うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

同人ゲーム「ロマンディックミスティリオン フリー版」感想

「天寿を全うして初めて辿り着ける永遠」

苦痛と取るか喜悦と取るかは心次第な前置き。

 

 

えー、今回は大人の道楽さんところの同人ゲーム「ロマンディックミスティリオン フリー版」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

元々は有料作品のR-18要素有なRPG。年齢差カップルで男の娘誘い受けが楽しめるBLものです。リンク先も年齢制限有りで、体験版DLページではえっちなCGが見えるのでご注意を。フリー版はこちらから飛べます。

フリー版と有料版の違いはエロシーンがあるかないか。フリー版もとい体験版と言えば基本的には途中で終わってしまうものですが、本作はトゥルーエンドだけでなくクリア後おまけ要素まで楽しめます。フリー版というよりは全年齢版という感じかも。

 

 

というわけで良かった点など。

 

 

衣装替えもたくさんの男の娘満喫ゲー

 

攻略対象は男の娘な死神、レヴィ。

内面や話し方はしっかり男の子してるタイプの女装っ子です。……と書き切っていいのかな。女装と男の娘の定義には揺らぎがあるので表現が難しいですね。

照れつつも誘ってくれるツンデレさんで、余裕のある成人男性なタキとの相性の良さを感じながらにやにやさせて頂きました。

 

で、熱く主張しておきたいのがこの男の娘要素のこだわり具合。

もっと言えば衣装差分の多さです! 

ただステータス絵が変わるだけではなく、会話中の立ち絵が表情差分含めて変化し、さらには戦闘中のカットインから歩行グラフィックに至るまで。本当に全部が変化してくれる、細やかな出来に惚れ惚れでした!

男性向けエロゲだとお着換えはあるあるかもですが、カットインまで変わる作品にはあまり出会ったことがなかったので嬉しかったです。

色々な気候の地域に行けることも相まって、熱い地域では涼し気な格好をさせてみたり、ボス前ではデフォの正装に着替えさせてみたり、色々と脳内妄想を広げられました。

セーラーのデザインが特に可愛くて好き! ツインテ万歳!

 

 

 

メイン以外にもひっそりBLCP

 

本編のパーティは常にタキとレヴィの二人旅。安心と安定の固定CPです。他にも作中のキーキャラ同士でさりげなく矢印が出ていることもありまして、私はそっちの二人にとっても萌えて萌えて転がる勢いでした!

想いの内容が一筋縄ではいかない感じだったり、すんなり引っ付くわけではないけど強い感情が向き合っていたり、色んな種類のCPを見れるのがまた美味しいんですよね。あくまでタキレヴィ以外はサブCPなのでそこまで多く出番やそういうシーンがあるわけではないのですが、サブCPに萌えがちな私としては嬉しかったです。

 

基本はBLでサブイベントもそういう要素が多いですが、BLであることに固執されているわけではなく、サブでは男女やごにょごにょの要素もほんのりとあります。性別にこだわらない世界観というか、誰もが誰もを自然と好きになるような印象でした。このくらいが自然体に感じられて好きだなー、なんて。

BLは固定CP派で女性や当て馬を入れたくない、かつ、色んな恋やら情念やらを見たい自分としては、もう色々とありがたい作りでした。

 

 

 

様々な宗教観が成り立つ世界

 

主人公が坊主(モンクと言う方がイメージしやすいかも?)なだけあって、世界各地に宗教が成り立っています。恋愛禁止の宗派、他宗教にも寛容な宗派、自己の欲こそ正とする宗派、などなど。私事ですが倫理の教科書を飽きることなく読んでいた日々がぼんやりと思い出されました。

それぞれの教義の違いも興味深かったですし、某キャラの改宗の話にはハッとさせられました。宗教と言ってもカルトではなく、シンプルに考え方や価値観の違いだと感じる話も多くて、すんなり受け入れられた気がします。明らかな悪人も教訓話もあるんですが、我こそ正義也みたいな感じじゃなくて、温度感が落ち着いてるんですよね。この温度感、神は見守っておられるみたいな安定を感じました。

 

システム面でも「恩寵」という形で、祈りに神が応えてくださるみたいな世界観に説得力を出してあります。恩恵はかなり大きいと個人的には思うのですが、狙って起こせるものでもなく、起こったらラッキーくらいの塩梅なのもまたそれらしくて素敵でした。

 

 

 

あちこちで起こるサブイベント

 

そして人の価値観が千差万別であることを表すかのように、登場するサブイベントも豊富です。

特筆したいのがイベントの分岐の膨大さ! 

かなり多くのイベントにトゥルーとノーマルな結末が用意されています。対立する意見のどちらに味方するかというわかりやすいものから、うっかり安易な道を通って真実を見過ごしてしまう、なんていうエンドもあり。プレイヤーの行動や選択がはっきり反映してくれる感じがあって、プレイしていて楽しかったです。

めちゃくちゃありがたいことにサブイベントの達成度がメニューから確認できるので、回収が捗りました。ついついセーブロードや2周目で別の結末を楽しんでみるなんてこともしちゃったり。

 

印象的だったのはアルブの話かなあ。ふっと消えてしまうところに余韻を感じて、なんとなく心に残っています。信仰心によって揺らぐのは神様的なものの王道ですよね。

廃都アダマスのどうにもならなさも好きです。タキの価値観がわかるセリフも好き。

あとは飲めや歌えやの酔拳イベント。どうしてもレヴィと一緒にいるとタキはお人好しな面のほうが強く出るので、彼のちゃらんぽらんな一面も見れて楽しかったです。

 

 

バトル好きもキャラ萌え派も嬉しいおまけ要素

 

詳しく語り過ぎるとあれなので詳しくは追記にて。

このパートだけでもう一本楽しめそうなくらい、嬉しいボリュームでした。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

他にも迷子にならないように目的が明示されていたり、どこからでも攻略できるように敵のレベルが調整されていたり、魔物図鑑があったり音楽鑑賞ができたり、細やかな気遣いが込められている作品でした。

 

男の娘、宗教や訓戒話、フリーシナリオ、イベント分岐や衣装差分多数、などにピンとくるならおススメです。

 

追記ではネタバレ感想。

 

 

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フリーゲーム「怪盗ドルチェのゲーム」感想

「定義も理論もあったらいいけど、それ以上に大切なものもある」

例えば食後のチョコレートとかな前置き。

 

 

えー、今回はKIJI-N-CHI(きじんち)(kiji)さんところのフリーゲーム怪盗ドルチェのゲーム」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ウディタ製、短編連作風に章立てされているノベル寄りの謎解き探索ゲー。

端々までオシャレと惚気とチョコレートがたっぷりつまった、満足感のある一作でした~! 

 

 

というわけでさっそく良かった点など。

 

憧れの大人で洒落た世界観

 

もうね、何よりもまずあの圧倒的な求心力のあるOPですよ!

果たして何が起こるのだろうかと期待するプレイヤーをまず静かに舞台へ立たせて、そしてガッと魅力で掴んでくれるあのプロローグ! もうすっごくすっごくかっこよくて! 

BGMの入り、読んでわからせる筆力、打ち鳴らされるヒールの音まで聞こえてきそうなあのオシャレな画面、いやぁたまりませんよね……。

 

公式の宣伝PVもあるのでリンクを貼りますね!

youtu.be

 

各章のタイトルもそれだけで書き留めたくなる素敵な響きなんですよ。

中でも私は「1ビット・ショコラ」が好きです。不思議と字面は噛み合う感じがするのに、何が起こるのか想像がつかなくてドキドキしました。

 

 

 

黒と赤が映えるベルベット風なゲーム画面

 

PVを見て頂けたなら伝わるかと思いますが、画面全体が黒いシルエットとベルベットな背景で構成されています。これがまたハイセンスなんだなあ。

 

で、しかもこの画面を静止画で終わらせないところがポイントなんですよ。

作中では背景をプレイヤーがスライドさせて、あちこちクリックして楽しむ自由行動パートがあります。キャラやカーソルが動くのではなく、背景自体が動いていくことで、一緒に歩いている感じが楽しめるこのプレイ感。最高! ウディタの可能性は広いですねぇ。

 

ゲームを進めることで行ける場所が広がったり、それまでのお話にまつわる戦利品が増えたりと、どこまでもわくわくを残してくれる姿勢も素敵です。

 

 

 

あちこちで聞ける二人の幸せな会話

 

この作品の醍醐味は、主人公のチョコ大好きな怪盗・ドルチェと、そのパートナーである女性型アンドロイドのカノンの、すっごく微笑ましい会話です。

カノンがすぐ本音を顔に出しちゃう(文字通りの意味で!)ところがすっごくにやにやしちゃうんですよねぇ。いわゆる恋愛ノベルとは違って二人の掛け合いは文字だけで流れていくんですが、どれも情景が想像できるようなじゃれ合いっこでとってもかわいかったです。

 

前述した自由行動パートでも、二人の会話は盛りだくさん。進行度によってどんどんセリフが変わっていくので、あちこちお散歩するのが楽しかったです。

ランダム変化する会話ポイントも多いんですよね。カノンとの会話は基本5パターン以上ありますし、カフェやブティックでの会話を通してカノンの色の好みがわかるのも嬉しくって。NPCには二回話しかけちゃうタイプの私にとっては実に盛り上がりました。

探索ポイント自体も数多く、カーソル変化ですぐにポイントがわかるところもプレイヤーに優しくて好印象です。

 

 

 

なかなか苦く、けれどしっくりくる謎解き

 

ほんわか可愛い会話も魅力ですが、やっぱり二人は“怪盗”なわけでして。

本編ともいえる事件パートでは、かなり難しめの謎解きがドルチェ達およびプレイヤーを待ち受けています。

傾向としては閃きや視点の変化が必要なものと、論理パズル的なものの二つに分かれていた印象ですねぇ。ググってポンと解決するものはほとんどありません。がっつりメモも必要です。

 

が、ここでありがたいのがウディタのシステム。ウディタってPrtScrボタン押すだけでそのフォルダにスクショが楽々生成されるんですよ。なのでメモ嫌いな貴方もぽちっと一指で、なんとか、頑張ってほしい! 私のように!

公式にヒントもあります。大変助けられました。ありがとうございました!

 

凝っている謎が多いぶん、解けたときのスッキリ感はひとしおです。

そして何より、謎解き自体がお話の謎や伏線に直結しているパターンが非常に多い! ここもかなり良点として挙げたい注目ポイントでした~。

 

 

 

クリア後のおたのしみ

 

詳しくは秘密ですが、最後までどころかその先もたっぷり味わえる、素敵な作品です。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

謎解き、人間と機械、探索ポイントたっぷり、怪盗、チョコレート、なゲームに惹かれる方へおススメです。

追記ではネタバレ込みの感想をちょっとだけ。

 

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フリーゲーム「いばらのうみ」感想

「全ての温度を振り払い、貴方の感覚だけが散らばって」

それでもかすれた光どうか消さないで欲しい前置き。

 

 

えー、今回はearin(あーりん) さんところのフリーゲームいばらのうみ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ウディタ製で基本システムはRPG、一本道をひたすら前進し続ける、いわゆる雪道ゲー。序盤はけっこうカツカツですが、終盤はするするっと進んでストーリーや世界観に集中させてくれます。

死に覚え、トライ&エラーの戦略ものと書いた方がいいのかな。

 

ともあれ良かった点など。

 

 

低温な重さとなくした帰り道

本作はノンフィールド、一歩進んだらもう戻れないタイプのゲームです。そして道のりの厳しさを強調するように、一歩進むたびにダメージを食らう仕様となっています。また、軽率にアイテムを使ってしまうと終盤に“詰む”ことも多いにあり得ます。

目的は、進み切って、辿り着くこと。

この厳しさこそがこの作品における大好きなところなんですよね!

 

例えば、某敵はパターンを読んでこちらの行動を詰めるとぴったり固定値でHPを削り切ることができます。

この、数字的な美しさ!

パターン行動の、余地も無駄も無いスマートさ! 

興奮しません!? 私はする! 文系なのに! 

実際ある程度プレイ用に攻略メモ等々用意してみると、意外と抜け道や取れる手段が多いんですよ。

それに気づくまでの序盤はなかなか厳しい道のりですが、一歩一歩踏みしめて、どう戦うかどう切り抜けるかをうんうん悩むのがとても楽しかったです。特に私は慎重派なので進みが遅かったんですが、このプレイ感のおかげで、まさに茨の真っただ中にいる緊張感が味わえました。

 

 

絶妙な配合のオマージュ元とオリジナル世界観

 

さて、もうタイトルでピンとくるコアな方もいるかと思うので書いてしまいますが、鬼束ちひろ氏リスペクトな要素がふんだんに盛り込まれています。タイトルに始まり、技名、アイテム名、主人公の服の意匠などなど。はてはセリフの一フレーズにも。

特に私はこの手の元ネタ探しとかが好きなので、この作品が楽しかったのもあってついつい自分の好き曲を聞き漁ってしまいました。BORDERLINEいいよね。

 

一方で、かなり独自性の高い要素もふんだんに含まれているのは、公式サイト等のスクショなど見て頂ければ伝わる通り。

作中では世界観を紐解くカギとなる「心話通信」から、謎の指令や窮屈なディストピア環境を察せられる地上の様子など、彼らにとっての現実味を帯びたセリフを聞くことができます。

そもそも、陰鬱で傷だらけの世界の中をただ進んでいく――――これだけでもう絵になる魅力がありますよねぇ。

 

こういうオマージュ元の世界観と独自の世界観がうまく交じり合って、かなり変わった味わいが出ている作品だなあと思いました。文体の色が読めないけど、それこそがこの作品の文体っていう感じ。

細かいところだと「セーブ」でなく「セ~ブ」だったり、readmeが「よめるよ」(読んでねじゃない辺りがなんかゆるくてよい)だったり、時折柔らかな言い回しが出てくるのも、なんだかすごく独特だなー、なんて。

 

 

ストーリー重視もスコア重視も楽しめる

本作をプレイするにあたり、世界観重視の私のような方は、前述の「心話通信」で語られる欠片からどういう世界でどういう話なのか想像を膨らませるのが楽しくなるはずです。敵名やアイテム名がどれも詩的なのがそれに拍車をかけてますよね……。

転じて、クリアすると自分のスコアが閲覧できます。時間は関係なく、どれだけリソースを残してクリアできたかという感じ。詰将棋のシステム面が好きな方も、大いに楽しめる作品だと思います。

 

 

コーラスの力強さが際立つBGM

そして注目したいのがBGMの選曲センスです。

コーラス入りの曲が戦闘で流れる演出だいっすきなんですよね!

しかもこの作品は特にバトルの厳しさが際立っているので、ボスの強敵感がなお増してくれました。背景色が刺々しく異彩を放つのも併せて、世界観がより濃厚になっているなあと感じます。

道中のBGMもしっとりとした雰囲気がほどよくて、バトルの時はもちろんのこと、なかなか勝ち進めないステージをどうクリアするか熟考する時もぴったりの曲でした。

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

まさに過酷な世界観で、励まされたり突き放されたりしながら、試行錯誤を楽しめる一作でした。

追記では色々考えたことや、自分のプレイングなど。

 

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フリーゲーム「Seraphic Blue」感想

「効果的な物言いは共通の認識を下地として作ることから始まる」

難読漢字にはルビを振っていきたい前置き。

 

 

えー、今回はBlueFieldさんところのフリーゲームSeraphic Blue DC altered版」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

古来から脈々と語り継がれてきた伝説の長編RPG

ついにプレイしましたよー! 作風が肌に合う作品でした!

 

クリアまではだいたい43時間くらい。ただし、ボス戦ゲームオーバー等を考えるとたぶんもっともっとかかりました。かけた時間に見合うだけの、濃密で響く物語が見れてもう大満足です。

 

とりあえず前置きとしてプレイしたバージョンについて。

原作を公式認可の元で改造したディレクターズカット版をさらにパワーアップしたaltered版(以下DCA)をプレイしました。なんか呪文みたいですねこれ。

初めはオリジナル原作版でプレイしようと意気込んでいたんですが、DCA版ならどこでもセーブができるんですよ。これは大きい! で、ストーリーも追加要素等がなくオリジナルモードを選べれると分かったのでDCAで始めました。

 

これだけ有名なゲームですし紹介文はたくさん溢れているかなー、なんて。

なので今回は、いつも以上にネタバレを気にせずパッションだけで書いていきますね。違いがわからん気もする。

 

ともあれ、ネタバレ注意。以下感想。

 

 

 

長い長いOPと圧倒的な文章量

「OPが長さ的な意味で初見殺し」

いやあ噂に聞いていましたが、イベントシーンが長いのは事実ですね! でも、実際プレイしてみると少なくとも投げるほどではないというかもったいないというか。そりゃ確かに尺は長いですが、中身も濃いので、むしろじっくり拝聴したい感じがありました。

 

DCA版のシステム改良の恩恵にあずかっているところは多々あるにしてもですよ。

序盤は謎めく展開と切れ味の良いセリフで掴み。

中盤は序盤の伏線を回収しつつ、個人の事情から世界説明へと視点が転じ。

終盤は救世を謳い上げて世界観を大きく広げたうえでまた個人へとスポットを当てていく。

いやあこの構成力よ! むしろパタパタ伏線が収められていく流れがめちゃくちゃ気持ち良かったですし、セリフが本当どれも印象的なので、読むのがすっごい楽しかったです。中盤から群像劇っぽくもなるんですよね。この転換も世界が広がっていく感じがしてわくわくしたなあ。

 

終盤の溜めやウェイトの生む余韻、たまりませんよ本当。

ラスボス戦とかもう真骨頂ですよ。なにあの演出。冷めてるのに熱い展開。最高。

自動的にテキストが進行する時と、こっちでカチカチクリックしてテキストを進める時とで差があるのも特徴的ですよね。キャラの気持ちや言い淀みをしっかりと表現されたかったのかなあと思っています。

 

 

まあ、といっても、投げられる理由もわからんでもなくて。

わからない・知らない情報が溜まっていくのが苦手なタイプの人は、おそらく前座の部分で合わなくなっちゃうんだろうなあという気はします。情報量が多いので考えながら(先を予想しながら?)読もうとすると多分パンクするんですよね。

私も3人のヴェーネと星の代弁者のことを序盤に考察しようとして頭から煙出ました。

 

でも大丈夫、伏線は作品が自ら回収しに来てくれますし、プレイヤーに伏線を思い出させてくれるように、演出を丁寧に加えてくれます。第二章辺りからそういう、表現に対する信頼みたいなのができたので、流れに流されて突き進んだんですがこれが大正解でした。とりあえず序盤は流されておくのが吉です。

 

本当、伏線の回収が丁寧なんですよ! サビだから繰り返すね!

重要なイベントやキャラクターの根幹に関わるセリフは、しっかり序盤から繰り返し表現して印象付けてくれます。エルとの対話とかその最たるものです。

それに伏線回収のターンにきちんと回想シーンを入れてくれたり、キーとなる一枚絵やアイテムをちらつかせてくれたりします。お話の表現の仕方としてはとても親切。期間を開けるにしても数週間ごとなど、継続してプレイするならすんなり飲み込めるのではないかなと思います。

 

キャラ数も多いですが、そのぶんキャストデータも充実してますしね! 名前を覚えられないタイプの私ですが、ぱっと思い出せなくても話が進むとすぐに「あの人か」ってなりました。演出力―!

物語進行度に応じて記載内容が変わるのものすごく綿密で凄かったです……。

 

 

 

勇者魔王もの

明確な諸悪の根源である“魔王”のような立場はいませんし、世界を救うのは“勇者”ではなく“天使”です。

それでもこのお話は勇者魔王もの、古来RPGのよくあるモチーフに切り込んでいる作品だなあと感じたので、記事のタグにも「勇者魔王もの」を加えました。

例えば、RPGにおいて主人公はゲーム中で何度もゲームオーバーします。特に本作は戦闘難易度も高め、私の場合なんて全滅数はもはや数えきれないほどです。

そんな、道中で気を抜けば死んでしまうようなちっぽけな一個人に、世界を救えと要求する――――これこそ“勇者”の概念ですよねぇ。

 

では、RPGにおける勇者が勇者を完遂するためにはどうすればよいか? メタ的なこの問いからセラフィックブルーが始まっているように自分は感じます。

その答えのうちの一つが作中でも示された通り、ジークベルトの計画。彼が一貫して「ゲーム」というスタンスを崩さないのって、“天使”の裏にロールプレイ・メタ的な意味での“勇者”を想起させる意図もあるのかなと思っています。

そしてこういった物語の構図があるからこそ、セラブルは「映画」でも「ノベル」でもなく「RPG」として物語を表現する必要性があったんだろうなー、なんて考えました。

 

“勇者”であれば正義の心で立ち向かうべきところを、この作品は “天使”の理由でもって戦うところが最高に大好きでした。

善悪や幸福論は、このくらい距離を取ってお互い主張し合ってくれる方が、居心地良くていいなあと思います。

 

 

 

鬱展開と反出生主義の中で救いを提示する

この作品は、

血が出ます、人が死にます、世界に絶望します、死こそが救済だと叫びます、ネグレクト被虐待児子殺し親殺しがいます、生まれてきたことを嘆く人がいます。

一方で。

胸を張って生きる人がいます、生を謳歌しようと奮闘する人がいます、子を持てることに涙を流す親がいます、良き父として良き隣人として誰かを救えた人がいます。

 

あまりの鬱展開であると話題を呼び、実際それに惹かれてプレイを始めた私ですが、蓋を開けてみればとても作中のスタンスはフラットでした。主張は確かに厭世寄りかもしれないし、演出は過激だったり露悪的だったりする時もあるけれど、決して否定的ではないと思っています。

何か主張があればその反証となるキャラクターがどこかにいて、影と光が同時に存在している感じ。そのどちらが濃いと感じるかは人に寄るでしょうが……。構成だけを見れば中庸で、優しくて、プレイヤーの考えやキャラの気持ちを全てそのまま置いておいてもらえるような形に見えて、好ましかったです。

 

ジークベルトの主張がセラブルの中核であるならばハウゼンと言う男は登場しなかったはずで、けれどもハッピーエンドは失われたわけで、もうそれがこの物語の主張の全てだと思うんですよね……。

 

誰もが一度は考えるような生死観と幸福論のジレンマを、決して借り物の言葉だけで収めるのではなく。丁寧にお話を組み上げて、言葉を重ねて解きほぐして、どこまでも反論を重ねて誤魔化さず、綺麗に描き切っている作品だなあと感じました。

人類普遍の結論なんていうあり得ないところへの着地を目指すのではなく、彼女の答えは、彼の答えは、とメインキャラの心情にスポットを当ててお話を締めるところもすごく好きです。

終盤近くのプラスとマイナスの考え方はものすごく納得があって、共感はさておくとしても意見としてとても好きだったなあ。

 

一言でいえば、作中の主張の距離感が好き!

 

 

書ききれなかった諸々 

でね、他にも好きなところ多すぎるくらい大量にあるんですよ!

 

・キャラが全員挫折して、葛藤して、改めて自分なりの回答を掴んでくる

 

・キャラ同士の粋な掛け合いや二人にしか通じない世界の構築が上手い

 

・よくある言い回しを斬り捨てて独自の文体を貫く

 → 一見わかりにくいと勘違いしそうになるが、実際はキーセンテンスを何度も作中で使用することで小難しい概念がお馴染みのものとして噛み砕かれて、とてもすんなりと頭に入ってくる。そのうえ印象に残る。素晴らしい。

 

・ あまりキャラが「好き」「愛してる」といった言葉を使わない。一方で、別れの時にほぼ皆が「ありがとう」と言う。
 

RPG慣れしていても苦戦するハードなバトル難易度
 

・閉塞感と透明感、両方を描く美しいスチル

 

とかね!!!!

 

でもこれら全てを細やかに語っていくともう蛇足で大縄跳びができてしまうんですよ。プレイして合う人は合うし合わない人は合わない、もうそれに尽きます。

君が投げたならそれはそれでいい! 

私は大好きだし心に沁みた! もうそれだけだ!

 

なんて書きつつ最後にキャラ語りします!

 

 

キャラクター

 

考え方やセリフが印象的で好きなのはニクソン

やっぱりこちらも、距離感が好きでした。激情に駆られることはあっても、人に押し付ける前に一度踏み止まるところが良いなあと思うし、そのうえで自分のポリシーや考えは信仰として持ち続けているところが好きです。

 

台詞一つで心を掴んできたのはヴィルジニー

覚醒後の口の悪さと言うかぶっちゃけっぷりというかTHE戦乙女感が惚れそうでした。戦闘前口上がいつもかっこいい。

ああいう作りのキャラクターがああいう道を選ぶ流れも大好き。

 

雑魚戦で愛用していたのはヤンシー

武器に状態異常ものが多かったので、トゥワイスインヴェストと状態異常付加、それとブーツ履かせまくってひたすら足止め役になってもらってました。キッツイ攻撃がきてもある程度持ちこたえてくれるから頼もしいんですよね。

 

ボス戦で愛用していたのはドリス

ペイルインヴァースのトリッキーな高火力が大好きだったんです。リスクの上で高火力出すのってロマンですよね。ストーリーを考えるとこの技を乱発するのは申し訳ない気持ちもありますが……。

あと、ドリスとヤンシーが二人で「頑張ろうね」「うん、ガンバろうね」って何度も言い合っているのが本当に泣きたくなるくらい癒しでした。がんばろうね……。

 

キャラクターとして総括して好きなのはレイクです。

序盤からずっとメインメンバーだったというのもあるんですが、フョードルとはまた違った意味合いで青二才な感じもこちらの気持ちを揺らしてくれてよかったです。

言ってしまえばスカしてるキャラなんですけども、なんだろう。嗤えはしないし、彼みたいに虚無へ走っていく生き方って誰もが一度は感じるよなあと思っちゃうんですよねぇ。

 

敵だとエンデが好き。

容赦ない敵が好きなんです。最前列の特等席なイベント本当好きでした。塵のような終わりも併せて、まさに敵に求める全てを抱いてくれていて楽しかったです。

 

バトル演出だとティアーズのカットインが好きでした。あっあと、「フョードルから倒して頂戴ね」。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

うっかり感化されてポエマーなことをいっぱい書き綴りましたが、とにかくめちゃくちゃ水が合う作品でした!

 

 

 

 

 

 

こっそりおしらせんでん↓

www.pixiv.net

フリーゲーム「セカイヲトメテ」感想

「笑って欲しいなどという要求は最も非生産的で非合理ですので」

生命活動を継続してさえいてくれれば問題はない前置き。

 

 

えー、今回は大人の道楽(サイトはR18)さんところのフリーゲームセカイヲトメテ」(こちらは全年齢)の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

エンドまで数分、全クリまで数十分ほどかかる探索脱出ゲー。

もうあちこちいたるところがぴったり好みにハマる作品でした。トゥルーエンドをクリアしてここまで満たされた気持ちになったのは久々です。

 

本作は何も言わずに語ろうとするととてもとても難しいので、一部ネタバレします。

ご了承ください。

 

 

というわけで特徴的な点など。

 

変わらない部屋と、変わる反応

 

基本的にマップは短編のボリュームにふさわしいコンパクトさ。ですが、その中にあるオブジェクトの至るところに反応ポイントが仕込まれています。

こういう、どこを探しても反応が返ってくれるタイプの脱出ゲー大好きなんですよー! 色々なところを調べなければいけない探索重視だからこそ、反応してもらえるとモチベが上がりますよね。

しかも、進めれば進めるほど、マグナの反応やちょっとした室内の変化が、がじわじわと効いていきます。同じと見せかけて全て反応が違うところ、凝っていて好きです。

薄ら寒くなってくるけど本人は渦中にいるからなんともどうにも知覚できないああいうの、本当好きです。

 

 

モノクロームに覆われた演出

 

全体的にゲーム画面はモノクロ、主人公の姿すらシルエットです。

そんな中、変わらない景色をふらついては行きつ戻りつ、ただなにか良くない方向に物事が進んでいってることは伝わってくるどことない不安感……。最高でした。

ホラーというわけではないんですよね。不安。

マグナがほぼ監禁されている状態から始まり、唯一の話し相手であるキリエは冷たい態度、せめてキリエの顔が見たい────そんなシナリオ運びも不安を膨らませてくれます。世界観とシナリオのかみ合わせがとても良い作品でした……。

 

 

トゥルーへの攻略難易度はかなり高め

 

こちらは人に寄っては難点とも言えるかもしれませんが、トゥルーエンドへの道のりはかなり複雑です。いわゆる謎解き要素は無いんですが、アイテムの取得順がやや捻ってある点や、フラグが一手で折れてしまう点から、難易度が爆上がりしている印象でした。

といっても、作者様のサイトに完全攻略を載せてくださっているので、難易度に関してはご安心です。視覚的な演出のおかげで、マグナ自身は何も気づけないけれどプレイヤーには訴えかけられている感じも、ある意味では謎解きと言えるのかもなーなんて。

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

ネタバレガッツリの感想は追記に仕舞いますね。

私のブログの常連さん(居たら嬉しい)ならどことなーく通じそうな、好みの作品でした。

 

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フリーゲーム「ロア家のネコ使い」感想

「ウィッチと呼べば悪役めいて、ソーサレスと呼べばオカルト的」

単語に付加定義が増えていく前置き。

 

 

えー、今回は猪鹿蝶さんところのフリーゲームロア家のネコ使い」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

エンド分岐あり、乙女向けな恋愛要素あり、攻略対象二人のファンタジー魔法学園ノベルゲー。

「ネコ使い」とある通り、ネコミミ付きの青年が使い魔として協力してくれます。従者というよりはパートナーという側面が強め。

 

というわけで良かった点など。

クリア後のおまけなどに少し触れているので、未プレイの方はご了承ください。

 

 

水彩風な絵柄とメルヘンなテクスチャ

 

リンク先のスクショを見てもらえばわかるかと思うのですが、特徴的なのがグラフィック面。キャラの髪や背景など、いたるところにきらきらした模様が入っていて、とっても幻想的な気分を味わえます。

絵柄もほわんとした色合い。水彩?でいいのかな? 滲みや溶け合うような色がとても美しい作品です。

出てくるアイテムも黒蜥蜴や月桂樹からダージリンやラベンダーまで、メルヘンもファンタジックも一通り。乙女心くすぐるファンタジー要素をぎゅっと詰め込んであって、ちょっとした描写にすぐドキドキさせられてしまう良作でした。

 

 

ちょっと危なくてどこか微笑ましいストーリー

 

パートナーは二人。従順で素直でとても使い魔らしいティグルと、厳しくもこちらの成長を喜んでくれる先生なルカです。

ストーリーは基本的にほのぼの、調合に失敗してもフォローしてもらえたり見守ってもらえたり。もふもふと甘いものに癒されるシーンもあり、和やかにお話が進みます。

一方で、試験に受かるか落ちるかというハラハラ感や、キャラの意外な一面など、色々な意味でちょっとした不安が一粒あるのも事実。総評してみれば、和みと緊張のバランスが良いストーリーでした。

主人公のイネスも等身大の良い子で、不安を抱きつつもがんばって試験を成功させようとする姿が見ていてとっても微笑ましかったです。

 

 

とっても嬉しいクリア後ページ

 

クリア後になるとおまけが解禁します。

注目したいのがWebページボタンです!

てっきり公式サイトの紹介ページに飛ぶのかと思っていたのですが、なんと特設のおまけページがあって、もう、飛び上がるほど喜びました! シンプルに見た目が綺麗で、本編の世界観がそのまま続いている1ページな感じがすっごく素敵でした。

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

魔法使い、使い魔、ちょっとだけダーク、基本はほのぼの、ネコミミ人外等々にピンとくる方へおススメです。

 

詳しいネタバレ感想は追記にて。

 

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フリゲサイト「冬色と夜気」短編ノベル作品感想2

「同一になれるわけがないのに感性が誤魔化していく」

妙な親近感を得る文章が好きな前置き。

 

えー、今回は冬色と夜気さんところのフリーゲーム12作品の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

どの作品も、基本短編のノベルゲーム。詩的な言い回しと仄暗い展開が特徴的です。相互に関係している作品もしていない作品もあるので、それぞれ概要で記載していきますね。

 

短編ということもあり、多少ネタバレをしてしまいながら語っていきます。一応核心的な部分は薄く色付けしていくつもり。

未プレイの方はご了承ください。

 

 

シトリンの欠片

[概要]

百合、片想い、鬱展開。

 

[感想]

序盤は物静かな雰囲気で進みつつ、彼と主人公がぶつかったところで一気にお話が急伸していくこの流れが気持ち良かったです。

特徴的な言い回しも多かったですし、それらを通じて伝わってくる「普通ではない」二人の独自の理論がすごく、心に迫ってくるものがありました。普通代表と言わんばかりの彼女がいるからこそ、他の二人が際立つんですよねぇ。

ラストの閉じ方もすごく、大好き。閉塞して、触れるに触れられなかった彼女が、唯一彼女の解を手にして実行した開放的なエンドだと思います。衝撃度と暗さも併せて大好きです。

 

[印象に残ったシーン]

「傷すら与えない」くだりが好きでして。

なんだろうなあ、フッて相手を傷つけたり悲劇にしたり、そういうことすら煩わしくて、もうただただ視界に入らないでいてほしい感じ……。言われてみればピンとくるというか、反射的にわかる感じがするんですが、言葉にするとなんか急に憎悪が際立って見えてしまうんですよね。でも、そういう強い感情すらなくてただただ無関心なんですよ。拒絶ですらないんですよ。そういう、絶妙なニュアンスの感情を、あのシーンでしっかり感じさせてくれるところが凄かったです。

 

「月を引き寄せて」と願う場面も本当好きでした。いっそ壊れてとか消えてとかではなく、なんだか他人事のようにお前が生み出したのならお前が片付けてとばかりにふっと盛大に崩壊してほしいこの感じを、あのたった一文で。最高です。

 

あと細かいところだと、お勉強を教えているシーンで「あれをこうして~」とぼかすのではなく、しっかり英文を斜線で区切るなどなどの現実的な一問を持ってきてリアル学生感を出しているところが素敵でした。

 

[一言]

詩的な言い回しと、どろりとした片想いの平行線と無関心が際立つ一作。

 

 

 

 

リナリアの君

[概要]

学生生活、不幸比べ、あなたは知らない私の事情。舞台が『シトリンの欠片』と繋がってはいますが、単品でも読めはします。

 

[感想]

最後のオチはやや唐突感があったものの、序盤からあえて違う言い訳で離席していたことなどを思い返すと、どことなく伏線はあったのかも。

 

すごい私情になるんですが、本作をプレイした時期、私何かと「あなたは頭の出来が違うから」って言われては謙遜のテイで人を持ち上げてサボる言い訳に使われることがあって、むしゃくしゃしてたんですよね。いやいや与えられてる立場は一緒ですしあなたが努力を怠ってるだけでしょー……みたいなむしゃくしゃ。ぷんぷん。

なので、こう、作中の詩依ちゃんのセリフとかにムッとするところもあったんです。きちんと遥が努力してるシーンも入れてくれているからなおさら、なんだよ君はーって。

 

でもあとで、詩依が部活のほうで苦労してるシーンが出てきたりして。面白半分に見えた綾芽さんも実は、「あなたは違うから」で距離を置いてしまうことをなにより後悔している人なのかなあと思ったりして。こういう、改めて考えてみると知らないところで皆が皆の事情を持っている、みたいな構造が良いなあと思いました。

何か事情があったり努力があったりしても傍目じゃわからないんですよね、本当は……。

遥にああいうオチの“事情”があったように、お試しの恋愛がまだできないように。

 

たまたま話運びにシンパシーを感じる環境にあったので、何かと感情移入してしまった作品でした。

 

[一言]

誰もが止められない“羨む”気持ちを綴ったお話。

 

 

 

 

グラキエスの涙

[概要]

死体蘇生、約束・訓戒話、両片想い。

 

[感想]

お話の構成はどことなく童話じみています。

約束さえ守っていれば彼の隣にいられる、ただし正体は秘密のまま――。

この手のお話は約束が破られて終わることがほとんどですが、本作はその理由付けがとても素敵でした。ただ一途に彼を想う、キラキラした気持ちだけではなく。他でもないわたしを見て欲しいという苛烈なエゴを含めて、それでも美しく終わらせてしまう塩梅が好きです。

 

ちなみに、Glaciesはラテン語で氷とのこと。

溶けてしまう彼女と、我という女性の約束には無慈悲に冷たくも愛を志向する態度、二つが掛けてあるのかなあと勝手に受信しました。

謎の女性の存在や、肉体・魂・心(精神)という概念がちょこちょこ出てくる辺りも隠喩的ですよね。信じていれば幸福なる天へ導かれるという考えなども決定的。作中の舞台の宗教観がほんのりと察せられるのも良いつくりだなーと思います。

 

[一言]

献身とエゴがないまぜになった一途な愛を見たい方へ。

 

 

 

 

灰燼

[概要]

王室、姫と許婚と従者、復讐劇、正義とは何たるか。

 

[感想]

おてんば姫がすっかり冷えた目つきをするようになる展開、大好きです。

いわゆる前座に当たる部分もしっかり尺をとってあったのも好印象。丁寧にヴェルメアのキャラクターとツェーレの関係性、父親との緊張感を含む敬愛などを描いてくれたので、感情移入がしやすかったです。

また、一筋縄ではいかない、やりきれない結末も大好き。テーマがこれだからこその後味ですよね。どのエンドにも棘のようなものが残る、良い終わり方でした。

 

一方で、この作品は気になった点もありまして。それが終盤一騎打ちの時のテンポの悪さです。想いをぶつけ合う会話劇自体はとても良かったんですが、一言一言に動作描写が挟まって間延びする印象がありました。剣劇もスピード感がもうちょっと欲しかったかも。

でも、ルートごとに剣捌きや戦い方の鋭さが変わって、覚悟の違いが伝わってくるのは良かったです。

 

[根幹のネタバレに関する感想]

以下薄字。

 

エンドのカギを握っているうえに結末の分岐に関わってくるのは実はツェーレですよね。思わせるものを持ってて、考え出すと止まらなくなってしまう。復讐ルートでツェーレがああなるの、ものすごく絶望を感じてすごく好きです。

それで、初めはツェーレこそがシュタインの言うところの正義のモチーフとして描かれているのかなと思っていたのですが。ツェーレを追ったり、彼女の提案に従ったりするとゲームオーバーになることを考えると、むしろ逆かなと思い直しました。

ツェーレはヴァルメアが善的な人間であることの象徴であり、彼女が傍にいる限りヴェルメアは平凡で人間らしい感性を失えないままでいるみたいな……。そしてこの話は完璧な正義の皮を被るための話なので、ツェーレと共に行くことを選んだ時点で、話は終わってしまうみたいな……。そんなふうに考えました。

 

そう考えると、灰エンドに行ったときにツェーレが生き残ることが矛盾するんですが、後日談ノベル『熾灰』を読んで一人で勝手に納得したのでそういうこととして解釈していきます。タイトル画面の姫な格好と復讐劇な格好のヴェルメアも、愛された姫としてツェーレと共に生きる道か、孤独の正義を為して恋の葬式を行う道かという感じがして趣深いですね。

 

以上薄字終わり。

余談ですが、逃げ出しエンドの、不透明で終わらせる一文が好きです。

 

[一言]

深い業の流転を楽しめました。

 

 

 

冷灰

[概要]

『灰燼』の別視点過去話。王宮、憎悪と喪失、悪を愛すは悪たるか。

 

[感想]

主張がずっと変わらずにきわどい境界線で立ち続けていてくれたところがとても好きでした。相対するキャラが対岸に居続けてくれるお話は、誠実で良いなあと思います。

なんだろう、可哀想だと思わせてやろうみたいな厭らしさがないんですよね。ただこう思うからこう語っているだけみたいな冷たさを感じるような。その温度感がとても好きです。

この話を見るとうっかり、ヴェルメアの父が悪いもののように錯覚しかけるんですが、そこでもきちんと“悪”というより“正義の化け物”という概念を持ってきてくれるのが……テーマに即していて……うん、なんかすごく良いんです。言葉にならないけど!

 

ヴェルメアに求めるからにはきちんとこちらも譲歩する、というやり方も、すごく素敵でした。シームレスに口調変化した辺り、かなりの教養を感じさせてくれていいですよね……! 

過去話ということで幼いヴェルメアが登場するからこそ、彼の大人なやり口がより映えて、いやあほれぼれでした。

 

[一言]

クリア後に戻ってくる、あの画面が苦しくて好きです。

 

  

 

 

象牙の乙女』

[概要]

うす暗い霧の町、劇場、美しい自動人形とうだつのあがらない男。

 

[感想]

自分がまるでそこに立つかのように感じられる、霧煙る街の描写が好きでした。雨上がりの日の静かさとか、街中でのどことなく人混みで落ち着かない感じとか。常に煙で薄曇りっていうところも好きなんですよねぇ。古いロンドン? の雰囲気を好きな方なら合うんじゃないかなあ。

 

あと、書きたいものがついに思い浮かんだ時のあのシーン! 焦燥感と無我夢中! 私が二次創作で何かと書き書きするからなおいっそう共感でした。なりますよね自動筆記みたいな、あの、溢れていくものをしたためていく間の独特な時の流れ方。

 

そして何より、語るならあの劇中劇のシーンですよ!

キャラクターと役の境界線がぼんやりと溶けていって、なのに気持ちばかりぎゅっと物語に引きつけられていく、あの構成がもう好きですし。こちらの読む手が進んで気持ちが高まったところで、あのスポットライトのスチル! ねえ、もう、震えますって!

 

きちんと事前に一度劇のシーンを見せて、劇と本編の境界を先に認識させたうえで混ぜていく感じがより効果的ですごいなあと思いました。そういう意味だと若きウェルテル(でいいのかな)の話なども後になってみればポイントだったなあと思っていて、引用やたとえ話が実を結んでいく流れが本当に見事でした。

読んでる時は本当没頭してて、そんな構成だののことは意識から飛んでたんですけどね。てへへ。

 

象牙の彼女の、感情をうまく定義しきれていない感じというか、心があるけど心をわからないみたいな、独特の雰囲気を生み出すところも素敵でした。目力を感じる、ずずいっとこちらを見つめてくるあの立ち絵も好き。

 

[一言]

人形の心、ピグマリオン、理想の愛など好きな要素がぎゅっと詰まっていました。

 

 

 

 

『花盗人』

[概要]

和風、人間×人型人外、冬、誰かと別れるという事、傍にいるのに見えない人。

 

[感想]

この作者様は他作品をプレイしていても文体がとても静謐だなあと感じていたのですが、特に本作では冬や落ちる椿などが相乗効果で魅力倍増だったなあと思います。

名前欄が無い代わりにメッセージウィンドウの椿の色で話し手がわかるようになっているのもさりげなく素敵。

 

虚しい、の考え方も好きです。

終わりとか別れとかが強調されるこの作品、まさに終わり方が好きなんですよね。

致命的な単語で明言せず人によって解釈に幅を持たせてくれる終わり。でも、直前の会話や“長い”で連想される今までの彼女を考えると、どことなく方向性は察せられるところがすごく好きです。

彼女が何なのかを明示せず、ぼやけた概念で包んでいるところもより雰囲気が出ているなー、なんて。

見られなくなってしまった彼女の過去話を出して、最後に、見られていなかった彼女を見ていた人の話で終わるというのも……心に刺さります。

 

普段は文字表示を早めにしてさくさくオートで読む派なんですが、この作品はなんとなく、いつもよりもじっくりゆっくりと読み終えました。そんな雰囲気のお話です。

 

[一言]

切なく、沁みる話が好きな方向け。

 

 

 

 

モノクロの海を漂う人

[概要]

図書館にいる先輩と毎日文学的な会話をする短編。

 

[感想]

そっけなく気のない会話を重ねながら、ラストになってぼんやりとテーマが察せられる作品。

本好きの先輩、舞台の大半は図書室、起動画面は本の演出、目次、主人公と読者の感情移入についてなどなど、ゆったりと進みながら最後に言わんとするところを残して終わる後味にしみじみしました。彼は生きる人なので盗み見はできない……。

 

明確にこれがこうという回答が欲しいタイプの方には合わないかもしれませんが、雨の日や眠れない夜に延々と悲観的だったり哲学的だったりの思考を続けてしまう私のような人間には楽しめるかもしれません。

誰もがやってみる、遺書の練習とか、生死の定義とか、そういう思索をするための雰囲気ゲーな印象でした。

読んだことのある本の引用があるとちょっと嬉しくなりますよね。

 

[一言]

図書館にいつもいる黒髪変人の先輩、という響きでピンとくる方は多いはず。

 

 

 

ブヴァリアよ、枯れないで

[概要]

夢、現代とちょっとファンタジー、成り代わり。

 

[感想]

しんしんと積もるようにお話が進んでいたので、例の二人組が出てきてからはお話の方向がガラッと変わって驚かされました。パワフルに話を掻っ攫っていくのはやはり慧里さんの成せる技ですかね。クリア後に見られるおまけでしれっと好きな設定が書かれていてついにやっとしてしまいました。

 

色の使い分けがやっぱり印象深い作品ですよね。

特にエピローグではかなり画面が賑やか華やかで楽しかったです。ああいうカットインタイプの立ち絵の見せ方好きだなあ。

 

あと画像で言うと、病院のシーンの背景画像がすごく良いなあと思いまして。

単純に病室内を眺める視点じゃなくて、こう、お見舞いの視点なんですよ。お見舞い来てベッドの横で立ってたりパイプ椅子で座ってたりする時の目線の背景画像。これご自身で撮ってらしたのかなあ。それとも素材かなあ。どちらにせよ、お話の中身ともあわせて、すごい良い視点の画像だなと思いました。

 

[一言]

終わらない理想の世界、ほんのりと姉弟な展開が気になる方向け。

 

 

 

 

雪の果

[概要]

和風、兄と妹、成り代わり。

 

[感想]

他作品と比べると選択肢がかなり多い本作。この選択肢の数にも意図が感じられてとても素敵でした。視点が兄側で妹の心情を直接は描けない分、こういう形で伝えてくるのが上手いなー、なんて。

何かの隠し事がばれる時って、致命的なぼろが出ることよりも、小さな積み重ねが確信に変わることのほうが実は多いんですよね。で、それを創作でやるのってすごく難しいことだと思うんです。長い時間をかけて、かつ冗長にはならないよう自然に擦り込ませていかないといけないので。

それを見事にやり遂げていたのが、もう、本当すごいなあと。時を重ねていく中で、ちょっとずつ違和感が積み重なっていって、それでもそれを芹乃はそれを受け入れていく過程が伝わってきます。

 

季節の移り変わりの描写も美しくて……。

年月が重要だからこそ食べ物も肌に触れる感覚も、その時だけの季節を感じさせてくれるんですよね。変わらない温度の室内でプレイしているのに、冬の肌厳しさや、雨のけだるい感じなどが文章の端々から伝わってきました。

情景描写が一番好きな作品かもしれないなあ。

 

[一言]

和と季節と罪悪感と庇護欲。どれか気になるワードがあるようなら。

 

 

 

このまま

[概要]

百合、病室、死にまつわる思索や哲学の会話劇。

 

[感想]

この話にこのタイトルを嵌めることがもう色々と思考を広げるきっかけとなるなあと思いました。

例えば極端に単純な話、二人のうちのどちらかが心の内を告げてしまえば、あるいは行為を求めたり行ったりすれば、彼女達なりに通じ合う結末には辿りつけたんだと思うんですよね。でも、そう簡単にいかないことや、何か理由をつけないと動けないことは作中でとくとくと語られた通り。

勇気とかきっかけとかそういうのじゃなくて、なんだろうなあ。何かが足りなかったために、触れたのは首でも手でもなくあの場所だけで終わったんだろうなあと思っていまして。とにかく、動かそうとせずに停滞を望んだから、ああいう結末になったのかなー、なんて。

「このまま」って難しいですよね。現状維持は大抵の場合、静かな衰退を表している気がします。

このまま手を握っていて、と、繋げられそうなところも素敵。

 

なんだか作品自体の感想より私の解釈考察語りみたいになってしまった。とりあえずこんな感じで色々考えたくなるくらいにはセンシティブな作品だと思います。

蓮の癖が本人からしてみれば自然とそうしたくなることみたいな空気感で書かれていたのが、大げさでなくて好きでした。

 

[一言]

少し変わった女の子と、仄暗い雰囲気を噛み締めつつ思索にふけれる作品でした。

 

 

 

 

煌炎

[概要]

身分差、裏稼業、人殺し、復讐譚。

 

[感想]

お話の引きがとても好きです。

あそこでスパンと切って落ちて終わるのが、大好きです。

 

「復讐は何にもならない!」っていうのは飽きるほど語られてきた言葉だと思うんですが、それに対する反論というか、それでも復讐をせずにいられないのはなぜかというところにしっかりと踏み込んでいくお話だったように思います。

救われたい、救われない、救われたくない、のくだりがとても好きでした。似たように家族を殺される流れの『灰燼』とはまた違い、悪だという自覚は確固としてあるというスタンスもこう、すっきりします。そこの問答はもう前提で終わっている感じ。

 

キャラクターが一見真逆なのもすごく良いんですよね。下町をろくに知らない貴族のお坊ちゃんと、後ろ暗い作業も仕事もお任せあれのお姉さん。初めはまったく別々の凸凹な二人に見えていたのが、だんだんと息を合わせてきて、根っこの近しいものが見えてくるような。変質したと考えられるのかもしれませんが……。

ともあれ、軽い会話の掛け合いも、重々しい思考の発露も、どちらも身に馴染む話でした。

 

[ネタバレ込みのエンドについて]

ラストまで読み進めた一読者な私はやっぱり、エルネストの朴訥としつつも誠実な人柄とか、あるいはニュイのさっぱりとして自由に見えてしまう姿とかに、愛着があるんですよね。だから、「きっともっとどうにかなっただろうに」って思ってしまうんですよどうしても。あのエンドは大好きですし絶対に変わって欲しくない、あの話の結末として最上なんですけど、それとは別枠としてもうこの気持ちは許して欲しい。

で、エルネストにはきっともっと何かが、何かがあるはずだからどうか続いて欲しいと、何かの中身も知らないまんま言いたくなってしまうのですが。仮に本当にその何かがあったとしても、エルネストの解は決まってるんですよね。

 

ここにきてハッとしたんですよ、婚約者との会話シーンはこのためにあったんだなあって。私はエルネストの先を、何か、考えたいしあって欲しいと望んでしまうんだけど、それについての回答はもう語ってくれているんですよあの場面で。構成が本当に痺れました。あのシーンがあったからこそ、こんなにも、気持ちとしてはままならなさもあってなお納得感のあるエンドになるんだなあと……。

 

それでもやっぱり、あのままニュイと一緒に相棒としてやっていくような妄想はしてしまうんですよね。未練というかなんというか。ニュイが少しだけ漏らしてくれた、クリア後のあの文章は、そういう可能性が頭の中にあったことと有り得ないこと両方を示すのかなあと考えています。

とても丁寧に、始末をつけられた話でした。

 

[一言]

復讐、という言葉に感じる全てが込められている気がします。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

たった一つだけ好きな作品を選ぶのなら「煌炎」

 

描写の仕方が好きだったのは「雪の果」、

世界観が好きでシーンが光るのは「象牙の乙女」、

萌えやツボを感じたのは「シトリンの欠片」、

 

でした。

たくさんの美文に会えて嬉しかったです。

 

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