「恐怖とは未知の怪物か柳の影か?」
はたまた正面貴方のことかな前置き。
えー、今回は時雨屋本店さんところのフリーゲーム「ユーラルーム -Ulalume-」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
エンド分岐有り探索ホラー。全エンドを見て1時間強くらいかな。
追いかけっこあり謎解きあり。全体的に難易度は易しめですが、グッドエンドを見る時だけは難易度が上がります。でも一点コツを掴めばなんとかなる……なった……ので詳しくは追記にて。
とりあえずまずは、良かった点など。
様々な種類の恐怖
メインはクリーチャーが襲ってくるタイプのびっくりドキドキ体験ですが、丁寧な演出によるじわじわくる恐怖も楽しめます。
シナリオフックである消えた警備兵や、化け物に対する恐怖もそうですが。なんというか、プレイヤーに恐怖を受信させるのが上手いんですよ! 何事もないはずの音にもビビっちゃったり。うまいこと不安を煽ってくれます。
やっぱり信頼できない隣人の存在が大きいんですよね。悪いことばっかり得意な双子の弟、ヴィクター。困ったときにさくっと銃をぶっ放してくれる頼れる奴でもあるんですが、彼がいるかどうかで緊張感は段違いになるはず。良いキャラしてます。
謎解きは拳銃でショートカット可能
さて、この手の探索ホラーで私がよく感じることとして、エンド分岐と周回の手間があるんですよ。中でも中盤の選択肢やゲーム中での行動でルートが決まる場合、種がわかった道を何度もやり直すことになるのがけっこう大変なんですよね。
で、面白いのが本作の銃の使い方。なんとこの銃、謎解きをさくっと省略して先に進めちゃうんです! 作中で何度も警告されるように、初見ではなるべく使わないほうが無難ではありますが……。周回プレイの時にはたいそうお世話になりました。
プレイヤーとしてメタ的にありがたい要素ですし、銃を遠慮なくぶっ放すという行い自体がのちのちに効いてくるのも上手かったです。
また、謎解きではありませんが、作中でちょっとした本棚を読めるシーンがありまして。あそこがメッセージウィンドウ一行ずつじゃなくてバッと一面貼りなのも、読みやすいしスピーディでいいなー、と思います。
さりげなく丁寧な演出
地下水路という舞台設定がまた良いんですよねえ。水面にキャラの影が映る、この演出が色んな意味ですごく巧み。こういう、現実だと当たり前に起こることをきっちりゲーム内でも反映してあると、没入感も高まります。
音に反応する化け物がいるという設定で、ゲーム内でも歩くと実際に音が鳴るの、臨場感がすさまじいんですよ……! なんかむやみに焦ってしまったり、ぱちゃぱちゃ鳴る水音がいやに大きく感じてビビってしまったり。あ、音量調整はできるのでご安心ですが、心的な意味でね。
また、画面の変化もポイントの一つ。特にトゥルーエンドの鬼ごっこではかなり死にまくることになるんですが、この変化がモチベになってやり遂げられました。詳しくはネタバレになるので追記へ伏せますが、かなりあちこち細やかで惚れ惚れでした。
エンドによってちょっとした場面のセリフが変わるなど、セリフ分岐もたっぷり。
あと恐怖とは逸れますが、劇場の張り紙に書いてあることが一枚ずつ違うところも楽しかったです。
引用たっぷり格調高いセリフの数々
さて、雰囲気作りを推しまくったところで、最後に!
本作の一番好きなところが、引用の仕方です。タイトルからしてエドガー・アラン・ポーの詩である本作。この元ネタのラストをこうしてストーリーに反映させるかという驚きがあり、またそれを別作品とつなげる驚きがあり……。オマージュしつつもしっかりオリジナルストーリーとして生み出しているところが素敵でした。
主人公が劇団員だからこそ、引用の数々を拾い上げてくれる流れも自然ですし。何より「演じる」というテーマともしっくりくるんですよね。
そも、意味深で知的な台詞を吐き狂いながら走り去っていく少女、みんな好きでしょ! ぼくは好きです!! 素敵でした!
ちなみにとりあげられている作品類は参考文献として同梱してあるので、クリア後に閲覧するのをおススメします。
とまあ、こんな感じで。
一つ「あっ良いな」って思った演出が二重三重の意味を持って襲い掛かってくる、良質な作品でした。双子ネタ好きな方、狂った少女、美文名文、演劇などが好きな方にオススメです。
追記ではネタバレ感想。
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ネタバレ注意
エンドについて
・エドワードルート
初めに辿り着いたのはエドワードグッドエンド。ヒロインとフラグも立てつつ、闇と決別し自分を掴む、いやあ実に王道で前向きな話でしたね~。ラッキースケベじゃないですけど、ハプニング的にデキてる扱いされちゃうところも印象的。全クリしてから改めて見直すとこのエンドだけ異色なくらい明るいなーと感じます。
グッドエンドは他にも好きなところ多いんですよね。識字話とか。ユーラルームみたいにこう、天才的で胆力のある子が文字を読めないっていうの、なんかグッとくるんですよ。彼女の過去とかが色々と偲ばれて。好きです。
あと、通りすがりの劇団員のエドワード評が好き。優等生が圧出してくるとギャップがあっていいですよね。今後めっちゃモテそうな気がします。
・ヴィクターエンド
私、彼のグッドエンドがあって本当に良かったなあって思うんですよ。
この手の話ってやっぱり、悪であり闇である側とは決別したり融合したりして、言い方は悪いけど踏み台扱いされて終わっちゃうじゃないですか。それが寂しいなって常々思っていた私としては、ヴィクターのためのエンドがあって嬉しかったです。
それが良いとか悪いとかじゃなくて、嬉しかった。
とか言いつつ、闇に沈んで闇に消えるバッドエンドのほうも好きですけどね。
やっぱりユーラルームとの対比も気になっちゃうなあ。今まで配役だったヴィクターがアクターに成り代わったように、ユーラルームの狂気も正気に成り代わるんでしょうか。そういう、色々考えたくなるエンドでもありました。
・ナルキッソスとエコー
この元ネタが大好きなのでとてもテンションが上がってしまった。
現状維持エンド、いやもっと悪化したエンドと言えるのかな……。これからもユーラルームは舞台の裏、窓の向こう、鏡の裏で囁いてくれるのかなと思うと、なんともいえない虚しさが残って大好きです。
細やかな演出面
マッチ拾った時のアイテム説明文が好きなんですよ。靴の底で擦って火をつけるっていうあれ。そんなことができるんだーって素直に驚いたんですが、ググってみたところ昔作られたマッチならできるみたいです。詳しくは各自調べて頂くとして……。さりげないマッチ一本で時代考証が垣間見えるところが素敵でした。
いやほんっと、演出が細かいんですよね!!!
3幕に血がついてるかどうかでルート入りが判断出来たり、銃でショートカットした時のユーラルームの賛辞がバッドエンド行きだと辛辣になっていたり。こういうちょっとした分岐を見つけるの心底好きなんですよー! 水路のキャラチップもぎょっとしました。
演出として見事なのは勿論のこと、「何か変わる」=「違うルートに入った」と判断できるところもユーザーフレンドリー。色んな要素一つ一つに意味があって気持ち良かったです。
上手いな、と思うのは、キャラチップについて。
操作キャラって、パーティメンバーを全員ぞろぞろ連れ歩くことのできるものと、主人公だけが表示されて同行者のキャラチップは省略されるものがあるじゃないですか。ドラクエ3形式とFF6形式みたいな。ピンポイントに伝わりづらいな。
とにかく、同行者が省略されるというのを絶妙に生かしているのが本作だと思うんですよね。もうやっばいぞこれ。
例の一人だけになれるお部屋で、特にこのヤバさを感じました。誰一人として今起きたおかしさに言及しない。この不気味さがヤバイです。
マップの造りも良かったな~。劇場の、舞台のマップチップすごい雰囲気出てて好きなんですよ。追いかけっこは泣きましたが、見た目自体はとても綺麗で素敵でした。
『毒薬のシルエット』のダンスホールでも感じましたが、こういう荘厳な雰囲気作るの上手いですよね。こっちも何か参考にされてるのかなー、なんて。
その他ちょっとしたこと
・ゲーム開始時の説明文と拍手
雰囲気が出てて大好き。
・タイトル画面
見かけたぶんだけでも19種類ありました。もっとあるかも。子どものラクガキみたいな変化が好きです。イラストだけでなくBGMまで変わるのが本当感動的。タイトルBGM反転バージョンがすごい気に入ってしまって、その画面のままで延々と聞くなどしてました。
・全クリ報酬絵
全てのエンドを見るとスチルが一枚増えるんですが、この絵の意味するところがかなりありそうなのにわからなくて歯噛みしました。ぐぬぬ。お腹と頭でそれぞれエドワードとヴィクターなんだろうなあというぼんやり理解度……。気になります。
・一人だけになる部屋
ヴィクターかエドワード、ルート入りしていないほうが離脱するお部屋について。あれ言及はなかったけどたぶんユーラルームが過ごしていたお部屋ですよね。なんで離脱したのかは疑問だけど、演出自体はぞっとして好き。
・エスター
ここにもいてにっこり。
・追いかけっこ攻略?
グッドエンドラストで心折れかけた人向け。
まず、怪物はあの絵がたくさん並んでいる壁で良い具合に引っかかるようになっています。ステージへ向かう道に入る時、左寄りにぶつかるように曲がると引っかかってくれるはず。引っかけたままで前へ進んで、十分に距離を取ってから、ギリ怪物が反応してくれるところで1タイル分右へ行くこと。あとはがんばってくるっとまわってがんばってにげる……………。
とにかく、いったん引っかけて距離を稼ぐようにしたらなんとか勝率が上がりました。私みたいにアクション苦手な皆様の検討を祈ります。
語りたいのはこのくらいかな!
ドッペルゲンガーや双子、鏡などなど、そっくりの自分でない自分というテーマが元々大好きなので、とても好みに合う作品でした。