うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「あわれは知らない子」感想

「あなたのおせっかいが命を救う、かもしれない」

迷惑がられて嫌な顔をされる可能性もトントンな前置き。

 

 

えー、今回はいさら座(ラシ)さんところのフリーゲームあわれは知らない子」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

www.freem.ne.jp

 

クリアまで数時間、選択肢分岐もない一本道ノベル。

恋愛要素もありつつ、メインは学生男女3人がそれぞれの未来を思い描く話。

 

1周目だけだと切なくも爽やかな話で終わりますが、2周目からはがっつり鬱展開が入ってきます。でも、読後感はやっぱり爽やかで力強いので、暗い話も読める方は是非読み切ってほしい……!

 

 

 

というわけで、良かった点など。

 

 

夏の眩しさと透明感

 

もうね、これはまず公式サイトを見ていただきたい!

白と青。そして稀に、夜のような濃紺。

公式ページの雰囲気がそのまんまゲーム画面になっています。すごいよねこの透明感……。夏の日差しが海に反射してきらめいてる、あの光景が目に見えるようです。

ゲーム画面もあちこち綺麗なんですよ~……! セーブしようとメニュー開いて思わずほうっと見惚れちゃいました。

 

スチルがかなり多い&使い方が馴染んでいるのもポイント。

立ち絵だけで表現しがたいシーンや、登場人物の深い内面に触れるようなシーンでは、必ずといっていいほどスチルが登場します。ここぞのキメシーンで使うというよりは、場面演出の補足として使われている感じ? 動かないんだけど、シネマを見ている感覚に近かったです。

 

で、立ち絵も立ち絵でまた種類が豊富なんですよね~!

こんな豪華で良いんですか!?って気持ち。特に、あわれちゃんの意地悪な笑みと無邪気な笑みの違いが好きです。

 

 

 

2周目でガラッと変わる物語

 

1周目は田舎町の幼馴染が将来を考える話。

そして、2周目からはちょっと不思議な女の子と出会う話。

どっちのルートでも分岐がかなり早く、1本で2作品なんじゃないかってくらいには、どっちも濃厚でボリュームのあるシナリオを楽しめます。

 

斬新なのはあくまで、「出会うルートと出会わないルート」なのであって、「表と裏」ではないところ。……ですよね? 私はそう解釈してます! 違ったらすみません!

ともあれ。この手の2周目が変わるゲームだと、1周目が謎だらけで2周目が回答編になったり、1周目の感動が2周目で恐怖に変わったりするのが定番な印象。

でも、本作は違います。補足ではないんです。本当に、あるか・ないか、なんです。

ここ深掘りするとネタバレになるのがもどかしい~!!

追記で熱く語っておきますね!

 

 

 

踏み込むに踏み込めないぎこちなさ

 

幼馴染って関係性、いいっすよね~……。

だんだんと男女を意識する距離感、幼いころの呼び名、学校でからかわれるイベントなどなど、王道シチュエーションを全て網羅してくださってます。

そのうえで!

どことなく空気が悪いのはわかるんだけどそれを指摘すると終わっちゃいそうな感じ、頭の中で色々考えてるけどなんか口の中が乾いちゃうような感覚……。「おまえ早くなんか言えよ」みたいなね! リアルなぎこちなさも出てるのが良いんですよ。

 

一方、あわれちゃんもこっちはこっちで違ったぎこちなさが味わえます。

どのくらい親切にするべきか、事情に突っ込んでいいものか。もっと言えば、幼い子が懸命に見栄を張ろうとしているときの必死さと痛々しさ。

この生々しい空気感がしっかり描かれているのも魅力です。

 

キャラクターの掛け合いはテンポ良しで漫才風だから、なおさら、こういうジリッとした気持ちが紛れ込んできた時に効くんだよなあ……。

 

 

 

彼らが夢見る人生の話

 

確かにがっつり恋愛してる本作。

しかしながら、勝手ながらどうにも乙女ゲーとか恋愛ノベルとかいった言い方がピンとこないのが正直なところです。

なぜなら、恋愛という枠に留まらないもっと先まで、このお話が伸びているから!

 

キラキラしたシチュエーションや、儚い雰囲気をたっぷりと感じさせてくれつつも、彼らの物語はとても現実的な形に帰着します。

こういうね~、ロマンもリアルも両方大事にしてくれると、物語への信頼度がカンストしちゃうんですよね~!

将来の夢って職業を問われてるんじゃないんだよなあ、とか。ふわふわした希望を現実として叶えるための手段として進路相談があるんだよなあ、とか。理不尽な目にあってもそれは、受け入れないと先に勧めないんだなあとか。

そういう、青春の裏のシビアさをしみじみと思わされました。

 

 

 

 

悪意に満ちたどこかの世界

 

さて。

冒頭で注意書きをし、公式でも繰り返し「胸糞注意」とある通り、この物語ではとんでもなく重苦しい鬱展開がやってきます。1周目だけプレイするなら回避できますが、前述のとおり1周目と2周目の構造が独特なので、1ファンとしては全てを読み切ってほしいという気持ちがとても強いです。

詳細はネタバレになるので防ぐとして。

ただ、この悪意の描き方についてもすごく巧みだったということと、鬱展開を経てもやっぱりこの作品のキラキラと美しい側面は損なわれないのだということは、主張しておきます。

 

 

 

 

余談。

 

ふりーむさんで掲載されている紹介文がものすごく好きなので、引用させて頂きます。

 

『あるいは、夕陽に染まる堤防の上。

 あるいは、朝の海岸のまばゆさの中。

 あるいは、暗い海を臨む月夜の下。

 

 切なく眩しい、そんな晩夏の物語。』

 

 

一部引用で大変恐縮なんですが、ぜひ全文を読みに行ってほしい……!

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

キーワードとしては以下のような感じ。

夏の波打ち際のきらめき、青春幼馴染、ツンデレ、メンタル男前ガール、ファムファタル、田舎町のまったりとした優しさ、どろどろアングラ鬱展開、夏の海の漆黒、などなど。

ピンとくる方がいらっしゃったらぜひ。

 

追記ではネタバレ感想。

 

同作者様の他フリーゲーム感想記事↓

shiki3.hatenablog.com

 

 

 

ネタバレ注意!

 

 

 

 

 

1周目と2周目の関係

 

2周目をプレイしている途中すごく気になっていたのが、

みっちゃんとよしくんのぎこちない関係はどうなるんだろう……!?

という点でした。

 

大前提として私はあわれちゃんが大好きです。

が、あわれちゃんが入ってきたことで、二人の和解が後回しになったり消えちゃったりするのは嫌だなあと思ってたんです。

 

でもこんな杞憂も本作は全力でカバーしてくれるんですよね~~~!!!

 

みっちゃんへの「……覚えてたんだ」という小さな一言で、よしくんの中での引っかかりが氷解しているのが伝わってきたんですよ。これ、安心したな~……。

1周目みたいな思い切りケンカする形ではないけれど、間にあわれちゃんという緩衝材が入ることで、二人の歯車もまた心地よく回っていく。こういう、2周目ならではの和解の在り方も好きです……。

 

あわれちゃんがよしくんの邪魔をするんじゃなくて、あくまで間接的に応援してあげてるところも好きなんですよね! みっちゃんにも、よしくんにも、それぞれ違った形の好きが向いている感じがして嬉しかったです。

三角関係じゃなくて、三角婚?

2周目ルートのみっちゃんは覚悟完了してるおかげか、漢気が倍増しで素敵でした……。

 

 

 

一方。

(良い意味で)残酷だなあと思うのは、あわれちゃんのこと。

 

みっちゃん達は、あわれちゃんに会っても会わなくても、二人の人生と将来についての答えを見つけて歩めるわけですよ。でも、あわれちゃんは会わない限り救われない。みっちゃん達とすれ違うだけのあわれちゃんは救われない。

ここがね、すごく残酷だなあと思うんです。

そして、あわれちゃんが今まで感じてきた苦痛や現実に対して、正直でとても誠実だなあとも思うんです。

 

このビターな味わいがあるからこそ、私は本作のハッピーエンドを信じられるような気がしました。

 

 

 

あわれは知らない子。

冷たく突き放す言い方と、優しく背を押す言い方

1周目と2周目でタイトルの意味が変わる演出、わかっちゃいるけど大好きです。

 

 

 

 

2周目を経た後で考える1周目

 

1周目で、よしくんが帰ってこない可能性も見越して指輪を担保にするつもりのみっちゃんがめちゃくちゃツボでした。したたか~!! 女将としてそのしたたかさ、大事~!! 好き~!!!

 

みっちゃんはあわれちゃんと出会わないと、こう、一人で完結しちゃう女の子になるってことなのかなあと考えるなどしていました。

将来の夢も自分で決断して、よしくんが外へ出るのを結局は一人で待って、それを全然苦と思わずにしゃっきり背筋伸ばして生きていける感じ。

 

よしくんの想いに鈍感、というか、二人の関係をそのままにしたいがために鈍感であるふりをしている節もあるのも、この辺……? なんだろな、優しい子なんだけど、優しさが行き過ぎて変に輪を乱したり壊したりしちゃわないためにドライになってる感じ……。よって、一人で完結しちゃう子という印象……。

 

 

 

よしくんはとにかく、もう、第三者が必要だったんだなって!

あわれちゃんがいなくてもおじさんこと航大さんが介入してくれるし。ある意味、どうなってもなんとかなるというか……。

 

ただ、1周目は自力で決意したからイケメンな感じで吹っ切れてますが、2周目の方はあわれちゃんに背を押されてって感じなので、ちょっとふにゃけてる感じがするかも。

1周目のよしくんもツンツンながら一生懸命でカッコイイですし、2周目のよしくんも少し柔らかくなろうと努力している感じがいじらしいしで、どっちも好きですね!

1周目のよしくんは妻と言われると「?」となりそうだけど、2周目のよしくんは「うんうん」となりそう。この違いも、なんか、あわれちゃんとであったからこそなのかもなー、なんて。

 

 

なんか、こうしてみると、人との出会いの話でもあったように思うな……。

 

 

 

プライベートは筒抜けだけどみんな優しい田舎町

 

ご近所さんが仲良しこよしの田舎町って、陰キャな私からするとなんとなく息苦しそうだったり怖そうだったりに見えてしまうんですが。

本作は、バランスが良かったですね~! みんなの優しさのおかげで助けられたあわれちゃんがいたり、一方でちゃんとプライベートへの踏み込みはちょっと……という面も見せてくれるよしくんがいたり。フラットに見れたなあと思います。

 

 

 

極論ね、知らん子の、ましてや子どもなんてとても面倒見切れやしないじゃないですか。

で、閑散としつつある田舎町の旅館なんて、そら、経営事情かなり怖いじゃないですか。

それでも引き入れてくれる美しさな~……。

 

私、こういう優しさが物語の最初っからぽんと出されてたらたぶん信用できなかったんですよ。

でも、あわれちゃんが救われない1周目があって、あわれちゃんをめぐるどうしようもない裏話が本当にきっちりと胸糞として描かれていて、だからこそ信用できました。

 

余談ですが、あわれちゃんと交渉した男の「女って赤ちゃんほしいもんなんじゃないの?w」みたいなセリフ、マジでクズのリアリティが高くて大好きです。なんか、居そうな感じがほんと、ああ~~~……。

 

 

 

ともあれ。

古出家の皆さんの、距離の取り方も好きなんですよね~……。

あわれちゃんがうっかり偽名を名乗っちゃうくだり、大好きなんです。あわれちゃんの裏のコンプレックスと、それを申し訳ないと思える性根の綺麗さが両方見えるし。それをドンと受け入れてくれる古出家の皆の、本質を見抜くあったかさにほっとするし。

さりげなくすごい好きなシーンだったな……。こういう大人になりてぇよ……。

 

 

 

 

 

 

ゲームがどうというより、そっから受信したキャラ妄想語りになっちゃってた気がしますね?!

 

とにかく、こう、昏い夜をしっかり描いてくれるからこそ信頼できる光のハピエンでとっても素敵でした!

良い夏をありがとう!