「花を植えて水をやり、全てを管理する世界」
惚れた女は花で例えてしまえな前置き。
えー、今回は虚構製造社(雨ガエル)さんところのフリーゲーム「光差す庭で」の感想をつらつら書きますね。一部レビューっぽいかも。
クリアまで数時間くらい、攻略対象2人、エンド分岐ありの乙女ゲー。現代日本もの。ルートによってはヤンデレ展開あり。爽やかな雰囲気とじっとりした感情、両方を味わえるノベルゲームです。
というわけで、良かった点など。
こういう感じの病み方するよ~、くらいのネタバレはしてしまうので、未プレイの方は要注意です!
人懐こい後輩と、人嫌いなお兄ちゃん
攻略対象の2人はかなり対照的。
片や、人嫌いで表情も冷たい一人暮らしの年上ヒカル。最初っから病んでる気配は出てて、だんだんと彼の深みへ引き込まれていく感じ。
片や、爽やかでにこにこわんこ系の後輩伊織。初めは明るく元気で、その裏側に触れてからが本番な感じ。
単なる陽キャと陰キャってわけでもないのがまた絶妙なんですよね〜……。物語を読み進めて知れば知るほど、キャラの色んな側面や深みが見えてくる感じ?
そしてどっちも愛が重い。良い〜!
ノベルゲーというより小説寄りの文体
文章自体はヒロインの瑠衣視点でつづられるんですが、文体はちょっと独特です。言葉選びや語彙がけっこう固い印象。少なくとも、学生らしさや年相応の乙女っぽさは全くないです。
片親で育ったしっかり者という設定等々を考えると、背伸びしてる感があっていいのかな?
しっかり者で皆に優しいヒロイン──を目指していると思われる反面、地の文が素で毒舌だったり自分を棚に上げていたり、アンバランスには感じました。悪女を狙っているわけではなさそうなのがまた、うーん。
しかしながら、魅力的な点ももちろんありまして。
それはずばり、攻略対象視点の文!!
特にヒカル視点はこの地の文の文体と彼自身の性格が綺麗に噛み合ってて、ものすごく読みやすかったし、キャラにぴったりでときめき倍増でした! これを思うとやっぱりこの文体で読めて良かった~!
ドライな態度とウェットな愛
愛は重い。でも、キャラはみんなどこか冷めていて、文体も冷静。
このギャップがまたストーリーに味を生み出していたように思います。狂熱というより、じっとりと湿っぽい感じ……?
そんなに執着してるように見せてこないからこそ、いざ想いを吐き出すシーンが光るんですよね。溜めがいい。
ヤンデレと言えばこれ!な展開もわりとあるんですが、それでもテンプレ感はなく、むしろこの作品ならではの深みを感じました。
エンディングを経て訪れるタイトル画面
さて、上記では私の趣味嗜好もあり病みで闇なポイントをがっつり推させていただいておりますが。
それでも改めて、タイトルにもあるこの「光差す」要素こそが本作の本質であるようにも思います。
エンド後に戻ってきたタイトル画面には惚れ惚れしましたね~。
本作のメニューや画面枠などには正直、プレイ当時は違和感もあったんですよ。素朴可愛いデザイン。現代日本な世界観だからとも思うんですが、シナリオ自体はけっこう重めなので。
でも、色々終わってから改めてみるタイトル画面!
どのエンドかは追記に伏せてそっちで熱く語りますが! エンディングの余韻とタイトル画面のデザインがほんっとうにマッチしていて、最高でした……!!
余談ですが、おまけが増えたときにアイコンで通知してくれるのも助かりました!
攻略対象視点などなど、見逃せない最高のおまけがいっぱいだったので、見逃しがなくてありがたかったです。
とまあ、こんな感じで。
ヤンデレ大好きな方、年の差恋愛にきゅんとくる方、好きの一言で片づけられない激重感情にときめく方におススメです。
追記ではネタバレ込みで、キャラについてやエンディングについての感想。
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ヒカル
病んでるというより、ズレている人という印象です。
で、ズレっぱなしで生きてたら社会不適合でどうしようもないままだったはずなんですが……。彼のすごいところはそのズレに気づいて、そのままだと現代社会で生きていけないから、情緒を学ぼうとしているところだと思うんですよね。
機械人間みたいに見えそうだけど、そうじゃない。
もしかして?と思ったのが、普段の朝寝坊等々についてなんですよ。
本来はけっこうパーフェクト人間で、自立も自己管理もしっかりしているけど、”あえて”ズボラ人間を演じているのでは?
やることがないと遠慮したり気後れしたりしてしまうヒロインの性格を把握しているからこそ、わざと、できない人間のフリをしているのでは……! 新人のために簡単な仕事を用意しておく的なね。
また、後輩の伊織の性格を的確に見抜いていたところもそう。
内側に情緒や愛があるからこそ、ヒロインへの気遣いもできるし、後輩のこじれ愛も理解できているはずなので……。
どっちかっていうと効率人間?
あるいは、外に向けての興味関心の幅が極端に狭い。
そのズレに自覚的だからこそ、最低限の社交性は出せるし、近所の人に挨拶くらいはできるんだろうなあ。
この点がすごくクレバーで惚れ惚れします。作り物みたいなのに作り物じゃない、唯一無二のキャラ性を感じました。
後輩
よくいる猫かぶりわんこくん。
ただ、こちらもテンプレキャラではなく唯一無二性を感じさせてくれます。
最も大きいのは、ヒロインがそんなに伊織のほうを見ていないのを、悲しくも察している点ですね……。
告白の返事の遅さや進展の無さにイライラするのも、普段の生活では要領が良くてさっさと話が進むからなんだろうなー、なんて。
改めて思うと本作は、攻略対象のキャラがヤンデレでもわざとらしくないところが魅力だったのかなと思います。自分の歪みを自覚していて、でもそうとしか生きられない感じ。良い……。
エンディング
ここで各エンドについて熱く語りたい、ところなのですが!
いかんせんこのタイミングで一度PCのデータが吹っ飛んでしまいまして……。どのエンドか等々があいまいな、ちょっとふわっとした感想でお届けします。しくしく。
以下は、おまけの攻略対象視点まで読み切ってからがおススメ。
ヒカルがヒロインを監禁するエンド
ヤンデレ好き的には、やっぱりここ!
本編中にしっかり母とのやり取りも出しているからこそ、母からヒカルが犯人ではと追及される場面に重みがあってよかったですね~。モブかどうかで生々しさが全然変わる気がするので……。
別にヒカルが無理やり性的なことをするとか、そういう方向に行くわけではないところもポイント高いです。丁寧にお世話をしてくれるからこそ、一番大事なところで理解し合えない絶望が味わえて、良い……。
伊織と付き合うエンド
なんでも思い通りになってきた要領の良い優等生が、何にも思い通りにならない恋愛で感情ぐちゃぐちゃになっていく展開。良いですよね~……。
ヒロイン側も病み側へじわじわ染まっていってるのがポイント高かったです。
こっちは地の文を読んでるから、別にヒロインも聖人じゃないことはわかっているんですが。改めて「一緒に堕ちる」感がおいしいエンドでした。
ヒカルと結ばれるエンド
このゲームの神髄はやっぱりこのエンドでしょう!
ヒカルの求めるものがあまりにも重く、理想が高く、絶対永続的であり、だからこそ手に入れられるわけがないことをひしひしと感じさせられる。愛とか好きとかでは収まらない。ヒロインが淡く抱いていた恋心が、まだまだ彼の思うステージには一歩たりとも届いていないことがよくよくわかる……。
年の差以外にも絶対届かない隔たりがあるとわからされるのがたまりませんでした。
このシーンの瞳に力のこもったスチルと、淡々と深淵に沈むようなテキストが、本当に好きです……。
このヒカルの言ってること、理解不能で不気味に感じてしまうプレイヤーも正直いると思うんですよ。付き合ってみないとわかんないじゃん、みたいな軽さで片づけられてしまいかねない。
そして聡いヒカルはそこも自覚しているから、溜めて溜めて溜めて溜めて、このエンドで初めて語り聞かせてくれるんだろうなと思います。
このエンドがね~……。
あたたかく穏やかに終わるのが、ほんとうに幸せで、身震いするくらいに恐ろしくて、好きですね~……。ここからあの、光あふれるタイトル画面へ戻るところも。
タイトル画面から受ける印象がガラッと変わるんだって~~~……!!!
ほのぼのな感じから、穏やかに閉じられてもう触れられなくなる感じに。ああもう二人は遠くに行っちゃうんだな、となる感じに。
クリア後にタイトル画面を変えるフリゲは多々あれど、クリア後にタイトル画面から受ける印象が変わるフリゲはめったになくて、色々と驚かされました……。
と、こんな感じで!
質の良い病みゲーを味わえました……。