「蘇ってその後は出生届でも出しますか?」
認定死亡と失踪宣告は異なる前置き。
えー、今回は虚構製造社(雨ガエル)さんところのフリーゲーム「我が為に鳴け、夜の鳥」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
舞台は現代日本のホラーノベル。ダウナー男性教師と腹黒女子高生の、死者蘇生にまつわる執着の話。だいたい数時間はかかったかな?
R15、流血・暴力・虐待・グロテスクな表現あり。
というわけで、良かった点など。
第一部・ダウナー男性教師×腹黒女子高生
生徒という立場を盾にしてニヤニヤ顔でからかってくる黒髪JK、みんな好きだろ!? 好きな方は少なくともいる、なぜなら定期的にそういった関係性の創作漫画がツイッターでバズっているから!
このライトな切り口がうまいんですよね~……。
真実を知るキャラとそれを突き止めるキャラで、商業作品でもよくあるミステリやサスペンスの型を作って、物語へ入りやすくされています。テキストも二人のテンポ良い掛け合いが重視されていて、読みやすく、導入としては完璧。
で。
そんな入りやすい導入だからこそ、第一部のラストは衝撃なんですよね……。
エンディングが二つありますが、どちらも好きです。それまでの掛け合いがギスギスをコミカルで覆い隠すような雰囲気だったので、なおさら響きました。
陰鬱ノベルですねこれはね~……。自称たがわず。
第二部・因習村の過去と狂った愛
第二部はがらっと雰囲気が変わり、一人称視点の過去回想から始まります。
立ち絵なし、地の文がずらりとベタ打ちされる、サウンドノベル形式。でもこれがものすごく合っていて!
この作者様の作品は乙女ゲーが多いので、特徴的な硬い文体が合わない時もあったんですが……。こと今作においては、この文体と描写力がとてもしっくりきました! じっとり背に汗かく追体験ができるくらい濃密なテキストです。
ノベルで怖さを感じさせるの、ものすごい技量がいると思うんですよ。惚れ惚れ……。
・因習村
・ヤンデレ
・女の肢体描写
・幼少期のトラウマ
などなど個人的にぶっ刺さる要素も多かったです。るんたった。
縦読みで雰囲気たっぷりの画面デザイン
画面デザインもしっかり縦読みの本作。第一部と第二部で画面デザインが変わるのも、読みやすさがこだわられていてとても好きです!
特に第一部は、立ち絵が左右でメッセージテキストが中央の配置。これものすごく読みやすくて助かりました。この二人は分かり合えないという暗喩もどことなく感じさせてくれて好き……。
バックログもかなり独特? 行数までわかるログは珍しいな~と思うなど。
読み返しやすいチャプター選択
びっくりしたのが、チャプター選択について。
ただ一部か二部を選べるだけだと思っていたんですが、場面区切りに応じてけっこう細かめ。
そして嬉しいのは、この画面で各チャプターの章名がわかるところ!
プレイ中はセーブした時だけ章名が確認できるんですが、これが並ぶとまた統一感あって良いんですよ~。
気づけるとちょっと嬉しい、さりげない良演出ポイントでした。
とまあ、こんな感じで。
THE日本なホラーを味わいたい方、じっとりした鬱展開や狂愛が好きな方におススメです!
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
各種元ネタ考察
作中の呪文もとい祝詞が気になって、調べてみました。そのまま入力したらもろに元ネタが出てきたので、Wikipediaより引用。
こういう下調べがきっちりしてる作品って、すごく信ぴょう性が深まって好きです。フィクションだからこそ真に迫る雰囲気、大事。
第一部
JKにひたすら気圧されるやれやれ系主人公、穂高。
…………と、見せかけるのがほんっとうに上手い作品でした!!
もうね、興奮した! 興奮した!!
どっちのエンドであっても穂高が勝ち逃げしちゃう、このどんでん返しがたまりません。穂高VS西町の構図だったのが終盤でいきなりそもそも前提条件が違うんだぞとたたきつけられる、気持ち良い衝撃……。
ちまちま小分けで読んでたんですが、ラストは一気読みしました。最高。
西町エンド
先にこちらを見ました。
死することで始まる呪いと言えばいいのか……。西町が一人になってから、急にこれまでの優位関係が逆転する感じがすごく読んでて面白かったです。
儀式の情報も全部手に入れて、材料もすべて用意してあるのに、ただただ不穏な焦燥が襲い掛かってくる感じ。今にも夢が叶うっていう状況のはずなのに、ひたすらに厭さがこびりついている。
完璧にこなせ、指示は消去する、という追い詰めっぷりも巧みですよね。緊張感がすごい。読みながら心臓が早くなりました。
いやもう、ほんとにホラーしてるよこの作品……!
もっと似せなきゃ、と死体を解体していく西町のシーンは本当にトラウマ物で大好きです。
穂高エンド
こっちは狂乱怒涛のヤンデレエンド。
私は西町エンドを先に見たのでまだ混乱は薄かったですが、こっちから読んだ方はそれこそつぐみin西町の感情が追体験できたのかもしれません。「今何起こっててこれ誰で穂高は何!?」って。これもこれで感情ぐちゃぐちゃになって愉しそう。
西町エンドは先行き不透明で追い詰められての沈み込むような狂気だとしたら、穂高エンドは何か起こるかも承知の上で全部壊しつくす熱っぽい狂気でしたね~……。
警察が戸惑うシーンを入れてくれるところも個人的に大好きでした。なまじ儀式が成功してしまう分、はいおしまいにはなれないところも後味が実に悪い。つまり、ホラーとして最高です。
第二部
タイトルの意味が分かる瞬間の恐ろしさ、好き~~~!
ヒロイン(と呼びたい)な彼女の名前がつぐみ、これ完璧に狙ってますよね。
いや~、初めは「夜の鳥」で鵺辺りかなと思ったんですよ。で、反魂の結果それこそ鵺だのキメラだののめちゃくちゃなものが産まれてしまうみたいなことなのかなと推測してたんですよね。
想像を超えてくれる物語、好き~~~~~!!!
出会った時からつぐみの扱いが雑、というか、大学生の穂高は他者全般を軽んじてるのが見て取れるのも、一貫してて好きでした。そりゃね、殴る殴らないの境界線が薄くもなりますよね。
過去のトラウマから来てるっていうのと、その該当シーンにおけるおぞましい女性らしさの描写のうまさがまた、良い……。
つぐみから惚れて話が始まってしまったのも、なかなかに設定がニクいなと思います。ヤバイ男に捕まったんじゃなくて、自分から行っちゃったんですよね……。
精神病院への通院を進めるなど、現実的な対処法も作中に登場するところが好きです。第一部の警察もそうですが。現代日本舞台にふさわしいリアルさを出しつつ、チープで無力な機関にはなってないところがいい。
と、ネタバレ込みで語りたいところはこんな感じかな。
じっとりとしていて、まさに和なホラーと陰鬱さを感じられる一作でした!