うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「Sweet Painful Utopia」感想

「大人になるには十分で、君を思い出にするにはまだ足りない」

そんな一か月を過ごしたい前置き。

 

 

えー、今回はKIJI-N-CHI(きじんち)(kiji)さんところのフリーゲームSweet Painful Utopia」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

人外少女四人でルームシェアする百合ノベルゲー。エンド分岐有り、性的描写の匂わせあり、日常の描写が中心の、ほのぼの切ない雰囲気な作品です。

というわけで、良かった点など。

 

 

異文化交流が堪能できる人外もの

 

メインメンバーは、吸血鬼、妖精、人魚、猫に育てられた魔法使いの四人。ルームシェアして人間界で過ごす、という流れから察せられる通り、各自の過ごし方からして色々と個性があって、まさに異文化交流を感じられる作品でした。

主人公が人間界の子なおかげで、変に突っかかることなくすんなりとお互いの日常を共有できているところが好きです。なんていうのかな、余計な不和やドタバタがなくて、ぬるい温度のゆったりとした日常が過ぎていく感じ?

 

例えば食生活が違っていても、それも美味しそうねって言い合うし。例えば仲良しでも、四六時中一緒ではなくそれぞれ個室と自分の時間と秘密の過去を持っているし。お互いの過ごし方を尊重して、心地よい距離感で過ごしていく──そんな雰囲気が味わえました。

 

 

ルートが決まっても顔は合わせる仲

 

エンド数3つとあるように、各キャラのエンドがありますが、明確なルート分岐は存在しません。その場その場で選んだ選択肢の合計でエンドが決まる感じなので、全てが共通ルートであり個別ルートともいえるような構成です。

つまり、いつでも皆が仲良しな雰囲気なんですよね。二人組、三人組で掛け合いすることもよくありますし。特定の子だけと愛情を育むのではなくて、皆が緩やかに繋がって、深入りするかどうかでエンドが決まるみたいな雰囲気でした。これぞルームシェアだよなー、なんて。主人公とお目当ての子の二人だけじゃなくて、四人でそこに住んでるんだ、っていう空気感が如実に感じられます。

 

さて一方、気になる面もありまして。

いわゆるノーマルエンド・キャラ無しエンドがないので、流れに流されてつまみ食いしながら進んじゃうと、せっかくのエピソードを見ないままエンドに入っちゃうことがあるんですよね。選択肢ノベル全般に言えることかとは思うんですが、特に本作は一日一日のエピソードが切り分けられている印象が強く、終盤一日抜かすだけでけっこう印象が変わって見える子も出てくるかと思います。

ですので、一直線に一人を追いかけるプレイをおススメしたく……いやいやでもつまみ食いプレイすることでルームシェアの和気あいあい感が楽しめるよなあという気持ちもあり……うーんうーん!

とりあえず、全部の選択肢を試したくなるゲームだということは主張しておきます!

 

 

繊細なフレームと滑らかなフォント

 

プレイして頂ければわかる通り、本作の雰囲気はかなり濃密かつ繊細に作られています。とろけるくらい甘くて、メルヘンで、時々生々しくてドキッとする、香り立つような雰囲気。ああ、女の子に求めるイメージってこうだよなあ、って思っちゃいました。

本作、何故かゲームなのに香りの印象が強いんですよ。プレイしてて、アロマやお花の世界に飛び込んでいる感じがするです。すごいですよね。なんでだろうな。すごいな。

 

で、そういった雰囲気作りを何が成しているかって考えた時に、やっぱり全体的なグラフィックのデザインが長けているからかなあと思いました。

まずはフォントから。「隼文字」というフォントで記事を書いている201901現在はサイトが休止中のためDL不可なんですが……まるで文通する時みたいな細くて滑らかなフォントです。本作は背景画像の透過具合に気を遣ってあるので、細身のフォントでも読みやすく感じられました。

文字の配置もすごく凝ってるんですよね。ぎゅっと心が苦しくなる一文が、中心で表示されてより印象に残るなど。多めに取られた余白が雄弁な配置でした。

 

続いてフレーム。これも作者様のあとがきで詳しく紹介されているんですが、いやあ、どれもすごくお洒落なんですよ! セーブロードウィンドウのこぢんまりとした大きさも相まって、なんかメニュー開く時についわくわくしちゃいます。

 

そして最後に! BGM

斬新だなあと思うのがほぼほぼ歌入り曲なところ。それこそカフェっぽい、ゆったりと時間が進んでいく雰囲気でした。

私、歌入りだと文字を追うのがかなり難しくなってしまうタイプなんですが、本作のBGMは外国語でかつ呪文めいた雰囲気で乗せるように歌ってくれているので、可読性も高かったです。

一つの素材元様から選ばれているとのことで、統一感があって耳に心地いいんですよねえ。中でも好きなのはサクラの曲かな? でも、一番聴いていたのはカーミラの曲だと思います。ぼんやりと流して聞きたくなる曲。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

ドキッと思わず目を逸らしてしまう蠱惑的な雰囲気と、温かでゆるやかな紅茶にも似た雰囲気、両方が味わえる百合ゲーでした。

 

追記では一人についてだけちょこっと。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

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フリーゲーム「アイシャの子守歌」感想

「どうか僕のことは忘れて幸せに、幸せに、幸せに」

幸せにならせてくれないかな前置き。

 

 

えー、今回は共食いうさぎさんところのフリーゲームアイシャの子守歌」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

一本道探索フリゲ。鬱ややるせなさがメインのホラー。驚かし要素や血の表現などはありますが、追いかけっこはなく、終始淡々としている雰囲気です。だからこそ、クリアして理解した後は、ぞわっと鳥肌が立つはず。

 

というわけで、良かった点など。

 

 

明滅するライトとパソコン画面

 

本作は戦争後の施設が舞台。コンクリート張りで薄暗く、板で打ち付けられた扉や剥き出しの操作盤など、何かとダウナーな雰囲気です。

といっても明るさはプレイに十分で、雰囲気を楽しみつつ探索のための視界は確保されている、ほどよいマップ作りでした。横スクロールな画面なので、探索ポイントがシンプルに絞られているところもありがたいところ。

主人公も無口、会話相手も登場せず、BGMもノイズ音のみ。手記やメール、意味深な画像データなどを通じて少しずつテーマを掴んでいくような作品です。

静かに不安感を掻き立てられるようなプレイ感でした。

 

 

 

ふと幻覚が交錯する演出

 

作者様の他作品でもそうなんですが、本作では特に、現実と幻覚の境があいまいになっている表現が多かったです。駆け寄ると消えてしまう兄、挟み込まれる回想シーンなど。

で、上手いなあと思うのが、何かの区切りとなるタイミングをあえてずらしてこういった演出を入れてくるところ。例えば扉を開いて直後だったらこちらも構えがあるんですが、本作は扉を開いて少し進んだ先でふっと変化が起こっているんです。

区切りなく、自然な形で混ざり込んでくる、幻とも過去ともしれない兄の影。ここがすごく良い演出でした。

あったはずの扉がない、など、今自分が立っている場所の確証が揺らいでいく感じが好きでした。

 

 

 

本筋を理解しやすい時系列表示

 

ストーリーについてはちょっと捻りが必要。探索ホラゲによくある、手に入れた資料から読み解く必要のあるお話になっています。少なくとも作品の方から積極的に訴えかけてくるタイプの話ではありません。

が、どの資料にも丁寧に日付が記され、大筋については日記という形でいつでも読み返すことができます。この時系列表示ほんと助かりました! やっぱり雰囲気ゲーであっても考察は繋がる材料があるからこそ捗るものだと思います。

 

実際、並べ直してみるとすんなりと理解がいってすっきりしました。

ついでに驚くのはテキストの少なさなんですよね……。これだけプレイヤーに大きな、大きな受け取り方の違いを感じさせておきながら、語る言葉は最低限というこの塩梅。うまいな~と思います。

アイシャのセリフが冒頭とエンドだけなのもまた拍車をかけてますね。まったく同じ言葉なのに感じ方が変わってしまうこの感覚、大好きです。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

兄妹、気持ちのすれ違いとやるせない鬱展開、静かに狂気を感じる雰囲気などにピンとくる方へおススメです。

追記ではネタバレ込みの考察解釈など。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

納涼! 短編ホラーフリゲ8作品感想(『幸せなエミリー』『Rumor』)

フリーゲーム「カルィベーリ」感想

フリーゲーム「AMANI」感想

 

 

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フリーゲーム「Love」感想

「愛されて生まれてきたあなたも、愛を知らずに育ったあなたも」

手を伸ばして誰かを救いたいと思えるはずの前置き。

 

 

えー、今回は便乗 ◆rodt4vEAgU さんところのフリーゲームLove」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ジャンルはモナーRPG。以前取り上げた「Will」の続編です。エンド分岐はありますが、クリア後に条件を満たして再度クリアする形なので、実質一本道かな。でもサブイダンジョンは豊富です。

 

というわけで、良かった点など。せっかくなので前作との違いにも注目しながら書いていきますね。

 

 

 

躊躇わずポイントを次ぎ込めるステアップ手段

 

途中加入したり脱退したりすることもありますが、基本パーティメンバーは四人固定で進んでいきます。

で、独特なのが、キャラのスキルをプレイヤーの好きな順番で覚えさせられること。戦闘後に自動で手に入るポイントを割り振って育てていくシステムです。単体火力特化にしてもいいし、状態異常を優先してもいいし、ステータスアップに次ぎ込んでもいいし。

 

各地に置いてあるボス攻略のヒント等から、状態異常技のウェイトがある程度大きいことが事前に示してあるのも、親切で好きです。SP減少技とか、作品によって重要度が段違いですもんね。私なんかは攻撃特化が大好きなので真っ先に単体火力技と回復技を取りましたが、搦手好きな方はもっと選択肢が増えて楽しくなると思います。

あっでも、さすがにⅠ・Ⅱ・Ⅲみたいに技の威力が上がっていくタイプの同型スキルは順当に覚えないといけないので誤解なく。

 

これに合わせて、前作で主なステータス上げ手段だったスフィアは、あくまで補助的なステアップアイテムへ。使いきりなのに変わりはありませんが、ステアップ手段が誰にでも使えるものとキャラ固有のものの二分化されたのは大きいです。

終盤になると9999ポイントを一気に次ぎ込んで習得できるスキルも出てきて、数字がでかいってだけでなんだか爽快でした。

 

 

見せる絆と個々の物語

 

仲間が固定なのに伴い、前作と比べていわゆるメインキャラクターがはっきりと浮き彫りになりました。前作ではメインの不老不死AAたちについて知れるのが中盤以降というのもあって、どうしてもシナリオフックが掴みづらいところがありましたが、本作はより早めに物語やキャラへ感情移入できるようになっているかと思います。個人的には良改変。

キャラが学生というのもあるかもしれませんが、なんだかんだと言い合うことがあっても、お互いに仲良しな絆を見せてくれるストーリーです。仲間三人それぞれにスポットを当てることで、三者三様の成長が見られるのも、健全前向きなRPGって感じがしてあたたかかったです。

 

好きだなあと思うのが、仲良し相手にも言わないエピソードや過去があるところ。

例えばモナニールが遅れた理由をギコルトは知らないし、シーちゃんの家族との軋轢をモナニールは知らないし。特にモナニールのごたごたは、実は理由があって~それなら仕方ない誤解してごめん~万々歳で解決するものだと思い込んでいたので、知らないままで終わるところがかなり意外でした。言い訳にしないところがいいんだよなあ。

本当はこのくらいの距離が自然だとも思うんですよね。自分に起きたことをわざわざ仲間全員に言って聞かせるものじゃないだろうし。知らないところや触れられない部分があっても一緒にいて互いを気遣いあえるからこそ、信頼や絆と言えるのかもしれません。

 

小ネタとしては、寮に戻ると皆がロビーに集まってるところが好きでしたねー。和気あいあい感。テレビを調べた時のセリフも好き。

 

 

フリータイムとストーリーの切り分けを意識した章構成

 

前作と違う点としてもう一つ、ストーリーが章立てになりました。

といっても時限イベントはないのでご安心。

前作ではふらふらと旅をしているようなプレイ感でしたが、今作は章立てになったおかげで、メリハリがきっちりついてくれたように思います。実地試験がある時は行動も制限されるし、休暇中はあちこち遊びにいけるし。合間合間に行動範囲を広げたり、おまけダンジョンに進んだりすることで仲間も強化できて、お話を進めるごとにどんどん自由度が増していくような感覚でした。

私はこのくらい誘導があるほうが進めやすくて助かるかなあ。

後から開くようになる水晶の扉など、フリーシナリオっぽい雰囲気のダンジョンもきちんとあって、探索する楽しみを残してくれているところもありがたかったです。

 

 

私服チェンジと名産品集め

 

学校がお休みの時はみんな私服に着替えます。

この私服を歩行グラフィックに反映してくれるのがすごく嬉しかった!

衣装チェンジが起こった瞬間めっちゃテンションあがっちゃいましたもん。しかもこの私服がまた、個性出てて良いんですよねえ。モナニールはそれこそ良家のおぼっちゃんって感じの格好だし、ギコルトとユリアンストリートチルドレンって感じだし。私服の雰囲気が違うからこそ、皆の仲の良さに生い立ちは関係ないんだなとも思わされてじんときました。

また、名産品集めもさりげなく嬉しい収集要素。

自分の部屋とか自分の家があるRPGって好きなんですよね。オブジェクトが増えていくとどんどん愛着がわくし、見た目も賑やかですし。どんどん行動範囲を広げたい、探索したいと思えて素敵でした。

 

 

 

アイテム作成で楽々探索

 

前作で指摘させて頂いていた、お金があまる問題についても今作ではばっちり解決。その理由がアイテム作成です。

店売りよりもグレードの高いアイテムを作成できるうえ、作れば作るほど高レベルなアイテムを作れるようになるので、いやはや捗るんですよね。バンバン作ってどんどん便利に、っていうこの作りがすごく楽しかったです。素材がお手軽にその場で買えるのも良ポイント。

ウィル先輩を操作することで彼も仲間だと実感できるところも良いですよね。実益もあるし感情移入もできる、一石二鳥。

こうして挙げていくとやっぱり、前作を改良していきつつまた違った良さを見せてくれてる作品だなあと思います。

 

 

 

最後に一点、合わなかったところ。

数か所挟まれるアクション要素

 

苦手だったのは、回避不可のアクション要素が挟まれる点ですね。

前作ではどこでもセーブのおかげである程度頑張れたんですが、本作はセーブ禁止箇所が多いので、そのぶんけっっっこう苦労させられました。本音を言えばリスク有りでいいのでスキップさせてほしかった……。

といっても私はアクションがめちゃくちゃ苦手だと自負しているので、得意な人にはなんてことないかも。制限時間ありのアクションシーンも、時間の余裕自体はたっぷりありましたしね。

タイミングを計って進むタイプのアクションです。追いかけっこではないので、そっち系が苦手な方もご安心ください。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

前作プレイ者はもちろんのこと、未プレイ者にも健全にオススメしたくなる作品です。一応前作の経緯は本棚で拾えるから、未プレイでも大丈夫……かなあ……?

 

ともあれ。学生気分を味わえたり、葛藤や折り合いをつけて成長していったり、手に届くところにいる大切な人を助け出すために奔走したり。そういう展開に惹かれるものがある方にお勧めです。

 

追記ではクリア後要素についてちょこっと。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

フリーゲーム「Will」感想 

 

 

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フリゲ「コンニャク」短編ノベル作品感想

「低俗と高尚を切り分けなければ気が済まないというのなら」

極論人体を真っ二つにせねばならない前置き。

 

 

えー、今回はコンニャクさんところのフリーゲームの感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

フリゲはDLで取っておきたい派の自分ですが、珍しく今回はブラゲ多めの作者様に手を付けて見ました。DLプレイのものはタイトル横に添え書きしておきますね。

いやー、どの作品も良質なSSなんですよ。オチの見せ方が上手くって、思わずもう一回開き直したくなる感じ。立ち絵はフリー素材使用がほとんどですが、そのぶんシスグラ含めて作品の雰囲気に合わせて選出されています。

 

基本的にはどれも数分で終わる、一本道ノベルゲーム。相互に関係性はありません。

 

で、その、当ブログ恒例のプレイ時期と記事公開タイミングがずれている関係で現在は入手不可能なものが多いです。ご了承ください。

 

 

 

 

       『斬奸修羅界トウキョウ』(DL)

[概要]

第三次世界大戦により、姿を変えた廃都東京。復讐剣劇。本作は比較的長め、一本道でだいたい30分強くらい。

 

[感想]

世界観がもうね、好きなんですよね。

フィクションで東京滅ぼすの、みんな好きでしょ? 過言です。

ともあれ、殺伐とした世界観で復讐鬼があくまで冷静に炎を燃やす、この雰囲気が素晴らしかったです。ダークヒーローのライトノベルとか好きな方はガチっと好みに合うんじゃないかなあ。どこまでも続いていきそうなオチも、連載前提の第一巻な趣です。

この短さの中にあっと驚く展開も二つ三つ仕込まれていて、起承転結としても抜群のクオリティ。

舞台を未来としながらも、宮本武蔵和泉守兼定などの歴史的な刀を踏まえたうえでの技術が語られているところもまた、かなり興味深い作りでした。

ざっくり書けば温故知新、研ぎ澄まされた刀。そんな感じ。

 

[グラフィック・演出]

まず立ち絵から。チドリだけ洋風のお嬢様な装いで、廃墟と塩柱の並ぶ世界観からすると浮いています。が、だからこそ好きです。おそらくはチドリ立ち絵だけ別作者様のグラと見受けられるんですが、この浮いた感じが逆に超人感を出していて、すごく良いチョイスでした。

廃墟、遺骨、塩など、けぶる白を思い浮かばせる背景の中で、主人公が白髪立ち絵なのもすごく好きです。あの世界観に溶け込んで、あの生き方が身に馴染んでいく感じ……。

演出面で特筆したいのは、BGM。

終盤のBGMの使い方めちゃくちゃ良かったですね!!

例の斬り合いに至るシーンのあれ。ピリッと変わる空気が肌身に感じられてすごい好きでした。

その他、立ち絵だけをぱっと浮かばせたり、剣閃を挟んだり、さりげなく溜めて盛り上げてくれる演出が多かったように思います。テンポを重視して、読み手が物語のテンポに乗れるように細かく調整してくれている感じ。バトル描写ってやっぱり息遣いが大切だと思うので、こうやって後押ししてくれる演出はとても素敵でした。

この演出力に気付いたのも、読み終えてこうやって振り返ってみてからなので、いかに自然体だったかが伺えます。

 

[一言]

静かに熱い想いが込められたお話。

 

 

        『比良坂とおりゃんせ』

[概要]

ホラー、一本道、お家へ帰りたい女の子。数分一本道。

 

[感想]

ぎょっと驚かせる恐さと、じわっと忍び寄る怖さ。両方感じられる短編でした。

タイトル画面の使い方が秀逸ですよね!

短い中でも、あの駅での会話のシーンは、とてもナチュラルな空気感の中で明らかな異常がいくつも零れ落ちてきてゾゾゾゾっとしました。よき。

 

[一言]

お手軽ホラー体験をしたいあなたに。

 

 

        『ホワイトホワイトデー』

[概要]

先輩からのお返しクッキーを何がなんでも受け取りたい! コメディ? 数分一本道。

 

[感想]

あの短い掛け合いの中で兄のキャラが強烈過ぎませんか?いい意味で。

原典の英語版の翻訳の下りものすごく独特で、「あっやっぱりこの作者様なんか他とは違うもの持ってるな?」と思わずふむふむしてしまいました。

周到な先輩も惚れちゃうし、雪がぴったりなあのオチもお見事。

 

[一言]

明るい雰囲気で、おお、と感嘆したい方向け。

 

 

        『雨色殺人鬼考』 

[概要]

黒髪ロングの先輩と、雨の中で不穏な話。ホラー。数分一本道。

 

[感想]

素手で人を殺すためにはどうすればよいか? という講義と共に、巷で起こる殺人事件について語り合うお話。こういうミステリアスな雰囲気の女性先輩、ツボな人多いですよね。

終盤でポンポンポンと、まさに雨粒の様に勢いよく諸々が明かされていくスピード感もすごかったです。考えようと思えばどうとでも考察できそうですが、明らかに方向性が定められているので、言わぬが花のようにも感じますね。表面上は穏便に終わるところがまた……いやあ、まさにホラーでした。

 

[一言]

ふとした恐怖を感じられるホラー。

 

 

        『書割倒し』

[概要]

和風、衝撃展開。数分一本道。

 

[感想]

いや、すごかった……凄かったですね……!!

これ熱く語りたいけど何一つ語れないタイプの話ですごくもどかしい、好きです。絶対刺さる人がいて絶対好きな人がいるけど何一つ語れないタイプの話です。ここまで書いたら伝わるかな! 何一つ伝わらないな!

いやー、序と終の繋がり方も、グラフィックの演出も、全てが痺れました。この短さで、これだけの世界観と説得力を持って貫いてくれる作品はそうそうないと思います。感服!

 

[一言]

あっと気づいた時にはすべて持って行かれている作品。

 

 

        『古狼駆ける』

[概要]

人は何を神と崇めるか? 会話劇。一本道数分。

 

[感想]

言い回しがすごく好きなんですよね……! 論というか、人間観というか。ヒヨコは孵らないくだりや、「生きていないものには優しい」、畏敬の対象がもっと良い何かに更新されたと語る姿。縋る態度が一切なく、あくまで“上から”語ってくれるところも大好きです。

印象的な擬音を繰り返して、呪文みたいな雰囲気を感じさせてくれるのも、よくよく雰囲気が出ています。一応クトゥルフ神話を知らなくても読めはしますが、知っておくとより、語りの皮肉ぶりが伝わってくるはず。

 

[一言]

信仰とは。心揺さぶられる言い回しと共に知見が豊かになります。

 

 

『マジック・ショウ』

[概要]

西洋化・近代化の中で魔術は本当に失われてしまうのか? ホラー。一本道数分。

 

[感想]

ビジュアル面での表現が凄かったですねー!

察しはついてもヒッって声が出ちゃいました。肝心要の部分が「NO IMAGE」なところも、いやあ実に厭な想像を膨らませてくれます。

論としてはどことなく『古狼駆ける』の延長線上にあるようにも感じますね。ショウを見ている観客がプレイヤーと重なる点まで含め、綺麗にまとまったホラーでした。

 

[一言]

想像する怖さをとくと味わいたい方向け。

 

 

        『フィギュリンの街』

[概要]

ホラー。残酷描写あり。一本道数分。

 

[感想]

フィギュリンなる言葉を知らなかったのでググってみたところ、陶磁器製の人形や立体アート的なもの、らしいですね? なるほどなあと。ストーリーを省みてとても、なるほどなあと思いました。

背景のシルエットな街並みがグァッとせり上がるあの表現がすごく良くて! 立体を意識できる演出が、本作の殺人鬼のやり口とよく合うなあと感じます。

ポリシーをしっかりと語ったうえで、相手の信念無き言葉を額面通り受け取ってやり返すという展開も、意趣返しの様で実に気持ち良かったです。

 

[一言]

芸術家肌の殺人鬼ときいてピンとくる方向け。

 

 

        『プロダクトキーの魂』

[概要]

哲学、のような何か。一本道数分。

 

[感想]

テセウスの船ってやつですね! 哲学ものや思考実験ノベルではよく見かけますが、やはり何度聞いても認知が不安定になっていく感じが好きです。

他作品と違って、画面構成が独特。なんとなくバラバラっぽさを感じるのも、この作者様ならあえてだろうなー、なんて。

そして見事な着地点! 

いやあ、こういうズラし方とても好きです。

 

[一言]

やられた!と苦笑しちゃう楽しい話。

 

 

        『どーなってるのワールド』

[概要]

ファンタジーだけど哲学風。コメディ。一本道数分。

 

[感想]

作品の色を使い分けるのが上手いんだよなあ……。

あのホラーな展開であのまま行くかと思いきや、ツッコミが入ることでここはギャグ時空なんだなと安心できる感じが、上手かったです。

さて、内容としてはなるほど納得の一言。これもそういう論があるのかな? オチの解説まで含めて、くすっと笑える話でした。

 

[一言]

明るい雰囲気の中でスッキリ感を味える掌編。

 

 

        『人斬り茨姫』(DL)

[概要]

剣劇。あっさり味。数分。

 

[感想]

なんと分類すればいいのかな。多作な作者様ですが、本作は特に他と異彩を放っている作品だと感じました。実験作っぽいかな。

とりあえず、即死ゲーです。なまじファンタジー武器を齧ってる関係で一発クリアを果たしてしまいましたが、ゲームオーバーも一種類なので分岐回収も楽ちん。

明瞭な起承転結はありませんが、信念、為すべきことを為すという凛とした姿は感じる作品です。バッドエンド除いてエンドは1つと公式に明記されていますが、エンドが終わりのないエンドであることを考えると、道半ばで途切れるほうが正式エンドだとみなすのも面白いかもなー、なんて。

 

[一言]

クールな少女の果て無き旅を垣間見るゲー。

 

 

『眩い陽が昇る前に』

[概要]

ホラー。兄妹。一本道数分。一人称視点3DのSMILE GAME BUILDER製。

 

[感想]

このツールの作品に触れるのは二度目くらいなのですが、やっぱりどうにも探索ポイントはわかりづらめです。ただ本作はほとんど一本道で、先に進みさえすればお話が進行してくれました。助かる。

暗いうちからお外に出ていった妹を、心配して追いかける話……になるのかな。やりたいことはわかる、が、演出がやや物足りない感じでした。

でも兄の独白と、もうどうにも疲れ切ってしまっている雰囲気は、なかなかにやるせなくて好きです。

 

[一言]

ちょっと変わったプレイ感のホラー。

 

 

 

 

※エロの境界線※

ここから雰囲気が激変して、ギャルゲ・エロゲ寄りになります。男性向け。R18までいく作品はありませんが、多く性的描写の匂わせがあるので、ご了承ください。

 

 

 

 

        『キストレシスター』

[概要]

彼氏ができたからキスの練習がしたいのお兄ちゃん! コメディと見せかけて一本道数分。

 

[感想]

いやもう一文目が好きなんですよ。これからエロゲ(によく似た何か)が始まるとは思えない導入と語彙力よ。

まあ、実際きちんとエロゲでした。

立ち絵の使い方が上手いですよね。

えろい以前にそこに感心してしまいました。ズームとメッセージウィンドウによって。なるほどなあ。あえて入力シーンを入れることで没入感を出してくるなど、実に巧みです。

妹バカかわいいなあ、という兄のセリフがそのままブーメランになるところも含めて、色々と秀逸でした。

 

[一言]

ちょろくてかわいい妹にちゅぱちゅぱされる系。

 

 

        『乳牛になった俺は妹達から搾り取られるしかない。』

[概要]

近親相姦。牛化。搾乳(下半身)。コメディ一本道数分。

 

[感想]

タイトルの圧に、思わずどんなド変態プレイが飛び出るのかと身構えてしまいましたが、存外まともでした。まとも──いやまともか? 乳牛ってことは女体化もしているわけでしかもほんのり百合プレイも匂わせているのでうーん。

でもなんかこう、予想していたよりは直球で逆に安心しました。変態だけど。

 

[一言]

初心な妹と手慣れた妹にちゅぱちゅぱされる系。

 

 

        『ローターローション』

[概要]

優等生な彼女とデートをしよう! マッサージ器をつけたままでな!

コメディエロゲ。数分。

 

[感想]

立ち絵がLIVE2Dなるものによってつくられており、ゆらゆらぬるぬるとよく動いてくれます。女の子が敏感に目を見開いたり顔を背けたりする反応が好きな人は、たぶんたまらないはず。

エンディングは無しってことで良いんでしょうかね?

何度かカチカチカチカチしてみたんですが反応が変わらなかったので、あとは延々と休憩できるってことなのかもしれません。

日付がさりげなくリアルと同じようになっているところも、細かくて好き。なぜそこを凝ったんだとツッコミ入れたくなるところも併せて好き。

 

[一言]

スイッチをカチカチしながら女の子を愛でる系。

 

 

        『囚われのアリス』(DL)

[概要]

かわいい囚われの女の子を突いたりお着替えさせたりするゲー。一本道数分。ストーリー有。

 

[感想]

メジャーな縄拘束系はもちろんのこと、鼻フックやカラーチェンジまで、お着換えできるアイテムは多種多様。そのぶん、ボイスと反応のパターンが少なめだったのは少し惜しまれましたが、本編の短さを考えれば贅沢は言えないかなという気持ちも。何よりグラが可愛くて萌えるのでオールオッケー。

大人になることをすればメルヘンは消える、みたいな言い回しが大好きでした。そうして大人になった後のオチがあれっていうのも大好きなんですよねえ。皮肉がよく効いてて、残酷で好きです。

 

[一言]

メルヘンに白濁をかけて台無しにしたい人向け。

 

        『義姉坐薬恥療』

[概要]

義姉×弟。一本道数分。

 

[感想]

あえて義姉な点にきちんとした理由付けがされている、ここを熱く評価したいです! フラれた先輩が姉になった、これだけで良い具合にことこと煮込んで愛憎を育むことができると思うんですよね。設定が神。ありがとう。

相変わらずきちんとラストにドンデン返しもあって、やっぱり流石の一言。

使っている素材の関係か、えろてぃっくなシーンになると美人な先輩がロリっぽくなってしまうところは残念でしたが……そういうシーンになると初心に戸惑ってしまうせいで幼く見える、ということで脳内補正をしました。イラスト自体は拘束具多めで可愛いですしね!

 

[一言]

合法的で健全な座薬だから何も問題はない話です。

 

 

        『有修正ホワイトロリィタ』(DL)

[概要]

兄×妹。一本道数分。コメディ。

 

[感想]

立ち絵の腕の位置、上手いですよね。感心してしまった。

ぷにぷにかわいい系の絵柄ですし、ちょっとしたペンに関するうんちくも知れますし。悔しいけれどふふっと笑ってしまう話でした。

 

[一言]

修正ペンのことだから何も問題はない話です。

 

 

フリーゲーム「AMANI」感想

「お人形遊びは早く卒業しなくちゃ!」

人形なんてなくても脳内でお喋りできるようになった前置き。

 

 

えー、今回は共食いうさぎさんところのフリーゲームAMANI」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

一本道探索ホラゲ。プレイ時間は長くて1時間くらい、ですが基本的に虱潰しで探索すればなんとかなるので難易度は易しめです。

 

というわけで、良かった点など。

ネタバレ無しで語ろうとすると、この作品の良さが一欠片も語れなくなってしまうので、今回は物語中盤辺りまでネタバレ含みます。ついでに言うと察しの良い方は先まで見通せちゃうかもしれません。ゆるして。

 

 

 

ザラッとした後味を残してくれるストーリー

 

これは序盤に察せるかと思うので書いてしまいますが、本作は現実と幻想の境界があいまいになっている世界観です。

影を見せては消える姉、エウペ。弟である主人公は彼女に依存している、とここまでは予測がつきます。となると、まあ姉が何らかの理由で亡くなり姉の影を追い続けて閉鎖的な妄想に逃げ込んでいるんだろうというのが連想できるところですし、実際終盤までその通りに話は進んでいきます。

 

いや、つまり失礼ながら、舐めてかかってたんですよね。なるほどホラゲだと数多として見かける、あるある展開なのだなと。そんでもって依存した世界に囚われるか、あるいは姉が正気に戻してくれるかどっちかのエンドになるんだろうなと。

甘かった!

カセットテープからの怒涛の展開が本当すごくて、特にエンド後、ザワッと総毛立ちました。確かに想定通りの展開なんです、予想できるんだけど、そこから一歩ズラして一言で心をざわつかせる演出が本当にすごい!

 

正直一周しただけだと理解しきれていないところもあって、疑問符もあったんですが、それらを全部無視してガツンと心臓を絞りに来る演出でした。

 

 

 

印象に残る不安定な演出

 

さてホラーと言えば不安を煽るもの。

中でも演出としては、ノーウェイトでふっと別世界に切り替わるマップ作りが顕著に効いていました。二度見して戻ろうとしても戻れなかったり、あるいは何事もなかったかのように前のマップと同じ世界が構築されたり。この、静かに壊れている表現がとても好きです。

精神世界徘徊ゲーと違って、本作のマップ切り替わりは中盤以降から室内に限定されます。内へ内へ篭って、でもその中ですら均衡が保てていなくて変に接続されている感じ。そこがすごく歪んでて良いなあって思います。

 

一方で、プレイヤーが物語を理解しやすいよう規則的に行われる演出もあります。回想シーンに入ると起こるフィルムノイズが筆頭。マップが切り替わった際に、時間軸を示すようにキャラチップの等身が変わるところも、細やかで良いなあと思います。

 

 

 

断片を繋ぎ合わせるストーリー

 

上記の通り、回想か夢か現実か、あちこちを行ったり来たりするゲームなので、お話もただ受け取るだけでは理解しづらい構成になっています。それでも情報はある程度提示されますし、大筋は拾えるはず。何より一番の大前提が、初めに手に入れられる資料で理解できるのも大きいですね。だからぼかしてある点はあくまで本筋に関係のないところなのかなー、なんて。

手にいれた資料がいつでも読み返せる点はとても助かりました!

 

 

合わなかった点

 

最後に軽く、合わなかった点について。

 

・初期マップの視界の悪さ

一歩先の暗闇で変化が起きている、という効果を出したいのは理解できるんですが、キャラの方向転換でライトがちらちらするのが目に悪く、きつかった印象です。もう1マス分くらいは広げてもらえると嬉しかったかも。

 

・セーブデータ数

個人的に何度か見返したいマップや本棚があったんですが、前述の通り引き返せないこともあったので、もう数個欲しかったです。ただこれは私がセーブ厨だからかも。プレイ時間に対してはぴったりな数だったと思います。

 

 

とまあ、こんな感じで。

追記ではネタバレがっつりで、解釈考察その他考えたことなど。

 

 

 

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フリーゲーム「カルィベーリ」感想

「できることが限りなくゼロでもできるのならやるしかなかった」

子どもの選択肢はいつも少ない前置き。

 

 

えー、今回は共食いうさぎさんところのフリーゲームカルィベーリ」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

雪国で弟のために食料を探しにいく、探索フリゲ。一本道。30分強くらい。鬱展開です。

 

というわけで、良かった点など。

 

寡黙で死に近い世界観

 

BGMは吹雪の音のみ、探索するのは無人のホテル、主人公もリアクションはほとんどなく、特に序盤は黙々と探索を進めていくゲームになります。

この静けさがすごく好きでした。寡黙、もっと言えば言葉を発することすら疲れ切っている印象です。

なんだかもう、作中の世界観がとても死に近いんですよね……。すっかり漁られ尽くした食料、荒れたままの部屋、誰も整えないホテルルーム。状況自体はサバイバルなんですが、生存というにはあまりにも遠く、とにかく限界の状況だということが伝わってくる雰囲気でした。

 

 

 

繰り返しと断片で語るストーリー

 

人がいないので、ストーリーも掛け合いではなく主に手記と回想で進みます。手記自体は見つけやすいところに置いてあるので、お話をなぞるのは簡単なはず。それでも綴られているのはどんどん光が消えていくような内容で、心がシンと凍り付きます。

 

また、回想シーンの見せ方も独特です。1.2.3と繋がっていくのではなく、1シーンをブツリと切ったかのような表現で、次はどこまで見れるのかという好奇心が膨らんでいきました。

やっと1シーンを最後まで見れたと思ったら、今度は違った形で先を見たいと思わせてくれる演出が始まるんですよねえ。彼らの救いのない日常を実感させてくれる、良い演出でした。

 

 

 

温かな光の表現

 

小物の使い方がとても光るゲームです。

物語自体は、鍵とそれを手に入れるための工具などが揃っていれば進むんですよ。でも、進行に関係のない小物一つ一つに、深読みしたくなる要素が詰まっていてすごく好きでした。

例えば、テレビからうっすらと聞こえてくる国の情勢の話とか。風邪薬が落ちているということは、病人に届けるには至らなかったんだろうな、とか。

 

あと何より好きなのが、ランプ!

やっぱりホテルなだけあってあちこちにランプがあって、実際に部屋中のランプをつけられるんですよ。ですけど、これらは一切ゲームの進行にかかわりがないし、伏線にもならないし、本当にプレイヤーの自己満足にしかならないんですね。それでもなおランプを点けさせてくれる、マップがぽぅっと明るくなる演出が本当に好きなんです。

なんでかって、明るくなってもゲーム内の進行には寄与しないっていうこのこと自体が、ターニャ達にとってのランプの価値なんだろうなと思えるからです。心の温かさより食料がなければ生きられないということが、セリフもないのに大声で伝わってくるようで…とても胸に刺さりました。

本当にゲーム内では一切ランプについて触れられないので、悪しからず。なので私の感傷も強いと思うんですが、やっぱり良いなあと思ったので挙げておきます。

 

とにかくこんな感じで、深読みもはかどって探索の手が進む、良いアイテムが多かったです。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

人の業が連鎖していくような、静かに救いのない鬱展開でした。

支え合うきょうだい、サバイバル、死と雪、などにピンとくる方向け。

 

追記ではゲーム内の小ネタについて軽く語りますね。

 

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フリーゲーム「Will」感想

「君に作られた命でも、ぼくが作った意志だから」

何を感じるかなんて自由で良いんだよな前置き。

 

 

えー、今回は便乗 ◆rodt4vEAgU さんところのフリーゲームWill」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

ジャンルはモナーRPG。大型掲示板のノリが許容できる人向け。

この作品の時点で既に2ちゃんねるを憂うネタが出てきているとおり、10年以上超えた今となっては伝わらないネタもありはしましたが──それ以上に普遍的なテーマをそっと見せてくれる作品であるように思います。

 

というわけで、特徴的な点など。

 

 

 

遠くまでいけるマップと組まれた動線

 

一番の特徴だと思うのは、マップの広大さです。

一応、街へ飛ぶワープシステムもありはするんですが、それでも広い! 特に序盤はすぐSP切れして、アイテムをガンガン使っても次の回復地点の遠さに目の前がまっくらになりました。

基本的にマップが循環していて、ダンジョンA→街A→ダンジョンB→街B→ダンジョンAみたいな構造になっていることが多いので、目的地に迷うこともかなり多かったですねえ。なんというか、マップ構成がフリーシナリオ寄りな印象。どこにでも、どこからでもいける感じ。ただしストーリーが進行するまでは封鎖されているマップも多め。

 

といっても立て看板はかなり多めな親切設計。NPCに話しかければ次の目的地もある程度察せられます。複数の話題が出ている時はどちらへ行ってもお話が進行しますし、動線が組んであるおかげでフリーシナリオ苦手でもなんとか進められました。

 

ダンジョンも謎解きたっぷり宝箱たっぷりで、探索のし甲斐がありましたね! 一筆書きの例のダンジョンはかなり悩みました……。スクショ撮って逆算したのは初めてかも。腕が鳴る良きギミック揃いです。

 

 

 

心の赴くまま、動いてもらうRPG

 

前述のマップの広大さこそが本作のテーマに直結すると思うんですよね!

 

主人公フロイトのセリフは全てが選択式で、かなり無口主人公寄り。内情の吐露はほとんどなく、「次は○○に行こう」といった目的の提示すらありません。なので進む道は自然とプレイヤーが定める形になります。

相棒ウィルが誘導役を兼ねてくれているところもありますが……素直にうなずきがたい時も出てくるのは、プレイしてもらえばわかるかと。いやほんとセリフ回しが良い具合に胡散臭くて、でも見方によっては素直で、すごい良いですよね。

 

話が逸れた。ええと、本作はこの広い広いマップを時間をかけて進むことに意義があると思ってましてね。誘導はあれど明確に焦らせるようなワードはなく、自分で行き先を決めてよしとする形が、良いなあと思ったんですよ。心の赴くまま、意志のままに進んで欲しいというテーマに直結しているなあと思います。

 

 

 

死を見せ、意志を見せ、残るものを考えるストーリー

 

もう少しストーリーについて。

作中では死別のシーンが多く描写されます。しかし、それらの多くは主人公に直結することの少ない死です。酷いことを言えば対岸の火事、過去の事象です。

でもこの、「見せるので、考えてみてください」っていう雰囲気がなんかとても好きでした。プレイヤーによって印象が分かれそうだなーとも思います。自分からお話に入っていくタイプの人はぐっとくるだろうし、感情移入するレールが欲しい人は戸惑うかもしれないし。

私はたぶん後者なうえに、フロイトの物語だと思ってプレイしていたので序盤は戸惑ったんですが、フロイトの目をを通じてフロイトの中身をプレイヤーが感じ取ってくお話なんだと思うと、すんなり心に落ちました。

 

 

 

出会わずに済むかもしれないサブイベント

 

最速でエンドを見るのなら、某キャラとか某キャラみたいに、会わずに済むイベントや、行かずに終わる街がおそらく出てきます。

この、行かなくてもよいところへあえて行きたくなる動機が他ゲーと違ってて新鮮でした。他ゲーだと例えばキャラの絡みが見たいとか強いアイテムが欲しいとかの動機があると思うんですが。本作での私のプレイはちょっと違う形になったんですよね。

なんというか、ふらついてたら辿り着いたみたいな。

あんまり明確な動機が無くて、気づいたら辿り着いてて始まってたみたいな感じだったんですよ。ほんとに。で、前述の通りけっこう他人事にもなってしまうサブイベが多くて、結局そのキャラはどうなったのか、あるいはどんな存在だったのか、語られずに終わることもしばしばです。

 

あー、この感覚って旅だなーって思いました。

 

ウィルが言ってくれた通り、旅をしているんですよね。すれ違った人の内情も人生も全然知らないし、成り行きで事は起こったけど、それを追いかけてサブイベを続行させたり見届けれて良かったなあって思ったりするのは自由みたいな。

だから、淡々としてるけど、自然と足を延ばしたくなる作りでもありました。

 

 

 

使いきりのスキル習得とステータスアイテム

 

こはちょっと合わなかった点として

ステータスアップアイテムや術技を覚えるためのアイテムが手に入るんですが、まずこれらが全て使い切り。なので、育てる方向性を間違えたなーと思ったり、このキャラ使いにくいなーと思ったりしても取り返すのはけっこう時間がかかります。

めちゃくちゃお金が余るゲームだったので、それこそウリナラソードレベルの高さで良いのでステアップアイテムを買い直しできたらよかったなー、なんて。

 

一方で、ある程度仲間を好きにカスタムできると考えれば、楽しくもあります。

実際私はしぃとギコを使ってたんですが、二人を高火力アタッカーにして受ければ死ぬが先手で勝てるヒリヒリした戦いを挑むのは実に脳汁が出ました。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

モナー・AAネタという限られた界隈を舞台にして、生きる意味・生きる意志という万人に通ずるテーマを描いてくれる、独特な作品でした。

 

メッセージカードは是非、使ってみてくださいね。

 

追記では攻略まがいのメモなど。

 

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