「僕を僕としてくれたあなたのために僕がいる」
使われるのではなく仕えたい前置き。
えー、今回はTeToriapot/てとりさんところのフリーゲーム「ぬけがらイレギア」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
ノンフィールドボスラッシュRPG。
『ものやみジャック』から始まり連綿と続いているこの作者様の世界観を共有する作品です。ボスキャラやドロップアイテムなどがどれも他作品を引き継いでいるので、他作品をプレイしてからのほうがより多くのネタを拾えるかと。
私もここまでの過去作は既プレイなので、その前提で書いていきます。
用語などもバンバン出してしまいますので、そのつもりで! 気になる方は、多作ある中でも『ばつえいビルッテ』『かりそめドッペル』を押さえておくとわかりやすい……はず。
というわけで、良かった点など。
閉じられた輪の内側に迫る世界観
『ばつえいビルッテ』の頃からひそかに気になり、『かりそめドッペル』で熱烈に知りたくなった「エルフ」の内側がやっとガン見できる待望の一作です!!
だってテイターはずるいじゃん。そしてここにきて初登場のンダリマはずるいじゃん……!
依存とか信仰とかきょうだいとか忌み子とか好きな方には絶対ぶっ刺さります。
まずもってOPの「ひとりっ子」という響きにブワッと鳥肌が立ちました。シリーズにおけるのエルフの概念を知っているからこそわかる異常さ……。なおこの辺り、きちんと初めての方にも伝わるようさりげなく説明が置かれているのも親切で良かったです。
前々から感じていた、「全は一なのにダークエルフなどの差異があるのはどうして?」という疑問が解消されるお話でもありました。より深くこのシリーズの世界観が知れて嬉しかったです!
二人で前進し続ける物語
ゲームシステムとしてもそうですが、ストーリーも力強く前進していきます。
伏字にされているにしてもストーリーはけっこう、ダークだったりグロテスクだったりするのですが……。それでもやっぱり爽やかな気持ちでエンドを見られたのは、イレギアとピエリスの性格があるからだなあと感じました。あの展開でなお前進し続けられるの、まさに純×純で好きです。
イレギアはもう、どこまでも善。ものすごい善。だからこそ途中の「いじめないで」のシーンがものすごくぞくぞくしました。あの立ち絵の変化もまたいいんですよね……。目の描き方が好きだ……。
イレギアが無償の愛に似た感じの性質を持っている分、ピエリスは信念の人という感じがしましたね~。ちなみに私は、一人称ピエリスの時の一人称僕の時とで使い分けされているのがたいそう萌えました。
厳密には異なりますが、主従・親友・きょうだい・大切な人、そんな感じの関係性の二人に興味のある方にはピンとくるかと。
詩的で端的なヒントを解き明かすボスラッシュ
ゲームシステムとして好きなのが、バトルのヒントの出し方!
本作は、進む→ボスと戦う→装備を整える→進む、の繰り返し。この進む工程でヒントをさらりと見せてくるところにときめきました。しかもその言い方が詩的で美しいんだまた! あのテキストだけ集めてうっとり読み返したくなります。
ボスの中には正攻法だと絶対に倒せないものもいるんですが、このヒントのおかげでかなりさくさくと進めることができました。謎解きっぽい趣があると言えるかもしれません。
また、どうしても倒せない場合は道中の戦闘をスキップできるというスペシャルなアイテムも用意されています。
個人的には全戦闘を堪能する方がやはり楽しいとは思うのですが……! こういう救済措置が用意されていることは、間口の広さとして適切だなあと思います。
シルエットだけではっきりと個性がわかる、ボスのデザインにも要注目。
シリーズ既プレイの方はにやりとすること請け合いです。
盛り上がりを見せるシームレスなBGM
戦闘に入ってもBGMが継続するタイプの作品。何度かBGMが変わるんですが、どれも力強くて好きです……。
また、ラストでは『かりそめ』で聞き覚えのある音が流れてきてテンションが鰻登りでした。あの異様な空間を感じさせる雰囲気ホント好きなんだ……。
そして全体的に和風な盛り上がりをしてくれてる選曲が多い? 気がします! そこも好き。
そもそも、エルフがアジア系の民族風な雰囲気なのすごい好きなんですよねえ……。白がああだからこうなのかなーとか、ハイエルフが白そっくりなの(親愛かもしれないけど)不気味で好きだなーとか、色々と考えてしまいます。ふふふ。
垂涎もののフレーバーテキスト
さて、シリーズ通して映える韻律・隠喩たっぷりのフレーバーテキストは今回も健在。もうどのドロップ品も舐めるように読みたい文章ばかりでした~!
お店に入る時の歓迎文も大好きです。あの初回版を見るためだけのセーブデータを用意してしまいました。もう見てて気持ち良いんだあの言い回し……。
また、『ばつえい』の頃から続くゲーム世界がそのままゲーム内の上位存在から観測される入れ子構造も健在です。まさに「舞台」。そして今作では、ピエリスがしっかりとアシレトを畏れるからこそ、凄みが出ているように感じました。
ピエリスとアシレトのシーン、人智ならざるものとの契約という感が強くて好きです。
とまあ、こんな感じで。
えげつなく救いなくしかし美しい世界観や、前向きで熱い展開、一途に想い合う二人、痛快なボスラッシュなどに心惹かれる方へおススメです!
追記ではネタバレ感想。
同作者様の他フリーゲーム感想記事↓
ネタバレ注意!!
ンダリマについて
いやもうなんかたまらんし、哀れと言っていいのかすらわからんです。
この方が突き抜けて狂っているのならきっともっと楽だったと思うんですよ。それこそヒャッハー系のバーサーカーみたいなさ。
でもそうでなくて、謝るイレギアにそうじゃないと言ってしまえるほどの、彼の中で一貫した道理があるんですよね。イレギアは悪くない、そもそも俺だって悪くない、なのにどうしてこうなった、みたいな。そしてその主張はものすごく正しいし、同時に見当違い。だって彼の境遇は善悪で決まったわけではないので……。
なんかもう八方塞がりで苦しいなあおまえなあ!と思います。どんどん方言混ざっていくところにこれまた心の叫びが見えて良いんだ……。
何にも持ってないから謝らないでほしい、という主張がすごい苦しくて好きでした。イレギアは何か返してほしくて謝ったわけでもないと思うから、また。
倒すべき悪!ではなく、倒すしかない何かであるところが好きです。
印象に残った敵(あるいは過去の味方達)など
・愚者、魔術師、女教皇
愚者は『がらくた』のボスですよね? 「元気にやってて何よりだ!」と思わずつぶやいてしまった方々。うっかりグラッパを最後に残してしまいましたが、最初に倒しておく方が早くスムーズに倒せた気がします。
そして相変わらず性転換してるのは何故なんだ……!
・隠者
まさに彼らしい性格の悪さでクッソ好きです。めんどくせえ!
必中攻撃があるので苦労はしませんが、思わず笑い声が出ました。
機械化したシュクレはなんとなし、旧型のちっちゃくてキューブ状なデスクトップPCのイメージだったので、かなり近代的な多重モニター構造でおお~となりました。
・吊られた男
あのデザインのセンスよ!
強欲の長髪をああいった形で生かすの、もう震えちゃいましたね。元ネタのタロットの吊られた男の構図としても上手いし、引っくり返しても同じ形になるのが転じて、『ものやみ』の時の二人を象徴しているようでたまらない。会敵した瞬間、込められた隠喩の多さにウオオオオと絶叫してしまった私でした。
また、撃破方法が“アレ”なのもマジでたまらんです。最高の敵。
むしろ通常パターンの動きが気になってもう一回戦いに行っちゃった。へへへ。
・月と太陽と星
マティーニャを先に倒しても特に何も起こらない辺りちょっと笑ってしまいました。『ばつえい』の時のポルペロの「蚊帳の外は黙ってて~」みたいなセリフが印象深かったので、なおさら。
私はビルッテ→マティーニャ→ポルペロで倒したんですが、もしかするとマティーニャ&ポルペロが強化されてたりしたんでしょうかね? 食らうダメージ量が増えたような気がしたので……。でもこれは単にバフが切れてただけかもしれない。
その他好きなテキストなど
好きなフレーバーテキストは、
- 【信仰】(これを巫女が言うのが重い)
- 【危険な遊び】(この不遜さと堂々たる腹立たしさと正直さがたまらん好き)
- 【協力】(各部隊長ならではだなあと)
また、技名だと圧倒的に「選択・別解「主役交代」」が大好きです!! この、シリーズ一連における「主役」の言葉の重さを知っているからこその熱さ!! これ落としたのたぶんマティーニャってことで良いですよね? 違ったら恥ずかしいが! スキルを使った時のテキスト含めて大好きです~……!
あとちょっとした点を一つ。
ピエリスがアシレトと謁見してから以降、スチルの構図に「目」を意識させるようなものが増えたのにぞわぞわっとしました。イレギアとピエリスが再会するシーンとか……。
これは見返したわけではないので、もしかすると序盤にもあったかもしれないのですが。
プレイ時間自体は1時間にも満たないものでしたが、それ以上の濃度を思いっきり浴びれた作品です!
しばらく忘れられないだろうな~。
プレイできてよかったです!