「人はありとあらゆる可能性を秘めている」
もちろん世界にも同じことが言える前置き。
えー、今回は、バド(http://katubou.ninja-web.net/top.html)さんところのフリーゲーム「渇望スル島」(http://www.vector.co.jp/soft/winnt/game/se456841.html)の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
選択肢によって4つのルートに分岐する、ホラーノベルゲームです。けっこう気合いの入ったグロスチルもあるので、苦手な方はご注意を。
というわけで、さっそく良いなと思った点から。
怖さの種類が異なる4種の物語
この作品は選択肢によって4つのルートに分かれます。何よりも驚いたのは、このルートごとの色がまったく違っていることでした。ざっくりわけるとSF、怪談、疑心暗鬼、ギャグといった感じでしょうか。
恐怖、と一言で言ってもその種類は人によって様々で、たとえばお化けは平気だけどゾンビやグロは嫌、等々の違いはあると思います。そういった多種のニーズに応えるだけの幅広さがこの作品にはあります。たぶん、どれか一つはピンと来るルートがあるんじゃないかなー、なんて。
ルートによって文体や文章の勢いも変わってくるので、そういった意味でもかなり色の違う物語が楽しめました。
個性様々パラレルワールドなキャラ達
さて、上記のようにルートによって雰囲気はかなりガラッと変わり、目的地である白寿島の設定やキャラ同士の関係性も異なります。ルートによって異なる、いわゆるパラレルワールドです。
面白いなと思ったのがキャラの役割で、あるところで生意気役だったキャラが別ルートではいじられ役になっていたり、シスコン全開な彼が女性向け要員になっていたりと、かなり違いが出てくるんですよね。キャラによっては性別が変わるなんてこともあります。
あの全ルート共通の序盤からここまで差が出るとは、いやー驚きでした。ここだけ考えるとある意味この作品のキャラは一個人というよりキャストに近いのかもしれません。スターシステムとか好きな方にはしっくりくるかと思います。
リアル寄りの立ち絵とスチル
立ち絵自体はリアル寄り、化粧のあるなしや年齢差もばっちり反映されていてキャラの個性が掴みやすくなっています。会話文ごとに細かくキャラが切り替わるので、登場人物が多くてもすぐに誰が誰か把握できました。キャラの名前覚えられない性質なので本当ありがたいです。
中には特定のルートで数回しか見れないレアな立ち絵もあるので、意識して見てみると面白いかもしれません。
時折一枚絵が出てきて場を引きしめてくれます。恐怖を煽る不気味なスチルは勿論のこと、中には絶妙なワンシーンを描いたものもあり、つい見惚れてしまうこともありました。欲を言うならおまけで閲覧機能が欲しかった!
起動画面で放置していると流れるOPムービーや、ぞわぞわと嫌な予感を掻き立たせてくれるホラームービーも必見です。
効果的な文字変え演出
ムービーや一枚絵での演出も勿論素敵ですが、さらに印象に残ったのは文字の色替え演出でした。特にこの作品は真面目な顔をして――というかシリアスな展開でさらっと強烈な一文を入れてくることがあるので、そこが色替え強調なんてされていた日にはもう、吹き出してしまいます。
ギャグの面だけでなく勿論シリアスな演出としても上手く生きていて、例えば過去ログが黄色表示なのに合わせて回想を黄色文字にするのは、思わず膝を叩きました。上手い!
とまあ、こんな感じで。
しっかりホラーなノベルゲーをやりたい、萌え要素よりリアル重視のグラフィックが好き、とんでも展開大好き、な感じの方々にオススメの一作でした!
なお、続編の記事はこちら↓
追記では各ルートに関する感想など。
ネタバレ全開なので、ご興味ある方は追記よりどうぞ。
ネタバレ注意です!
【食いしんぼ編】
最初に入ったルートがこれでした。序盤の軽快なユリカ様ネタや、まさかの住人説に茫然としたのは良い思い出です。このルートでのユリカはいわゆる暴力系幼馴染ヒロインに当たるのだと思うんですが、主人公がユリカの可愛いところを汲み取って喜んで尽くしているので、嫌々言いつつもお似合いカップルに見えて微笑ましかったです。
しょっぱなからギャグルートに入っちゃったかなあと心配していたのですが、終盤はしっかりホラー。まるでジェットコースターのような読み応えでした。
実家について、私は飢饉の回想でようやくはっとしましたが、よく考えるとルート名がもうまんまなんですよね。他のプレイヤーの皆さんにどの辺りで察したのか伺いたいところです。
終盤に入ってどんどん主人公の一人芝居が発覚していくシーン、とても好きです。ああいう幻想世界とか、主人公の主観を信じてはいけない展開とかって本当テンション上がります。しかし終始X君はいじられキャラだったなあw
主人公が実は発狂していて、途中で自己との対話があって、精神病棟や取調室のシーンで締め――という展開自体も王道で良いですよね。先の展開についてある程度察しはつくんですが、だからこその裏切られない良さ、ひたすらに突っ走っていくタガの外れた狂気と恐怖を味わえました。
【侵略者編】
率直に書いてしまうと、このルートとは好みが合わない!これが一番でした。
過去のトラウマに悩みながらも心強いヒロインに励まされ敵と戦う――ロボットものの理想形ではあると思うんです。主人公だけ特別な立ち位置なのも選ばれし者感あって良いですよね。途中内部不和が起こるのも、即席の部隊ならではのトラブルって感じがして、終始緊張感が出てました。
ただいかんせん、あの手のトラウマ持ち主人公はどうしても見ていて、もどかしさが勝ってしまいます。自分に酔っとらんでやることやるか逃げるかはっきりせんかーいと。そしてヒロインの動きが都合よすぎるんじゃーと。
とはいえ、キリコの短命設定といい、これはお約束を分かっててあえてくどく書いてる感じはするんですよね。ネズの存在はその程度だったのかと嘆きつつ、穴山さんの死についてわりとノータッチだったのも因果を感じますし。むしろ積極的に盛り込んでいる気すらします。なので、本当単純に、こういう構図が私に合わないだけなんだろうなあと。
実際、鳥肌が立つくらいぎょっとすることは何度もあり、ホラーとしてはがっつり楽しめました。侵略者たちのグロテスクな見た目はもう、表示される度にうげぇと思わされます。フラッシュバックで出てくる貫通スチルも、トラウマになるのがよくよく納得できるクオリティです。
何より衝撃的だったのはやっぱり終盤、キリコのあの笑顔! 美人さんだなあ、素敵だなあ、と案の定油断してました。ああいうえげつなさに打ちのめされるの大好きです。
SFホラーの王道を余すところなくやりきってくれた印象でした。
【殺人幽霊編】
こちらは前者二つと違い、初めのモノローグからテーマがはっきりしてましたねぇ。たぶんあれが無いともやもやしたまま進んでしまっていたと思うので、最初に提示してもらえてありがたかったです。
というわけでこのルートは夢うつつに惑わされながら進むシナリオです。途中、急すぎて戸惑う箇所もありはしましたが、状況がわかってくると「あれもそうだったのか」と思わされます。ぞくぞく。
このルートでは上記二つと違い選択肢があるのですが、一つを除いて大まかな展開は同じです。どうあがいても逃げられない、終わらない感じがしてたまりません。
また、夢とわかってはいてもやはりあの鏡のシーンにはぞくりとさせられました。大学生なら普通にありえるのも生々しい現実感があって良かったです。
少女のシルエット演出も印象的でした。一枚絵を使わずにマイルドな表現をされていて、逆に想像力が掻き立てられてしまうという……。
これは何だったのか、というはっきりとした理由やオチはつけられません。が、だからこそ色々な境目があいまいになるという全体像にとても合っていて、後を引く恐怖にそそられました。
【SHINOBI編】
序盤、ほとんど同じ展開かと思いきやさりげなくねじ込まれる忍文章に不意を突かれて笑うことがしばしばでした。忍ネタだけでなくメタギャグも輝いていて、大変切れ味が良かったです。真面目な文体で勢いよくやらかしてくれるのがまた気持ち良いんだなあ、これがw
ユリカからの飴ちゃんはてっきり兵糧丸になるかと思いきや、ネズとキリコの設定がまさかのからくりという展開にも驚かされました。いやー好きです。
FMS君の撃退法がX君に通じない、あの流れにも笑いました。そういえば確かに序盤で、カイ読みは中二入っちゃうよねわかるよ的な文章もありましたもんね。納得納得。
あと海清さんに対する選択肢あれイケメンすぎて惚れませんか。やってることはただのぱふぱふ&ルパンダイブなのに主人公の台詞がかっこよすぎてめちゃくちゃ輝いてみえました。即決を選んだかいがあったものです。本当センスあって好き。
はちゃめちゃギャグになるかと思いきや、締めは綺麗にまとまって、かなり読後感の良いルートでした。あの真実を黙認するのも他ルートだと少し反論ができそうなところだけど、このルートは皆が裏の世界の人なので違和感が無いんですよね。うむ、天晴れ!
こういう全力でギャグに走り、かつ滑らない手腕は本当凄いです。羨ましい。読んでてとても楽しかったです。
そして、このルートはとにかく一枚絵がかっこいい! スチル閲覧機能が欲しいくらいでした。
FMS君かっこいいよー!かっこいいって言うのなんか彼のキャラ的にちょっと悔しいけど、かっこいいよー!
とんでも展開に見せかけて、締めるところはびしっと締めてかっこよく決めてくれるルートでした!
色々書きましたが、結論、どのルートもそれぞれの味があって楽しかったです!