「影は陽よりもあなたの身近に」
でも陽がなければ影は意識できなかった前置き。
えー、今回はKANATA-PORTさんところのフリーゲーム「惑いの夜と誘いの影」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
以前感想記事を書いた、「hôtel de noyerの招かれざる客人」「White Crownの実像」などと世界観が共通している作品になります。スマホ版もありますが私は例の如くDL版でプレイ。
今作はがっつりノベル寄り。世界観も現代日本な感じで、怪談がメインに据えられている関係かホラー度も他作品とくらべればやや高め。
選択肢やクリックによる探索と謎解きはあるものの、ひらめきよりも「読む」を重視されている設計かなと思います。
というわけで良かった点など。
タイムラインを繋げていくストーリー
スタートして見ればわかる通り、話はまず時系列の「2」から始まります。そして3人の視点とタイムラインを行き来して読み進めていく展開です。
時系列がバラバラな作品って、情報が少ない読み手からするとかなり体力を使うのですが、この作品では各章の初めにタイムラインが表示されるので断章でもとっても読みやすかったです。「何だろう?」と思ったシーンの謎は基本的にすぐ解決されるため、全体像が把握しやすかったのも良点でした。
読む側のある程度の前提と気構えって大事ですよねぇ。
画面構成もオシャレで、パッと見て必要情報がすぐわかるうえに必要十分でとどめられている印象。前作前々作はパステルメルヘンな雰囲気が強かったので、こういう物静かに冴えた雰囲気は意外でした。作風が幅広い!
ピースに応じて見える真相と彼らの素顔
断章はパズルのピースとして表現されており、プレイヤーがその手でお話を進められる実感が味わえます。すごろくのコマとかもそうなんですが、一つ操作が入ると「自分が」進んでいっている感じがして楽しいですよね。こういうのってゲームならではの楽しさな気がします。
そしてその要素の真価は、パズルの全体像です。
3キャラそれぞれの視点にそれぞれのパズル、初めに嵌め込まれているピースは足元らしき絵柄。察しの良い人ははじめっからピンとくると思いますが、全体像はその通り、文字のみで表現されるメイン3キャラの素顔となっています。
彼らの素顔が見えると同時に、伏せられていた彼らの関係性もわかるのがまたすごいと思うんですよ! なんだろう、ストーリーとパズルがリンクしている感じというか、暗喩みたいなあれ! 特に終盤はそれまでがほんのりラブコメちっくな展開だったからこそ、怒涛の「ひょええ!?」な展開にすっっっごい興奮しましたね!!
聞き取り調査はしっかりと
ノベル中心ということもあり、謎解きのほとんどは生徒たちのちょっとした会話や思わぬ雑談に紛れています。なぞなぞ系というよりは、与えられた情報をきちんと噛み砕いて理解できているかが問われる感じ。中でも私は地図読みや地形描写がめちゃくちゃ苦手なので、某章はなかなか手ごわかったです。
とはいえ、基本はユーザーに易しく詰まることも少ない親切設計。攻略ページも公式にありますし、最悪、一応クリック/タップ連打による虱潰しもできなくもないです。何よりオートセーブと栞機能のおかげでやり直しがとてもしやすいので、うっかり見逃したらさくっと戻って即再開ができて助かりました。
余談ですが、方言ばりばりの会話文と言い、何を言うべきか迷っている間に話が進んでしまう璃々子さんの性格と言い、あちこちの描写がとても自然だなあと感じました。だからこそ、すぐ傍であり得そうな怪談というテーマが映えるのかなー、なんて。
「ぐっぽで組んでも怒りなし」はどうもリアルにある言い回しらしいですね。うちの近所は「ぐっぱーぐっぱーじゃーっじ」でした。
SEのみのシンプルな音遣い
作中、足音を気にしたり、逆に無音の空間がさらに焦りを煽ったりする場面が多くありまして。BGMがないからこそ逆に音を想像して恐怖が膨らんでいったなあと思います。
あと、二重の意味で美味しいのが作中終盤の展開に関わる部分。小ネタといえばそれまでですが、ガッツポーズ決めて小躍りしたくなるレベルに嬉しかったです。
とまあ、こんな感じで。
作品をプレイしていてあらゆる面で「二重の構成が上手い!」と感じました。完成度が高い、まとまりがある、終盤に予期せぬ方向で驚かされる、そんな感じの現代ホラー(風)ファンタジーをお求めならぜひプレイしてほしいなと思います。
追記ではネタバレ込みの感想など。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレあり
本編終盤にひっそり登場した彼について
いやああのなんていうか和久井君ずるくないですか!!
ずるいよ!ずるくない!上手い!好きだよ!好きです!
いやああの、璃々子さんへの形式ばった口調での追及と蛍雪君に対するフランクな「~じゃん」口調、この使い分けができる時点でうすうす彼だろうなあと思ってはいたんですよ。いたけどやっぱりテンション上がるじゃないですか。
名前を呼んだり、他キャラを出したりじゃなくて、あのたった一言で「君だーーー!!」ってわからせる手腕が本当に痺れますよね。だいっすきです。作品を重ねるごとに好感度がウナギ登っていく。
彼の本名が出てくるまではこう、日本あるある苗字みたいな平凡名前を気にして偽名もとい魂の真名を名乗っていたのかなと思っていたので、クラスに一人いるかいないかな苗字で驚きました。そのままでもかっこいいじゃんいや真名もかっこいいけど……。
「完」の効果音を聞いてようやく、「そういえばノワイエのあの音もそうだ!」とテンションが上がりました。そしてスペシャルストーリーのキーワードがまた上手いんですよ!タイピングの手にも気合が入るってもんです、我が主!
真相・世界観など
で、世界観についてもちょろっと。
私の中で、異世界=人に大事にされた物が生み出す想いの空間、だと思っていまして。異空間に影響される→異能力が使える(無意識的に影響が出てくる)みたいな。
だから、今作ではなんというか普通に(?)異能力が存在する世界で驚きました。で、黒影様が異空間を生み出す人で影響を受けたのが蛍雪たちなのかなー等々考えていたんですが……。
この辺りはスペシャルストーリーにて軽く解決。異空間のまんまってアリなんですねぇ。てっきりすばるみたいな人達がそういう異空間は全て回収?みたいなことをしているのかと思っていました。
スペシャルストーリー読む前に、蛍雪たちの力のことを彼が知ったら速攻食いついてとんでもないことになりそうだなあなんて思っていたんですが、案の定で吹きました。二つ返事がすぎる!
ノワイエのころから、ミステリアスビューティなすばるさんをどこまでもカラっと笑顔で信じちゃう二人が好きです。リオがどうしてるのかも気になるなあ。
ともあれメインキャラが変わってもきっちりリオ達の話に戻ってきてくれて嬉しかったです。
あとはそうだなあ。それぞれ影の形が違うっていうのもなんだかいいな~と思います。その人の本質というか、在り方というか、見えないものが形になるこの感じ。好きです。
とまあ、こんな感じで。
キャラも立ってて、特に終盤では思わず吹き出すこともしばしば。背筋がさぁっと冷える怖さと、リアルにありそうな自然さと、ファンタジックで燃える展開、あの長さに色々な味がぎゅっと詰められた良作だったなあと思います。
蛍雪のネーミングが風情を感じて好きです。