うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「かりそめドッペル」全編ネタバレ感想

フリゲ記事更新が遅くなりました&そのぶん前後編だから許しての巻。

 

今回はTeToriapot/てとりさんところのフリーゲーム「かりそめドッペル」の感想をつらつら書きますね。

 

本記事はネタバレ版!

未プレイの方はこちらの記事から先にどうぞ。

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

というわけで、

以下は全てネタバレ注意!!

なお、かーなーり、長いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

読む順番など

 

所感のまとめとして最後にも挙げますが、とりあえず攻略順だけ。

当ブログ記事を書く際、この部分をネタバレ無しのほうの記事に出しておくつもりではあったのですが、どうあがいてもネタバレになるので書くだけ書いてやっぱりこっちに格納します。

 

ニキルギリが最後なのは確実。

あとがきや結末から読む派の方はニキルギリから入って、作品の全貌を把握してから読むのもありだとは思うのですが……。そうするとY型ドッペルゲンガーの性質や呪いについての解説が丸っと飛ばされてしまうので、黒の旦那とのやり取りの感動が半減してしまうかもなー、なんて。

 

最初はロップ&セーズを強く推奨します!

まず、もうとにかくわかりやすい! お話としても起承転結しっかりしてて、後味良し、さらには随所でロップが解説してくれるので世界観やソーサー自身についても学べるところが多いように思います。このお話の導入として一番秀逸です。

 

次はシシレットかな……? ロップとセーズの話の時に無かったグロ系の要素も混ざってくるので、テイター編に入るための下地になるかなあと思います。「この作品は少なくともここまでは描写されるんだな」という心構えというか。シシレット自身に問題はないので読みやすいですし、段階を踏んで描写されますしね。

 

フルメが難しいんだよな~! 私は2番目に読んだんですが、けっこう「!?」となりまして。ただ早めにフルメ編を読んでおかないと、この作品の構造が伝わりづらいよなあとも思っていて。「それぞれに担当の神(悪魔)(天使)がいる」とか「主人公の上位存在がキャラクターとして登場する世界観である」とかいった根幹のところの実感を持ちづらいよな~という……。ぬぬぬぬ。

あとフルメ編自体はすごくこう、すっきりと厄を落とす清らかな話(というかフルメ自身がそういう清らかなものという概念になれる)なので、一番さっぱりしてるように思います。繋ぎっぽくもある。なので、どっかしら中ごろに読むのが良いんだろうなあとは思ってます。

 

テイターはかなり“異色”なので、3・4番目。いやもうこれ以上語ることがなくなってしまうなあ。フルメとけっこう対比すると面白いと思うので、フルメの前後で読むといいかも。

ただ個人的にはイチオシです。

 

と、まとめるとやっぱり左から順番に読むのが最もオススメとなるんですよね~!

いやでもフルメ……うーん……うーん!

こういう、訊かれてもないのにオススメ読む順番を思考してしまう辺り、自分のTHEオタクな業を感じてしまいます。へっへ。

 

 

 

ロップ&セーズ編

 

いや~~~~~~めっちゃトキメキました! 萌えました!!

ものすごく雑にくくってしまうと、「お前らはよくっつけ!」な恋愛ノベル。こじらせ童貞×こじらせ押せ押せシャイガールボーイ。でもこれだけで留めたくない、二人の大切な想い合いとか、言うに言えない事情の納得感とかがすごく丁寧に描かれてるんですよ……!

二人の種族やバックボーンがしっかりと彼らの性格に繋がって、そこから二人の関係性のこじれに繋がっているところも、すごく納得感があって素敵でした。

 

認めてもらってから一気にセーズの勢いが増すところもすごく好きですね~! 二重三重の意味で溜まってたんだろうなあっていう。解放からの勢いがものすごく爽快なのも、言ってしまえば「性欲」らしい話でもあっていいなあと。

あの世界では、恋愛と性欲を切り離せる人がいるということをきちんと表現されているところも好きです。なんだろう、まともな倫理観が裏打ちされているからこそ多少ぶっ飛んだ子がいても彼は彼なんだなとわかるし、全体的に、安心する?というか。ものすごく輝いてみえます。

 

他の選択肢や純愛なるものがある中で、この二人の愛の形はそうでないという書かれ方をしていることが、なんか安心しちゃったんですよね。ああほんとに、色んな考えや形を肯定してくれる作品なんだなって。特にサソウさんと導火……じゃなかったフリントの二人の会話は、それ自体がお互いの立場からなる恋愛観の議論という感じがして、とても好きでした。あれが挟まるかどうかであのラストを受け入れられるかどうかがかなり変わる気がします。

性欲は悪いものではなくて合意があればしてもいいいというところにも、特にセーズの罪悪感に対する圧倒的な肯定が溢れていて、素敵でした。

 

 

まとめると、この作品の恋愛観好き!

幸せハッピーエンドで良かったです。

 

 

 

 

フルメグレドアキ編

 

ロップとセーズが萌えだとしたら、フルメは燃え。

盤外の方々が生き生きと乗り込んでくる構成には驚かされましたが、これは『ばつえいビルッテ』のほうで慣らされていたこともあり、すんなり受け入れられました。

光なのに欺であり偽であるというこのキャラ属性、すごく皮肉利いてて好きですね~……。賞賛は行き過ぎれば盲目になり、盲目は強い光に目を焼かれてこそ成りうるもの、みたいな、連想ゲームのようにキャラの個性が納得を持って繋がっていくのが愉しかったです。

 

劇中劇を見事成し遂げて華麗に成長するフルメの姿はまさに主人公! いや~、怠惰もといウタカタが登場してからはもう、展開と台詞回しに対する興奮がすごくて、一気読みしてしまいました。

余談ですがサソウちゃんって妹なんですね。両性だったかな、把握しきれていませんが、なんとなく男性寄りの自認をしているしされていると思っていました。謎に。

 

ソーサーがあっさりとプレイヤーと同居する視点主を離れて、ソーサーという1キャラ・キャストに変わるところも斬新。特に直前プレイしたロップ&セーズはとても、なんだ、お手本のようなノベルゲーらしいノベルゲーの体裁を保っていたので、この型破りさがなお響きました

冒頭から昔話の型で入り、途中で型を破ったのに、また改めて型へキャラクターを入れ直す。この構成もすごく面白い! 主役はフルメ、ヒロインはソーサー、悪役はフリント。とってもとってもわかりやすいあの構図。

そのうえで、ソーサーがただの置いてけぼりの代替可能なヒロイン役になるのではなく、最後の最後にソーサーとしての個性を出してもらえたのがとても救いでした。

ソーサーがいつのまにかプレイヤーの認知の外で彼女のやりたいことを見つけていて、しかもその方向性はほかならぬ主人公から「好きにして良いんだよ」と肯定される、これはもうこれ以上ないって程ハッキリとした“個の尊重”でしょう!

キャラをキャストに当てはめた直後に、こうしてキャラをキャラとしてきちんと扱ってくれる、この誠実さみたいなものがすごく心に響く話でした。

 

他にもストーリーの描写の熱さや、フルメという魔人のいびつさなど、注目したい点は山ほどあるものの、やはり構成に着目したくなる一編だったように思います。

 

 

 

 

シシレット編

 

途中までは穏やかに進行していただけに、ラストで涙腺がやばかったですね~! 同時に、作中でサソウさんが言っていた、本人に問題はないから安心して託せるみたいなセリフがとても印象深かったです。

あれで最後まで見ないふりをする、に行かず、家族と向き合う強さをすでに持っているところが、シシレットの資質なんだろうなあと思わされます。

 

いや~、何がしんどいって、シシレットの家族がシシレットを良く想っていそうなところがつらい。あの言葉は通じてるのにその中身が致命的なまでに通じないあの一連の会話! あれもう絶望しかなくてとても好きでした。

 

父親の、シシレットの製品を見た時のセリフも、あれ個人的には(裏でやってることや倫理観を抜きにすれば)すごい優しいなあと思うんですよ。

だって父親たちの価値観からすれば、長いこと家を空けてた子どもが、自分の腕を磨くんじゃなくてずーっと寄り道みたいなやらなくてもいいことをやり続けていたわけじゃないですか。それでも「無駄なことをして!」って言うんじゃなくて、「すごいな」「おまえはこういう考えでやったんだろう」って最大限の譲歩を示そうとしてくれるの、マジでめっちゃ心優しいし愛してるんだと思うんですよね。

 

だからこそすごい虚しいし、どうしようもなく分かり合えないし、嫌いになる。

 

結局シシレットの父親って、シシレットの価値観を真っ向から無視して、自分の価値観の中でシシレットを愛でてるわけじゃないですか。それこそ個として扱わずに、家の子という役柄?で扱ってるみたいな。なんだかなあ、下手に放蕩馬鹿娘と言われるよりも、ずっとずっと残酷で堪えるなあと思います。

どうしようもないことって、結局はどうしようもないんですよね。どちらが悪いとかじゃなくて、いや、倫理的に悪いのは明言されているにしても、あのすれ違いを「どうしようもないこと」と言ってくれる人がいたのはとても心の救いになりました。生きていくうえでああいうことは、悲しいかな、よく起こることだと思うので……。

 

 

エンドも一見は温かいですが、やってることはそこそこ苛烈で、そこのギャップも好き。ただのすれ違いではなく、許せない、まで行ったんだろうなあと。あそこで黙って俺達は俺達の道を行くとするのではなく、しっかり家を落として「成果」「正義」に似たものを見せてしまうところも好きです。

もしエンディングが俺達頑張ろうだけで終わっていたら、あれはたぶん個の話として終わっていたんですよね。結局、家・集団・元々備わっているものに個は勝てないという話。でもそうではなくて、シシレットが彼女の思う理想を体現するために、家を倒した。あの家はもう倒しておかなければならないものだった。個は逃れられない血に勝れる。

きっとここでもまたシシレットは律義に、責任なるものを抱えて、より一層職人の仕事を頑張るのだろうと思うのですが……。

 

ふわふわとした理想だけでなく、二人の理想の道の始まりをきちんと現実的にも描く。そこまできっちりやり遂げてくれたことが、とても好きな結末でした。

 

 

 

 

テイター編

 

文体と雰囲気がもう全部好きですね!!!!!!

まさに「宗教」であり「呑まれる」感覚でした。こんなにも濃厚な世界、見れることある? テイターの正気な狂いが始まる時のBGMもすごいイイ効果してるんですよねえ。

普段は色々となんか、せっかく心で受け取ったものを文字に置き換えた結果大事なものを取りこぼしてしまいがちな私なんですが、この話はほんとに肌身と心だけで受け取りたい話でした。この衝撃を純な形で置いておきたい。下手に変換したくない。

 

まあそう言いつつも感想文は書いていくわけなのですが。

 

「濁」が始まり蛇巫女様がおわしましたシーンからもう一直線に好きです。思わずクイックセーブ取った。サザラシの喋り方、呪文って感じですごく好きなんですよね……読んでてもうめちゃくちゃ気持ち良いもん。何かと韻を踏んでシンメトリーに喋るところもすごい良い……。もうなんかずっと喋ってて欲しい、会話劇部分だけでもボイス化して販売してもらいたいくらいです。同音異義語って素晴らしい……。

サザラシは斜視っていうのかな、あの目のちぐはぐさもザワザワして好きです。あえて片方が隠されてるのがまた良いんだ……。

 

さてしかし、ストーリーとして気になるのは「神は見放したものを見放さない」。とてもカッコイイと思う反面、まだ理解が及びきっていないところもあります。

テイターが魔力不足に陥っていたのは、テイター自身が神を拒んでいたからということなのかなと思っているのですが。そもそもとしてダークエルフとハイエルフとで序列ができていて、テイターたちが追い出されるという構図自体は「神が見放す」に当てはまらないのかな……という……? もっと広い概念で話してるのかなあ。うーん。

世間一般でいうところのエルフ=高慢で排他的、というイメージを、宗教と絡めて取り入れている本作の概念がすごい好きなので、もっといろいろ知りたいです。エルフ辞典欲しい。あとこの世界のエルフは、外見だけじゃなくて食べるものもどことなく中華っぽいですよね。他種族にもそういう固定イメージみたいなのあるのかなあ。

もうなんかビルッテ世界ガイドブック欲しいです。

 

 

と、メインのテイターについてをうっかり後回しにしてしまいましたが。

「なんだ、なんだ、私が悪いのか!」

この一言に全部がこもっている気がしています。大好きな台詞です。

しかし表現が難しく、良いキャラしてますよねえ。救いようがないけど、悪人じゃなくて、でも善とは到底呼び難いみたいな……。いっそ吹っ切れてしまえばよかったろうに、エゴを貫いて元気に暴れることもしないもんだからなおさらこじらせてるみたいな。

このどうしようもなさが好きです。

なんだろうな、更正するのが正直一番わかりやすいハッピーエンドなんだと思うんですよ。たった一人の足に縋って落としていく関係から、広く他に向けて社交的になる、みたいな。でもそれをすると私が親しく好ましく思っていたテイターという人物自体が別物になってしまうと思うんですよね。だから、テイターのテイターらしさをそのままにしてくれるあの「罰」がすごく嬉しかったです。

といっても、シシレットやソーサーが示してくれたように、これからきっと外に開放されていく道も確かに用意されていて、それにテイターも乗り気なんだと思ってはいるのですが。なんだろうな、全部剥ぎ取って「更正」とするのではなくて、軟禁とか素直じゃない態度とか、根幹を残してくれているところが好きでした。

 

「姉」の容姿が一切出てこないところもすごいなんか、不気味というか、終盤になって生きますよね。言われて初めて、我々は「テイターの語る姉」しか知らなかったんだなという。認知の切り替えポイント。

 

あと、ダークな嗜好の者が知っている王道展開をさらに深めていくところも実に素晴らしくて!

幼児退行の裏にある甘え。信仰からの盲目からの自己陶酔の気持ち良さ。励ましという名の押しつけ、慕うという響きの疎ましさ、所詮メンヘラは縋る相手が消えれば次を探して上手いことやってしまうというこの理解度。何より、成り代わりの先にある、死者を模せば究極死者になるというこの結論

王道のその先にある、本質めいた部分を撫でさすっていくのがすごく、発想としても展開としても斬新で興味深かったです。

 

 

余談ですがハイエルフと白紙の妖怪ってやっぱ関係あるんですかね。青が白を模して作って、白から離れれば離れるほど格が下がるって感じなのかな。

 

 

 

好きなシーンだらけのこの話、中でもやはり外せないのはここ。

「「それでは今後も御贔屓に!」」

一等好きです。

 

 

 

 

ニキルギリ編

 

ものすごく優しい話のはずで、だからこそ、「もっと何か別の結末に辿り着けるのではないか」という可能性を願いたくなってしまう話でした。

この私の感想がさあ! そのまんま、たぶん、サソウさんの想いに同調してるんですよねきっと……。もっと何か、違う、違わないし幸福だしきっとこれも一つの形なんだけどでも、という葛藤。徹底して穏やかだったから、そのぶんとても痛くてつらい話でした。

 

他と比べると、ものすごく穏やかで満たされていて、わかりやすく障害もなくひたすらに幸福なんですよね。そしてこれをバッドエンドとかsadエンドとかメリーバッドエンドとかとも呼びたくないんですよ~……。だってなんか、幸せじゃないですか、あれでもなおソーサーはさ……。

なんか、私の想う型に当てはめるような幸せとは別の形の幸せをソーサーは手に入れているんだなあと思います。それは喪失を伴う幸せでもあったんだけど、喪失ばかりに目を向けていたら、ソーサーのあの笑顔や終始穏やかな終わり方のことも全部、駄目だったことにしてしまう気がして、さみしいんですよそれもまた。

だから、ああほんとに、ううぅ、言葉にならない!

ただ、こういう愛のような恋のような慈しみのような感情で誰かと触れ合ってみたいなあとは強く想いました。羨ましいな。羨ましい、ということにもまた、抵抗があるんですけどね。

 

話をもう少し具体的にして、エピローグについて!

他の話のメンバーが出てくることや、パスワードを入れた時のサソウさんの解説文を考えると、色々と深みの増すエンドでしたね~。

ソーサーが欠片なのであれば、それこそソーサーのようなものはたくさん存在する可能性があるわけで。そのソーサーたち一人一人を治療していって、それぞれのソーサーはロップやセーズやフルメやシシレットに出会って、そして最後に残ったソーサーがこのニキルギリルートのソーサーなのかなあと考えています。

ああでも違うのかな、ニキルギリの方がたくさんいるのかな? でも蠍を作るのは慎重にやったみたいなことを言っていたはずだから、やっぱりソーサーがいっぱいいると思う方がしっくりくる気がする……。

 

もし私の想定通りの展開なのだとすると、サソウさんはひどく、ひどく優しい人だなあと思います。

 

 

 

 

 

どの話も好きだしどのソーサーも好きだな~!

余談ですがソーサーが自分の形を固定し始めるとそれに連なって「」で喋るようになる演出が大好きでした。産声って感じ。

 

とまあ、こんな感じで!

 

お気に入りで、何度も読み返したくなるイチオシはテイター。

二人の関係性やお話の展開が好きなのはシシレット。

 

どうしても一つを上げるならこの二つが二強! 一文で矛盾しましたが! でもやっぱり全部のお話に魅力があって、こういう切り口ならこの話だなという要素がそれぞれにちゃんと用意されているように感じました。

 

 

 

結論! サイコー!!

嗜好の合いそうな方には全力でオススメしたい話でした!