「長編疲れのお供に短編はいかがですか!」
隙を余さず需要に訴えかけていく前置き。
えー、今回は短編の乙女向けノベル(だと当方が感じるもの)を複数作まとめて、感想を述べていきますね。
作者様はそれぞれ別々だったり同じだったり。基本的にはヤンデレ多め。タイトルをクリックしたら本家に飛べますので、公式説明文などもご覧ください。
作品は下記の目次の通り。
- 『夕明かりの下で』(公開停止中)
- 『縁的生活』(期間限定公開)
- 『さよならフリル』
- 『必要不可欠の君』
- 『おべんとゴーゴー』
- 『アリバイ ‐ゆうべ誰とどこにいたか千文字で答えよ』
- 『おやすみ、ねんね』
- 『おにいちゃんホワイトデー』
- 『アネモネとメルヘン』
『夕明かりの下で』(公開停止中)
なろう小説を通じて双子が出会う、現代もの恋愛ノベル。策略系ヤンデレ×頭お花畑系ヒロインで、一応社会人もの。ただヤンデレといっても、演出はホラーに近いかな。
スマホのスマートな登場の仕方や、ドアノブをアップにする構図など、さりげなく飽きさせない見せ方をされていたように思います。
気になる点としては、立ち絵変更のテンポがずれてるように思えたところですね。ティラノさんの問題かもしれませんが。あと、私服のセンス。特に攻略対象のほうはいっそ無地でもいいのでもうちょっと年に合う服装をさせてあげて欲しかったかなーと思います。
といっても、日によって着る服がきちんと変わっていること自体は細やかで好きです。立ち絵の数増やすだけでも大変ですよねえ。
起動画面の構図もオシャレで好きですが、「つづきから」の「つ」の部分以外はエンディング回想ページへ飛ぶような当たり判定になっているのがネックでした。
ストーリーとしては、3種どのエンドも心理描写をしっかりしてくれていた印象です。双子ならではの運命論を感じさせる展開は思わずなるほどなあと思わされました。
ヤンデレと聞いてイメージしやすい、安定のヤンデレを楽しめた一作でした。
『縁的生活』(期間限定公開)
お人よしすぎる女子高生が色んな人と縁を繋いでいく、現代もの乙女向け恋愛ノベル。
攻略対象は二人で、近所に住んでる少年と、雨の中で出会った社会人。二人とも知的で安心できて少しばかり不穏なところがあるんですが、こうやって属性だけ取り出してみると共通点はあれど、全く毛色が異なっていたように思います。
私は断然はじめくんが好きです! 敬語だし! 見た目オラオラ系だし! しれっと需要にお応えするワードをぶっこんでくるところや、甲斐性が全面に見えるところ、彼女のためにガチで怒ってくれるところにとってもときめきました~!
あと斬新で面白かったのは、ヒロインのキャラ付け。単純に善人っていうだけなら乙女ゲーヒロインあるあるだと思うのですが、変わった味付けが一点。
それはヒロイン自身が「ヤンデレ好き」なところです。ヤンデレweb小説を読んでは潤う姿に、同意と共感性羞恥を抱きつつ楽しみました。人の悪意に鈍感すぎる共感をしづらいヒロインに、上手いこと親近感を抱けるような設定が付与されていたと思います。
エンドは二つ、でいいのかな? よくよく考えればうすら寒い結末でありつつも、ハッピー()エンド。実にヤンデレらしい良作でした。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
『さよならフリル』
日常寄りの現代もの恋愛未満ノベル。
なんとなく出会った二人だからこそ、ふっと関係も終わってしまうんじゃないか? そういう、ぼんやりとした不安を書いてあるお話でした。どちらかと言えば淡々としていて静かな印象の文体ですが、メイン二人の掛け合いは自然体で、不思議とあったかい雰囲気を感じます。
readmeのキャッチコピーみたいなのも、すとんと印象に残って、好きです。
タイトルのフリルの理由が分かった時はなんだかにこにこしてしまったり。システム画面のゆるさに気付いてくすくす笑ってしまったり。「卒業したらに~」とか「呼ばなかっただな」とか、ふいに方言が出てくるところも、なんだかきゅんときました。
ふと素敵なものを見つけて、こっそり秘密にしておきたいような読了感です。
下記『必要不可欠の君』と同じ作者様の作品。
『必要不可欠の君』
現代もの、一本道数分、あっさり味。
無駄なことをしない人がお相手ということで、どことなーく好みの変人(と呼ばれがちなしごく真面目な人)に会えるかなと思いDL。
それこそ本人が無駄をそぎ落とすタイプの人なので、淡々とした味わいではあります。プレイし終わって、一体何だったんだ、と思ったのが正直な感想です。
ですが、この印象がまるっと稲生君の人柄そのものを表しているんだろうなあとも思うんですよ。無駄なことをしない彼が、唯一起こしてしまう変なこと、みたいな。
クリア後に出てくる「資料」を見るところまでが本作だと思います。資料の、クールな顔をしながら脳内で「わーい」を想像してるところが微笑ましくて、和みました。
上記『さよならフリル』と同じ作者様の作品。
『おべんとゴーゴー』
1000文字でゲームを作ろう、な企画「千文字喫茶」参加作ということで、かなり短めの一本道ノベル。
お弁当作ったから持ってってね、から始まるほのぼの男女姉弟の朝のお話です。冗談交じりの掛け合いが微笑ましいし、仲の良さが随所に感じられてほのぼのと……ほのぼのでした。はにかみ顔の弟君の立ち絵もかわいい。癒されます。
初めプレイ時間を見ていなかったので、終わりにはおっと驚かされましたが、この短さの中にしっかり裏を仕込んでいく手腕はさすがの一言でした。
『アリバイ ‐ゆうべ誰とどこにいたか千文字で答えよ』
こちらも上記同様、1000文字がキーワードのゲーム制作企画「千文字喫茶」参加作。全ルート確認まで10分もかからない、お手軽な分ゲです。
内容もまさにタイトル通り、千文字で浮気の理由を回答するノベルゲーム。回答はあくまで選択肢で決めるので、エンド全てを見るには総当たりになります。個人的には、コンプ後の何か、あるいは出オチ気味の掴みから最後に一手押すギミックがあればより良かったかなー、なんて。
といっても、上手いと思わされる点も多くあります。具体的には左上へさりげなく表示されている残り文字数や、某エンドの「そっち!?」というツッコミどころ、粘性が高くてリアルさを感じられる例の飛沫など。数分の中に楽しい発想が詰まった作品でした。
ひたすら言い訳を重ねていくクズなイケメンが見たいあなたに。
『おやすみ、ねんね』
10分~30分くらいのお手軽短編。弟×姉、一本道。
ゆるーく始まる会話劇が次第に色を変えていく、この質感の出し方が大変上手な作品でした。序盤のぽんぽん別の話題に飛んでいくテンポの良さ、終盤の言葉にならない気持ちがぼとぼと零れ落ちていく感じ、どちらの雰囲気も好きです。
一言でいうなら「甘えさせてもらえるゲー」。甘やかしてくれるゲーじゃなくて、甘えさせてくれるっていうのが私的なポイントです。ほどよくいつも通りの態度で、言葉上は突き放してくれるところがすごく優しいんですよね……。惨めさが悔しい、素直に相手が悪いと言ってやれない、不器用な姉のことをそっと癒してくれます。
造り物じゃなくて、生々しく自然で優しい独白が素敵でした。
クリア後の印象はカウンセリング。苦しくて眠れない方に。
『おにいちゃんホワイトデー』
前作『いもうとバレンタイン』の番外編。前作の完全ネタバレとなるため、続編というべきかもしれません。
元々ヤンデレ大暴走ないもうとちゃんですが、今作は兄視点というのもあってか、一途でいじらしくてかわいい面のほうがより際立っていたように思います。すがりついて涙目になってくれるところなんてもう、かわいいやらいじらしいやら!
また、注意書きに性的表現とありますが、この出し方がものすごく清楚でお上品です。どことなく怪しい雰囲気が漂いつつも、そうとは言い切れないこの絶妙さ。その予感が「本番」の一言で明確になってくれるところも、すごくこう、不気味と爽快のスイッチが同時押しされた感じでした。“答え”をもらえた感じがすごい気持ち良かったです……。
そんなわけで、短編でも読後の満足感はがっつりの一作でした!
『アネモネとメルヘン』
数分~10分程度の短編。女性向けとあるので一応この枠で紹介しますが、想い合うというよりは情念や執着のほうが強い気もします。ゾンビメイドと攻略対象二人。
公式の紹介文は「みんな身勝手」。まさにそこが好きな作品でした。
死人還りというと、感動ネタ等に流れる気がしますが、本作は容赦なくバッドあるいはメリバへと舵が取られます。
死んでもなお蘇ってくるメイドの執着はひどく異様。その彼女が視点主というのもまた興味深い構成です。理解できそうでできない、静かに狂った方へと当然の足取りで歩いていくような作品でした。
とても穏やかな雰囲気で、落ち着かない気持ちにさせられる良作です。
とまあ、こんな感じで!
どれも数分でプレイできるので、お手軽に満足感を味わいたい方は是非。