うそうさ〜第二号室〜

フリゲ・鬱展開・ヤンデレ 万歳!

フリーゲーム「幻想列車アポトーシス」感想

「この場所は自身の死すらもプログラムされている」
予定調和で死んでいく前置き。

 

 

えー、今回は時雨屋本店さんところのフリーゲーム幻想列車アポトーシス」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。


一本道ではあるものの、文章分岐がかなり多くある、文字好き大歓喜の一作です。

ノンフィールドのコマンド選択型RPG

クリアまで1時間未満の短編ではありますが、魅力たっぷりで満足感は高め。

 

 

というわけでさっそく好きな点など。

 

 

粛々と進む列車と哲学的な問いかけ

基本的には「進む・調べる・座る」を繰り返す、ノンフィールドRPGです。列車内なので背景も変わらず、ゲームは淡々と進行します。


しかし、ただ静かなだけでないのがこの作品の良いところ!
疾走感のあるBGMにガタゴトと進む列車の音、そして得体のしれない場所に放り込まれた落ち着かなさ。文学的な敵の名前と戦闘前のセリフ。これらのおかげで作品全体に緊張感が漂い、かなり濃密な世界観を感じることができました。それこそ時間を忘れて一気にクリアへ走ってしまうほど。

 

バトル前の口上が本当にセンス良い名文の宝庫で、雑魚戦も中ボス戦も問わずスクショ取ってにやにや見返してしまいました。ふふふ。「愛する人においていかれました。~」の口上と、「何かをしてあげたい。でも、~」の口上が好きです。舞姫胡蝶の夢辺りだけは元ネタかなあと勝手ににらんでいるのですが、どうなんでしょうね。

こういう想像の膨らむ意味深なセンテンスが大好きです。

 

 

想像力の膨らむキャラメイクと対応文

先ほど“世界観を感じる”と書きましたが、この作品では特に“味わう”というより“感じる”という言葉がしっくりきます。


初めにキャラメイクがあるんですが、これがいわゆる戦士タイプ僧侶タイプといった文言ではなく、「あなたが見るもの」を問われるんですね。そしてそれらは以降の探索に反映し、ただ調べるだけのコマンドにも、驚くほど細かい文章分岐が仕込まれます。


このおかげですごく、自分があの世界に入っている感覚がしたんですよねぇ。


余計な心情描写はなく、ただあくまで私が見えたものの描写があるだけなので、感情移入があまり好みでない人にもオススメできます。ゲームブック風、あるいはTRPG風といえばいいのかな。言葉で想像力を掻き立てられる、引き込み力の強いテキストでした。

 

また、列車の区切りで差し挟まれる車掌さんとの会話も魅力の一つ。
幾度も繰り返されるあのセリフはこれからも忘れられそうにありませんし、つい口の中で唱えたくなります。
「この列車は、走り続けることに意義がある。」

 

 

状態異常の対処と戦法が楽しいバトル

さて、テキストや雰囲気面に着目してきましたが、もう一つ秀逸な点として挙げたいのが作品全体のゲームバランスです。


まずバトルや敵の強さについて。

それぞれのコマンドを一回ずつ試して進んでいくと余裕、くらいのバランスだったので、雑魚戦はほどよく避けて進むくらいがちょうどよいバランスでした。雑魚戦を確実に避けられるのもありがたいところ。そして、道具屋がないぶんアイテムの取得ポイントは豊富です。なのでよっぽどのことが無い限り詰むことはありません。

 

ではヌルゲーなのかと言えばそうでもなく、特に興味深いのが状態異常の観点でした。
もしかすると私のキャラメイクがそうなっただけかもしれないんですが、この作品って状態異常の回復手段が無いんですよね。少なくともアイテムにはなかったし、2種キャラメイクを試した限りでは異常回復技はありませんでした。

 

じゃあストレスフルになるのかと言えば、決してそうではなくて。


状態異常は数ターンで確実に治ること、攻撃系のアイテムがあること、敵のダメージ量に対する回復使用のタイミングが絶妙なこと、力溜めやターン回復系の積みかさね系スキルもあること。これらのおかげで、むしろ上手いこと手番を使う楽しみがありました。暗闇だからアイテム使おうかな、防御ダウンになったから今のうちに回復だけしとこうかな、みたいな。選べる手段が多いのは実に嬉しいです。

 

私は1周目おちびさんで進めたので、技もシンプルで楽でしたねぇ。タイプによって戦法が変わるであろうところも楽しいです。やろうと思えば初期レベルクリアもできそうな気がするんですが……私は三つ目の中ボスで力尽きました。高き門に触れたい方はやってみると楽しいかも。

 

あとはシステム面のバランスも触れたいところ。
数車両分進むと、コマンドの意味やイベントの法則性も察せてきます。が、あえてボスのタイミングをずらしてきたり、列車の正体のみでなくもう一捻り加えてきたりと、良い意味でプレイヤーの予想を裏切るのが上手でした。
奇襲や急展開にならず、きちんと段階は踏んだうえで少しずらすのが本当にうまい。
エンディングでは震えました。こういう、クリアの達成感があるゲームは本当大好きです。

 

 


とまあ、こんな感じで。
上記以外にも、ラスボス戦での“あの”演出や、起動画面のシンプルな魅力など、短編の中に良点がぎゅぎゅっと詰まった素晴らしい一作でした。

 

キーワードは列車、文学、ゲームブック風など。
ちょっと興味がわいたなら是非とも実際にプレイしてみてほしい作品です。

 

 

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フリーゲーム「僧正の朽ちゆく魔柩」感想

「一対一が等価とならない例は往々にして存在する」

価値観の違いって便利な言葉だよねな前置き。

 

 

えー、今回は、*coelacanth*さんところのフリーゲーム「僧正の朽ちゆく魔柩」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

前に紹介した

斬首人が連れていく」「獄主に捧げる降霊術

と同じ世界観の、18禁BLノベルゲーム。

 

メインキャラ自体は異なりますが、他2作との関係がかなり濃いのでそちらを先にプレイしてから読み進めることを強くおススメします。BLCPとしては本命がほぼ決まっているうえでの総受け傾向かなと思います。愛されより性欲が強め。

 

 

 

というわけで良かった点など。

一部、おまけ要素のほのめかす程度のネタバレ等も含みますのでご注意ください。

 

 

 

首切り協会と反魂の儀式

 

やっぱり一番好きなのは舞台設定。

暗殺者同士の殺し合いを生き残り、他の奴らの首を集めて反魂の儀式を成功させる――というのがざっくりとしたあらすじなのですが。もうこれだけでわくわくしてしまうほどに設定が好みでした!

《十二鐘》の設定も大好きなんですよ! キャラが多数登場する物語で、それぞれ何かが割り振ってあるのってテンションあがりませんか。各キャラに称号や肩書がついてるのもすごくこう、そそられます。今作とは毛色が違いますが異能力バトルものもそういう理由で好きです。

キーンの肩書がめちゃくちゃお気に入り。コンプ欲を刺激されるオシャレなBellページとBishopページも必見です。

『獄主~』ではホラーな雰囲気を感じていたのですが、こういう設定面を見ると今作に関してはデスゲームものの感覚に近いかもしれません。

 

 

 

ズタボロ姿で血反吐を吐きつつ踏ん張る主人公

 

そして、過酷な舞台の中で主人公が弱者側というのもまた熱いところ。

身体中ズタボロになりながら生にしがみつく主人公って良いですよね。主人公が積極的に殺す側に回るのではなく、無力ながらに這いずり回るのもこう、状況の厳しさや異常さが見えて真に迫りました。

いつ殺されるかわからないスリルってたまりませんよね!

 

また主な視点が二つに分かれるおかげで、デスゲームの渦中を駆け巡るハラハラ感と、一部とはいえ盤面を俯瞰的に見れるクールタイムとを両方楽しめたのも大きいです。特に私は気になるところがでてきてしまうと話にのめり込みきれず考え事に走ってしまうタイプなのでなおさら。

前述の通り、主人公は(あの集団の中だと)弱いので即死エンドもそこそこあるのですが。初めはピンとこなかった死亡エンドも、他エンドを見ると深々と頷けることもあり、そういう意味でも面白かったです。

真相と謎のバランスが良いというか。隠すべき謎は最後まできっちり伸ばしつつ、プレイしていくうちに枝葉の部分を少しずつ整理整頓してくれる構成だなあと感じました。

 

 

 

女キャラも活躍する、ストーリー重視BL

 

この作品に限ったことではなく、女キャラが恋のエンジェル的な舞台装置として動くのではなくきちんとキャラとして個性立ってるBLゲーってすごく、すごく良いですよね。

そんなわけで、か弱い乙女であるレダがかなり重要なポジションにいるのがすっごく好みでした。彼女がメインスチルに入るエンディングも好きです……!

勿論、想いの一途さ、執着にも似たどろどろとした感情などなどのBL的な心理描写も、18禁を冠するにふさわしい濡れ場シーンや血生臭いシーンも大満足。ですが、それ以上に俗っぽい萌えを抜きにしても、土台が一本しっかりと打ち立てられているストーリー面に大注目したいところです。

 

 

 

 

過去作プレイヤー大歓喜のappendix

 

真相がわかる、という意味でも全クリを強く推奨したいのですが、さらに嬉しいのが過去作の彼らにもそれぞれピリオドがつけられる点です。数年越しの伏線が回収されたり、過去作の設定が今も生きていたり。シリーズ追ってきた身としては感慨深かったですねぇ。

以前の感想でも書きましたが、元々首切り協会サイドの話は見たいなあと思っていまして。そんな中、首切り協会視点の過去作キャラ達が見られるというこの特典は実にご褒美でした。過去作だとすんなり受け入れられていたところが、この特典だとひどく歪に見える時もあり。箱庭の外から見ないとわからないこともあるよなあ、と思わされました。

 

それぞれ主人公を見比べると、私はやっぱりアーシェの(なるべくしてなった)未熟さが一番萌えるなあと思います。

あとイングラム! 

こう、女を侍らしてるけど紳士的な仕事人って印象が強くて、そういう面がこのappendixでより見られてとても嬉しかったです……! マリータもね、かわいかったですよね。うん。うん……。

 

本編のappendixとして、がっつりお腹いっぱいのボリュームで、最後の大仕事として残された謎を明かしてくれたのも気持ち良かったです。

 

 

 

 惜しい点

 

一方で、過去作に引き続く惜しいなあと思う点は、

 

・BGMやSEなど音演出が一切ない

・文章スキップが既読でも効かない時がある

 

の2点ですね。前者はDLページにその記載があるので了解済みとして。

後者について、ソフト面詳しくないので無根拠な推測になりますが、たぶん既読未読の判定がシーンごとじゃなくて選択肢を選んだ順になってるんじゃないかなあと思うんですよね。

「選択肢1→選択肢2→シーンA」「選択肢2→選択肢2→シーンA」の2パターンがあるとして、たとえシーンAの文章に一切差異が無くても未読と判定してしまうみたいな。

なのでこの辺りはソフトの制限上どうにもならないのかもしれないなー、なんて。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

多少システム面のやりづらさはあるものの、やっぱり世界観がめちゃくちゃ好みで鬱展開も多いので、好みが合いそうな人にプレイしてほしい作品です。

仄暗い感情、人があっけなく死んでいく展開、などにピンとくる方なら、過去作含めて是非。

 

 

 

 

追記ではネタバレ込みの感想など。

 

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フリーゲーム「ハイドアンドシーク」感想

「きっと誰かが見つけてくれる、きっと誰かがわかってくれる」

待ちぼうけを受ける前置き。

 

 

えー、今回はすとれいきゃっとさんところのフリーゲームハイドアンドシーク」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

3人の子どもたちの視点で話を追っていく他視点型ノベルゲーム。

エンドは複数ありますが、最終的には一本に収束します。

 

というわけで、さっそく良かった点など。

 

 

隠れた心の闇を覗き見ていくストーリー

 

これはふりーむさんのところにある一文紹介が非常に秀逸なので、是非ともそちらも見ていただきたいところ。あれでDLを決めました、まさにハイドアンドシーク。タイトルも直球な意味と間接的な意味とがあって、良いダブルミーニングだと思います。

雰囲気としてはダークメルヘンに近い印象で、子どもたちの集まりという不穏さと不安定さが実に楽しめます。冒頭のあの、意地悪い展開からしてぞくぞくしますよね……無邪気な悪意というか軽々しい恐ろしさと言うか。

この辺り思うところは追記にまとめるとして。

とにかくプレイ感としては、すんなりとダークな雰囲気を楽しんでいた矢先に不穏なキーセンテンスが出てきて首を傾げた直後、ひゅっと息を呑むみたいな感じでした。実に楽しかったです。

 

 

互いの時間が絡み合う他視点型ストーリー

 

一区切りごとに視点キャラを選んで読み進めることができるのも、この作品の特徴の一つです。

物語の理解としては一人のキャラをひたすら追っていくのがオススメ。けど、好きな順番で気の向くままに覗き見して、濃厚なダークメルヘンぶりをとくと味わうのも乙だと思います。

私が初めてプレイした時は途中までカケス、一回カナリア、一回クロウ、という順番で見ました。いい具合に異常の中身を知ることなくただただ怪しさと底行きの暗さが浮き出るばかりの展開になり、大変興奮しました。これだから鬱展開はやめられねぇんだ。

 

 

 

焦げ付きのようなグラフィック

 

テクスチャ、でいいのかな。焼いたり破ったり零したりという印象を受ける加工が多くて綺麗なお屋敷なのにどことなく歪んでいるような、良い雰囲気を醸し出しています。特定のルートで差し挟まれるカットイン的な視覚演出も絶妙。

キャラクター達も無邪気で可愛く、かつ表情変化にぞくぞくさせられます。というわけでグラフィック重視の方も是非やってみてほしいところ。

チャプター選択の画面の、鳴り続ける時計と意味深な鳥かごのイラストがとても不気味で素敵でした。

 

 

とまあ、こんな感じで。

子どもたちの織り成すダークな物語や、暗い裏を探っていく展開に興味のある方へ強くオススメしたい一作でした。

 

追記ではネタバレ込みの各キャラに対する感想など。

 

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フリーゲーム「虹の果ての青」感想

「嬉しいって言ってくれるから、嬉しいって言っただけなの」

罪作りは素直さからできている前置き。

 

 

えー、今回はKANATA-PORTさんところのフリーゲーム虹の果ての青」およびその前日譚「君を彩るための前日譚」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

この作者様のサイトで公開されている作品はどれも一連話が繋がっている、短編連作なシリーズものになります。

 

 

 

さて、前置きはここまでとして。

まずは前日譚に当たる小説のほうから。

 

 

 

 

『君を彩るための前日譚』

前の小説は世界説明中心でしたが、今回の小説は次作品のイメージフックという印象でした。鳥と鉱石、すばるさんの青。そういえば、ホワイトクラウンのほうで烏がすばるさんのことを闇の同族みたいな認識してたのがとても気になってるんですよね……。彼女の過去にも触れたいな。

 

さておき。

ちょっと意外だったのは3人の距離感かな。てっきり毎日遊ぶ勢いで仲良くなっているものと思っていたので、交流自体はゆるく間の空いた関係なんだなーと。逆に彼らがリアルに生活している感じが出て良いとは思いつつ、リオのちょっと寂しがってる気持ちに同調もしてしまいます。リオだけ常磐さんの転校事情も知らないからなおさら。うーん、一仕事終わったら3人でいっぱいわいわいしてほしいなあ。

 

全体としてはすばるさんの好みにも触れつつ、次の話がどんな展開なのか期待の膨らむお話だったように思います。

私は、惑い~のほうですっかり常磐に惚れ直した身ですので、常磐さんの「今後の俺に乞うご期待」がなんというかもう勿論ですとも!って感じでした。ふふふ!

 

 

 

 

続いて本題、フリゲのほう。

 

 

『虹の果ての青』

 

選択式マルチエンドノベルゲー。すごろくのミニゲームや時間制限、お金やポイント稼ぎなど、固く言えばリソース管理ゲーに入るのだと思うのですが、基本はゆるくほのぼのと楽しめる一作です。

 

では良かった点から。

 

 

 

絵本な雰囲気のパステルカラーのグラフィック

 

プレイを始めてまず目に入るグラフィックがとっても素敵でした!

全体的にパステルカラーで、やわらかいフォントと星のモチーフがちらちら見えて、登場人物たちも淡くかわいいタッチで描かれます。

タイトルに「虹」と入り、さらにストーリー上出てくるのは様々な色のヒスイ、その中からたった一つの「青」を探すゲーム。色のテーマをさらに強く感じさせてくれる、グラフィック面に力の入った作品でした。

 

シリーズ前作までがけっこうパキッとした色合いだったのでなおさら、この柔らかい雰囲気が映えるんですよねぇ。リオのほえっとした表情とか、常磐さんのにやりと輝く顔とか、すばるさんのどうあがいても無表情――ながらもうっすら伝わる微笑みなど、どれも魅力的でした。トゥルールートで見れるリオの驚き顔がなんだかとっても微笑ましくて好き。

すごろく開始時の、シャッフル&リスタート!な吹き出しが動きも合わせて好きです。とにかくかわいい!

 

 

 

海で探してお菓子を食べる、子どもの里帰り

 

ゲームシステムがすごく、よいこの里帰りって感じがして、とってもほのぼのな雰囲気でした。おじいちゃんおばあちゃんのいる田舎へ行く感じと言えば少しは伝わるかな。

海や町に行って普段見ないものを見て、地元の大人に優しくしてもらって、おやつとお小遣いを握りしめて出かけて、ご飯の時間になったら帰る。素敵なお土産を持って帰って、おうちでにこにこ思い出を話す。……そういう、いつかのどこかでやったかもしれない懐かしさが込み上げてくる作品でした。

 

携帯どころかスマホで何でもできちゃうこのご時世ですが、あえて公衆電話に入れる小銭を数えるのもオツなものですよね。作中のミニゲームボードゲームっていうんじゃなくて“すごろく”なのがなんか好きです。子どもも大人も楽しめる、昔ながらのお遊び。

リオ自身がまだ精神的には幼いのもあって、子どもの絵日記を見てるプレイ感がありました。

 

また、シリーズの例に漏れず、少し不思議なことが起こるのも魅力の一つです。

魔法と不思議が噛み合って、優しくてあったかい展開へ進んでいってくれるのも、なんだか絵本みたいでいい雰囲気だなあと思いました。疲れた心によく沁みる……。

 

 

 

やり込んでも良し、ゆるくても良しのポイント制

 

拾ったヒスイはポイント換算されるほか、おまけとして自己スコアランキングの閲覧もできます。ポイントは低くたって全然ストーリーに影響しない(はず)なんですが、それでもこういうのがあるとついついやってみたくなっちゃいますよね。瀬戸さんのポイント報告にわくわくするのも楽しかったです。

公式サイトに一連の攻略があるので、さくっとクリアしてしまいたい人もうってつけです。

 

ちなみにこの手のリソース管理ゲーっていうと、一か所に長くとどまって時間いっぱい成果を出してから次へ移動するのが効率的な印象だったので、この作品は真逆で驚かされました。でもこういう、何度も顔を出して親しくなっていく感じは主題に合ってるなあと思います。

 

あと演出上で良いなと思ったのは、ステータス面の数字をふんわり濁しているところです。元気具合とか、ラッキー度とか、そういうのって数値化するとすごく事務的なものに感じてしまうんですよね。なので、ハートマークでふんわり溜まり具合を測れる感じが、作品の雰囲気をさらに演出してる感じがしました。

ちょっとだけ/じっくり休む、とか、水筒の中身の表現も好きです。

 

 

惜しかった点

  • ゲーム中の期間が短い
  • ある程度攻略が限られている

 

ここは勝手ながら惜しかった点として、二つ挙げてみました。

というのも、できることの多さに比べて、トゥルーエンドへの道のりがけっこう固定化されている気がするんですよね。一本道じゃないだけで既に素晴らしくはあるんですが、特定の期間に特定の場所へ行って、逃せば終わりな感じがどうしても少し惜しくって。

せっかくならこう、高ポイントだとヒスイ博士エンドとか、電話をいっぱいかけると電話番エンドとか、お菓子をいっぱい買うとラストでお菓子パーティになるとか。そういうおまけっぽいエンドや実績もあるとさらに良かったなーと思いました。

 

ただまあ、技術的なあれこれもあるでしょうし製作の大変さはプレイヤーが考える以上でしょうし……。

何より、このゲームがとっても気にいったからこそついつい「もっとプレイしたい!」が出てきてしまっているのかなーとも思います。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

気になるすばるさんサイドのお話もちらりと見えて満足。シリーズがのんびりと続いてくれたら嬉しいなあと思う、優しい一作でした。

 

一連のシリーズが好きな方はもちろん、ほのぼの、星と宝石とパステルカラーな雰囲気にピンとくる方なら楽しめる作品だと思います。

 

 

 

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フリーゲーム「惑いの夜と誘いの影」感想

「影は陽よりもあなたの身近に」

でも陽がなければ影は意識できなかった前置き。

 

 

えー、今回はKANATA-PORTさんところのフリーゲーム惑いの夜と誘いの影」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

 

以前感想記事を書いた、「hôtel de noyerの招かれざる客人」「White Crownの実像」などと世界観が共通している作品になります。スマホ版もありますが私は例の如くDL版でプレイ。

 

今作はがっつりノベル寄り。世界観も現代日本な感じで、怪談がメインに据えられている関係かホラー度も他作品とくらべればやや高め。

選択肢やクリックによる探索と謎解きはあるものの、ひらめきよりも「読む」を重視されている設計かなと思います。

 

 

というわけで良かった点など。

 

 

 

タイムラインを繋げていくストーリー

 

スタートして見ればわかる通り、話はまず時系列の「2」から始まります。そして3人の視点とタイムラインを行き来して読み進めていく展開です。

時系列がバラバラな作品って、情報が少ない読み手からするとかなり体力を使うのですが、この作品では各章の初めにタイムラインが表示されるので断章でもとっても読みやすかったです。「何だろう?」と思ったシーンの謎は基本的にすぐ解決されるため、全体像が把握しやすかったのも良点でした。

読む側のある程度の前提と気構えって大事ですよねぇ。

画面構成もオシャレで、パッと見て必要情報がすぐわかるうえに必要十分でとどめられている印象。前作前々作はパステルメルヘンな雰囲気が強かったので、こういう物静かに冴えた雰囲気は意外でした。作風が幅広い!

 

 

 

ピースに応じて見える真相と彼らの素顔

 

断章はパズルのピースとして表現されており、プレイヤーがその手でお話を進められる実感が味わえます。すごろくのコマとかもそうなんですが、一つ操作が入ると「自分が」進んでいっている感じがして楽しいですよね。こういうのってゲームならではの楽しさな気がします。

 

そしてその要素の真価は、パズルの全体像です。

3キャラそれぞれの視点にそれぞれのパズル、初めに嵌め込まれているピースは足元らしき絵柄。察しの良い人ははじめっからピンとくると思いますが、全体像はその通り、文字のみで表現されるメイン3キャラの素顔となっています。

彼らの素顔が見えると同時に、伏せられていた彼らの関係性もわかるのがまたすごいと思うんですよ! なんだろう、ストーリーとパズルがリンクしている感じというか、暗喩みたいなあれ! 特に終盤はそれまでがほんのりラブコメちっくな展開だったからこそ、怒涛の「ひょええ!?」な展開にすっっっごい興奮しましたね!!

 

 

 

聞き取り調査はしっかりと

 

ノベル中心ということもあり、謎解きのほとんどは生徒たちのちょっとした会話や思わぬ雑談に紛れています。なぞなぞ系というよりは、与えられた情報をきちんと噛み砕いて理解できているかが問われる感じ。中でも私は地図読みや地形描写がめちゃくちゃ苦手なので、某章はなかなか手ごわかったです。

とはいえ、基本はユーザーに易しく詰まることも少ない親切設計。攻略ページも公式にありますし、最悪、一応クリック/タップ連打による虱潰しもできなくもないです。何よりオートセーブと栞機能のおかげでやり直しがとてもしやすいので、うっかり見逃したらさくっと戻って即再開ができて助かりました。

 

余談ですが、方言ばりばりの会話文と言い、何を言うべきか迷っている間に話が進んでしまう璃々子さんの性格と言い、あちこちの描写がとても自然だなあと感じました。だからこそ、すぐ傍であり得そうな怪談というテーマが映えるのかなー、なんて。

「ぐっぽで組んでも怒りなし」はどうもリアルにある言い回しらしいですね。うちの近所は「ぐっぱーぐっぱーじゃーっじ」でした。

 

 

SEのみのシンプルな音遣い

作中、足音を気にしたり、逆に無音の空間がさらに焦りを煽ったりする場面が多くありまして。BGMがないからこそ逆に音を想像して恐怖が膨らんでいったなあと思います。

あと、二重の意味で美味しいのが作中終盤の展開に関わる部分。小ネタといえばそれまでですが、ガッツポーズ決めて小躍りしたくなるレベルに嬉しかったです。

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

作品をプレイしていてあらゆる面で「二重の構成が上手い!」と感じました。完成度が高い、まとまりがある、終盤に予期せぬ方向で驚かされる、そんな感じの現代ホラー(風)ファンタジーをお求めならぜひプレイしてほしいなと思います。

 

 

 

 

追記ではネタバレ込みの感想など。

 

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フリーゲーム「White Crownの実像」感想

「トラウマも慰めも思い出から昇華されるもの」

大きく輝くからこそ心揺さぶられる前置き。

 

 

えー、今回はKANATA-PORTさんところのフリーゲームWhite Crownの実像」およびその前日譚である「トライアングル・ブルーと新生探偵一味の午後」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

 

 

以前感想記事を書いた、「hôtel de noyerの招かれざる客人」の続編となっています。時系列としてはノワイエ→小説→実像、の順番ですね。キャラクターも継続、あの楽しい掛け合いがまた見れます。やったね!

 

一応「White Crownの実像」のほうであらすじ紹介が見れはしますが……もしノワイエを未プレイの方がいればそちらを先にプレイすることを強くおススメします。感動も倍増ですゆえ。

 

 

 

 

というわけでまずは小説のほうから。

 

 

 

『トライアングル・ブルーと新生探偵一味の午後』

 

時系列としては前作と今作の間に挟まる小説です。

謎が多く残っていたすばるさんの持つアイテム類のことや、異世界の設定についてなどなどがわかり、ふんわりとした理解をしていた世界観がよりよくわかる内容でした。

特に、異世界関係のことは認知がぼかされる、みたいな設定は余所でも見ないので興味深かったなあと思います。こういう、現実のルールに即さない部分をまるっと消去するのではなくて、うまいこと認識させないようにするというのが見事な手法だなあと。

 

この異世界設定もそうですが、すばるさん自身がノワイエ従業員からの疑念を常識的対応で乗り切ったことといい、この作者様は「ズラす」のが上手なんだなーと思ったりもしました。こっちがズラされたことに気づけないくらいうまく転がされるというか。

私自身、作中で常磐のちょっかいで話が面白い方向に飛んで行った時もけらけら笑っていて、リオたちが指摘してようやく「あっそうだ本題があった」って気づいたくらいでしたし!w

 

ともあれ、気になるところに補足を加えつつも次作への謎の芽を残し、かつキャラ達の和気あいあいも楽しめる、とってもおいしい小説でした!

 

 

『WhiteCrownの実像』

 

そして本題、探索ゲーム「White Crownの実像」について。

前作と比べるとかなり難易度は跳ね上がっている印象でした。といってもイジワルなところは無く、基本的には住人の言うことをしっかりと聞いて手持ちのアイテムと相談するような感じです。

 

良点難点併せて、本作の特徴というところでまとめていきますね。

ほんのりとヒントっぽいところは書いてしまっているので、ネタバレ厳禁派の方はご注意ください。

 

 

細かな反応アイテムと会話分岐

ホワイトクラウンの生み出した異世界を探索し、彼女の出した目標をクリアできればOK,というのがだいたいの概要です。

アリスモチーフの動物達があっちこっちでお願い事をしてくるんですが、この反応パターンの多さに驚かされました。直接欲しがっているものは勿論のこと、原作に由縁のあるアイテムから意外すぎるアイテムまで、反応も動物たちも多種多様。その反応が見たくてついつい素直なおねだりに意地悪で「いいえ」を選んでがっかりさせてしまう、なんてこともやらかしたり…w

 

アイテムの取得方法も、単純に話しかければもらえるものから、「なんて無茶な!」と笑ってしまう隠し要素まで盛沢山。作者様の公式サイトで細やかなヒントもある他、原作であるアリス重視のネタも仕込まれています。

これだけ豊富だとそりゃ全制覇したくなっちゃいますよね! そんなわけで2周目ではかーなーり時間をかけてあちこち練り歩きました。

主に常磐の切れ味鋭いセリフがいっぱいで楽しかったです。

 

 

主人公たちはチェスの駒!

と、いっても戦い合ったりするわけではないのですが。

面白いなあと感じたのがマップのデザインとそのルールなんです。「君たちはチェスの駒だから赤と白のパネルしか移動できないよ」というのがこれまた上手い設定だなあとしみじみ。

ゲーム的な進行不可の箇所を、オシャレにストーリーへ取り入れて説明してるなあと思います。キャラ達もチェスになぞらえたセリフ回しで世界観を濃くしてくれていました。詩的な言い回し大好きです。

 

パネルによって進めるところを自分で選べれる、というのも斬新でした。うっかり変なところでパネルを使ってしまうと取り返しがつかなくなる、なんていうパズル要素になっています。

パネルに関しては自由度が高すぎるという難点にもなりうるポイントではありますが……。女王の現れる場所がランダムなので、それに合わせてどこにでも設置できるようにしてあるんだろうとも思いますし、遠回りと近道とでパネル数が異なる辺りもちょっとした頭の捻らせどころではあったので、個人的には面白かったです。

バンダースナッチの捕獲時にエンター連打による誤爆設置は起こしましたけどね。てへ!

 

 

 

アイテム消費によるフラグ管理と詰み要素

さて、ここは面白い点でもあり少し困ってしまう点でもあるのですが……。

この作品のほとんどはアイテムによるフラグ管理がされています。そしてそのアイテムの大半消費型です。さらには時限式のイベントもあるので使いどころはなかなかシビア。使うべきアイテムはわかるのに消費済みだったり、進行させたいのにアイテムをうかつに使えなかったりというジレンマに悩まされることが多くありました。

事前に「アイテムを使いすぎると詰む」という注意書きがされていることや、大きなコストを払うとはいえ買い直しができることなどを考えると良心的ではあります。が、難易度はかなり高いと感じましたねぇ。

逆に言えば、そういったコスト管理要素やイベント発生フラグをかちりと掴むパズルのような部分が好きな方にはがっちりハマると思います。

 

また、この高難易度を緩和するためか、エンディングに行くための解放が複数通り用意されているのも良心的なところです。よほどむやみにアイテムを馬鹿使いしない限りは何らかの形でノーマルエンドだけでもクリア、できる、はず。

 

余談ですが私は見事に失敗談ができました。ネタバレなので追記にて。これはこれで面白かったですw

 

 

 

メルヘンでかわいいマップチップ

さて、グラフィック面についてもう少し。前作ではノベルゲ寄りだったので立ち絵変化と背景画像に注目しがちでしたが、今作は探索ゲーということでかわいいドット絵とマップチップが楽しめます。

こうして3人が並んでみるとリオはかなり目立つんだなあとか。火傷痕もきっちりキャラチップの反映されてて素敵でした。

 

薔薇園のマップも華やかで良かったですね~!

ただ見た目が華やかなだけでなく、こっそり通路が仕込まれているなどのゲーム的な利点がきっちりあるのも素晴らしいところ。また、ラビリンスのところは演出も併せて切なさが込み上げる素敵なマップでした……。

 

少し疑問だったのは、マップでの動きがけっこう重たい? こと。これは環境によるものかもしれませんが……。バンダースナッチが走り回ってる分、処理が重くなってるのかなーとも思って。そこらへんどうなんですかねウディタリアンの皆さん。

 

と、丸投げはさておくとして。

そもそも遊園地から鏡の国へ、っていう流れがもうメルヘンで乙女心掻き立てられますよねぇ。フォントやBGMのチョイスも絶妙。とっても素敵な世界観でした。

 

 

 

 

とまあ、こんな感じで。

 

仕様上難しいところはあるものの決して理不尽ではなく、凝ったイベントと細かやな反応が際立つ探索ゲーでした。

前作が好きな方はもちろん、あちこち練り歩いて調べたりアイテムの使い道を色々考えたりするのが好きな方、アリスモチーフにテンションの上がる方へおススメです。

 

 

 

追記ではネタバレ込みの感想など。

 

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フリーゲーム「勇者の烙印」感想

「あなたの みぎては のろわれて しまった!」

助けてまもるくんな前置き。

 

 

えー、今回はきぎぬさんところのフリーゲーム勇者の烙印」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。

                               

ジャンルはRPG、ですが感覚としてはADV寄りのプレイ感です。

DL版もあるのですが、知ったのがアツマール経由だったのでRPGアツマールのスマホブラウザ版をプレイしました。

色々語りたくなる半面、ネタバレが惜しい作品でもあると思うので、そのあたりを気にする方は先にプレイしに行くことをお勧めします。

 

 

 

 

というわけで、さっそく良かった点など。

 

 

勇者を定義づけるメタストーリー

まず「タンスを漁るのが積極的に推奨される」という序盤から尖ったセンスを感じさせる台詞回し。ここでガシッと心を掴まれました。この手のメタギャグ好きなんですよ。お約束を守りつつ裏を覗きに行く流れ好きなんですよ。

RPGのお約束をこれでもかと思うほど踏襲した展開。そして怒涛の裏切り。ビターなバッドエンド。いやあ、最後まで飽きることのない怒涛の流れでした。

特にスーファミDQファンは生き生きするところがあるのではないかと思います。DQ6のOPは趣深いよなあ。

既存ネタの流用や、オマージュ展開にもきちんと王道なりの理由があって、そこもたいへんツボでした。

 

 

動き回るエフェクトたっぷりのバトル

とまあストーリーの序盤がこの手のメタギャグなので、バトルもゆるゆるかと思いきや、エフェクトが熱く視覚的にも賑やかでした。TP技があったりMP回復率があったり、それなりに戦略も効くバトルだった印象。私はついつい出会った敵を全撃破してしまうタイプなのでボスの難易度は低めに感じましたが、秀逸なストーリーに負けず劣らずバトルもメイン要素の一つと思えるクオリティでした。

 

 

DESTINY OVERCOME !

大好きです。ほんっとう大好きです。この表現愛してる、この文をあのシステムメッセージに仕込むところが愛してる。勢いもあるしストーリーと噛み合ってめちゃくちゃかっこいい。

こういう独特のシステムメッセージが見られるのがフリゲの良いところですよね。

 

 

 

 

一方難点としては、

 

 

スマホ操作のもっさり感

これは私のスマホRPGがこの作品だったからここで挙げてしまっているだけで、もしかすると全スマホRPG共通の難点なのかもしれませんが……。

どうしてもちょっと操作感が悪く、ぐねぐねしたマップ等は進みづらかったです。また、街から出た時の初期配置と次の目的地への動線の関係で、進もうとしては街に入り直すという誤動作をかなりやらかしてしまったことも。

ただストーリーにかなり狙ってるところがあるため、この、街から出た時の配置自体はあえてレトロ演出しているような気もします。考えすぎかな。

 

 

 

 

とまあ、だいたいこんな感じで。

 

RPG好きな自分には見事刺さる一作でした。

追記ではネタバレに触れる感想など。

 

 

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shiki3.hatenablog.com

 

 

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