんな過剰に反応するべきところじゃないはずなんですよね!
既プレイヤーでもし私と似たように感じた方がもしいらっしゃったらご意見聞いてみたい所存です。「感じねーよ!」って方はきっと大多数なので大丈夫です。
ネタバレ込みで印象深いシーン
と、これだけで終わってしまうのもなんだかよろしくないので、ネタバレ込みで素敵だったシーンなど。
まずはやっぱり、ゲルテ(1章)のラストシーンですね~!
ぼろぼろのホールであえて、「この美しいホールを」と述べるゲルテがすごく素敵でした……。彼女の眼にはかつての姿が見えていたんだろうな……。
あと、カルメンの章の写真と博物館にあった大きな絵の相関性が気になっています。
色合いが違っているだけで同じ柄だと思うんですが……。
あれは経年劣化で血染っぽくなったのかなあ。カルメンに無邪気さと魔性の二面性があったのと同じような表現なのかも。
クリア後おまけでは、そのまま部屋を出て通常のマップ探索ができることに驚きましたね~。
ただ、うろついても特にキャラが出てくるとか変化があるとかはなかった、はず? なのでクリア後要素としては、あのヴィクターの家での会話だけっぽそうです。
あるいは、墓の前に置いてある手帳をプレイヤーに見せてくれるっていう粋な演出だと思うことにしています。
と、語っておきたい点はこのくらいかな。
前述しましたがやっぱり、マップやテキストから感じられる「寂れた街」「レトロで渋くてかっこいい」世界観が好きポイントでした!